7章メモ 特異になる個数

・一般のP^1でパラメータ付けされた次数dの射影曲線族に特異なものはいくつあるか。
・一般のP^4でパラメータ付けられた次数dの射影曲線族で3重特異点をもつものはいくつあるか。

直線束の主成分束
[1] 「判別点」$ {\cal D} \subset \mathbb{B}^{N} $
$n,d \geq 2$を固定する。 普遍特異点 $\Sigma = \Sigma_{n,d}$ を $\{ (Y,d) \in \mathbb{P}^N \times \mathbb{P}^n | p \in Y_{sing} \}$ で定義する。
具体的には$\Sigma$を、$F=0, \partial F/\partial x_i = 0$ を連立したもので切り取られるものと定義する。
(標数0の場合は、$ \partial F/\partial x_i=0$を要求すれば$F=0$は自動的に従う。)
$\Sigma$を$\mathbb{P}^N$に射影した像を、判別点${\cal D}$と呼ぶ。

命題7.1によると、以下が成り立つ:
・$\Sigma$は滑らかで既約な(N-1)次元多様体である。余次元は(n+1)ということになる。
 実際、$\mathbb{P}^n$の特定の点p上の$\Sigma$のファイバーは$\mathbb{P}^{N-n-1}$である。
・一般の次数dの超曲面の特異点は1つで、通常2重点である。
 特に、$\Sigma$は、${\cal D}$と双有理同型である。
・${\cal D}$は$\mathbb{P}^N$の既約な超曲面である。

[例]$n=d=2$の場合、すなわち$\mathbb{P}^2$の2次曲面の場合
・例えば$\mathbb{P}^2$の点$p=[X:Y:Z]=[0:0:1]$で特異点を持つ2次式は、$X,Y$の2次以上の単項式で生成される。
 $a_{13}=a_{23}=a_{33}=0$で切り取られる。 すなわち点p上のファイバーは、$[a_{11}:a_{12}:a_{22}]$で決まり、$\mathbb{P}^2$である。
・$\Sigma_{2,2}$は7次元多様体$\mathbb{P}^5×\mathbb{P}^2$から
 $2a_{11}x_1 + a_{12}x_2 + a_{13}x_3 = 0$,
 $2a_{22}x_2 + a_{12}x_1 + a_{23}x_3 = 0$,
 $2a_{33}x_3 + a_{13}x_1 + a_{23}x_2 = 0$
 で切り取られる4次元多様体である。
・$\mathbb{P}^5,\mathbb{P}^2$の超平面類をそれぞれ$\alpha,\gamma$とすると $\Sigma$の類は、$(\alpha+\gamma)^3 = \alpha^3 + 3\alpha^2\gamma + 3\alpha\gamma^2$となる。
 このことから、その$\mathbb{P}^5$への射影である${\cal D}$の類は、$3\alpha$であることが分かる。

最初の問題は、この超曲面$\cal D$の次数を知ることに相当する。
この答え自体は上記の例のようにして、
$\mathbb{P}^N×\mathbb{P}^n$から、 $(\alpha+(d-1)\gamma)$を類とするもの$(n+1)$個で切り取られる類を$\mathbb{P}^N$に射影したものとして、
$(\alpha+(d-1)\gamma)^{n+1}$を展開した$\alpha\gamma^n$の係数として、$(n+1)(d-1)^n$と求められる。
(pdfの254ページのこの項が$\binom{n+1}{n}\alpha^n (d-1)^n \gamma^n$となっている。$\binom{n+1}{n}\alpha (d-1)^n \gamma^n$の誤植だと思う。)

ここには、チャーン類を利用する別の視点がある。
チャーン類を利用する視点はより高度だが、$\mathbb{P}^n$以外を含めた一般化ができる利点がある。

・寄り道

$\mathbb{P}^n$を$\mathbb{P}^{N*}$に送るd次ヴェロネーゼ写像$v_d$というのがあった。
例えば$v_3$は、$[x:y:z]$を$[x^3:y^3:z^3:x^2y:y^2z:...]\in \mathbb{P}^{10*}$に移す。

