円分多項式の既約性


2023/2/13 追記
スキームの言葉での証明に出会った:
https://jkoizumi233.files.wordpress.com/2023/02/cyclotomic.pdf
X = X_n = Spec Z[1/n][T]/Φ(T)の連結成分という言葉で記述している。

技術的な詳細は私の知識を超えているが、おおまかに、
「Xの幾何的点は(Z/nZ)^*の元によってラベル付けることができて、
1 mod n と p mod n でラベル付けられた2点は(p)上で連結している、
従ってその2点はX上でも連結している。
nと素な任意のpでこの議論が成立するので全ての幾何的点は連結している」
というイメージを持った。

ただ、Xのラベル付けは、X@Z_pとかX@Q_pとかには直接引き継げる(?)けど
X@F_p上に引き継ぐには例えばX@Z_pを経由する(?)ことになり議論が簡単でない(?)ので
そのようなラベル付けの引き継ぎを回避した議論をしている印象を持った。
n=15, p=17,29によるイメージ図を書いてみた:

ところで下記本文は書いたときは良いものを書いた気でいたが、(例によって)読み返すと全然いまいちだ・・


このノートは好きな証明 Advent Calendar 2018への参加であり、
テーマは「円分多項式Φ(X)は有理数係数で既約である。」の証明である。

最初に円分多項式の説明を簡単にする。
よく知っている人はこの段落と次の段落を飛ばして良い。
円分多項式とは、x^n-1の因数分解に現れる「最新の」多項式である、と言える。
「最新の」とは例えば
x^15-1 = (x-1)(x^2+x+1)(x^4+x^3+x^2+x+1)(x^8-x^7+x^5-x^4+x^3-x+1)
と分解されることについて
(x-1)は n=1 の「成分」であり、
(x^2+x+1) は n=3 に現れる成分であり [x^3-1=(x-1)(x^2+x+1)]
(x^4+x^3+x^2+x+1) は n=5 に現れる成分である。
このようにして、x^n-1は、nの約数に対応する円分多項式を因子に持ち、
それらで割った後に残った因子(x^8-x^7+x^5-x^4+x^3-x+1)が新しい円分多項式となる。
なので上記の因数分解はこのようにして逐次的に得ることができるのであるが、
そうやって残った因子(x^8-x^7+x^5-x^4+x^3-x+1)が実は既約であるかどうかはすぐには分からない。

解の視点。
1の原始15乗根をζとおく。
x^15-1 = (x-1)(x-ζ)(x-ζ^2)(x-ζ^3)*....*(x-ζ^14)と分解されている。
このうち1の原始3乗根の因子 (x-ζ^5)(x-ζ^10)が (x^2+x+1) に対応し
1の原始5乗根の因子 (x-ζ^3)(x-ζ^6)(x-ζ^9)(x-ζ^12)が (x^4+x^3+x^2+x+1) に対応する。
だから、円分多項式とは、指数がnと互いに素な剰余類に対応する因子を集めたものである。
(x^8-x^7+x^5-x^4+x^3-x+1) = Π(x-ζ^t) [t=1,2,4,7,8,11,13,14]

なので円分多項式の既約性は、次の形で証明することができる:
「A(X)を1の原始n乗根ζを零点に持つ、有理数係数最小多項式とする。
nと互いに素なkについて、X=ζ^kも、A(X)の零点となる。」

さらにkを素数に限ることができる。(2)と(4)ではこの形で証明する。
「A(X)を1の原始n乗根ζの有理数係数最小多項式とする。
nと互いに素な素数pについて、X=ζ^pも、A(X)=0を満たす。」

なぜ素数に限って良いかについては、2つの説明が可能である。
1つの説明は「nで割ってk余る素数が存在する」という事実に頼る説明である。
もう1つは、kを素因数分解する方法である。これは(5)で紹介した立命館大学のpdfに書いてあった。
(例えばX=ζ,p=2で命題を適用し、X=ζ^2,p=3で命題を適用すればk=6の場合を得られる)

