5つの2次曲線すべてに接する2次曲線の個数
これは、日曜数学会アドベントカレンダー2020への参加である。
話題は正確には「標数0の代数閉体上の射影平面の一般の位置にある5つの2次曲線すべてに接する滑らかな2次曲線の個数」である。
・追記:13章で、この問題に関する別の視点が扱われていたのを追った:chow13.html(12/23)

[0] 本の紹介

10月終わり頃に、David Eisenbud and Joe Harris「3264 and All That」という本に出会った。
(タイトルで検索すると、片方の著者のウェブページと思われるURLにpdfファイルが置いてある。)
今回のノートはほとんどこの本から得た内容である。
タイトルは英国の歴史について書かれた「1066 and All That」という本のパロディらしい。
(1089 and All Thatという別の数学書も見かけた。)

本の内容は、交叉理論(交点理論)である。
特に、有限個の答えを持つ問題の個数を求める様々な課題とそれを解決する手法が解説されている。

ほとんどの章の冒頭にKeynote questionとして動機を与える具体的な問題がいくつかある。
いくつか紹介する:
・$A(x,y,z),B(x,y,z),C(x,y,z)$を一般の斉次$d$次式とする。
 $[A(x,y,z):B(x:y:z):C(x:y:z)]=[x:y:z]$ となるような$[x:y:z]$はいくつあるか?(2章,chow2.html)
・$\mathbb{P}^3$の一般な4本の直線と交わる直線は何本あるか(3章,chow.html)
・$\mathbb{P}^3$の一般な3次曲面は何本の直線を含むか(5章,chow5.html)
・一般の$\mathbb{P}^1$でパラメータ付けされた次数dの射影曲線族に、特異なものはいくつあるか。(7章,chow7.html)
★$\mathbb{P}^2$の一般な5つの2次曲線にすべて接する滑らかな2次曲線はいくつあるか(8章,このページで取り上げる)
・$\mathbb{P}^3$の一般な8本の直線に交わるような、$\mathbb{P}^3$の平面2次曲線はいくつあるか(9章,chow9.html)
・f,gを一般な1変数(e=2d)次式とする。f,gの線形結合のうち、d個のe乗和で表せるものはいくつあるか(10章,chow10.html)
・$\mathbb{P}^3$の一般な5次曲面に1点だけで交わる直線は何本あるか(11章)
これらの解説はすべてその本の本文にある。

このように具体的な問題を題材に、代数幾何のいろんな道具の動機を与えることが意図されている。
内容はしばしば難しいが、このような動機があると、雰囲気だけでも知りたい気持ちが続いて、良い。
章末の練習問題を、本文の見真似で計算してみると、チョットワカル気になったりする。
そのように自分の手を動かして計算する題材があって、良い。

・このノートの目的
このノートでは★$\mathbb{P}^2$の一般な5つの2次曲線にすべて接する滑らかな2次曲線 (8章) を追う。
その答えが実は3264であり、この本のタイトルの由来だからである。
答えが3264になることの雰囲気をある程度納得できる程度の説明を試みた。

注意
・常に、標数0の代数閉体上で考える。
・射影空間についてはよく知っていることを想定する。
$\mathbb{P}^2$における双対曲線については[2-3]で簡単に説明するが、予め馴染みがあるとより良い。
「一般な」とか「一般の位置」は正確には然るべきパラメータ空間のザリスキ稠密な集合を意味するが、踏み込まない。
・交叉理論を正確に描写するには「(YとZが)横断的に交わる」という言葉が必要になる。
 これは交点において、YとZの接ベクトルたちの張る空間が、全体の次元に達することを意味する。
例: $\mathbb{P}^2$では、直線と$d$次曲線が横断的に交わるとは、それらがちょうど$d$点で交わることを意味する。
(いわゆる「接しない」ということである)
例: $\mathbb{P}^3$では、直線と曲線が横断的に交わるとは、それらが交わらないことを意味する。
(なぜなら交わってしまうと接ベクトルの張る空間は合わせても2次元で、$\mathbb{P}^3$の次元に足りないから。)
(このように、交わりを回避できる場合には回避するという意味合いもある。)
実際の例で横断的に交わることを正確に確認するのは、結構慎重に考察する必要があり、このノートでは手抜きしている。
(しかし、本題は、[2-2]で説明するように、この横断性を確認しないと失敗するという例でもある。)