$\mathbb{P}^2$のd次曲線の定義方程式をFとする。
Fの係数を並べたものは、$\mathbb{P}^{10}$の1点に相当する。
$\mathbb{P}^N$上の点としての$F = [a_{111}:a_{222}:a_{333}:...]$に対して、
$\mathbb{P}^{N*}$上の平面 $F^* : a_{111}x_{111}+a_{222}x_{222}+...=0$ が対応する。

$\mathbb{P}^{N*}$における平面$F^*$と、像$v_d(\mathbb{P}^2)$の交叉が、元のFで定義された曲線に同型である。

こうして、$\mathbb{P}^{N*}$における超平面のうち、$v_d(\mathbb{P}^2)$と特異的に交わる、
すなわち、$\mathbb{P}^{N*}$における超平面のうち、$v_d(\mathbb{P}^2)$の接平面を含むようなものが、判別点である。
すなわち、$\cal D$は$v_d(\mathbb{P}^2)$の双対多様体である。


[2] 主成分束

$p \in \mathbb{P}^n$に対して、
$E_p$ = {O(d)の切断の芽} / {O(d)の切断のうちpで2位以上の零点を持つ芽} という (n+1)次元ベクトル空間を考える。
$E_p$は貼り合わさってベクトル束を成す。
これを1次主成分束と呼び、${\cal P}^1({\cal O}_{\mathbb{P}^n}(d))$ と表記する。

(より一般には、m≧1と準連接層${\cal L}$に対して、 ${\cal P}^m(L) = \pi_{2*} ( \pi_1^* {\cal L} \otimes {\cal O}_{X\times X} / {\cal I}^{m+1})$ と定義されるらしい。)
大雑把に、これはn+1階のベクトル束で、そのうち2つの切断が独立でなくなる場所とは、
このベクトル束のn+1個の切断の階数がnになる所として解釈できるので (本文にある多くの議論を経て)、 $c_n({\cal P}^1({\cal O}(d)))$が求めるものに相当する。

・射影空間の場合
${\cal P}^m({\cal O}_{\mathbb{P}^n}(d))$のチャーン類は、$(1+(d-m)\zeta)^{\binom{n+m}{n}}$ となる。
この指数はn+1変数m次式の単項式の個数である。
特にm=1の時、$c({\cal P}^1({\cal O}_{\mathbb{P}^n}(d))) = (1+(d-1)\zeta)^{n+1}$ で、[1]と同じ結果を得る。

・P^nのd次曲線のパラメータ空間P^Nにおいて、3重特異点を持つもの
余次元 $\binom{n+2}{2} - n$ を持ち、次数 $\binom{ \binom{n+2}{2}} {n} (d-2)^n$ を持つ。
n=2 の場合、余次元4で、次数 $15(d-2)^2$ ということになる。(冒頭2つ目の課題の答え)
(このd=3の場合が、2章(chow2.html)で計算した、アスタリスクである:
 3次曲線のパラメータ空間P^9において、次数15の5次元多様体をなすのであった。)

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・練習7.22:$S=P^1 \times P^1$ の場合。
${C_t \subset S}, t \in P^1$を (a,b)次の曲線族とする。
$C_t$のうち特異なものの個数はいくつと期待されるか?
すなわち、$c_n({\cal P}^1({\cal O}(a,b)))$ を計算せよ。

$L = {\cal O}(a,b)$ とおく。定理7.2により、完全列: $0 \to L\otimes \Omega_S \to {\cal P}^1(L) \to L \to 0$ がある。
$c(L) = (1+a\alpha+b\beta)$
$c(\Omega_S) = (1-2\alpha-2\beta+4\alpha\beta)$

これに必要な練習5.39にもなっていた$\mathbb{P}^n\times \mathbb{P}^m$の接束のチャーン類は、検索した:
https://math.stackexchange.com/questions/1886356/tangent-bundle-of-product-of-projective-spaces
$(1+\alpha)^{n+1} (1+\beta)^{m+1}$, $n=m=1$ の場合 $(1+2\alpha+2\beta+4\alpha\beta)$
上記の$c(\Omega_S)$の結果はこれの双対として得た。