(0) 前書きと、雑談
(1) 重要な命題と、表記
(2) Dedekind の方法
(3) 考察
(4) 清書
(5) 他の方法の紹介


(0) 前書きと、雑談

円分多項式の既約性は、代数的整数論を展開するうえで、重要な命題である。
しかしその割に、なかなか簡単に証明できない。
そう思い2013年に質問を投稿し、「Dedekindの方法」に初めて出会った。
https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q11105632111
これは、有限体の言葉を使う背理法で、当時はあまり理解できなかった。

今でも検索すると見当たるのはだいたいこのDedekindの方法である。
今ではその理屈の理解は問題ないが、でもなんとなく、腑に落ちない。
よく整理して本質を見つけたいと思い、今回取り上げることにしたのである。

このノートでも、有限体の言葉が中心となる。従って、有限体F_p係数多項式の扱いについての慣れは必要である
(これについては、丁寧に説明できなかった。)
今回、(1)で説明するように大文字と小文字によって、どこが有限体の議論かを分かりやすく区別することを試みた。
これが、理解しやすさの助けになると期待している。

Dedekindの分かりにくさは、「背理法」が少なからず関わっていると思う。
背理法では、仮定が実際には正しくないので、途中結果が存在しないのである。

今回、できるだけ途中結果を残すような考察を試みた。
その結果、たぶん他では見かけない視点での証明を構成できたと思っている。

その証明自体は(4)で清書し、手頃な長さに収まった。
考察は(3)でn=15の具体例を使って「途中結果」を紹介しながら行った。

「大まかな精神」としては
・mod pで局所的に見た時の、円分多項式の分解の様子が、pをnで割った余りによって違う
・大域的な分解があったとしたら、すべての局所的な分解と整合する必要がある
・しかしそれは不可能である
というふうに捉えると良いと思う。

ここで、分解の様子とは、例えばn=15のとき、
Φ(X)=Π(X-ζ^t) [t=1,2,4,7,8,11,13,14] と記述した時の8個の因子がどのように分かれるか
という意味である。例えば(3)で実際に示すように、
p=7では{1,7,4,13}と{2,4,8,11}に分かれ、
p=2では{1,2,4,8}と{7,11,13,14}に分かれる。

[雑談]
数学における命題の証明と理解について
https://twitter.com/icqk3/status/990942240712216576
で紹介した文章がお気に入りである。(英語だけど)

命題が「なぜ」成り立つのかという気持ちは、証明を追うことで必ずしも解決しない。
その奥にある「物語」を知ることが、(可能なら)、一番である。

セクション2.2の例5:なぜ共役な解は一緒に現れるのか?
「我々はiと-iを区別できないから」
これは証明ではないが、価値のある「物語」ではあると思う。
上記の「大まかな精神」は、そういう効果を期待したものである。

しかし、こういう姿勢は、失敗することもある。
例えば「1の原始n乗根たちは、我々には区別できないから、最小多項式は共通だろう」という理屈は、正当化できない。
実際、F_p係数では円分多項式は既約とは限らず、最小多項式が共通でないことがある。
(例えばn=15,p=2の場合 (x^4+x^3+1)と(x^4+x+1)に分解する)


(1) 重要な命題と、表記

次の命題は欠かせない武器である。

[命題](★)(有限体のフロベニウス写像)
pを素数、F(X)を整数係数多項式とする。F(X^p)≡F(X)^p (mod p) が成り立つ。
(多項式に対するmod pは、両辺の差が p*(整数係数多項式) を意味する。)

[説明]
多項式 F(X)=(X^2+AX+B) を例にして説明する。
F(X)^p を展開すると、各項を7乗した項(X^(2p),A^pX^p,B^p)と、複数の項に由来する項(残り)に分けられる。
・A,Bが整数ならフェルマーの小定理の主張より、A^p≡A, B^p≡B (mod p)
・複数の項に由来する項は、多項定理から、係数がpの倍数になる。
という観察から、これが F(X^p)に合同になることが分かる。

