このノートでは代数曲線のコホモロジー周辺を自分の言葉で書きたいと思った。 内容は[vakil]満ちてくる海(http://searial.web.fc2.com/sea/index.html)の教材の一部である。 代数曲線のチェックコホモロジーをアフィンの被覆を使って具体的に計算するのを見る。 題材には、射影直線、楕円曲線、超楕円曲線を使った。いくつかの必要となる内容: ・射影スキームと次数付き環によるProj構成 ・直線束の定義 ・因子に付随する直線束という視点 は私が混乱しやすい所だと感じたので、自分の言葉で改めてまとめた。 [1] 具体例となる曲線 [2] P1上の局所自由層 [3] P1のチェックコホモロジーとオイラー標数(18章) [4] 楕円曲線の直線束のコホモロジー [5] 超楕円曲線の直線束のコホモロジー 代数曲線では、コホモロジーは0次と1次以外は消える。 オイラー標数はその差で定義され、これが直線束の次数と一定の関係を持つ。
[1] 具体例となる曲線 [1-a] アフィン直線A1 A = Spec k[x] このスキームにはa∈kに対する閉点(x-a)と生成点(0)がある。 [1-b] 射影直線P1 これは、U=Spec k[x]と V=Spec k[X] を Uの閉点(x)を除いた開集合U1=Spec k[x,1/x] と Vの閉点(X)を除いた開集合U2=Spec k[X,1/X] を x=1/Xの関係で貼り合わせたスキームと描写できる。 従って集合としてはアフィン直線に無限遠点に相当する閉点を付け加えたものである。 閉点の集合は、同じ比のときに同じ点とみなす射影座標[x:X]で表すこともできる。 射影性を前面に出した描写としてはk[x,y]を次数付き加群とみなしたときのProj構成(4.5)である: 一言では、fを斉次式としたときのS_f = Spec k[x,y,1/f]を貼り合わせるという構成である。 (f=yとしたものが先のUで、f=xとしたものが先のVに相当する。) [1-c] 楕円曲線(具体的にワイエルシュトラスの標準形でy2=x3-xを使う) Spec k[x,y]/(x3-x-y2)が楕円曲線というわけではない。その射影化(17.4.1)である。 k[x,y,z]/(x3-xz2-y2*z)を次数付き加群とみなしたときのProj構成であり、 初等的には(kが代数閉体なら)その閉点はx3-xz2-y2*zを満たす比[x:y:z]の集まりである。 (kが代数閉体でない場合は例えば(x-2,y2-6)のような素イデアルが現れる。) 後の計算目的にはアフィンで被覆する描写(4.4.9)をした方が良い。 先に射影平面P2の描写をする。アフィンXiの座標変数を、xj/iと名付ける。 (この添え字は煩雑であるが、実際混乱しにくくて良い。) U0 = Spec k[ x1/0,x2/0 ] U1 = Spec k[ x0/1,x2/1 ] U2 = Spec k[ x0/2,x1/2 ] そうすると例えばU0とU1の貼り合わせは x0/1=1/x1/0, x2/1=x2/0/x1/0 という風に形式的に行える。 あたかもxi,xjという別の変数があって、xj/i=xj/xiであるかのように考えている。 ところが実際先の描写のx,y,zがこのx0,x1,x2に相当する。すなわち: x3-xz2-y2*z あるいは x03-x0*x22-x12*x2 に対応する多項式は、 U0上では 1 - x2/02 - x1/02*x2/0 U1上では x0/13 - x0/1*x2/12 - x2/1 U2上では x0/23 - x0/22 - x1/22 だから、目的の楕円曲線は U0 = Spec k[ x1/0,x2/0 ] / (1 - x2/02 - x1/02*x2/0) などを先の変数変換に従って貼り合わせたものとして描写できる。 U2 が z≠0 な開アフィンで、y2=x3-xに相当する。 ところが実際にはU0はU1∪U2に包含されているのでU1とU2だけで十分である。 (1-z2-yyz上の点はyとzのどちらかが0でない。) (あるいは楕円曲線のz=0上の点が [x:y:z]=[0:1:0]のみなので、楕円曲線はy≠0またはz≠0だけで覆える。) [1-d] 超楕円曲線(19.5) y2=xN+1 (nは4以上の偶数), 特に y2=x6+1 (実際には、これは種数が(N-2)/2の代数曲線である。具体例のN=6では種数2である。) 同様に、Spec k[x,y]/(x6+1-y2)が超楕円曲線ではなく、その射影化を考える。 これは(以前勘違いしていたのだが)斉次化 k[x,y,z]/(x6+z6-y2*z4)をすれば良いわけではない。 (そうすると無限遠点[x:y:z]=[0:1:0]に特異点を持ってしまう。) y2=x6+1 と Y2=X6+1 を、x=1/Xの関係で貼り合わせると、特異点を持たない。 y2/x6=1+X6 なので、yとYはY=y/x3, y=Y/X3 の関係で変換されることになる。 これが射影的であることは、x座標をとる写像によって、P1への有限射があることで描写される。 具体的には、k[x,X,z]/(x6+X6-z2) を、z,x3,X3が斉次であると次数付けした環のProj構成、 略式には k[x,X,√(x6+X6)] のProj構成と言えると思う。
[2] P1上の局所自由層(13.1) 階数1の局所自由層(O_X加群の層)だけ考える。これに直線束や可逆層(同義)という言葉がついている。 ([vakil]ではこれらは良い用語ではなく、直線層という言葉が実体を表すのにふさわしいと書いているが同感である。) [vakil]では「これは代数幾何の話題のうち消化するのが最も難しいものの1つである。」と警告している。 アフィン直線では直線束は構造層しかないので良い例にならない。(構造層の大域切断は多項式環k[x]である。) 射影直線P1では、任意の整数nに対してO(m)と書かれる同型でない直線束がある。(m=0のときに構造層と同型になる。) P1は、U=Spec k[x]とV=Spec k[X]で貼り合わさるのだった。 直線束とは、P1上の加群の層Fで、F(U)がk[x]に同型で、F(V)がk[X]に同型になるような層である。 [2-a] 制限写像を使った地に足ついた視点 層の概念を思い出す。層を定めるには、定義から、制限写像を描写する必要がある。 直線束という要求から、F(U)は(k[x]加群としての)k[x]で、F(U∩V)はk[x,1/x]加群としてのk[x,1/x]である。 制限写像r:k[x]→k[x,1/x]を定める必要がある。 O_X加群の層の定義により(2.2.13)r(x)=x*r(1)が要求されるので、 1∈F(U)の行き先r(1)∈F(U∩V)を定めれば、F(U)のすべての元の行先が決まる。 同様に、F(V)からF(U∩V)への制限写像r':k[X]→k[x,1/x]も定める必要がある。 この場合は、構造層においてはXは1/xに移るから、r'(X)=(1/x)*r(1)と移ることになる。 r(1)とr'(1)の比が重要になる。(構造層ではr(1)=r'(1)となるが、O_X加群の層ではこれらが一致する必要はない。) r(1)=r'(Xm)としたものが、O(m)である。(このとき、r(xm)=r'(1)となる。) そういう構成で、 O(1)では ax+b∈F(U)が a+bX∈F(V)と貼り合わさり、 O(2)では ax2+bx+c∈F(U)が a+bX+cX2∈F(V)と貼り合わさるようなことになる。 O(-1)では、F(U)の元とF(V)の元で貼り合わさるものはない。 ・これで直線束をすべて描写できることはここでは示されていない。 例えばr(1)=r'(1)+1 のような場合は、構造層に同型になると思うが、 r(1)とr'(1)がもっと複雑な関係なときも、どれかのO(m)に同型になることは自明ではないと思う。 [2-b] 次数付き加群との対応 射影的なスキームではO(m)の大域切断はProj構成に使った次数付き環k[x,y]のm次部分として捉えることもできる。 O(1)ではax+byに対応する大域切断があり、これは、ax+b∈U, a+bX∈Vを貼り合わせた大域切断である。 つまり形式的には、Uではy=1、Vではx=1とおくことによって開集合上の切断に対応する。 