虚二次体の類体論と楕円曲線の等分点
多項式の素因数集合の最後[9]で、Q(i)上の場合を触れた。
このようにこの現象には虚二次体バージョンがあって、
楕円関数、虚数乗法の片鱗の最後に少し(自信なく)紹介したように、
楕円曲線の虚数乗法と結び付けられる。これがだんだんわかってきた。
つまりテーマは【虚二次体の類体論と(虚数乗法を持つ)楕円曲線の等分点】である。
平易な言葉で書くことはしていない。仕方ない。
具体的な計算にはコンピュータが不可欠である。
楕円曲線の加法演算、n等分点の定義は説明しない。
楕円曲線の点(x,y)と、複素トーラスC/Λの点zが対応する関係も説明しない。
「標準形」という言葉は私の造語であるが、現象を記述するのに便利だと思っている。
(これは楕円曲線ごとに定まるものである)
<1><2><3>で現象の描写をする。
<4>では、前回のノート「類体論で説明する虚二次体での平方剰余」
で描写したアルティン写像を、楕円曲線の等分点に結びつけて記述する。
この記述はここでは天下り的に与えられるが、根拠は形式群にあるようで<9>で少し触れる。
<5><6>はここ1か月ぐらいで、なるほどそういうことだったのか、とかなり理解が進んだ現象である。
<7>以降は雑多な内容を行き当たりばったりに書いたものである。
Qのガロア群の表現という視点から、レフシェッツの跡公式を紹介する。
<8>はまた円分体の場合を参考に局所の場合を考察し、レフシェッツの公式と合致することを観察できた。
<9>は本当は局所ゼータを考察する入口のつもりで考察し始めたのだけど、それには至らなかった。
楕円曲線の演算と、形式群、類体論のつながりがここにあるらしいので、それ自体重要ではあると思う。
ほか、保型形式との関係(志村の相互法則的なもの?)はまだ触れられなかった。
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<1> 簡単な導入(「Qの場合」の振り返り)
<2> 本題の全体像:Q(√-1)の場合
<3> もう1つの例:Q(√-7)の場合
<4> アルティン写像の視点
<5> isogenyによる違い:Q(√-7)の場合
<6> Q(√-1),Q(√-2),Q(√-3)の場合
<7> Q上のフロベニウス・有限体での様子
<8> 局所での様子
<9> 形式群(軽い紹介)
<1> 導入
x^2+1 の素因数集合は2と4N+1型素数全体に一致する
x^4+x^3+2x^2-4x+3 の素因数集合は13と13N+1,3,9型素数に一致する
このような現象がすべてのきっかけだった
これは、多項式の根による拡大をL/Qとすると、
L/Qがアーベル拡大で、
そのとき、完全分解する素数が合同条件で書ける
という現象を反映している。
親玉になるものは、円分多項式である。
n次円分多項式で生成される拡大、つまりn次円分体をLとすると、
素数pがL/Qで完全分解する ⇔ p≡1 (mod n) が成り立つ
これは式にすると単純だが、すごい事実だと思っている。
L/Qのガロア群は mod n の乗法群(Z/nZ)*と同型で、
その部分群Hに対応する中間体Mをとれば、(例えばn=13, H={1,3,9})
M/Qで完全分解する素数の集合は「p mod n∈M」となる。
素イデアルの完全分解と、多項式の素因数が結びつく理屈は、
正確にはnitori_gensokyoさんの議論による:
あるnに対してf(n)≡0 (mod p) ⇔ pがL/Kで完全分解する (適当に補完する必要あり)
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<2> 本題の全体像:K=Q(√-1)の場合
虚二次体では、円分体の代わりに楕円曲線の等分点を使うと同様のことができる
(具体的には、対応する虚二次体の整数環を虚数乗法に持つような楕円曲線を使う)
ということが分かってきた。それを実行したいとずっと思っていた。
ただ、単数倍の違いの処理に、ややこしい事情があった。
Qの場合に「3N+1型素数」と言った時には、p=7は該当するが、p=-5は該当しなかった。
この無意識のうちに正の方を標準形とする操作は、虚二次体ではそのまま使えない。
これが、厄介な問題であった。
Q(i)のときには、多項式の素因数集合[9]で以下の記述をした:
> 4次剰余の相互法則の記述でprimaryという呼称で見かけた「標準形」を使うと解決した。
> a+bi, -b+ai, -a-bi, b-ai の中で、2+2iを法として1に合同なものが1つだけある。
より正確には、Q(i)の場合のうち、楕円曲線として E:y^2=x^3-x を使った場合には標準形はこうなる。