[1-1] 交叉理論のおおまかな紹介

射影平面$\mathbb{P}^2$では、$d$次曲線と$e$次曲線は横断的に交われば$de$個の交点を持つ。
射影空間$\mathbb{P}^3$では、
曲面は、それと横断的に交わる直線との交点数によって次数を定義できて、
曲線は、それと横断的に交わる平面との交点数によって次数を定義できて、
$d$次曲面と$e$次曲面の横断的な交叉は$de$次曲線、
$d$次曲面と$e$次曲線の横断的な交叉は$de$点、という仕組みが成り立つ。
一般次元の射影空間でも同様の仕組みを描写することができる。
交叉理論はこれのより一般的な空間への一般化である。
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▼[寄り道1-1] ねじれ3次曲線▼
$[x:y:z:w]=[s^3:s^2t:st^2:t^3] \in \mathbb{P}^3$ とパラメータづけられるねじれ3次曲線というのがある。
これが3次曲線であることは、例えば平面$x=w$との交点が$[1:1],[1:\omega]:[1:\omega^2]$の3点であることから分かる。
一方で、この曲線は、2つの2次曲面 $xz-y^2=0, yw-z^2=0$ で切り取られるように見える。
そうすると4次曲線という計算になる。何が間違っているか?

$xz-y^2=0, yw-z^2=0$ が切り取るものは、その3次曲線と別の直線$y=z=0$の和集合となっているから。
3つの方程式$xz-y^2=0, yw-z^2=0, xw-yz=0$を使えば、ねじれ3次曲線だけを切り取れる。
しかしこれらは横断的に交わらないので、この次数の情報から曲線の次数は直接得られない。
この現象は、最後の[4]で本題に関してまた現れる。
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[1-2] 少し非自明で手頃な例:射影空間の直積$\mathbb{P}^m \times \mathbb{P}^n$、特に$\mathbb{P}^1 \times \mathbb{P}^1={([x:y],[z:w])}$

例えば「直線」$L_1: \{([x:y],[x:y]) \in \mathbb{P}^1 \times \mathbb{P}^1\}$と、「直線」$L_2:\{([x:y],[y:x]) \in \mathbb{P}^1 \times \mathbb{P}^1\}$ を考える。
これらはどちらも「直線」$w=0$と横断的に交わり、交点は1点である。
ところが、$L_1$と$L_2$の交叉は、$([1:1],[1:1])と([1:-1],[1:-1])$の2点がある。
従って、先のような良い振る舞いをする「次数」を定義できない。

単一の次数の代わりに、次のように2つの類を考えるとうまくいく。
($x,y$について$d$次式、$z,w$について$e$次式)で切り取られる1次元閉多様体の類を、$d\alpha + e\beta$と名付ける。
例えば$x=0$や$y=0$な「直線」の類を$\alpha$と呼んで、$z=0$や$w=0$な「直線」の類を$\beta$と名付ける。
そうすると、「$\alpha\alpha=0$, $\alpha\beta=$[1点], $\beta\beta=0$」という積構造によって、交叉を記述することができる。

例えば直線$L_1$は、$yz-xw=0$ で切り取られるから、その類は$\alpha+\beta$であり、直線$L_2$も同様である。
それらの交叉は$(\alpha+\beta)(\alpha+\beta)$であり、$\alpha^2$と$\beta^2$は消えて$2\alpha\beta$が残り、確かに2点という結果に相当する。

一般次元でも、$\mathbb{P}^m \times \mathbb{P}^n$に対して、$\mathbb{P}^m$の超平面に相当する類$\alpha$と$\mathbb{P}^n$の超平面に相当する類$\beta$を考えると、
$\alpha^{m+1}=0$, $\beta^{n+1}=0$, $\alpha^m\beta^n=$[1点] という積構造によって、交叉を記述することができる。
この環が、Chow環と呼ばれるもので、正式には有理同値という概念で定義され、交叉理論の中心をなす。
(このノートでは正式な定義に踏み込まない。)

*この言葉を使って改めて先の単純な射影空間$\mathbb{P}^3$の場合を考えると、
$d$次曲面の類は$d\alpha$, $d$次曲線の類は$d\alpha^2$, 1点の類は$\alpha^3$ と記述すれば良いことが分かる。
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▼[寄り道1-2] グラフ▼ (2章の話題の1つの概略)
$\mathbb{P}^2$から$\mathbb{P}^2$への3次写像$[x:y:z] \to [x^3:y^3:z^3]: \mathbb{P}^2 \to \mathbb{P}^2$ のグラフ、すなわち、
$([x:y:z],[x^3:y^3:z^3])$ でパラメータづけられる$\mathbb{P}^2 \times \mathbb{P}^2 $の2次元部分多様体$\Gamma$を考える。
先の言葉を使うと、その類は、$[\Gamma] = a\alpha^2+b\alpha\beta+c\beta^2$とおける。(「未定係数法」)
係数$a,b,c$を求めるにはどうすれば良いか?