O(-1)では大域切断(-1次の多項式)はない。 U上の切断はk[x]に同型なのでxやx2のような切断があるが、これはx/y2やx2/y3に由来するものと解釈すれば良い。 これはV上の切断、従って大域切断には延長できない。離散付値環の言葉を使うとそれぞれ2位,3位の極を持つ。 [2-c] ヴェイユ因子の視点(14.2) スキームが良い性質を持つときにはヴェイユ因子を使う視点が、良い方法となる。 これには、零点と極の言葉、離散付値環の言葉を使い、そのためには余次元1で正則と言う性質が必要になる。 1次元ネーター環では、正規であることや正則であることと同値で(12.5)、略式には特異点を持たなければ良い。 (今回挙げた例では満たされている。) ヴェイユ因子Dは余次元1の点の整数係数線形結合D=Σa*p (a∈Z, pは余次元1の点)で、 Dに対してそれに付随する直線束O(D)を考えることができる: D=2(x) に対応する直線束は、閉点(x)で2位までの極を持っても良い有理関数のなす層。 D=(x)-(x-1) に対応する直線束は、閉点(x)で1位までの極を持って良く、閉点(x-1)で1位以上の零点を持つ有理関数のなす層。 というように描写される。(それから0は常にDの大域切断であるとする。) ここで有理関数の定義は構造層の稠密な開集合上の切断(の同値類)で、P1の例では単にxの有理関数に相当する。 ・この視点で直線束の切断の零点と極を数えるときには注意が必要である。 D=2(x)に対するO(D)の1という大域切断は、(x)で2位の零点を持つ。 D=(x)-(x-1)に対するO(D)の1という(点(x-1)を除いた開集合を定義域とする)有理関数は、  (x)で1位の零点を持ち、(x-1)で1位の極を持つ。 こうしてヴェイユ因子から直線束を構成できるが、逆に、直線束Fからヴェイユ因子を得ることができる。 Fの有理切断s(稠密な開集合上の切断)を1つとって、それの零点と極の情報を取り出すのである。これをdiv(s)と書く。 このとき、D=div(s)に付随する直線束がFに同型になるというのが、難しいが重要な練習14.2.Eの主張であった。 ・例えばF=O(1)のとき[2-a]の視点でx+3∈F(U),3+X∈F(V)に相当する切断sをとるとsは(x+3)で1位の零点を持つ。 そこでD=(x+3)とおくと、O(D)は(x+3)で1位までの極を以って良い有理関数のなす直線層である。 FとO(D)の同型は、Fではa(x+3)+b∈F(U) と a+3aX+bX∈F(V) が貼り合わさるが、 これを、a+b/(x+3)∈O(D)(P1)に対応させることで描写できる。 ・因子D=Σa*p (a∈Z, pは余次元1の点)の次数はΣa*deg(p)で定まる。 D=2(x)ではdegD=2であり、D=(x)-(x-1)ではdegD=0である。 deg(p)は今回の例では気にしなくて良い。 (例えば環R[x,y]/(x2-y)の極大イデアル(x2+1,y+1)のような状況で必要になる。) ・直線束Fに対して後で次数が定義され、これはF=O(D)となる因子Dの次数と一致する。 Fの切断の(零点の個数)-(極の個数)は(適切に数えれば)切断によらず、それが次数である。 ・P1の場合は、m=degDとおくと、O(D)とO(m)が同型になり、従ってO(D)はdegDで決まる。 種数が1以上の曲線ではまた状況が変わる。O(D)はdegDだけでは決まらない。 実際、p≠qならばO(p)とO(q)は同型でない(19.4.2)。
