9章メモ 射影束

$\mathbb{P}^3$の平面的2次曲線のうち、一般の位置にある8本の直線と交わるものの個数

・ベクトル束の射影化(相対的Proj構成とも呼ばれる)という概念は、実際ややこしい。
通常の$k$上のベクトル空間$V=k^n$の射影化$\mathbb{P}^{n-1}$は、「ベクトル空間の双対の対称代数を次数付き環とみたProj構成」と解釈される。
この視点で$\mathbb{P}^{n-1}$における直線束${\cal O}_{\mathbb{P}^{n-1}}(1)$の大域切断は、$V^*$の元、$V$上の1次形式と解釈できる。
(この構成自体が既にややこしい。)
$X$上のベクトル束$\cal E$に対しても、$U_i$上の切断がベクトル空間となるアフィンたち$U_i$で被覆し、
それぞれの$U_i$で上記の構成をし、それらを張り合わせることができるのである。

$\cal E$がr階のベクトル束の時、$\mathbb{P}\cal E$を適当に$U_i$に制限した部分は、$U_i\times\mathbb{P}^{r-1}$の構造をしている。
直線束${\cal O}_{\mathbb{P}{\cal E}}(1)$の大域切断は、${\cal E^*}$の大域切断、${\cal E}$上の1次形式的なものと解釈できる。
$p\in X$の上にある$\mathbb{P}\cal E$の「閉点」は「r次元ベクトル空間${\cal E}_p$の余次元1の部分ベクトル空間」と同一視できる。

私が初めて相対的Proj構成をある程度実感できた例はbl.html の[4]のヒルツェブルフ曲面であった。

$\mathbb{P}^3$の平面の集合$\mathbb{P}^{3*}$上の束として考える。
平面の数が3次元あって、それぞれの平面上に2次曲線の数が5次元あるから、8次元パラメータ空間$Q$となる。

$\mathbb{P}^{3*}$上の平面上の1次形式をファイバーとする3階のベクトル束を$\cal S$として、${\cal E}={\rm Sym^2}({\cal S}^*)$を考えると、その射影化$\mathbb{P}\cal E$が目的の$Q$となる。
定理9.6によると、ベクトル束のチャーン類と射影束のChow環の構造の間に以下のような関係がある:
$\mathbb{P}^{3*}$の超平面類を$Q$に引き戻したものを$\omega$として、
$\mathbb{P}^{3*}$上の束${\cal E}^*$を$Q$に引き戻した$O_Q(1)$の1次チャーン類を$\zeta$とすると、
$Q$のChow群は$\zeta$と$\omega$で生成され、$\zeta^6+c_1({\cal E})\zeta^5+c_2({\cal E})\zeta^4+c_3({\cal E})\zeta^3=0$ を満たす。
(本来は${cal E}$の階数が6なので$c_4,c_5,c_6$まであるが、$\omega^4=0$で消えるので省略した。)
下記計算により係数が求まり、Chow環は、$\mathbb{Z}[\omega,\zeta]/(\omega^4,\zeta^6+4\omega\zeta^5+10\omega^2\zeta^4+20\omega^3\zeta^3)$である。

$0 \to {\cal E} \to {\cal O_{\mathbb{P}^{3*}}}^4 \to {\cal O_{\mathbb{P}^{3*}}}(1) \to 0$ があり、 $c({\cal O_{\mathbb{P}^{3*}}}(1)) = 1+\omega$ なので
ホイットニーの公式により、$c_1({\cal S}) = 1/(1+\omega) $, $c_1({\cal S^*}) = 1/(1-\omega) = 1+\omega+\omega^2+\omega^3 $,
ここで、chow5.htmlの練習問題5.33で計算した結果が使える。
$c({\cal V}) = 1 + 4c_1 + (5c_1^2+5c_2) + (2c_1^3+11c_1c_2+7c_3) = 1+4\omega + 10\omega^2+ 20\omega^3$
で上記に現れる係数を得る。(これは、本のように工夫すると$1/(1-\omega)^4$の展開でも得られる。)

$\mathbb{P}^{3*}$の超平面類とは、特定の点を通る平面に相当するので、
$\omega$は、特定の点を通る平面に含まれる2次曲線、という7次元部分空間の類と解釈できる。