これを求める常套手段がある。
Chow群の積$[\Gamma] \cdot \alpha\alpha$を考えると、$\alpha$の3次以上は消えるから、$c\alpha^2\beta^2$だけ残る。
同様に、$[\Gamma] \cdot \alpha\beta$を考えると$b$の項だけ残り、$[\Gamma] \cdot \beta\beta$を考えると$a$の項だけ残る。

そこで、$\alpha$や$\beta$に相当する類を具体的に与えて交叉を求めることで$a,b,c$を求められる。
$([x:y:z],[s:t:u]) \in \mathbb{P}^2 \times \mathbb{P}^2$ のうち、
類が$\alpha$であるような超平面$H_1:x=0, H_2:y=0$、
類が$\beta$であるような超平面$H_3:s=t, H_4:s=u$を考えると、
$\Gamma\cap H_1\cap H_2$は $([0:0:1],[0:0:1])$ の1点
$\Gamma\cap H_1\cap H_3$は $([0:0:\omega^k],[0:0:1]) [k=0,1,2]$ の3点
$\Gamma\cap H_3\cap H_4$は $([1:\omega^j:\omega^k],[0:0:1]) [j,k=0,1,2]$ の9点と観察できる。
と数えられる。(正式にはこれらの交わりが「横断的である」ことも確認する必要がある)
こうして、$a=1,b=3,c=9$が得られた。

#一旦$[\Gamma]=\alpha^2+3\alpha\beta+9\beta^2$が分かれば、他の部分多様体との交点数を計算できるのが、交叉理論の利点である。
例えば、$\Delta=([x:y:z],[x:y:z])$ と $\Gamma$ の交点数は、先と同様にして $[\Delta]=\alpha^2+\alpha\beta+\beta^2$ を得ることで、
$[\Gamma][\Delta] = (\alpha^2+3\alpha\beta+9\beta^2)(\alpha^2+\alpha\beta+\beta^2)$ と計算できる。
$\alpha,\beta$ の3次以上が消えることから、この結果は $13\alpha^2\beta^2$、すなわち13点である。

今回の3次写像の場合ではこの13点は$x:y = x^3:y^3$ を整理した $xy(x+y)(x-y)=0$ 等から実際に求められる:
$[1:1:1],$
$[-1:1:1],[1:-1:1],[1:1:-1],$
$[1:1:0],[1:0:1],[0:1:1],$
$[1:-1:0],[1:0:-1],[0:1:-1],$
$[1:0:0],[0:1:0],[0:0:1],$
の13点が、$[x:y:z]=[x^3:y^3:z^3]$を満たす13点である。
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[2] 8章の本題
$\mathbb{P}^2={[x:y:z]}$ の一般な2次曲線$C_1,\ldots,C_5$を与えられたとき、
これらすべてに接する滑らかな2次曲線$C \subset \mathbb{P}^2$はいくつあるか?
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[2-1] 素朴な考察

2次曲線は、$\mathbb{P}^5$でパラメータづけられる:
2次曲線 $\{ [x:y:z] \in \mathbb{P}^2;\ ax^2+2bxy+cy^2+2dxz+2eyz+fz^2=0 \}$ に対して、
$\mathbb{P}^5$の点 $[a:b:c:d:e:f] \in \mathbb{P}^5$ を考えるということである。

[例] 特定の点を通る2次曲線の集合は、$\mathbb{P}^5$においては超平面(次数1の4次元多様体)をなす。
(その点$[x:y:z]$を代入すれば、$a,b,c,d,e,f$に関する1次方程式を得るから。)

[例] $\mathbb{P}^5$の直線に対応する2次曲線たちは、$[s:t] \in \mathbb{P}^1$の1次式でパラメータづけられた族をなす:
例えば $a=b=c=e=0$ で定まる$\mathbb{P}^5$の直線は、直交双曲線族 $sxy=tz^2$ をなす。