[表記について]
・以下では、有理数体と有限体の議論を確実に区別し、行き来を確実に追うのが重要である。
そこで、有理数体の変数は大文字、有限体の変数は小文字を使うことで、区別しやすくした。
(ただしφは別の意味で使うため、ΦについてはどちらもΦで表記せざるを得なかった。)

有理数係数多項式F(X)があるとき、
係数を自然に有限体F_pの元とみなすことで、F_p係数の多項式を対応させることができる。
これを、以下ではF(X)の「mod p還元」と呼ぶことにして、
(出来る限り)同じアルファベットの小文字を使って表記することにする。

例えば、F(X)をmod p還元をf(x)とおくと、
F(X^p)≡F(X)^p (mod p) に対応する事実は、f(x^p)=f(x)^p である。(合同式ではなく等号となる)


(2) Dedekindの方法

Φ(X)=A(X)B(X)と分解されるとおく。
nと互いに素な素数pに対して、A(ζ)=0だがA(ζ^p)≠0だと仮定する

そうするとB(ζ^p)=0 が要求される。
B(X^p)はX=ζを根に持つから、B(X^p)=A(X)Q(X)とおける。

★より B(X^p)≡B(X)^p (mod p) が成り立つ。
ここまでの結果を有限体に還元する。

A(X),B(X),Q(x)のmod p還元をa(x),b(x),q(x)とおく。
F_p係数多項式として次が成り立つ:
Φ(x)=a(x)b(x), b(x)^p=a(x)q(x)

従ってa(x)とb(x)は共通因子を持ち、Φ(x) は重根を持つ
ところが、(x^n-1)はその導関数nx^(n-1)と共通解を持たないので重根を持たない。
(ここでpとnが互いに素であるという条件を使う。理屈については下記[補足]も参照)
従って(x^n-1)の因子であるΦ(x)も重根を持たないはずだから、矛盾である。
(従って仮定が間違っており、A(ζ)=0ならばA(ζ^p)=0である。)


[補足]
・F_p係数として多項式f(x)が重根を持つかどうかは、有理数係数のときと同様に、
f(x)とf'(x)が(F_p係数として)共通解を持つかどうかで判定することができる。
これは積の微分の公式を考えることで説明できる。

例えばf(x)=a(x)b(x)c(x)と既約な因子たちに分解されるとする
f'(x)=a'(x)b(x)c(x)+a(x)b'(x)c(x)+a(x)b(x)c'(x)となる。
設定より例えばa(x)は既約だから、a(x)とa'(x)は共通因子を持たない。
なのでもしa,b,cがすべて異なれば、f(x)とf'(x)は共通因子を持たない。
一方で、もしa,b,cに重複があれば、f(x)とf'(x)が共通因子を持つことも分かる。

これをf(x)=x^n-1 で適用すると、f'(x)=nx^(n-1)だから
pがnと互いに素であれば、共通因子を持たないことが分かる。

ちなみにpがnと互いに素でないときに実際重根を持つ様子を紹介しておく。
例えばn=15,p=3として、(x^15-1)は F_3係数多項式として実際次のように分解される:
x^15-1 = (x^5-1)^3 = (x-1)^3*(x^4+x^3+x^2+x+1)^3


(3) 考察

Φ(x)がmod p還元でどのように分解されるかは、pをnで割った余りで分類することができる。
例えば先に具体的な事実を紹介すると、
n=5の場合の(x^4+x^3+x^2+x+1)の分解については、
p≡1 (mod 5) のとき 4つの1次式に分解され
p≡4 (mod 5) のとき 2つの2次式に分解され
p≡2,3 (mod 5) のとき既約である。

このような視点での考察をすすめてみたい。
特に、n=15の場合を具体的に観察する。
1の原始15乗根の1つをζとおく。
Φ(X) = (X^8-X^7+X^5-X^4+X^3-X+1)
= (X-ζ)(X-ζ^2)(X-ζ^4)(X-ζ^7)(X-ζ^8)(X-ζ^11)(X-ζ^13)(X-ζ^14)