一方$\zeta$をこのような具体的なサイクルとして解釈する方法を私はわかっていない。
ただ$Q$のうち、$\mathbb{P}^{3*}$の1点上のファイバー(つまり特定の平面上の2次曲線の集合)は$\mathbb{P}^5$の構造で、
$\zeta$をこのような$\mathbb{P}^5$に制限したものは、$\mathbb{P}^5$の超平面類になることはわかっている。
すなわち、$\zeta^5\omega^3 = 1$ [点] である。

$\zeta^6\omega^2 = -(4\omega\zeta^5+10\omega^2\zeta^4+20\omega^3\zeta^3)\omega^2 で \omega^4=0$ を使えば、$\zeta^6\omega^2 = -4$ [点]
同様に、$\zeta^7\omega = 6$ [点]、$\zeta^8=-4$ [点] であることが求められる・・・★

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特定の直線と交わる2次曲線の類を$\delta$とする。
$\delta$は余次元1の多様体の類なので、$\delta=a\omega+b\zeta$と書けるはずである。これを求めたい。

1次元集合の類として次を考える:
・特定の平面上の、(例えば4点を通る)1次元2次曲線族のサイクル$\gamma$
($\mathbb{P}^{*3}$の1点上のファイバー上の、$\mathbb{P}^5$の直線と解釈される。)
・特定の2次曲面と、特定の直線を含む平面との交わりがなす2次曲線族$\phi$

交叉を考察すると、$\omega\gamma=0, \omega\phi=1, \zeta\gamma=1, \zeta\phi=0$ らしい。
このうち$\zeta\phi=0$が難しくて、私はその理屈を追えていない。(9.7.2)
(この結果から、$\gamma = \omega^3\zeta^4, \phi = \omega^2\zeta^5 + 4\omega^3\zeta^4$ であることが分かる。)

さらに$\delta$との交叉を考察すると、$\delta\gamma=1, \delta\phi=2$ であることから、
未定係数法により、$\delta=\zeta+2\omega$であることが分かる。

$\delta^8$を展開して、
$\delta^8 = \zeta^8 + 16\zeta^7\omega + 112\zeta^6\omega^2 + 448\zeta^5\omega^3 + \omega$の4次以上となり、
★の結果を使えば、-4 + 16*6 + 112*(-4) + 448 = 92 と計算される。

この交叉が横断的であることが保証されれば、これが求める答えである。(省略)


練習9.56
2直線に退化する2次曲線の類をβとする。その類を求めよ。
これを利用して、P^3の7点を通る退化した2次曲線はいくつあるか求めよ。
別の方法でも計算し、答えが合っていることを確認せよ。

$\gamma$との交叉:特定の平面上の、$\mathbb{P}^5$の部分空間として、3次式で切り取られる
(2次形式としての係数がなす3次正方行列の行列式が0という条件式で書ける。)
$\phi$との交叉:特定の2次曲線と、特定の直線を含む平面族の交叉が特異になるような平面:2つ。
(例えば、$x^2+y^2+z^2+w^2=0$ と平面$z=kx$との交叉は、$k=\pm i$のとき退化する。)
そういうわけで、$\beta = 3\zeta+2\omega$であることが分かる。

$\beta \delta^7$ を計算すると、$3\zeta^8 + 44\zeta^7\omega + 280\zeta^6\omega^2 + 1008\zeta^5 \omega^3+\omega$の4次以上となり、
★の結果から、3*(-4) + 44*6 + 280*(-4) + 1008 = 140 という結果を得る。

別の計算方法には、P^3の4つの直線と交わる直線が2つ存在することを利用する。
P^3の7つの直線と交わる2直線は、そのうち4つを通る直線と、残りの3つを通る直線として構成される。
最初の4つを選ぶ方法が35通りあり、その4つを通る直線が2つずつあり、
それと残りの3つを通る直線が2つずつあるから、35*2*2 = 140 と計算される。一致!

練習9.57
$\mathbb{P}^3$の特定の点pを通る平面2次曲線の集合は6次元である。その類μを求めよ。

特定の点を通る平面に含まれる2次曲線で、特定の点を通るものだから、$\mu = \zeta \omega$ である。

練習9.58
上記を利用して、
・ある点を通り、6つの直線と交わる平面2次曲線
・2点を通り、4つの直線と交わる平面2次曲線
・3点を通り、2つの直線と交わる平面2次曲線

上記と同様に計算して、順に18, 4, 1 となった。最後は、平面上の5点を通る2次曲線として解釈できる。

2020/11/29

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