類体論の一般相互法則では何が起こっているか 具体的に計算してみた「メモ」であります。 説明の丁寧さにばらつきがあるのは私の余裕の無さです あまり正確でない所もあるでしょうが・・ 2015/1/21 ---------------------- [例1] i=√-1による拡大を取り上げよう すなわち K=Q, L=Q(i)={a+bi|a,b∈Q} を扱う L/Kで分岐する素点としてはp=2が存在する。 分岐とは: Kの素イデアルpをLに延長したときに Lにおいてpを素イデアル分解したときに p = β1^e1*β2^e2*... とおいたときに eiのうち2以上のものが存在するとき pはL/Kで分岐していると呼ぶ 具体的に p=2 は (2)=(1-i)^2 と分解する 左辺は {2a|a∈Z[i]} という集合を意味していて ただしZ[i]={b+ci|b,c∈Z} 右辺は {xy|x,y∈(1-i)} という集合を意味していて ただし(1-i)={(1-i)a|a∈Z[i]} それらの集合が等しいことを主張している。 ここは証明を書いておこう。易しいと思う。 z∈(2) とする。z=2a, a∈Z[i]とおける 2=(1-i)(1+i)=(1-i)(1-i)i に注目すると z=(1-i)(1-i)ia となるので x=1-i, y=(1-i)ia とおけば z=xy であり x,y∈(1-i) なので z∈(1-i)^2 逆に z∈(1-i)^2 とする。z=xy, x,y∈(1-i)とおけるから z={(1-i)a}{(1-i)b}, a,b∈Z[i] とおける。 z=-2iab = 2(-abi) だから Z∈(2) である。 実はもう1つ分岐する素点がある。 実無限素点p_infというのを考慮する必要がある とりあえずそういうことにしておく 分岐する素点が属している集合 S={2,p_inf} をとる nを十分大きい自然数として m=Πp^n [p∈S] をとる まあここでは天下りにn=2とすれば良いことを知っている。 「L/Kを類体として持つ合同群」と呼ばれる H_mが定義される: H_m = S_m N_(L/K)I_(m,L) 謎の記号が増えた・・ S_m は mを法とするシュトラールである。単項イデアルの集合である。 S_m = {(α)|α≡1 (mod m)} α≡1 (mod m) とは α≡1 (mod 4) かつ α>0 を要求する。 後者は α≡1 (mod p_inf) によるものということにしておく。 ここでαは整数と限らない。分母がmと互いに素な分数でも良い。 I_(m,L) は Lの分数イデアルでmと素なものの集合である。 N_(L/K)I_(m,L) はI_(m,L)にノルム写像を作用させた像である。 ノルムとは。 I_(m,L)の元を1つとって具体例としたい。 mと素なイデアルということで J=(1-i)は適さない。J=(2-i)なら適する。 イデアルに対して、ノルム写像が作用する。 Jのノルム、N_(L/K)J、とは、Jが整イデアルの時については Lの整数環をJを法として分類した時の元の個数が1つの解釈である。 平たく言えばJで割った余りの種類と言える。 それは実はJとJの複素共役を掛けて得られる整数に一致する。 実際、任意のZ[i]の元は、(2-i)*q+r, q∈Z[i],r∈{-2,-1,0,1,2}の形に一意に書ける。 その手順の考え方はいろいろあるだろうが 例えば x=13+12i に対しては x = 13+12i+12(2-i)-12(2-i) = 37-12(2-i) = 2+35-12(2-i) = 2+7*(2+i)(2-i)-12(2-i) = 2 + (14+7i-12)(2-i) のように。 さて I_(m,L)の元はmと素なものとしているが そのノルムはどのような値を取り得るのだろうか 実は{a∈Q |a>0, a≡1 (mod 4)} という集合だと知っている こうして S_m N_(L/K)I_(m,L) は次のような集合である。 {(α) | α=cβ, β≡1(mod 4), c∈Q, c>0, c≡1 (mod 4)} ・一般相互法則 Q[i]には自己同型写像が2つある。 [1],[-1]と呼ぶことにする。G={[1],[-1]}とおく。 [1]は恒等写像で、[-1]は複素共役をとる写像である。 