・まず、例えば、mod 7還元での分解の形を考える。
Φ(X)を中心に考える代わりに、F_7の拡大体を中心に考えると良い。
「F_7を何次拡大すれば、1の15乗根が存在するようになるのか」と考えるのである。
ここで、有限体の拡大体について馴染みがある必要がある。
私のノート「有限体と局所体」もあるが、分かりやすい自信はない。)

ともかく事実として、F_7のm次拡大体F_{7^m}は、7^m個の元を持ち、
そのうち0を除いた(7^m-1)個の元は、乗法に関して巡回群をなすという性質がある。
(巡回群ではないと仮定するとX^k≡1がk個より多くの解を持つkが存在し、
体においてはk次方程式の解は高々k個しかないことと矛盾する)
つまり、F_7のm次拡大体には、1の(7^m-1)乗根が存在する
なので、F_{7^m}が1の15乗根を持つ条件は、(7^m-1)が15の倍数であることである。
これを満たす最小のmは4である。
従って、Φ(x)はF_7係数多項式として、2つの4次式に分解されることが分かる。
実際
a_7(x)=(x^4+2x^3+4x^2+x+2)
b_7(x)=(x^4+4x^3+2x^2+x+4)
によってΦ(x)=a_7(x)b_7(x)と分解され、a_7(x),b_7(x)は(F_7係数で)既約である。
(こういう分解はwolframalphaではfactor(x^15-1) mod 7 とか入力すれば教えてくれる)

さらに、より詳しい分解の様子を考える。
a_7(x)の1つの零点をzとおいたとき、
Φ(x)の8個の零点は z^t [t∈{1,2,4,7,8,11,13,14}] と表され、
4個ずつ、 a_7(x)とb_7(x)の零点に分かれる。どう分かれるかを記述する方法がある。

(1)の命題★より、f(z)=0 ならば f(z^7)=0 である。

すなわちa_7(x)の根の1つをzとすると(zはz^15=1を満たすことに注意)、
a_7(z) = (x-z)(x-z^7)(x-z^49)(x-z^343) = (x-z)(x-z^7)(x-z^4)(x-z^13)
b_7(z) = (x-z^2)(x-z^14)(x-z^8)(x-z^11)
という分解の様子である。

別の素数での例を、みておく。p=2を使う。同じ議論によって、
(2^m-1)が15の倍数となる最小のmは4であり、
Φ(x)=a_2(x)b_2(x)=(x^4+x+1)(x^4+x^3+1)と分解され、
a_2(x) = (x-z)(x-z^2)(x-z^4)(x-z^8)
b_2(x) = (x-z^14)(x-z^13)(x-z^11)(x-z^7) という様子である


通常の有理数体の議論に移行する。

有理数係数多項式の言葉は、直接F_p係数多項式の言葉に翻訳される。
・すなわち、例えばΦ(x)=F(x)G(x)と有理数係数で因数分解されたとすると、
 両辺をmod p還元することで、Φ(x)=f(x)g(x)という関係を得る。
 (この論法は(2)で既に暗に使った。)
・もしmod p還元したΦ(x)が既約なpが存在するなら、有理数係数でΦ(X)も既約であることが言える。
 しかしこれはうまくいかないnがある。(実際例えばn=15ではそのようなpは存在しない。)
・しかし、mod p還元したΦ(x)の分解の形は、有理数係数でのΦ(X)の分解と関連付けることができる。
 例えば、Φ(X)も3次式の因数を持たないことは言える。
 (もしそうだとするとmod 7還元したΦ(x)も3次式の因数を持つが、
 これはΦ(x)は2つの既約な4次式に分解されるという事実と合わない)
・よって、有理数係数でΦ(X)が既約でないとしたら、分解の候補は、2つの既約な4次式である。