[本題] 与えられた$C_i$に接する2次曲線の集合Y_iは、$\mathbb{P}^5$の6次の超曲面をなす(後述)。
求めるものは、$Y_1,Y_2,Y_3,Y_4,Y_5$の交叉 $\cap_{i=1..5} Y_i$ と思われる。
$\mathbb{P}^5$における次数6の超曲面が5つ横断的に交わるなら、それらの交叉は$6^5=7776$点である。
すなわち、求める2次曲線は7776個ある。

・・しかしこれは正しくない。
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▼$Y_i$の次数が6であること▼
超曲面$Y_i$の次数を求めるには、直線との交点を数えれば良い。

ここでは具体的なものを使って説明する。
$\mathbb{P}^5$のある超曲面に対応する、円$x^2+y^2=z^2$に接する2次曲線の集合$Y_i$と、
$\mathbb{P}^5$のある直線に対応する、直交双曲線族$sxy=tz^2$の交わりの個数を考える。
(すなわち、円$x^2+y^2=z^2$に接するこの形の直交双曲線の個数を考える。)

$C_i$をパラメータ表示する。この場合は$[x:y:z] = [m^2-n^2:2mn:m^2+n^2]$ とおける。
$C_i$上の点$[x:y:z]$に対して、それを通るような$[s:t]$が1つだけ定まる。
($[s:t]$が1つに定まらない点が$\mathbb{P}^2$には一般に4点あるが、$C_i$はそれらを避けているとしている。)
今回の直交双曲線族の例では、$[s:t] = [z^2:xy]= [(m^2+n^2)^2: (m^2-n^2)(2mn)]$ である。

そうすると、$\mathbb{P}^1$から$\mathbb{P}^1$への次数4の写像$[m:n]\to [s:t]$が定まっている:
ほとんどの$[s:t]$に対して、それを与える$[m:n]$は4点あるが、
いくつかの$[s:t]$に対しては、それを与える$[m:n]$が4点より少ない。(「分岐点」)
それが求めるものである。
リーマンフルヴィッツの公式を使うと、分岐点は6点であることが分かる。

より地に足がついた観察では、
$t/s$ = ($m,n$の4次式)/($m,n$の4次式) という形をしているので、
非斉次化して考えると、$s=1,n=1$とおいた「($t$の1次式)係数な、$m$の4次方程式」が重解を持つ条件として、
4次式の判別式は係数の6次式であることから、$t$の6次方程式を得るというふうに納得できた。

なお、今回の具体例では、
$[s:t]=[2:1]$ で2重解が2つ(2点で接する)
$[s:t]=[2:-1]$ で2重解が2つ(2点で接する)
$[s:t]=[0:1]$ のとき2重解が2つ
という状況で、分岐点が重複度を込めて6点となっている。

$[s:t]=[0:1]$ のときは、直交双曲線は退化して「2重直線」$z^2=0$ となっている。
これが$x^2+y^2=z^2$と2つの「無限遠点」 $[1:±i,0]$ で2重に交わっているという解釈である。
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▼[寄り道] 特定の円に接する、特定の2点を通る円▼
円$C:x^2+y^2=z^2$ に接する2次曲線の集合と、$x$軸と$x=-4,2$で交わる円の族 $x^2+2xz+y^2+tyz=8z^2$ の交わりを考える。
交叉理論によると、$\mathbb{P}^5$における6次超曲面と直線の交叉なので、交わりは6点存在するはずである。
$t=\pm 3\sqrt{5}$で2つの円は接するが、他に2つの円が接するときはなく、一見、交わりは2つしかない。

計算すると、$t=\pm 2i$のときに接している。
これを観察するには、$x\neq 0$のアフィンを考えて、$(Z,Y)=(z/x,iy/z)$平面にプロットすると良い
$1-Y^2=Z^2$ と $1+2Z-Y^2-itYZ=8Z^2$ としてプロットされる。
$t=2$のとき $(Z,Y)=(0,1)$で接し、$t=-2$のときに $(Z,Y)=(0,-1)$で接することが観察できる。