アルティンハッセ記号(L/K|p) は次のように定義される: βをpをLで分解したときの素イデアルとする。 任意の元 z∈Z[i] に対して z^p≡σ(z) (mod β) が成り立つような σ∈G のこととする。 どういうことか。具体例。 p=3 のときは z^3 ≡ zの共役 (mod 3) が成り立つ。 p=5 のときは z^5 ≡ z (mod 2-i) が成り立つ 従って (L/k|3) = [-1] であり、(L/k|5)=[1] となる。 確認: (x+yi)^3 = xxx + 3xxyi - 3xyy - yyyi = (x-yi) + (x^3-x) - (y^3-y)i + 3(xi-y)xy フェルマーの小定理よりx^3-x≡0, y^3-y≡0 (mod 3) (x+yi)^5 = x^5+y^5i + 5の倍数 = (x+yi) + (x^5-x) + (y^5-y)i + 5の倍数 というわけである。pを4で割った余りはy^pの符号に反映される 一般相互法則が主張することには この(L/K|p)という操作で I_m/H_m が Gと同型になる: すなわちp,q∈I_m に対して ・p/q ∈ H_m ⇔ (L/K|p)=(L/K|q) ・(L/K|pq) = (L/K|p)(L/K|q) が成り立つ。 -------------------------------- [例2] ζを1の原始13乗根とする。 β=ζ+ζ^5+ζ^8+ζ^12 とおく βは次の3次方程式の解である: W(x) = x^3+x^2-4x+1 = 0 βによるQの拡大Q(β)/Qで考える。 実はアーベル拡大と呼ばれるクラスであり 従って他の解をβの多項式で表せる。 実際W(x)の解の1つをβとおくと W(x)の解は x=β, g_2(β), g_3(β) ただし g_2(x)=-x^2-2x+2 , g_3(x)=x^2+x-3 で得ることができる。g_1(x)=x とおいて後で使う。 ・フロベニウス自己同型写像 pを13以外の素数とする。 x^p を W(x)で割った余りをr(x)とおくとそれは2次式になるが r(x) ≡ g_k(x) (mod p) を満たすkが存在する これは驚くべきことかもしれない。例えば: x^7 = (x^4-x^3+5x^2-10x+31)*W(x)-7*(11x^2-19x+4)+g_3(x) この対応をローカルに F(p)=k と名付けておくことにする F(p)はアルティンハッセ記号(Q(β)/Q|p)の役割である。 上記の例によれば F(7)=3 である。 ・一般相互法則(アルティン相互法則)が主張するには 基礎体Qの整数環Zのイデアルをある分類法によって3つの類に分ける。 整数環のイデアルはすべて単項イデアルだから イデアルの代わりに数で考えても良い ここでは I_m={13と素な数}, H_m={x|x≡1,5,8,12(mod 13)} による剰余類 I_m/H_m が次の3つの類を与える。 A_1 = {x|x≡1,5,8,12 (mod 13)} A_2 = {x|x≡2y,y≡1,5,8,12⇔x≡2,3,10,11 (mod 13)} A_3 = {x|x≡4y,y≡1,5,8,12⇔x≡4,6,7,9 (mod 13)} 一般相互法則の主張によれば13以外の素数pと先のF(p)について 【p∈A_k ⇔ F(p)=k】が成り立つという。p=7で確認できる。 ・特に何が言えるか p進体というものを持ちださないと私は以下を説明できない。 p進体は大雑把に p=0 が成り立つような体である (今まで a≡b (mod p) と書いたものが a=b となる) p進体の元が x^p=x を満たすならxは整数である x^p-x = (x-1)(x-2)...(x-p) が成り立つからである これを見れば x^p≠x ならば xは整数でないことも分かる。 W(x)=0 の解をp進体でとってそれをαとおくと フロベニウス写像により α^p=(g_F(p))(α) である 特にp∈A_1 のときF(p)=1 だから α^p=α となる。 さっき書いたことよりαは整数である。 つまりW(x)=0 はp進体で整数解を持つ。 ということは通常の体に戻ると W(x)≡0 (mod p) を満たす整数xが存在することになる。 