(幾何的な)レフシェッツの不動点定理と、代数曲線上のF_p解との関係
http://math.uchicago.edu/~may/REU2014/REUPapers/Li,Ang.pdf
今回の理解の多くの部分はこの資料から得た。
[1]の計算と観察は自分で考察した。
[1] レフシェッツの不動点定理(幾何的バージョン)、2次元実トーラスの場合:
Xを閉で滑らかな多様体とする。
f:X→Xは滑らかな写像で固定点が退化していないとする。
fはi次ホモロジー群の自己線形写像を誘導する。そのトレースをベッチ数と呼ぶ。
ベッチ数の交代和が、fのグラフと対角の交点数、単純な場合にはfの固定点の個数に一致する。
これは、今まで魔法のようなものだと思っていたが、
次のような2次元実トーラスR/Z×R/Z上の写像を考えると、少し親近感が持てた:
ここでは、ホモロジー群とは、「特異ホモロジー」として考えている。
おおまかに
H_0は点を、連続に移り変わる同値で割ったもの
H_1は閉曲線を、連続に移り変わる同値で割ったもの
H_2は閉曲面を、連続に移り変わる同値で割ったもの
(を形式的な生成元とする線形空間)と認識している。
Xを、実2次元平面を整数格子で割ったものとする。
すなわちx-x',y-y'が整数のとき(x,y)と(x',y')を同一視するということである。
位相的にはトーラスS^1×S^1である。
ホモロジー群はH_0,H_2が1次元、H_1が2次元である。
(このことの知識は仮定して説明しない)
fとして、(x,y)を(ax+by,cx+dy)に送るものを考える。
この写像がwell-definedであるには整数格子の行先がすべて整数格子である必要がある。
すなわちa,b,c,dは整数である。
fの固定点はいくつあるか?
・ax+by=x+M, cx+dy=y+N とおいて連立方程式を解いてみると
x = {bN-(d-1)M} / {(ad-bc)-(a+d)+1}
y = {cM-(a-1)N} / {(ad-bc)-(a+d)+1}
を得る。この解の組の小数部分の取り得る組の個数を知りたい。
いくつかの特殊な場合には固定点の個数は|(ad-bc)-(a+d)+1|個になることが分かるが、
この視点で考察を進めるには場合分けがいろいろ必要そうで諦めた。
・より良い視点として、(x,y)を(ax+by-x,cx+dy-y)に送る線形写像が0に送る点を考えれば良い。
この線形写像は、単位正方形を、その行列式{(a-1)(d-1)-bc}倍に拡大する線形写像だから、
0に送られる点は|(a-1)(d-1)-bc|個と分かる。
*{(ad-bc)-(a+d)+1}が0になるのはfが固有値1を持つ場合に相当し、
これは固定点が無限個存在する、すなわち退化している場合に相当する。
(この式は、線形写像fの2つの固有値α,βからそれぞれ1を引いたものの積(α-1)(β-1)と解釈できる。)
・一方でレフシェッツの定理によるベッチ数の視点では
fのH_0への作用は恒等
fのH_1への作用は2次元空間へのfの式と同じ線形写像、従ってトレースはa+d
fのH_2
への作用はad-bc倍
ベッチ数の交代和は(ad-bc)-(a+d)+1であり同じ結果である。
*レフシェッツ数が負になるときは、面の「向きづけ」が反対向きになっていて、
そのような時、交点数は負として計算される事情である
・特にfとして(x,y)を(ax-by,bx+ay)に送るものを考える。
これは複素数平面でのx+yiを(x+yi)(a+bi)に送るものと思うことができる。
この場合の固定点は、a+bi-1倍してガウス整数になるような点に相当する。
従って(a-1)^2+b^2個である。
ベッチ数の交代和は、(a^2+b^2)-(2a)+1 で同じ結果である。
・複素数体上定義された虚数乗法√-1を持つ楕円曲線での(a+bi)倍写像の固定点は、 (a+bi-1)等分点であり、
それは(a-1)^2+b^2個ある、と描写することもできる。
(複素数体上定義された楕円曲線は、1次元複素トーラスC/Λである事実を既知とした。)
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[1-2] 3次元実トーラスの場合
Xを3次元空間を整数点格子で割った3次元実トーラスを考える。