[上記リンク先で登場したレムニスケートに対応する(x^2+y^2)^2=(x^2-y^2)はこれにQ上有理同型]
他の楕円曲線を使った場合は標準形は別の定め方になる。<6>で触れる。
現象を述べる:
nを2と素な整数とする(有理整数でなくてもガウス整数でも良い。)
K=Q(i), E:y^2=x^3-x のn等分点で生成されるKの拡大を、Lとする。
ガウス素数pがL/Kで完全分解する ⇔ {p}≡1 (mod n) が成り立つ。
ここで標準形{p}は、上記で言及した、p=a+biとおいたときに以下で定められる
「a+bi, -b+ai, -a-bi, b-ai の中で、2+2iを法として1に合同なもの」
ところが、ガウス整数環を虚数乗法に持つ楕円曲線は、他にもある。
例えば、E':y^2=x^3+xは、EとQ(i)上同型でない。
そして、Eの3等分点が生成する拡大Lと、E'の3等分点が生成する拡大L'は、異なるのである。
なので、「標準形」という言葉は、楕円曲線の選択に依存する。楕円曲線E'の場合では
「a+bi, -b+ai, -a-bi, b-ai の中で、4を法として1か1+2iに合同なもの」が標準形となる。
この事実を実感するために具体的な式を紹介する。
Eの3等分点に対応する拡大は、多項式の素因数集合[9]で紹介した
sn(3u) = s* (s^8+6s^4-3) / (3s^8-6s^4-1) の因子である x^8+6x^4-3 による拡大である。
E'の3等分点に対応する拡大は、最近のyahoo質問で出会ったものである。
(Silverman, Advanced topics of in the arithmetic of elliptic curves のCMの章にあると教えられた)
LMFDBを使うと、この拡大はx^8-6x^4-3 による拡大と同じであることが分かった。
例えばガウス素数 p=6+5i (61の上にある) のEでの標準形は、-5+6iであり、E'での標準形は 5-6i である。
Eでの標準形のほうは「3N+1型」であるが、E'での標準形のほうは「3N+2」型である。
従って、pは、f(x)=x^8+6x^4-3 の素因数には現れる(実際f(13)が61で割り切れる)が、g(x)=x^8-6x^4-3の素因数には現れない。
ガウス整数環を虚数乗法に持つ楕円曲線はEとE'以外にもあり、無限にある。
この違いによって標準形がどのように変化するかについて、後回しにする。(<6>でまた登場する)
導入にはQ(√-1)のほうが身近だと思って使ったが、
Q(√-1)とQ(√-3)では他の虚二次体よりも余計な構造があって難しいから、Q(√-7)を先に考えるのである。
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<3> もう1つの例:K=Q(√-7)の場合
これを虚数乗法に持つ楕円曲線は、検索によりj=-3375であることが分かる
データベースで得た楕円曲線 E:y^2+xy = x^3-x^2-2x-1 を採用して話を進める
Eに対応する複素トーラスC/Λを生成する格子Λは
定数 W7 = 1.933311705616811546733076839.. を使って
C上にを基底として貼られる格子である。(これは使わない)
3等分点を計算する。
E = ellinit([1,-1,0,-2,-1])
z = [x,y]
ellmul(E,z,3)
F = denominator(%[1])
F=0が、3等分点の座標が満たす方程式である。
f = y^2+x*y - (x^3-x^2-2*x-1)
Fx = factor(polresultant(F,f,y))
Fy = factor(polresultant(F,f,x))
とかいうコマンドで、x,yそれぞれが満たす方程式を得ることができる
3*x^4 - 3*x^3 - 12*x^2 - 12*x - 1 = 0
27*y^8 + 27*y^7 - 378*y^6 + 441*y^5 - 126*y^4 + 441*y^3 - 378*y^2 + 174*y - 463 = 0
このy座標を定義する方程式が、Kの位数8のアーベル拡大を生成する。
この拡大体をL/Kとする。Q(√-7)の整数環をOとおく。
O/3Oの既約剰余類の乗法群(O/3O)*は位数8の巡回群であり、Gal(L/K)に同型で、
完全分解する素イデアルは、{p}≡1 (mod 3)という条件で書ける。
{p}はpの標準形であるが、その定義はまだ分からない。
結論から言うと:±pのうち、mod √-7で平方剰余になるほうとして定められる。
ところで、7等分点はきっと特殊な挙動をすることが予想される。
調べると、7等分点の定義方程式は、6次、21次、21次の3つの既約式に分解される:
(7倍点の処理は厳しいので、4倍点と-3倍点が一致するとおいて得ると良かった)
得られた多項式は:
[y^6 - y^5 + 8*y^4 - y^3 + 22*y^2 - 8*y + 8]
[y^21 - 21*y^20 - 630*y^19 - 6944*y^18 + 17640*y^17 - 525847*y^16 - 253365*y^15
- 137533*y^14 + 13336533*y^13 + 57126321*y^12 + 79573970*y^11 + 73657633*y^10 +
50334263*y^9 + 105737814*y^8 - 136336995*y^7 - 44242170*y^6 + 155256164*y^5 - 11
2174608*y^4 - 73600989*y^3 + 148223404*y^2 - 106903433*y + 36240359]
[y^21 + 28*y^20 - 1365*y^19 + 4767*y^18 + 140385*y^17 + 221599*y^16 - 1273153*y^
15 - 7082205*y^14 + 30928758*y^13 - 74447548*y^12 + 198667784*y^11 - 442626408*y
^10 + 651687792*y^9 - 612294368*y^8 + 692198125*y^7 - 550171237*y^6 + 304091018*
y^5 - 72505580*y^4 + 33515118*y^3 - 2292150*y^2 + 1072575*y + 41903]
6次式成分は「√-7等分点」に対応するものとして納得がいくが、
残りが2つの21次式成分に分解される所が、円分体と本質的に異なる現象である。
「円分多項式」に相当するものが既約でないのである!
現象としては
・2つの21次式に対応する7等分点は、図の紫と水色で塗り分けられるように分布する。
・点を (a+b√-7)*W/7 とおくと、(a+b√-7)がmod 7で平方剰余かどうかで色が分けられている。
・具体的には a≡1,2,4 (mod 7) な点が紫となる。(半整数ではa≡1/2,9/2,11/2 (mod 7)が該当する)
[既約剰余類(O/7O)*の構造は位数42の巡回群で、その位数21の部分群が紫に相当する状況である]
・2つの21次式は、同じ拡大L/Kを与える。
・L/Kで分解する素イデアルは、p≡±1 (mod 7) で特徴づけられる。(標準形の選択に依存しない)
・p≡紫 (mod 7) となるほうを、pの「標準形」として定めると、今までの話が合うことになる。
ところで、上記の6次式による拡大で分岐する素イデアルの条件はなんだろう。
{p}≡1 (mod √-7) では、p≡1 (mod √-7) と同値であり、全体の素イデアルの密度1/3になってしまう。
しばらく疑問だったが、答えは;
・6次式はQ上では既約だがK上では2つの3次式に分解される
・2つの3次式は、K上同じ拡大を与える
ということで辻褄があった。
・「今までの話が合う」を具体的に描写しておく。
上記の標準形を使うと、Q(√-7)の整数環で「3A+1型素数」と呼ぶ時には、
例えばp=4+3√-7は該当するが、p=-4-3√-7は該当しないというふうに約束される。
こう約束すると、3A+1型素数には例えば -5,-17,4+3√-7,-5+6√-3 等が該当する。
(「虚二次体の平方剰余の観察」
のd=-7で表を作った時の{q}という列にあるものが、これに相当する)
そうすると、目指していた記述を得る:
「3等分点を生成する多項式
F(y) = 27*y^8 + 27*y^7 - 378*y^6 + 441*y^5 - 126*y^4 + 441*y^3 - 378*y^2 + 174*y - 463
の素因数集合は、3A+1型素元に一致する」
例えば F(1+√-7) = -168697-65130√-7 = -(16-9√-7)(-1706+3111√-7)と分解される
( )の中身はmod √-7で平方剰余になるように符号を選んであり、実際3A+1型となっている。
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<4> アルティン写像とは、KのイデールA_K*から、絶対ガロア群への写像θである。
θの像の、特に3等分点が生成する拡大への作用を記述することにする。
(conductorと互いに素な等分点なら何でも同様であるが具体的なほうが書きやすかった)
イデールについては既知を期待して大雑把な説明だけしておくと、局所体の集まりであり、