また逆に p∈A_1 でないときはα^p≠αとなって W(x)≡0 (mod p) を満たす整数xが存在しないのである。 【 W(x)=x^3+x^2-4x+1 の素因子は13N+1,5,8,12型に限られる。 逆に13N+1,5,8,12型の素数pに対してW(x)がpで割り切れるxが存在する】 という結果を得られることになる。 --------------------- [例3] 拡大 L/K=Q(√-5)/Q 。 S_m = {(α)|α≡1 (mod m)} I_(m,L)の元はmと素なものとしている。 N_(L/K)I_m,L = {a∈Q|a=b^2+5c^2, b≠0(mod 5),b≠c (mod 2), b,c∈Q} 追記:これは正しくない; I_m,L の元は単項イデアルとは限らない。 例えば (7,3+√-5) がある。 何が起きているのかを観察するのが目的だから 結論からお迎え戦法を使うことにする:素数pについて p≡1,3,7,9 (mod 20) のとき(p)はLの素イデアルではない p≡1,9 (mod 20) のとき p=b^2+5c^2 となる整数b,cが存在する イデアル(p) は (b+c√-5)*(b-c√-5) と分解される p≡3,7 (mod 20) のとき 2p=b^2+5c^2 となる整数b,cが存在する イデアル(p) は (2,b+c√-5)*(2,b-c√-5) と分解される p≡11,13,17,19 (mod 20) のとき(p)は素イデアルとなる。 p≡2,5 (mod 20) のとき(p)は分岐する。 (2)=(2,1+√-5)*(2,1-√-5)が成り立つが右辺の2つはイデアルとして等しい。 (5)=(√-5)*(-√-5) と書いても右辺の2つはイデアルとして等しい。 以上に基づいて修正すると m=20*p_inf が良いらしく S_m = {(α)|α≡1 (mod 20), α>0} N_(L/K)I_m,L = {a∈Q,mと素|2a=b^2+5c^2 または a=b^2+5c^2  となるb,c| b≠0(mod 5), b,c∈Q が存在する} こうして H_m = S_m N_(L/K)I_(m,L) は次のような集合である。 H_m = {(α) | α=aβ, β≡1(mod 20),β>0, aは上記と同じ} = {(α)} α≡1,3,7,9 (mod 20)} 一般相互法則の主張内容を書くと 素数pがH_mに属する場合アルティンハッセ記号は恒等写像をもたらし (x+y√-5)^p ≡ x+y√-5 (mod p) そうでない素数pの場合はもう片方の自己同型写像(共役)によって (x+y√-5)^p ≡ x-y√-5 (mod p) が成り立つことになるだろう。 (本当はmod pじゃなくてpをLで分解したイデアルβによって mod βが正しいが、pが分岐しない素イデアルならmod pでも成り立つ) 特にx=0,y=1とおいて言い換えた場合 p=b^2+5c^2 と表せる ⇔ (√-5)^(p-1)≡1 (mod p) p=b^2+5c^2 と表せない ⇔ (√-5)^(p-1)≡-1 (mod p) これは単にオイラーの基準である --------------------- [例4] 今度は基礎体をQ以外にして K=Q(√-5), L=Q(√-1,√-5) という拡大を試してみようではないか このKはイデアル類数が1でないものの代表である。 すなわち今までの場合と違って Kの整数環のイデアルが単項イデアルとは限らない (2,1+√-5) とか (3,1+√-5) とかがある。 ここで記号(i,j) とは二項イデアルで集合{xi+yj|x,y∈O_K} のことである。 ここでO_KとはKの整数環のことで ここでは {a+b√-5|a,b∈Z} という集合となる 一般には最高次が1の整数係数方程式の解によって特徴づけられる。 集合(2,1+√-5)は次のように言い換えられる {a+b√-5|a,b∈Z, a≡b (mod 2)} 集合(3,1+√-5)は次のように言い換えられる {a+b√-5|a,b∈Z, a≡b (mod 3)} これらが成り立つことおよびこれらがイデアルであることの説明を略す。 このKのイデアル類数は2であることが知られている。