[3] P1のチェックコホモロジーとオイラー標数(18章) Xを準コンパクトで分離的とする。これは: Xは有限個のアフィンU[1],U[2],..,U[n]で被覆されて(準コンパクト)、 それらの交わりもアフィンとなる(分離的)という条件である。(今回の例では満たされている。) Fを準連接層(13章)とする。(実際にはほとんど直線束で適用するので省略する。) これは、U=SpecAという開集合上ではF(U)がA加群となる チェック複体というのを考えるが、今回使うのはn=2の場合なのでそれだけ具体的に書くことにする。 0 → F(U)+F(V) → F(U∩V) → 0 真ん中の写像は、(f,f')∈F(U)+F(V), すなわちf∈F(U)とf'∈F'(U)に対して、 fのU∩Vへの制限から、f'のU∩Vへの制限を引いたものとして定義される。 この複体のコホモロジーをとったものがチェックコホモロジーであり、 このコホモロジーはアフィン被覆の取り方によらない(18.2.2)。 Xがk上のスキームのときにはHiはk-ベクトル空間になり、 Xが射影的でFが連接的(局所有限階数)なときには、有限次元になる(18.1.5)。Hiの次元をhiと書く。 n=2では、次のようになる。 H0(X,F) = ker [ F(U)+F(V) → F(U∩V) ] H1(X,F) = coker [ F(U)+F(V) → F(U∩V) ] H0、F(U)+F(V) → F(U∩V)の核とは、結局U∩Vで貼り合わさるF(U)の切断とF(V)の切断の組なので、大域切断のことである。 H1は、F(U∩V)上の切断で、Uに延長できるものと、Vに延長できるものの差で表せないもので生成される。 射影直線P1上の直線束O(m)のコホモロジーを定義に従って計算するのは良い経験になる。 O(m)の大域切断は、次数付き環k[x,y]のm次部分に対応するから、m≧0のときm+1次元のベクトル空間である。 (具体的には、O(1)ではax+b∈k[x]=O(U)と、a+bX∈k[X]∈O(V) と書かれるのであった。) すなわち、m≧0のとき、h0(P1,O(m))はm+1である。 m<0では大域切断は存在しないのでh0(P1,O(m))=0である。 次にH1を考える。自明でない例から観察する。 O(-2)では、H1(X,O(-2))は1/xで生成される1次元のk-ベクトル空間である。 これはk[x]=F(U)に延長しようとすると1/xなのでx=0に延長できないし、 k[X]=F(V)に延長しようとすると1/XなのでX=0に延長できない。 同様に、m≦-2のとき、O(m)では、H1(X,O(m))は1/x,..,1/x^(-m-1)で生成される。 これはk[X]=F(V)に延長しようとすると、1/X^(-m-1),..,1/Xになるものである。 一方、m≧-1のときは、1/xに対応するF(V)の切断X^(m+1)はk[X]に居るので、h1(P1,O(m))=0である。 まとめると、各O(m)に対する[h0,h1]の挙動は次のようになる: m=-3: [0,2] m=-2: [0,1] m=-1: [0,0] m=0: [1,0] m=1: [2,0] m=2: [3,0] ・射影平面P2でも同様にO(m)が定義できて、[h0,h1,h2]を計算すると次のような挙動になる。 m=-4: [0,0,3] m=-3: [0,0,1] m=-2: [0,0,0] m=-1: [0,0,0] m=0: [1,0,0] m=1: [3,0,0] m=2: [6,0,0] 要点を再掲する。 Xが準コンパクトで分離的のとき、Hiが定義された。 さらにXがk上射影的でFが連接的のとき、Hiはk上有限次元ベクトル空間となりhiが定義された。 このとき、オイラー標数χ(X,F)は、交代和Σ(-1)i*hi(X,F)で定義される。 χ(X,O(m))はmの多項式となることが示され、ヒルベルト多項式と呼ばれる。 ・Xが既約なときは常にh0(X,O)=1である。(構造層の大域切断は定数に限る。) ・Xが既約でも、h1(X,O)=0とは限らない。種数gの代数曲線ではh1(X,O)=gとなる。次に見る。