$c(L\otimes \Omega_S)$ の計算には命題5.17の公式を使う。
$\begin{align} c_1(L\otimes \Omega_S)& = 2c_1(L)^1 c_0(\Omega_S) + c_1(L)^0 c_1(\Omega_S) \\ & = (2a-2)\alpha+(2b-2)\beta \end{align}$
$\begin{align} c_2(L\otimes \Omega_S) & = c_1(L)^2 c_0(\Omega_S) + c_1(L)^1 c_1(\Omega_S) + c_1(L)^0 c_2(\Omega_S) \\ & = (a\alpha+b\beta)^2 + (a\alpha+b\beta)(-2\alpha-2\beta) + 4\alpha\beta \\ & = (2ab-2a-2b+4)\alpha\beta \end{align}$

従ってホイットニーの公式により、
$\begin{align} c({\cal P}^1({\cal O}(a,b)))& = (1+a\alpha+b\beta)(1+(2a-2)\alpha+(2b-2)\beta+(2ab-2a-2b+4)\alpha\beta) \\ & = 1 + (3a-2)\alpha+(3b-2)\beta + (2ab-2a-2b+4 + 2ab-2b + 2ab-2a)\alpha\beta \\ & = 1 + (3a-2)\alpha+(3b-2)\beta + (6ab-4a-4b+4)\alpha\beta \end{align}$
と計算して、$(6ab-4a-4b+4)$ という答えを得た。

なお、この一連の計算は、7.1で公式としてパッケージ化されていた:
$c_k(\Omega)$を単に$c_k$、直線束Lのチャーン類を$\lambda$とおく。上記と同様の計算を行うと、
$c_n({\cal P}^1(L)) = \sum_{i=0}^n (n+1-i)\lambda^{k-i} c_i \\ = (n+1)\lambda^n + n\lambda^{n-1} c_1 + ... + 2\lambda c_{n-1} + c_n$

・本文7.4.2では、$\mathbb{P}^3$上のd次曲面Xに対して、
e次曲面とXがなすような曲線族のうち特異なものの個数を計算している。

$c(T_X) = (1+\zeta)^4/(1+d\zeta)$であることから、展開して、
$c(\Omega) = 1+(d-4)\zeta + (d^2-4d+6)\zeta^2$ を得る。
上記の7.1公式により、$d(3e^2+2(d-4)e+d^2-4d+6)$ という結果を得ている。

$\mathbb{P}^1 \times \mathbb{P}^1$はセグレ埋め込みによって$\mathbb{P}^3$のd=2次曲面に埋め込める。
d=2 とおくと、$2(3e^2-4e+2)$ で、さっきの答えで a=b=eとおいた結果と一致する。良かった!

#説得力の無い具体例:座標変数を[x:y],[z:w]とする。sxz=tyw は [s:t]=[1:0],[0:1]のときに特異になる。

練習7.24
S⊂P^3を3次曲面、L⊂Sを直線とする。
C_tをP^1パラメータ付けられた、Lを含むP^3の平面族で切り取られたS上の2次曲線族とする。
(Lを含む平面は、Sと、Lの他に2次曲線で交わる。)
この族に特異なものはいくつあるか?
これを解釈することで、Sに含まれる別の直線でLと交わるものがいくつあるか分かる。

例えばy=z=0を含む3次曲面はをsy=tzで切り取る数式を考えると、
結局P^1パラメータ付けされた2次曲線の特異なものを数えることになり、3つだと思う。
Sに含まれる別の直線でLと交わるものは、6本ということになると思う。

#説得力のない具体例
S:x^3+y^3+z^3+w^3=0上の直線L:x=-y,z=-wを考えると、
Lを含む3種類の平面x=-y, z=-w, x+y+z+w=0 でSを切り取った結果が3直線となる。


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