すなわち: Kのイデアルは2つの類に分かれる:単項イデアルと二項イデアルに分かれる。 (もしイデアル類数が3以上だったら二項イデアルがさらに2つの類に分かれる) ここで、同じ類に属するイデアルは次の意味で"対等"関係が有ることをいう: イデアルI,Jが対等である⇔ある元r∈K が存在して r*I=J が成り立つ I=(2,1+√-5) と J=(3,1+√-5) は対等なはずである。 実際、{(1+√-5)/2}*I = J となる。 ・任意のIの元xに対して y={(1+√-5)/2}*x はJに属する x=2 のとき y=1+√-5 ∈J x=1+√-5 のとき y=(-4+2√-5)/2 = -3+(1+√-5) ∈J ・任意のJの元yに対して x=y/{(1+√-5)/2} はIに属する y=3 のとき x=6/(1+√-5)=1-√-5=2-(1+√-5)∈I y=1+√-5 のとき x=2∈I 話がそれた。L/K は2次の拡大だから、自己同型写像は2つしかない。 I_m/H_m を考えると H_mは単項イデアルの集合となるから 単項イデアルと二項イデアルをH_mで割った剰余類は別の類となる。 しかし類体論が主張するにはそれらの類は自己同型写像と1対1に対応する。 従って I_m/H_m は2つの剰余類しか持たない: 1つの類(単位元)が単項イデアルの集合であり もう1つの類が二項イデアルの集合となるはずであろう。 一般相互法則の主張は: ・pが素な単項イデアルならばアルティンハッセ記号(L/K|p)は恒等写像である ・Iが素な二項イデアルならばアルティンハッセ記号(L/K|I)は共役写像である ・素でない場合は、分解された素イデアルに対するアルティンハッセ記号の積 ここでの共役とは、√-1 を -√-1 にする写像である。 (拡大Q(√-1,√-5)/Q(√-5)で議論しているから) √5 は -√5 になる。√-5 は変わらない。 いくつかの素イデアルでアルティンハッセ記号の様子を実際に見よう。 ・p=2 も考察対象となる。I=(2,1+√-5)の場合; 剰余ノルムq=2 である。このIに対しては q=2 である。 O_Kのすべての元が Iの元 または (Iの元)+1 で表すことができる という意味で代表元は {0,1} の2つである。という意味でq=2である。 フロベニウス写像はこのqを使って x^q ≡ (L/K|I)(x) (mod I)となる。 例:x=(1+√5)/2 はLの「整数環」O_Lの元である。(整方程式x^2+x-1=0の解) x^2 = (3+√5)/2 = 2-(1-√5)/2 ≡ (1-√5)/2 = xの共役 (mod I) Iは素な二項イデアルでフロベニウス写像が共役写像となるので法則と合う。 ・p≡11,13,17,19 (mod 20) のときは単項イデアル(p)は素イデアルとなった。 フロベニウス写像を考える時にq乗する元は任意にとって考えて良い。 前まではK=Q だったので q = #{O_K/(p)} = p で良かったが 今回は KはQの2次拡大なので q = #{O_K/(p)} = p^2 となることに注意する。 x=√-1 に対して x^169≡x (mod 13), x^121≡x (mod 11) x=√5 に対しても x^169≡x (mod 13), x^121≡x (mod 11) などが成り立つことが確認されるだろう。 (p)が単項イデアルでフロベニウス写像が恒等写像となって法則と合う。 ・p≡3,7 (mod 20) のとき 2p=b^2+5c^2 となる整数b,cがあって 対応する二項イデアル (p,b+c√-5) が素イデアルとなる。 pは分解しているので剰余ノルムqはpであり、p^2 にしなくて良い。 (√-1)^7 ≡ -√-1, (√5)^7 ≡-√5 (mod 7) などが成り立ち フロベニウス写像が確かに共役写像になっている。 ・p≡1,9 (mod 20) のとき p=b^2+5c^2 となる整数b,cがあって 対応する単項イデアル (b+c√-5) が素イデアルとなる。 単項イデアルだからフロベニウス写像は恒等写像のほうである。 (√-1)^29 = √-1, (√5)^29 ≡-√5 (mod 29) となるはず。 このようにして法則と合っている。 ===================