[4] 楕円曲線の直線束のコホモロジー P1と同様に、楕円曲線にもヴェイユ因子や、直線束が定義される。 直線束はテンソル積で群をなし、そのうち次数0の直線束は部分群をなす。 O(D1)とO(D2)のテンソル積は因子の和に付随する直線束O(D1+D2)に対応する。 --寄り道-- 楕円曲線では直線は曲線と3点で交わる。 直線の方程式g=(ax+by+cz)/zは、p,q,rで1位の零点を持ち、無限遠点oで3位の極を持つ。 そういうわけで、O(p+q+r-3o)は構造層Oと同型となる。 言い換えるとO(p-o)とO(q-o)のテンソル積はO(-r-o)に同型となる。 楕円曲線上の点Pと、直線束O(p-o)を対応させることで、 よく知られている楕円曲線上の点のなす群構造と対応する。 --ここまで-- [1-c]の例y2=x3-xを使って直線束のコホモロジーの計算例を見てみる。 U2: x1/22 = x0/23 - x0/2 U1: x2/1 = x0/13 - x0/1*x2/12 変換は x2/1=1/x1/2, x0/1=x0/2/x1/2 であった。 U2上の変数をy2=x3-x、U1上の変数をZ=X3-XZ2と書くことにする。 pを[x,y:z]=[1:0:1]に対応する点、oを[x:y:z]=[0:1:0]に対応する点とする。 つまりpはU2の閉点(x0/2-1, x1/2)、oはU1の閉点(x0/1,xx2/1)である。 ここではO, O(p-o), O(p)のコホモロジーを求める。 U2∩U1 は U2 から3点p,p',p"を除いたもので、U1からはoを除いたものである。 (p'は[x,y,z]=[0:0:1], p"は[x,y,z]=[-1:0:1] に相当する点とした。) [4-a] 構造層O 大域切断は定数関数のみであるから、h0(X,O)=1である。 H1を考察する。oではXは1位の零点、Zは3位の零点なので、 oを極に持つ有理関数は 1/Zi,X/Zi,XX/Zi (i≧1)で生成される。 (X3=Z+XZ2なのでXの次数を2次以下にできることを使った。) これらをU2の変数に変換した結果は、yi,xy^(i-1),x2*y^(i-2) となる。 このことから、生成元のうちXX/Z=xx/yだけが、U1にもU2にも延長できず、これがH1を生成し、h1(X,O)=1である。 [4-b] O(p-o)の場合 これは関数体のうち、pで1位までの極を持っても良く、oで1位以上の零点を持つ有理関数の層である。 H0を考察する。 U1上の切断は、XZi,X2*Zi,Z^(i+1) (i≧0)で生成される。 これらをU2の変数に変換した結果は、x/y^(i+1),x2/y^(i+2),1/y^(i+1) となる。 pではyは1位の零点、xは2位の零点であるから、このうちx/y,1/yが候補となる。 しかしこれらはp',p"で極を持つからそれを打ち消すのに分子にx2-1が必要となる。 しかしxx/yを使うにはoで極を持ってしまうので不可能である。 こうして、pで1位の極を持ち、oで1位の零点を持ち、他で正則な関数は存在しないので、この直線束には大域切断は存在しない。 H1を考察する。 oに延長できないU1の切断は、X/Zi,X2/Zi,Z/Zi (i≧1)で生成される。 これらをU2の変数に変換した結果は、x*y^(i-1),x2*y^(i-2),y^(i-1) となる。 このうち、X2/Z=x2/yはp'とp"で極を持つのでU1全体に延長できない。 しかしこれは、H1の元ではない。実は(x+1)(x-1)/y + 1/y = (XX-ZZ)/Z + Z がこれに一致する。 U2の切断(x+1)(x-1)/yと、U1の切断Zの和、従って差で表せている。なのでh1(X,O(p-o))=0である。 [4-c] O(p)の場合 先に比べてoで零点を持たなくても良くなった。定数関数が大域切断となる。 先の議論と同様の考察から、他にはないので、h0(X,O(p))=1である。 H1を考察する。 U1∩U2での切断は先と同じで、先の議論よりO(p-o)のU0の切断とU1切断の差で表せた。 O(p)のU0の切断とU1切断はそれを包含するので、h1(X,O(p))=0である。 まとめると、[h0,h1]は次のようになる: O : [1,1] O(p-o) : [0,0] O(p) : [1,0] h0,h1自体は、Dの次数だけでは決まらないが、オイラー標数χ(X,O(D))はDの次数で定まり、 さらに、deg(D) = χ(X,O(D))-χ(X,O) の関係がある。これがリーマンロッホと呼ばれる関係式である。 今回の種数1の場合は、χ(X,O)=0なので、deg(D) = χ(X,O(D))となる。 ・次数付き環 k[x,y,z]/(x3-xz2-y2*z) のi次部分のベクトル空間としての次元との関係 i=1: x,y,z ; 3 i=2: xy,yz,zx,xx,yy,zz ; 6 i=3: xxy,xxz,xyy,xyz,xzz,yyy,yyz,yzz,zzz ; 9 (xxx=xzz+yyzだから除いている) これは、k[x,y,z]/(x3-xz2-y2*z) → k[y,z] に対応するスキームの射X→P1によって、 P1上の直線束O(m)をX上の直線束に引き戻したものの大域切断と解釈できる。
[5] 超楕円曲線の直線束のコホモロジー Xを[1-d]で登場した超楕円曲線とする: y2=x6+1 と Y2=X6+1 を、x=1/X, Y=y/x3, y=Y/X3 の関係で貼り合わせたものであった。 まず、h1(X,O)=2を見る。H1(X,O)は、F(U∩V)上の切断のうち、y/xとy/x2で生成される。 x=0で極を持つからU全体に延長できないし、 F(V)への変換はそれぞれY/X2,Y/XとなるからX=0に延長できない。 (他の単項式はすべてF(U)またはF(V)に延長できることを確認すると良い。) そういうわけで、この曲線は種数が2で、χ(X,O)=1-2=-1であり、 リーマンロッホの関係式から、χ(X,O(D))=deg(D)-1 となる。 この曲線はProj k[x6,X6,x6+X6-y2]と解釈できることを既に書いた。 この次数付き環のi次部分のベクトル空間の次元を考察すると次のようになる。 i=1: x,X ; 2 i=2: xx,xX,XX ; 3 i=3: xxx,xxX,xXX,XXX,y ; 5 i=4: xxxx,xxxX,xxXX,xXXX,XXXX,xy,Xy ; 7 i=5: xxxxx,xxxxX,xxxXX,xxXXX,xXXXX,XXXXX,xxy,xXy,XXy ; 9 .. これは k[x6,X6,x6+X6-y2]→k[x,X]に対応するX→P1によるO(m)の引き戻しの大域切断と解釈できる。 X→P1は2次の写像(大まかに2点が1点に移る)だから、それぞれは次数2iの直線束である(18.4.F)。 i=1だけ大域切断、すなわちH0の次元が多項式的な挙動から外れているのは、 i≧2ではh1=0だがi=1ではh1=1となっていることが予想される。経験のため、これを観察してみる: ・P1上の因子D=(x)に付随する直線束をXに引き戻した直線束のH1を計算する。 これは、X上の因子D=(x,y-1)+(x,y+1)に対応する直線束O(D)である: 略式に、(x,y)=(0,±1)でそれぞれ1位の極を持つことが許された有理関数のなす層である。 構造層のh1(X,O)を考察したときのy/xとy/x2が今度も候補となる。 このうちy/xは(x,y)=(0,±1)で1位の極なのでこの層ではF(U)に延長されるが、y/x2は2位の極なので延長できない。 そういうわけで、H1(X,O(D))は、y/x2で生成される1次元のベクトル空間でありh1=1である。 この考察から、P1上の因子 D=n(x), n≧2 を引き戻した場合は確かにh1が消えることも分かる。 ・一般に十分に次数が高くなるとh1が消える仕組みには、セールの双対と呼ばれる定理があって、 標準因子と呼ばれる因子Kがあって、H0(D) と H1(K-D)が同型になる。 これにより次数が高くなるとh1が消えることは、次数が低くなるとh0が消えることに翻訳されるが、 これはdegDが負ならば大域切断は存在しないことで説明される。 gを種数とするとKの次数は2g-2である事実があるから、degD>2g-2ならばh1=0となることになる。 ・微分のなす直線束(21章)がこの標準因子となるという事実があるがこれは最後の30章で扱われていて難しそう。 ・このチェックコホモロジーが、複素多様体の微分で定義されるドラムコホモロジーと同じなのも不思議・・
14:38 2020/06/13
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