A_K*の元とは、すべての素点pに対して成分a_p∈K_p (Kのp進完備化) を持ち、
有限個の成分を除いてa_pはK_pの整数環の可逆元O_p*に属するようなものである。
θは、それぞれの成分に対する局所アルティン写像θ_p(a_p)の積で書かれる。
標語的に、「uは分岐拡大に作用し、pは不分岐拡大に作用する」
p成分を、a_π = u*π^k と分解して書くのが有用である。
uは整数環の可逆元で、πは極大イデアルの生成元である。(選び方に任意性がある)
pがconductorと互いに素なとき(good reductionという状況に相当するのだと思う):
・θ_p(u)は、p冪等分点に対して、u^-1倍点に送る写像として作用する。
・θ_p(π)は、pと素な等分点に対して、フロベニウスとして作用する。
フロベニウスは、±π倍点のどちらかに送る写像であり、
全体の整合性を合わせる考察によって、πが「標準形」かどうかで符号が決まることが分かる。
pがconductorと互いに素でない時の作用は、全体の整合性を合わせる考察によって逆算できる。
(一部には全体的な調和性を期待するとこうあるべきだというような考察も含まれていて厳密でないが)
そうやって得た結果は下記の通りである:
3等分点が生成する拡大への作用は、以下の4種類が影響する:
[1] xの3成分(x_3)の単数成分 θ(u_3)
[2] xの√-7成分(x_√-7)の単数成分 θ(u_7)
[3] xの√-7成分(x_√-7)の素元成分 θ(π)
[4] 他の成分(x_q)の素元成分 θ(τ)
それぞれの作用は:
[1] u_3^-1倍写像
[2] u_7≡1,2,4 (mod √-7)なら恒等写像、そうでなければ-1倍写像
[3] π倍写像
[4] {τ}倍写像({τ}は<3>で描写したようなτの標準形)
全体の整合性を確認する。
・まずK*の対角埋め込みは、θの核にいるという性質を満たすこととして
すべての成分が-1なイデールは恒等写像に送られることを確認する。
これは、[1]と[2]が打ち消し合うことで実現する。
・πの選び方の任意性については、選び方を変えると[2]と[3]が打ち消し合って影響をなくす。
・τの選び方は、[4]の定義によって、影響をなくされる
ここで、conductorの役割は、[2]の部分である。
[2]の核が、「標準形」と呼んだものに相当する。
楕円曲線のisogenyを変えると、このいわば「特異点での様子」が変わると理解されるのである。
「特異点が全体の様子を支配する」という描写をみかけたことがあるがこの場合もまさにそうである。
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<5> そういうわけで、conductorが異なる、Q(√-7)の整数環を虚数乗法に持つ楕円曲線を観察しよう。
・まず conductor 1225 = 5^2*7^2 を持つ楕円曲線 E':y^2+xy+y=x^3-x^2-55x-178=0 を取り上げる:
http://www.lmfdb.org/EllipticCurve/Q/1225/c/4
3等分点が生成する拡大への作用は、以下が影響する:
[1] xの3成分(x_3)の単数成分 θ(u_3)
[2] xの√-7成分(x_√-7)の単数成分 θ(u_7)
[3] xの√-7成分(x_√-7)の素元成分 θ(π_7)
[2'] xの5成分(x_5)の単数成分 θ(u_5)
[3'] xの5成分(x_5)の素元成分 θ(π_5)
[4] 他の成分(x_q)の素元成分 θ(τ)
それぞれの作用は:
[1] u_3^-1倍写像
[2] u_7≡1,2,4 (mod √-7)なら恒等写像、そうでなければ-1倍写像
[3] π_7倍写像
[2'] u_5≡平方剰余 (mod 5)なら恒等写像、そうでなければ-1倍写像
[3'] π_5倍写像
[4] τが[新しい標準形]ならτ倍写像、そうでなければ-τ倍写像
mod 5では-1は平方剰余であるおかげで
すべての成分が-1なイデールは恒等写像に送られるという整合性が成り立っている。
[新しい標準形]は、すべての成分がτなイデールが恒等写像に送られる条件で決定される:
π≡1,2,4 (mod √-7) かつ π≡平方剰余 (mod 5) ならば πは標準形
π≡1,2,4 (mod √-7) かつ π≡平方非剰余 (mod 5) ならば πは標準形でない
π≡-1,-2,-4 (mod √-7) かつ π≡平方剰余 (mod 5) ならば πは標準形でない
π≡-1,-2,-4 (mod √-7) かつ π≡平方非剰余 (mod 5) ならば πは標準形
(πと-πのうちちょうど片方だけが標準形となることが確認できる)