それでも、2点足りない。これは$\mathbb{P}^5$において、6次超曲面と直線が、$t=\pm 2i$で接していることによる。
これには、$C$に接する2次曲線の集合がなす6次超曲面の、点$C'$(つまり特定の2次曲線)における接平面を描写する必要がある。
事実としては、$C$と$C'$が1点$p$で接する場合には、$p$を通る2次曲面がなす超平面が、この接平面である(資料の補題8.5)。
上記の$t$でパラメータづけられた2次曲線族は$t$によらず常に点$(Z,Y)=(0,\pm 1)$を通るから、
$\mathbb{P}^5$においてこの族がなす直線は、接平面に含まれていることが納得できた。
・・このように具体例を、交叉理論から期待される数と一致させるように解釈するのはしばしば難しい。
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[2-2] 正しい状況

「$Y_i$の次数が6であること」の最後の状況のように、「接する」とは交点で重解を持つ意味として解釈された。
そうすると、任意の「二重曲線」$(sx+ty+uz)^2=0$ は、任意の2次曲線に(重解の意味で)接する。
このことから、交叉 $\cap_{i=1..5} Y_i$は、そもそも有限個の点でない。

すなわち、$\mathbb{P}^5$の部分集合として($[s:t:u]$でパラメータづけられた)二重直線たちに対応する2次元多様体Sがあって、
交叉 $\cap_{i=1..5} Z_i$ はこの2次元多様体Sを丸ごと含んでしまっている。
これを除いたものが実は有限個の点であり、その個数が求める正しい答えである。

このような状況を解決する一般的な方法は、この余計な所(曲面S)でブローアップすることである。
その描写は難しいので、本では13章に回されている。このノートでも踏み込まない。
ここでは、8章に書いてある、双対曲線を利用して、「完全2次曲線の空間」を考える方法を追う。
8章後半ではKontsevich空間というのを考える視点が紹介されているが追えていないので、踏み込まない。
(なお、今回の問題に対しては、これらの視点で得られる空間は結果的にはすべて同型らしい。)
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[2-3] 答えに至る概要

双対空間の概念を使う。
$\mathbb{P}^2$の座標を$[x:y:z]$, 双対空間 $\mathbb{P}^{2*}$の座標を$[X:Y:Z]$として記述する。
$\mathbb{P}^2$の点$p=[x:y:z]$に対して、その双対$p^*$を、$\mathbb{P}^{2*}$の直線: $xX+yY+zZ=0 $で定め、
$\mathbb{P}^2$の直線 $L: ax+by+cz=0$に対して、その双対$L^*$を、$\mathbb{P}^{2*}$の点 $[a:b:c] $で定める。
2次曲線$C$の双対は、特定の点における$C$の接線$L$に対する双対$L^* \in \mathbb{P}^{2*}$の軌跡として定まる。

滑らかな2次曲線 $C \subset \mathbb{P}^2$に対して、その双対曲線$C^*$は再び滑らかな2次曲線となり、
さらに、双対の双対は元の曲線に戻る性質がある。
一方で、滑らかでない2次曲線の双対は、点となる。(2直線なら2点、二重直線なら1点)

そこで、滑らかな2次曲線とその双対 $(C,C^*)$ の組で表される $\mathbb{P}^5 \times \mathbb{P}^{5*}$ の部分集合:
$U=\{[a:b:c:d:e:f],[A:B:C:D:E:F] \in \mathbb{P}^5 \times \mathbb{P}^{5*};$
 $ax^2+2bxy+cy^2+2dxz+2eyz+fz^2=0$が滑らかな2次曲線,
 $AX^2+2BXY+CY^2+2DXZ+2EYZ+FZ^2=0$がその双対}
を考えて、さらに、その閉包$X$を考える。([3-1]で描写)

以下の事実がある:

・$X$は10次元空間 $\mathbb{P}^5 \times \mathbb{P}^{5*}$ の既約で滑らかな5次元閉部分射影多様体である。

・$X$のChow環は、$\mathbb{P}^5$の超平面に由来する類$\alpha$と、$\mathbb{P}^{5*}$の超平面に由来する類$\beta$で生成される。

・以下の積構造を持つ([3-3]):
 $\alpha^5 = \beta^5 =$ [1点], $\alpha^4\beta = \alpha\beta^4 =$ [2点], $\alpha^3\beta^2 = \alpha^2\beta^3 =$ [4点] (6次以上の項は消える)

・特定の2次曲線$C_i$に接する滑らかな2次曲線とその双対の組の集合$X$における閉包([3-2]で描写)を$Z_i$とおくと、
 それに対応する類は$2\alpha+2\beta$である。([3-4])