Φ(X)=A(X)B(X)と2つの既約な4次式に分解されたとする。
A(X),B(X)をmod 7還元すると、上記のa_7(X),b_7(X)の組に一致するはずである。
A(X)の零点の1つをζとすると例えば
A(X)=(X-ζ)(X-ζ^7)(X-ζ^4)(X-ζ^13) と分布しているかもしれないし、
A(X)=(X-ζ)(X-ζ^2)(X-ζ^4)(X-ζ^8) と分布しているかもしれない。
a_7(x) = (x-z)(x-z^7)(x-z^4)(x-z^13) という結果とうまく結び付けたい。
しかしζは整数ではないから、ζを含む式は直接はmod p還元できない

しかし間接的には mod p還元することができる:
A(X)=(X-ζ)(X-ζ^7)(X-ζ^4)(X-ζ^13) が成り立つならば2変数多項式として
A(X)=(X-Y)(X-Y^7)(X-Y^4)(X-Y^13)-A(Y)Q(X,Y) とおける。これをmod p還元すれば
a_7(x)=(x-y)(x-y^7)(x-y^4)(x-y^13)-a_7(y)q(x,y) を得る。
この考え方を、もっと整理した形で述べておく:

[結び付けの補題(と呼ぼう)]
既約多項式A(X)のmod 7還元をa_7(x)とする。
A(X)の零点の1つをζとすると、ζ^tもA(X)の零点だとする。
a_7(x)の零点の1つをzとする。このときz^tもa_7(x)の零点となる。

[説明](単にmod p還元するだけである)
仮定は、ある多項式Q(X)によって A(X^t)=A(X)Q(X) とおけることと同値である。
これを mod p 還元すれば、a_7(x^t)=a_7(x)q(x) を得る。これが結論と同値である。

[本題に戻る]
しかし、本当に欲しい内容は、結び付けの補題の逆である。
a_7(x)の零点の1つをzとすると、z^tもa_7(x)の零点であることが分かっているときに、
A(X)の零点の1つをζとしたときに、ζ^tもA(X)の零点だと言いたい。

直接的に考えると、A(X^7) ≡ A(X)Q(X) (mod 7) と書けることしか分からない。
この mod 7 の自由さが厄介な所で、
ここからは、A(X^7) = A(X)Q(X) と書けるかどうか、ここからは分からない。・・▲

Dedekindの方法は、これを打開する1つの方法であった。
( A(X^7) = A(X)Q(X) ではないと仮定すると、X=ζ^7はA(X)ではなくB(X)の零点であることになる。
そうすると、mod p還元した時に、a(x)とb(x)が共通因子を持つという重根の矛盾に至る。)

後で紹介するLandauの視点は、係数の大きさから矛盾を導く視点である。
あるいは、A(X^7) ≡ A(X)Q(X) (mod p) を満たすpが無限に存在することから、
A(X^7) = A(X)Q(X) が要求される、という議論の仕方も有り得るかもしれない。
案外いろいろな方法があるが、私は次の方法に至った。

[定員原理(と呼ぼう)]
Φ(X)=A(X)B(X)の1次式への分解の様子から、
ζ^tもA(X)の零点となるようなtはt=1を含めて(15を法として)4つ存在する。
従って結び付けの補題により、a_7(x)の零点zに対してz^tもa_7(x)の零点となるtが4つ存在する。
しかしa_7(x)は4次式なので、そのようなtは(15を法として)4つしか存在しない。
(※ここでa_7(x)は重根を持たないことを暗に利用している。)
(※追記;z^t=z^sならばt≡s (mod 15)のようなことを想定していてそんなに自明でないような・・)
従って、a_7(x)の零点zに対してz^tもa_7(x)の零点となる4つのtは、
ζ^tもA(X)の零点となるような4つのtと完全に一致することが従う。

こうして、先の「本当に欲しい内容」が得られた。これが得られれば後は簡単である。

a_7(x) = (x-z)(x-z^7)(x-z^4)(x-z^13) が分かっているから、
A(X)=(X-ζ)(X-ζ^7)(X-ζ^4)(X-ζ^13) が要求される。
ところが、mod 2還元では、
a_2(x) = (x-z)(x-z^2)(x-z^4)(x-z^8) であったから、今度は
A(X)=(X-ζ)(X-ζ^2)(X-ζ^4)(X-ζ^8) が要求される。
これらの両立は不可能である。