この言葉を使うと、E'の3等分点が生成する拡大で、素イデアル(τ)が完全分解する条件は、
τの標準形を{τ}としたときに、{τ}≡1 (mod 3) と書くことができるわけである。
(これは[4]の作用が3等分点に結果として恒等写像として作用することと結びつく。)
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・-1が平方剰余でない場合も見ておこう。
有理素数では、-1は常に平方剰余になることに注意する。
つまりこの場合は、Q上では定義されないので、楕円曲線を調べるのには、
Q上のデータベースの代わりに、虚二次体上のデータベース(有難いことに存在する)を使う:
・conductorが最小の16となっているものを取り上げる。
E":y^2+axy=x^3+(-a-1)x^2+x [ここでaはa^2-a+2の零点である]
[1] xの3成分(x_3)の単数成分 θ(u_3)
[2] xの(1+√-7)/2成分(x_q)の単数成分 θ(u_q)
[3] xの(1+√-7)/2成分(x_q)の素元成分 θ(π_q)
[4] 他の成分(x_q)の素元成分 θ(τ)
が影響する。
標準形はなんだろう。私がどうやって調べたのかを紹介する。
先に紹介したような方法で3等分点を生成する多項式を得る。(Q(√-7)係数の既約な8次式である)
これにQ(√-7)の整数を代入して素元分解する。
素因子を3A+1型になるように符号を選んだものが、標準形のはずである。
conductorが4であるから2の冪を法とする法則で記述されるはずである。
現れる素因子の分布を調べることで、特定できる。
その結果、4で割った余りが 1,2+√-7,3+2√-7,3√-7 なものが該当した。
これは、τ≡1 (mod 1+√-7) と書くことができた。
[1] u_3^-1倍写像
[2] u_q≡1 (mod 1+√-7)なら恒等写像、そうでなければ-1倍写像
[3] π_q倍写像
[4] {τ}倍写像 ({τ}は±τのうち{τ}≡1(mod 1+√-7)となるほう)
という結果である。この場合も、全体の整合性を確認できる。
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・isogenyの視点と、平方剰余の相互法則
K上の同型を区別した同値類は、K*の平方元を同一視した同値類 K*/K*^2 と1対1に対応するのである。
これはまた、K上の2次拡大と1対1に対応するとも言える。
(このセクションの最後にコサイクルを使った高度な視点を紹介する)
基準となるEを平方完成しておく:E:y^2+xy=x^3-x^2-2x-1 ⇔ (y+x/2)^2=x^3-(3/4)x^2-2x-1
K上の2次拡大K(√a)に対して、楕円曲線E(a)は、a*(y+x/2)^2=x^3-(3/4)x^2-2x-1 で定まる。
a=5 を代入し、y->y/25, x->x/5, y->y-2x, x->x+1 の順で変数変換をすることで、
先のconductor1225の E':y^2+xy+y=x^3-x^2-55x-178 を確かに得る。
a=√-7 を代入すると、先のE"を得るはずである。
新しい楕円曲線E(a)における標準形{p}は、
aがmod (π)で平方剰余のとき Eの標準形と同じで
aがmod (π)で平方非剰余のとき Eの標準形の符号を逆にしたもの
という関係として理解することができる。
EとE(a)がK(√a)上では同型であることことを背景に、
πのフロベニウスが√aを固定するかどうかに対応する場合分けである。
・では例えば√-7がmod (π)で平方剰余になる条件は何か。
我々はEの標準形とE"の標準形を既に知っている。それを比較すれば
「π≡1 (mod 1+√-7) かつ π≡1,2,4 (mod √-7)」
または 「π≡-1 (mod 1+√-7) かつ π≡-1,-2,-4 (mod √-7)」
が成り立つときに、√-7がmod (π)で平方剰余になる。
逆に、これが先に分かっていれば、E"の標準形を調べた努力は必要なくなる。
・conductorと互いに素でない等分点の様子
Eでは、√-7等分点を与える6次式は、K上既約でなく、2つの3次式に分解した。
E"では、√-7等分点を与える6次式は既約になり、
代わりに2つの真の(1+√-7)等分点を与える2次式がK上既約でなく2つの1次式に分解する。(確認した)
(Eのほうでは、2つの真の(1+√-7)等分点を与える2次式がK上既約である)
・真の(1+√-7)等分点が2つであることは意外と混乱したので念のため説明しておく:
(n倍して初めて原点になるものを真のn等分点と呼んでいる)