・交叉 $\cap_{i=1..5} Z_i$ が求める答えであり、それは $(2\alpha+2\beta)^5$ に上記の積公式を適用して計算できる:
$32 * (\alpha^5 + 5\alpha^4\beta + 10\alpha^3\beta^2 + 10\alpha^2\beta^3 + 5\alpha\beta^4 +\beta^5)$
$= 32 \cdot (1 + 5\cdot 2 + 10\cdot 4 + 10\cdot 4 + 5\cdot 2 + 1)$ [点]
$= 32 \cdot 102$ [点]
$= 3264$ [点]

以下では、これらの事実についてもう少し詳しく説明する(証明を与えてはいない)


[3-1] $X$の元$(C,C^*)$は、次の4種類のどれかの形をしている。

(a) $U$の元、すなわち滑らかな2次曲線とその双対の組$(C,C^*)$
(b) 異なる2直線$L_1 \cup L_2$と、その交点の双対$p^*$を二重にしたものの組$(L_1 \cup L_2,2p^*)$
(c) 2重直線 $2L$ と、異なる2点$p_1,p_2 \in L$の双対の組 $(2L, p_1^* \cup p_2^*)$
(d) 2重直線 $2L$ と、1点$p \in L$の双対を二重にしたものの組 $(2L,2p^*)$
ここで(b)と(c)は双対の関係である。

第1成分で分類すると、略式には、$X$は、次の集合と自然な全単射がある:
{滑らかな2次曲線}∪{異なる2直線}∪{2重直線とその上の(異なるとは限らない)2点を指定したもの}
$\mathbb{P}^5$のうち[2-2]で描写した2次元多様体Sに相当するものを「膨らませた」形と言える。(ブローアップと関係)
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▼[例3-1] 差集合$X-U$の元の、極限としての観察▼

直積位相の視点から、略式に、
$t \neq 0$では滑らか2次曲線の族$A(t)$が、$t=0$では滑らかでない2次曲線になるときの
$(\lim_{t\to 0}A(t), \lim_{t\to 0}A(t)^*) \in \mathbb{P}^5 \times \mathbb{P}^{5*}$ が$X-U$に属することになる。

[例] 異なる2直線に近づく滑らかな双曲線の族$y^2-x^2=t$、正確には$X^2-Y^2+tZ^2=0$を考える。
双対曲線は、$\{[S:T:U] \in \mathbb{P}^{2*}; tS^2-tT^2+U^2=0\}$ となる。$t\to 0$では二重直線$U^2=0$となる。
この二重直線の双対な点[X:Y:Z]は、双曲線の漸近線の交点となっている。

[例] 二重$x$軸に近づく滑らかな楕円の族$y^2=t(x^2-1)$、正確には$tX^2-Y^2-tZ^2=0$の場合、
双対曲線は、$\{[S:T:U] \in \mathbb{P}^{2*}; S^2-tT^2-U^2=0\}$ となる。$t\to 0$では二直線$(S+U)(S-U)=0$となる。

[例] 二重$x$軸に近づく別の滑らかな楕円の族$y^2=t(x^2-t)$ の場合、正確には$tX^2-Y^2-t^2Z^2=0$の場合、
双対曲線は、$\{[S:T:U] \in \mathbb{P}^{2*}; tS^2-t^2T^2-U^2=0\}$ となる。$t\to 0$では二重直線$U^2=0$となる。

・このように2次曲線の族$A(t),B(t)$があるときに
$\lim_{t\to 0}A(t) = \lim_{t\to 0}B(t)$ であっても、それが二重直線のときには
$\lim_{t\to 0}A(t)^* = \lim_{t\to 0}B(t)^*$ とは限らない。

より詳しくは、$\lim_{t\to 0}A(t)$ が特定の二重直線$2L$になるとき、
$\lim_{t\to 0}A(t)^*$ の取り得るものは、2点$p_1,p_2 \in L$を選ぶだけの自由度がある:

一方で、$\lim_{t\to 0}A(t)$ が滑らかな直線や異なる2直線になるときは、
$\lim_{t\to 0}A(t)^*$ の取り得るものは、1つしかない。▲▲

