関手としてのスキーム

[1] https://ncatlab.org/nlab/show/scheme とその周辺を適当に読んでいる。 定義2.1から始まる一連の関手的な視点について理解するには、具体例の観察が欠かせなかった。 それをメモとして残しておくのである: ここでは米田の補題が関係する所がある。それに合わせて [2] https://en.wikipedia.org/wiki/Yoneda_lemma と記号が対応するようにアルファベットを選んだ。 [1]とはアルファベットが少し違うのはそういう事情である。 RingからSetへの特別な関手Hom(k[t],・)をFとする。 特定の環Aによる別の関手Hom(A,・)をh_Aとする。 このh_Aのことを(関手としての)アフィンスキームSpecAと認識し、 h_AからFへの自然変換をSpecA上の関数と認識する。 これが実際に通常の意味での関数(構造層の大域切断)と合致することを確認するのがこのノートの内容である。 関手h_Aは、環Rを、Hom(A,R)の元、つまりSpecAのR-値点に送る関手と認識できる。 具体例としてA=Z[x,y]/(x^3+1-y^2) と特定しておく。 Ringの対象:Zを、Setの対象:集合{(2,3),(2,-3)} に送る (補足:Hom(A,Z)の元としての、(x,y)を(2,3)に送るようなZ[x,y]/(x^3+1-y^2)からZへの環準同型を、(2,3)と略記して表記しているのである。) 関手Fは、環Rを、t軸のR-値点、つまりRの元からなる集合に送る。 (いわゆるRingからSetへの忘却関手) h_AからFへの自然変換は、それぞれの環Rに対して、 x^3+1-y^2=0 の R-値点 から Rの元 への写像を定める。 例えば環Zに対して{(2,3)→3, (2,-3)→9} という写像が考えられる。 これはそれぞれの環に対して好き勝手に定められるわけではない。 例えば環Zに対する射h_A(Z)→F(Z)を上記のように定めたら、環Qに対してh_A(Q)→F(Q)を定める時に h_A(Z)→F(Z) ↓   ↓ h_A(Q)→F(Q) が可換にならなければいけない。 特にSpecAのQ-値点としての(2,±3)は、Z-値点としての(2,±3)と同じ行き先である必要がある。 別の制約としては、例えば h_A(Z)→F(Z) ↓   ↓ h_A(Z/2Z)→F(Z/2Z) が可換になることを考えると、(2,3)の行き先と(2,-3)の行き先は偶奇が一致しなければいけないことも要求される。 このような制約を常に満たす単純な方法には、R-値点(x,y)の行き先をx,yのZ係数多項式で定める方法がある。 (「(x,y)の行き先をax+byと定める」とすれば上記のような制約は常に満たされることが分かる。) ところが、実は、この定め方で、すべてである! h_A(A)、つまりSpecAの「A-値点」を考えるのである。 A-値点として特に恒等射A→Aに対応する点id=(x,y)がある。 このidの行き先となるF(A)の元、つまりA=Z[x,y]/(x^3+1-y^2)の元が定まっている。 以下の観察が決定的である。 ・idの行き先を決めれば、他のA-値点の行き先も決まり、従ってh_A(A)→F(A)が定まってしまう。 例えばA-値点(x,y)が多項式u(x,y)に移るときに、A-値点(x,-y)がu(x,-y)に移ることが要求される。 (この例を思い浮かべるには、h_A(A)の元としての恒等写像A→AをA-値点(x,y)と認識していて、  yの符号を変える環準同型w:A→AをA-値点(x,-y)と認識して、以下の議論を見ると良い。) idとは別のA値点 w:A→A ∈ h_A(A) を考える。次の可換図式を考える: h_A(A)→F(A) ↓   ↓ h_A(A)→F(A) 横の射は(2行とも)定めたい自然変換。縦の射は環準同型w:A→Aを関手h_A,Fで移したもの。 id∈左上 の横の射の行き先をu(x,y)∈Aとする。 左の縦の射はidをwに送り、右の縦の射はuをw(u)に送る wの行き先はw(u)と要求されるのである。 id → u(x,y) ↓  ↓ w   w(u(x,y)) ・h_A(A)→F(A)が定まってしまえば、任意の環Xに対するh_A(X)→F(X)も定まってしまう。 上記の議論の2行目のAをXに置き変えれば良い。最初からそう議論しても良かった。 例えばA-値点(x,y)がu(x,y)に移るなら、Z-値点p=(2,3)はu(2,3)に移らなくてはいけない。 h_A(A)→F(A) ↓   ↓ h_A(Z)→F(Z) Z-値点pとは、AからZへの環準同型のことである。 このpを関手で移したものがこの図式の縦の射を定義すると同時に、 このpはid∈h_A(A)を縦の射で移したh_A(Z)の「元」の役割でもある。 これによってpの行き先がu(2,3)と要求されるのである。 id → u(x,y) ↓  ↓ p  u(2,3) 以上の議論は、実は米田の補題の具体的な適用例である。 (上記の図式は[2]のwikipediaにある証明の図式と、縦横が逆なだけでほとんど同じ。) 自然変換が「h_A(A)がid_Aを何に送るか」を「F(A)がid_Aを何に送るか」に送るか、 に注目する所が中心的であった。 この入れ子構造はややこしく、上記のように具体的な例を使うと少し分かりやすかった。 ============================ (アフィンとは限らない)スキーム 以上の議論から、RingからSetへの関手圏Set^Ringのうち、表現可能なものがアフィンスキームという解釈ができた。 (アフィンとは限らない)(関手としての)スキームは、略式に、これらの間にある構造として認識できる: アフィンスキーム ⊂ スキーム ⊂ Set^Ring と考えることができる。 ここでは、(通常の)スキームXから(関手としての)スキームに翻訳するには、 環Rを、Mor(R,X)に送る関手 というふうに認識するのである。 (このMorは(通常の意味の)スキームとしての射を意図している) ここで [1]で"fundamental theorem on morphisms of schemes" として引用されている事実: スキームの圏 から Set^Ring への埋め込みは忠実充満である によって特に、異なる(通常の)スキームは、異なる(関手としての)スキームに翻訳される。 位相(特にグロタンディーク位相)、貼り合わせ、層などを、引き続き関手の視点で考察したいけど、 まだよく理解できていないので書けない 2019/7/15
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