a=(1+√-7)/2, b=(1+√-7)/2 とおくと (1+√-7)=aabである
広義a等分点が2つ、狭義a等分点は1つ
広義aa等分点は4つ、狭義a等分点は2つ
広義ab等分点は4つ、狭義ab等分点は1つ(原点と狭義a等分点と狭義b等分点が除かれる)
広義aab等分点は8つ。狭義aab等分点は、8から、
原点、狭義a等分点、狭義b等分点、狭義ab等分点、狭義aa等分点2つを除いた残り2つである。
<コサイクルの言葉>
K上同型であるがk上同型でない楕円曲線の同型類は、 H^1( Gal(K/k), Aut_K[E] ) と結びつけることができる:
K同型 f:E→E' に対して、σ∈Gal(K/k) に対して σf を考えることができる。
合成 σf・f^-1 により Aut_K[E']=Aut_K[E] の元が定まる。
こうしてコサイクル a: Gal(K/k)→Aut_K[E] が定まる。
EとE'がk同型でもある場合に、aはコバウンダリとなる。
これを使うと、特に j≠0,1728 のときについては
y^2 = f(x) の同型類は、ay^2 = f(x) [a∈k/k^2] で代表されることが示される。
memo: https://www-fourier.ujf-grenoble.fr/~berhuy/fichiers/Galoiscourse.pdf
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<6>
K=Q(√-1)の場合
E:y^2=x^3-x は conductor 32
E':y^2=x^3+x は conductor 64
E":y^2=x^3-2x は conductor 256
Eの標準形は、{π}≡1 (mod 2+2i)
E'の標準形は、{π}≡1,1+2i (mod 4) で定まることが分かった。
E"の標準形は、{π}≡1,5,3+4i,7+4i,6±i,6±3i (mod 8) という形になる。
K上の同型を区別した同値類は、K*の4乗を同一視した同値類 K*/K*^4 と1対1に対応するようである。
aが平方元のときに E(a):(√a)y^2=x^3-xが対応すると思うが、他の場合は具体的な表示は分からなかった。
E'は、a=-1 の場合に相当する。
例えば E": y^2=x^3-2x はこの形では得られない。
E"は、E: y^2=x^3-x とは K(2^(1/4))上で同型になる。
従って a=2 の場合に対応しているということだと思う。
・アルティン写像を記述しよう
Q(√-7)と違って±iという大域的な可逆元が余分にあることに注意が必要である
3等分点が生成する拡大への作用は、以下の4種類が影響する:
[1] xの3成分(x_3)の単数成分 θ(u_3)
[2] xの(1+i)成分(x_q)の単数成分 θ(u_q)
[3] xの(1+i)成分(x_q)の素元成分 θ(π)
[4] 他の成分(x_q)の素元成分 θ(τ)
2+2iで割った余りは{±1,±i}で代表することができる。
それぞれの作用は:
[1] u_3^-1倍写像
[2] u_qを(2+2i)で割った余りを{±1,±i}で代表したもの倍写像
[3] π倍写像
[4] {τ}倍写像
と書くことができる。
[2]は、よく考えると、u_q/{u_q}倍写像と書けることにここで気がついた。
「標準形に直すために掛けるべき単元の逆元」というわけである。
Eの標準形とE'の標準形は、先と同様に-1が平方剰余かどうかと結び付けられる:
素元πのE'での標準形は、
-1がmod (π)で平方剰余のときは Eの標準形と同じで
-1がmod (π)で平方非剰余のときは Eの標準形の符号を逆にしたものである
Eの標準形とE"の標準形は、2の4次剰余と結び付けられるはずである:
素元πのE"での標準形は、
2がmod (π)で4次剰余のときは Eの標準形と同じで
2がmod (π)で4次剰余でない平方剰余のときは Eの標準形の符号を変えたもの
2がmod (π)で平方剰余でないときは Eの標準形に±iのどちらかを掛けたもの
(この符号は4次剰余を分類することで決まる)
という関係である。
ちなみに
2がmod (π)で4次剰余になる条件は π≡±1,±3 (mod 8)
2がmod (π)で平方剰余になる条件は π≡±1 (mod 4) である
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・K=Q(√-2)の場合
2の上にある素イデアルでの様子が複雑で、標準形を知るのに苦労した。
(「虚二次体の平方剰余の観察」)
E:y^2 = x^3+x^2-3x+1 では