線形写像F:(x,y,z)→(ax+by+cz, dx+ey+fz, gx+hy+iz) の不動点を考える。
(ここでも9個の係数は整数とする)
特異ホモロジー群の生成元は以下のように描写される
H_0は 1点(どの点も同値)
H_1は x,y,z軸
H_2は xy平面, yz平面, zx平面
H_3は X全体
FのH_2への作用のトレースは、
F([xy平面]) = A[xy平面] + ?[yz平面] ?[zx平面]
F([yz平面]) = ?[xy平面] + B[yz平面] ?[zx平面]
F([zx平面]) = ?[xy平面] + ?[yz平面] C[zx平面]
とおいたときのA+B+Cである。
Aは、おおまかにFがxy平面を何倍するかに相当し、Fの左上の小行列
a b
d e
の行列式(ae-bd)である。
B,Cも同様で、結局2次のベッチ数は(ae-bd)+(ei-fh)+(ai-cg)となる。
他の次数のベッチ数の説明を省略する。ベッチ数の和としてレフシェッツ数は、
(Fの行列式) - {(ae-bd)+(ei-fh)+(ai-cg)} + (a+e+i) - 1 と計算される
・ところで、先と同じ視点で、固定点はFX=Xを満たすXだから、(F-単位行列)の核である。
a-1, b, c
d, e-1, f
g, h, i-1
の行列式の絶対値である。
この行列式の展開を考えると、うまく組み合わせればちょうど先の式の符号を逆にしたものである。
(符号の由来は最初の資料を確認すると交点数の定義で、(-1)^dimXみたいな因子がある所だと思う。)
・こうして、レフシェッツの不動点定理に現れるベッチ数の交代和は
その線形写像から単位行列を引いたものの固有値を展開した数式である
という観察ができて、馴染みが深まった。
[2] レフシェッツの不動点定理(代数幾何的バージョンへ)
冒頭の資料の4番目のセクションの内容になる。
標数pの有限体の代数閉体F_p ̄を考える。
そこに書いてある例を(少し記号を変えて)そのまま引用する:
y^2=x^3+x を F_p ̄上で考えたものをX_pとおく。
標数がpのとき(x,y)∈X_pならば(x^p,y^p)∈X_pであるからp乗写像はXの自己写像を定める。
そのとき、p乗写像の固定点が、F_p解となる。
(F_p ̄においてx^p-xはx(x-1)..(x-(p-1))と因数分解される)
・F_p ̄上の幾何でもホモロジー理論が確立されていてレフシェッツの不動点定理が成り立つと仮定する
・さらに、f_p:X_p→X_pのこのホモロジーに関するベッチ数が、
同じ多項式で記述される複素数体上定義された多様体(区別のためX_Cと書く)における、
同じ多項式で記述される自己写像f_C:X_C→X_Cのベッチ数と等しいことを仮定する
そうすると、F_p解の個数を、複素幾何を経由して求めることができる。
実用的には同じ多項式という所が厄介である。
射影直線の場合では、p乗する多項式がそのまま使えるが、
楕円曲線の場合では、C上においては、(x,y)∈X_Cならば(x^p,y^p)∈X_Cは成り立たない。
代わりに、pで割り切れる的な多項式α(x,y),β(x,y)があって、
(x,y)∈X_Cならば(x^p+α(x,y),y^p+β(x,y))∈X_Cが成り立つものを探すことになる。
しかしこれを明示的に見つけるのは難しい。
そこで、X_Cが虚数乗法√-1を持つ楕円曲線であることと結びつけた以下の事実を仮定する(資料の命題4.11):
・pを4N+1素数とする。ノルムqのガウス整数cが存在して、c倍写像が、上記を満たす。
c=a+biとおくと、この楕円曲線のF_p解の個数は、さっき計算した通りのベッチ数の交代和によって(a^2+b^2)-(2a)+1となる。
a^2+b^2=pだから、p-2a+1と書ける。
・・・以上のようにして(難しい仮定をいくつかおいたもとで)楕円曲線のF_p解の個数は、
a^2+b^2=pとなるa(のどれか)を使ってp-2a+1と書けることが示された。
この一連の全体像を今回初めて認識できた。
改めてまとめると、虚数乗法√-1を持つ楕円曲線と4N+1素数pに対して
[a]フロベニウス写像について
[a1]F_p解の個数はF_p ̄上の楕円曲線上のフロベニウス写像X_p→X_pの不動点である
[a2]F_p ̄上のフロベニウス写像と同じ多項式で記述されるC上の楕円曲線上の写像X_C→X_Cがある