(4) 清書

Φ(X)=A(X)B(X)と分解され、
nと互いに素な素数pに対して、A(ζ)=0だがA(ζ^p)≠0だと仮定する。

A(X)のmod p還元をa(x)とする。a(x)の零点の1つをzとおく。[結び付けの補題]より、
A(ζ^t)=0 ならば a(z^t)=0 である。
ところがA(X)とa(x)の次数は等しく、それをdとすると
A(ζ^t)=0 となるtは(nを法として)ちょうどd個あり、
a(z^t)=0 となるtも(nを法として)ちょうどd個ある。
従ってそれらの集合は一致する [定員原理]

ここで、性質★より、a(z^p)=0 である。
よってA(ζ^p)=0 を得るが、これは最初の仮定と矛盾し、証明が完了する。

[補足]
Dedekindの方法で重根を持ちだす所は「トリック」のような印象を受けるが、
これは、pとnが互いに素でない場合を除外するために必須であった。
(pとnが互いに素であるという条件を使っているのはここだけであることに注意)
私の方法でも、[定員原理]の※で指摘した所に、「重根」の有無を利用している。

例えば、n=15,p=5で何が起こってしまうかを観察しておく。
Φ(x) の零点の1つをzとすると、x^n-1 = Π(x-z^t) [t=0,1,2,3,..,14] と分解され、
Φ(x) = Π(x-z^t) [t=1,2,4,7,8,11,13,14] となる。ここまでは正しい。
そのうち4つを集めた4次式をa(x)とする。
このとき、「a(z^t)=0 となるtは(15を法として)ちょうど4つある」が偽になる!

mod 5還元では Φ(x) = (x^2+x+1)^4 が成り立ち、従って、実はz^3=1となってしまう。
mod 5還元では、「原始15乗根」は存在しないのである。
(x^5-1=(x-1)^5なので、「5乗して1なら1」、同様に「15乗して1なら3乗して1」なのである。)
だから、{1,z,z^2,z^3,...,z^14}は集合としては3つの元しかない。
そういうわけで、pとnが互いに素ではない場合には、定員原理は使えない。


(5) 他の方法の紹介

今回改めて(英語で)検索してみたところ、複数の証明方法を紹介している資料に出会った。
https://www.lehigh.edu/~shw2/c-poly/several_proofs.pdf
nが素数とは限らない時については、Dedekindの方法も含め、3つの方法が紹介されている。
残りはLandauの方法とSchurの方法であり、どちらも巧妙で、比較的手短かな方法だった。
どの方法でも、(1)の[命題]★と、nで割ってd余る素数pの存在を使うのは、共通しているように見えた。
また、nが素数の時についても様々な方法が紹介されていた。

ちなみに日本語で検索して見つかったものをいくつかみると
龍孫江の数学日誌「§2.9 1 のべき根,巡回拡大体 (その2)」
よしいずの雑記帳「円分多項式の既約性」
立命館大学の高山先生の資料「環・体論 II - GALOIS 理論」(命題101)
 Dedekindの方法。3つ目はかなり丁寧な資料である。
日本歯科大学紀要. 一般教育系「円周等分多項式の有理数体上での既約性」
 Landauの方法
Hyper Trinity(管理人:長谷川活己)「円分多項式の既約性の証明」
 流れを追いにくいが、たぶんおおまかにはLandauの方法

他に見当たったものとしては
英語Q&Aサイトの質問
で詳細は書かれていないが、nが素数の場合を利用する方針もあり得ることが紹介されている。
「n,mが互いに素とする。
1の原始m乗根を展開した体K=Q(ζ_m)について、
n次円分多項式Φ_n(x)は、K係数多項式として既約である」を示すという方針。
(素数の冪の場合をさらに別扱いする必要があると思う。)


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