{q}は±qのうち、{q}≡1,3,-1±√-2,-3±√-2,-1+2√-2,-3+2√-2 (mod 4√-2) となるほう
E':y^2 = x^3-x^2-3x-1 では
{q}は±qのうち、{q}≡1,3,1±√-2,3±√-2,-1+2√-2,-3+2√-2 (mod 4√-2) となるほう
同型類の違いは、√-7のときと同様である。
EとE'の違いはa=-1の場合に相当する。(-2が平方元だからa=2でも良い)
何度も繰り返した説明文であるが再掲する:
「素元πのE'での標準形は、
-1がmod (π)で平方剰余のときは Eの標準形と同じで
-1がmod (π)で平方非剰余のときは Eの標準形の符号を逆にしたものである」
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・K=Q(√-3)の場合
具体的な考察はしていないが、
K上の同型を区別した同値類は、K*の6乗を同一視した同値類 K*/K*^6 と1対1に対応すると思う。
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<7> Q上のフロベニウス
保型形式的な話との関連について、何と何がどうつながっているのかが少しずつ分かってきた。
大事な登場人物として、Q上のフロベニウスというのを考える必要がある。
L/Kがアーベル拡大の時、Kの素イデアルpの上にあるフロベニウス写像はすべて一致した。
L/Kがアーベル拡大でない場合は、pの上にあるLの素イデアルqの選択に依存する。
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・そのような例として、具体的なものを触っておこう
L=Q(α,ω), α=2^(1/3),ω=(-1+√-3)/2 のとき
Lは単項イデアル整域なので素イデアル分解は素元分解として記述できる。
Gal(L/K)は3次対称群なので{1,s,ss,t,st,sst}を使って記述することにする。
(sはωを固定しαをαωに送る。tはαを固定しωを-ωに送る。で定める。)
・p=31 の場合 α^31≡α (mod 31) でpの上にあるフロベニウスはすべて恒等写像
素イデアルpは完全分解する:
p=(1+α-ω)(1+α-ω^2)(1+α+2ω)(1+α+2ω^2)(α^2-α-1-2ω)(α^2-α-1-2ω^2)(α-1)
・p=5 の場合は 5 = (1+α^2)(1+2α-α^2) = -(1+α^2)(1-α^2+ω)(1-α^2+ω^2) と分解する。
α^5≡α (mod 1+α^2)
α^5≡αω (mod 1-α^2+ω)
α^5≡αω^2 (mod 1-α^2+ω^2)
ω^5=-ω と合わせると、フロベニウスはLの素イデアルqによって、
{t,st,sst}の3つの異なるものをとることが観察できる。
・p=7 の場合は 7 = (1+ω)(1+ω^2)
α^7=4α≡αω (mod 1+ω) [(4-ω)=(-1-5ω)(1+ω)]
α^7=4α≡αω^2 (mod 1+ω^2)
こうして、(7)の上にあるフロベニウスは {sまたはss} である
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楕円曲線の等分点に戻る。
Lとして、K=Q(√-7)に、E:y^2+xy=x^3-x^2-2x-1 のn等分点を展開した体をとる。
以下、Qの素元p、Kの素元πは、7,nと互いに素とする。
L/Kの、(π)の上にあるフロベニウスは、{π}倍点であった。({π}はπの標準形)
L/Qの、(p)の上にあるフロベニウスというのを考える
pがK/Qにおいてp=ππ'と分解する時は、{π}倍点のどちらかとなる。
pがKの素イデアルでもあるときは、{p}倍点である。
これを、n等分点を2次元ベクトル空間とみなしたときの行列として記述することを考える。
(一旦虚数乗法の構造を忘れる)
フロベニウス元は、Z/nZを成分とする2次元正方行列として表現される。
このとき{π}倍点のどちらを選択しても、行列の最小多項式は一緒になる。
tr(A)とdet(A)はpのみに依存し、πに依存しない。(ベクトル空間の基底にも依存しない)
このtr(A)が特に色々な所に関わってくる。det(A)はπのノルムであり、p(またはp^2)である。
・「レフシェッツの跡公式」#E_p = Σ(-1) H^i(E,Q_p)
(正確な議論はまだ追えていない。それぞれのコホモロジーのなんとなくのイメージを説明した。)
n等分点は、1次コホモロジー H^1(E,Z/nZ) と結び付けられる。
Eを複素トーラスとして考えれば、基本群は、ω1とω2で生成される。