[a3]C上の楕円曲線上の写像は、a^2+b^2=pとなるような(a+bi)倍写像と記述できる
[b]固定点について
[b1]F_p ̄およびC上の楕円曲線に対する(コ)ホモロジーの理論がそれぞれ存在して、
どちらにおいてもレフシェッツの不動点定理が成り立つらしい
[b2]同じ多項式で記述されるX_p上の写像とX_C上の写像は、同じように(コ)ホモロジー群に作用するらしい
(従ってそれらの固定点の個数は等しい。)
以上の仕組みにより、
Z上の(mod p)解の個数
=F_p ̄上の楕円曲線上のF_p解の個数
=F_p ̄上の楕円曲線上のフロベニウス写像の固定点
=C上の楕円曲線の(a+bi)倍写像の固定点
=(a-1+bi)倍写像の核
=(a-1)^2+b^2=p-2a+1
という一連の全体像を認識した。
*ここでノルムqのガウス整数cには単数倍の自由度による複数の候補があって、そのうちどれが正解かはこの資料では踏み込んでいない。
結果的には、この楕円曲線では、aはa≡1 (mod 4)によって特定される。
tsujimotterさんが一覧表付きでこの現象を書いている。
(https://tsujimotter.hatenablog.com/entry/elliptic-curve-over-Fp-and-jacobsthal-sum)
*この辺りの事情について局所類体論との関係について、理解が進んだらまた別のノートにしたい内容がある
*x^4+y^4=z^4のF_p解について、ヤコビ多様体を3つの楕円曲線に分解することで、レフシェッツの不動点定理の視点で説明することを試みている。
近いうちに別のノートにしたいと思っている。
*PARI/GPでの計算観察
E=ellinit([0,0,0,1,0])
P=[x,y]
Q=[-x,y*I]
P2=elladd(E,P,Q)
P3=elladd(E,P2,Q)
subst(%,x,z)
Mod(%[1],y^2-z^3-z)
lift(%)
taylor(%,z)
(%-z^5)/(1+2*I)
Mod(P3[2],y^2-x^3-x)
lift(%)
taylor(%,y)
(%-y^5)/(1+2*I)
分母に5が現れないことが観察目的である。
(1+2I倍点の代わりに2+I倍点や-1+2I倍点では分母に5が現れる。)
こうして、y^2=x^3+xに対応する楕円曲線の(x,y)の(1+2i)倍点が、確かに、
(x^5+[係数が(1+2i)な冪級数], y^5+[係数が(1+2i)の倍数な冪級数)])の形をしていることを観察した。
*4N+3素数の場合についても同様にPARI/GPを使って、(x,y)の-3倍点が、
(x^9+[係数が3な冪級数], y^9+[係数が3の倍数な冪級数)])の形をしていることを観察した。
このことから、F_9解の個数は得られることになるが、F_3解の個数はこの視点では得られなかった。
3乗フロベニウスに対応する虚数倍写像は存在しないということである。
これは、おそらくF_3が√-1を持たないことと関係すると思われる。
(一方で、F_9に2次拡大すれば√-1を持つことが、9乗フロベニウスに対応するN倍点写像の存在と関係すると思う)
しかし9乗フロベニウスが単位行列の-3倍であることから、
3乗フロベニウスの作用は、固有値が±√-3であることが分かる。
このことから、3乗フロベニウスのレフシェッツ数は、-3+0-1=-4と計算される。
同様に、任意の4N+3素数pに対して、p^2フロベニウスに(-p)倍写像が対応すると思う。
pではなく-pなのは、4N+1素数の「a≡1 (mod 4)によって特定される」の延長として解釈できると思う。
こうして、p乗フロベニウスのレフシェッツ数は-p-1と計算され、
先に引用したtsujimotterさんも言及している現象:
4N+3素数pに対してはF_p解は(p+1)個という現象に合致する。
雑談
・レフシェッツは事故で両手を失って数学へ転向したらしい
・ついでにポントリャーギンは14才のときに失明したらしい
すごい [https://bookmeter.com/books/39078のレビューに書いてあった]
2020/10/09
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