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[3-2] 特定の2次曲線$C_i$に接する滑らかな2次曲線の集合を$U_i$とする。
開集合$\{(C,C^*) \in \mathbb{P}^5 \times \mathbb{P}^{5*}; C \in U_i\}$の$X$における閉包$Z_i$を描写する。
$(C,C^*) \in Z_i$ となる条件は、[3-1]の4つの場合それぞれに対して次のように記述される:
(a) $C$が滑らかな2次曲線の場合は、$C$と$C_i$が通常の意味で接することが条件である
(b) $C=L_1\cup L_2, C^*=2p^*$ の場合、$L_1$または$L_2$が$C_i$に接するか、$p \in C_i$であることが条件である。
(c) $C=2L, C^*=p_1^*\cup p_2^*$ の場合、$L$が$C_i$に接するか、$p_1 \in C_i$または$p_2 \in C_i$であることが条件である
(d) $(C,C^*)=(2L,2p^*)$ の場合は、$L$が$C_i$に接するか、$p \in C$であることが条件となる。

略式記述では、$Z_i$は、
{$C_i$と接する滑らかな2次曲線}
∪{$C_i$上の点に交点を持つ、異なる2直線}
∪{少なくとも片方が$C_i$と接する、異なる2直線}
∪{2重直線とその上の(異なるとは限らない)2点を指定したもので、少なくとも1点が$C_i$上にあるもの}
∪{$C_i$と接する2重直線とその上の任意の2点を指定したもの}
ということになる。

そうすると一般な5つの2次曲線に対しては、交叉 $\cap_{i=1..5} Z_i$ には(a)の{$C_i$と接する滑らかな2次曲線} の形しか存在しないことが確認できる。なぜなら:

・例えば(b)の形の元$(2L,p_1^*\cup p_2^*)$がすべての$Z_i$に属するとすると、
いくつかの$C_i$たちに対して、直線Lがすべて接線となり、残りの$C_i$たちに対して、$p_1$または$p_2$が$C_i$上にある必要がある。
しかし$C_i$たちが一般の位置にあれば、
・3つの$C_i$が1点で交わることはなく、
・双対を考えれば3つの$C_i$に接する直線は無く、
・また2つの$C_i$に接する接線が、「たまたま」別の2つの$C_i$の交点を通ることもない
ことにより、上記を満たすことは不可能であることが分かる。

こうして、一般な5つの2次曲線に対しては、答えとなる3264点はすべて滑らかな2次曲線に対応する。
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[3-3] 積構造

$\mathbb{P}^5$の超平面に由来する類$\alpha$と、$\mathbb{P}^{5*}$の超平面に由来する類$\beta$を考える。
$\alpha$は特定の点$p'$に対する集合 ${(C,C^*);p' \in C}$で、
$\beta$は特定の直線$L'$に対する集合 ${(C,C^*);L'^* \in C^*}$である。

$\beta$を$C$に関する条件の言葉で書くと、
(a) $C$が滑らかな2次曲線の場合、$C$と$L'$が通常の意味で接すること
(b) $C=L_1\cup L_2, C^*=2p^*$ の場合、$L'$が$L_1$と$L_2$の交点を通ること
(c) $C=2L, C^*=p_1^*\cup p_2^*$の場合、$p_1 \in L'$または$p_2 \in L'$であること
(d) $(C,C^*)=(2L,2p^*)$ の場合、$p \in L'$であること
が条件となる。
これは、$C$が二重直線のときには[2-1]の重解の意味で$L'$が$C$に接する条件よりも厳しくなっている。
それ以外の時には、[2-1]の重解の意味で$L'$が$C$に接することと一致する。

$C$が二重直線の形の元を持たない範囲では、$X$は成分$C$によって一意的に決定されるから、
この範囲において、Xの交叉理論の結果と、$\mathbb{P}^5$の交叉理論を使った[2-1]の方法は同じ結果となる。

一般の3点に対して、それらをすべて通る直線はないから、一般な$\alpha^3$は$C$が二重直線の形の元を持たない。
従って、$\alpha^3$を含むような交叉については、$\mathbb{P}^5$の交叉理論を使った方法で計算しても正しい。
(例えば、特定の3点を通り、2つの2次曲線に接するような2次曲線は、一般には$6^2=36$個で正しい。)

[2-1]で、特定の2次曲線に接する2次曲線の集合の次数を6と計算した。
同様の方法等で、特定の直線L'に(重解の意味で)接する2次曲線の集合の次数は2と計算される。
Cが二重曲線の形の元を持たない範囲では、これは$\beta$と一致するのであった。
これらの考察から、$\mathbb{P}^5$の交叉理論を使って$\alpha^4\beta=$[2点], $\alpha^3\beta^2=$[4点] という結果を得る。

$\alpha$が2次以下の単項式は、代わりに$\beta$が3次以上になるので、双対を考えれば良い。その結果が:
$\alpha^5 = \beta^5 =$ [1点]
$\alpha^4\beta = \alpha\beta^4 =$ [2点]
$\alpha^3\beta^2 = \alpha^2\beta^3 =$ [4点]
である。
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[3-4] $X$における2次曲線$C_i$に接する2次曲線の類$[Z_i]$が$2\alpha+2\beta$であること

[寄り道1-2]でも使った未定係数法を使って求められる。$[Z_i] = s\alpha+t\beta$ とおく。
・交叉 $[Z_i]\cdot\alpha^4 = s+2t$ [点] を考える。これは4点を通り$C_i$に接する2次曲線の類である。
[3-3]の指摘により、$\alpha^3$以上の交叉では[2-1]の計算が正しいので、この交叉は6点である。
・次に双対の性質を使う:
2つの滑らかな2次曲線$C_i$と$C$(従って$C_i^*$と$C^*$も滑らかな2次曲線となる)に対して、
$C_i$と$C$が接することと、$C_i^*$と$C^*$が接することは同値である。
($C$と$C_i$の接線をL,接点をpとすると、直線$p^*$は点$L^*$において$C^*$と$C_i^*$に接する)
従って、$[Z_i]\cdot\beta^4$は、双対空間において上記と同様の状況となるから、同様に$t+2s=6$を得る。

これらから$s=t=2$を得る。
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▼<[寄り道] 小行列式による$X$の描写▼
2次曲線 $ax^2+2bxy+cy^2+2dxz+2eyz+fz^2=0$ に対して、
行列$m = \begin{pmatrix} a& b& d\\ b& c& e\\ d& e& f \end{pmatrix}$ を対応させる。
この行列の階数が3のときに滑らかな2次曲線
この行列の階数が2のときに異なる2直線
この行列の階数が1のときに二重曲線
となる。

双対曲線$AX^2+2BXY+CY^2+2DXZ+2EYZ+FZ^2=0$ に対しても同様に、
行列$M = \begin{pmatrix} A& B& D\\ B& C& E \\ D& E& F \end{pmatrix}$ を対応させる。
$X$は、これらの行列の積が単位行列に相当することを示す以下の8個の方程式で切り取られる。
$aA+bB+dC = bB+cC+eE = dD+eE+fF$,
$aB+bC+dE = 0,aD+bE+dF = 0,bD+cE+eF = 0$,
$bA+cB+eC = 0,dA+eB+fC = 0,dB+eC+fE = 0$

余次元5のものを切り取るのに8個の方程式があるのが、[寄り道1-1]の状況である。
5個の方程式だけでは、余計な成分もついてきてしまうのである。

[3-1]に描写した(a)(b)(c)(d)の関係については:
行列$m$のすべての$2 \times 2$小行列式が0である条件が、(b)∪(d)に相当する4次元閉部分多様体を切り取る。
行列$M$のすべての$2 \times 2$小行列式が0である条件が、(c)∪(d)に相当する4次元閉部分多様体を切り取る。
それらの交わりが、(d)に相当する3次元閉部分多様体となる。
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雑談(1年以内ぐらいに知ったことで、もっと早く知りたかったこと)

・Acrobat Readerでは同じpdfファイルを複数ウィンドウで開けないが、
ブラウザにドラッグドロップとかしてブラウザで開くことで複数ウィンドウを並べられる。
例えば本文と練習問題を同時に見たいようなときに役に立つ。

・Acrobat Readerで開いたほうではAlt+左右のカーソルキ―で「戻る」「進む」の機能がある。
例えばファイル内リンクを飛んだ後にAlt+左カーソルキ―で戻ることができる。

・今まで長い間、プレーンテキストで数学ノートを書いてきたが、ついにMathjaxを始めた。
私がHTMLで数学などを書き始めた2009年頃にはMathjaxがまだ普及していなく、良い方法が見つからなかった。
最近Mathlogというサービスが出たのをきっかけに調べてみると、Mathjaxを使うのは意外と簡単だった。
(ドルマークを入れたりTeXコマンドの入力にある程度の手間がかかるのは確かではあるけれど)
(プレーンテキストの時はpreタグを使って改行タグをさぼる手抜きをしていたがそれは使えなくなる)
使い方参考:https://oku.edu.mie-u.ac.jp/~okumura/javascript/mathjax.html
(Mathjaxの最初のバージョンのリリースは2010年だったらしい。)

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