大雑把に、コホモロジーは、ω1をZ/nZのどれに送るか、ω2をZ/nZをどれに送るかで定まる。
一方で、n等分点も、複素トーラスC/Λの格子としての生成元ω1,ω2として、
a*ω1+bω2 (a,b∈Z/nZ) で指定できるのであった。
こうしてガロア群の元がn等分点にどう作用するかを、H^1(E,Z/nZ)にどう作用するかに読み替えられる。
p^k等分点をすべて合わせると、H^1(E,Z_p) に結びつけることができる。
0次コホモロジーは連結成分に対応し、1個、ガロア群の作用は恒等写像、である、と思う。
2次コホモロジーへの作用は、イメージとしては「微小面積dz」を何倍にするか、だと思う。
基底をそれぞれπ倍点に送るようなフロベニウスでは、p倍である。
これらを合わせると、レフシェッツの跡公式の右辺(的なもの)を得ることができる:
(EのF_p^k上の点の個数) = 1-tr(A^k)+p^k
・「ハッセ・ヴェイユのゼータ函数」
合同ゼータ関数とも呼ばれる局所ゼータ関数の積として定義される。
そこには多項式 F(T)=1-tr(A)*p^-s+p*p^-2s が因子として現れる。
これがある関数等式を満たし、従ってメラン変換で保型形式が対応する
というとても難しい事実がこの奥にあるらしい。
リーマンのゼータ関数について書いたTateのThesisの考え方(「ζの関数等式」)
をこの楕円曲線に適用する視点があるようだが、理解できていない。
memo: http://chengshantian.weebly.com/uploads/4/5/5/2/45525145/tates_thesis-the_function_field_case.pdf
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<8> 局所での様子
円分体の時を振り返る。円分体での現象を証明するには局所での様子が欠かせなかった。
n次円分多項式が、mod pでどう分解するかと、
F_p上の1の原始n乗根の生成する体の様子が結びつき、
それは pをnで割った余りで分類されるのであった。
p≡1 (mod n)のときは、n次円分多項式は1次式の積まで分解される。
n=15, p=19 のようなときは、αとα^4が共役となるような4つの2次式に分解された。
1のn乗根がF_p^kに存在することは、p^k≡1 (mod n)という条件となり、
F_p上に存在する1の冪根は1の(p-1)乗根たちであり、
F_p^k上に存在する1の冪根は1の(p^k-1)乗根たちである
楕円曲線の場合を考える。先のE:y^2+xy=x^3-x^2-2x-1をとりあげる。
7で割った余りによる場合分けが発生する。
・p≡1,2,4 (mod 7) のとき (√-7∈F_p)
p=ππ'と分解する。π,π'は標準形にとっておく。
F_pに存在する等分点は、(π-1)等分点と、(π'-1)等分点を合わせたものとなる。
F_p^kに存在する等分点は、(π^k-1)等分点と、(π'^k-1)等分点を合わせたものとなる。
これはレフシェッツの公式 1-tr(A^k)+p^k と合致する。
(tr(A^k)=π^k+π'^kとp=ππ'を代入すれば(π^k-1)(π'^k-1)と一致する)
・p≡3,5,6 (mod 7) のときF_p^2=F_p(√-7)
F_p^2に存在する等分点は、(p+1)^2個の(p+1)等分点全体である。
符号が違うのは、pの標準形は-pとなることに由来する。
(tr(A^2)=(√-p)^k+(-√-p)^k とおくとレフシェッツの公式に合致する。)
*以前スクリプトを書いたので具体的に観察できる(動作する値は結構限られるけど・・)
http://searial.web.fc2.com/tools/fpdaen.html
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<9> 形式群
・Kを局所体とする。
「原点の近くでの展開による形式群」が影で重要な役割をしている。
t=-x/y, s=-1/y と変数変換すると通常の無限遠点が、原点s=t=0に移る。
s=t^3(1+at+bt^2+...) と冪級数展開される。
(t1,s1)と(t2,s2)の楕円曲線的な和が(t3,s3)のとき、
t3 = t1+t2+(2次以上の項) と展開される。
これが 前回のノート
の最後で紹介した形式群F(t1,t2)の役割を果たす。
これとLubin-Tate理論を合わせることで、
アルティン写像の不分岐拡大への作用が<4>で記述したようにu_p^-1倍点に送る写像である
ということの根拠を与える。
形式群の別の役割は、
「x,y座標がKの整数環の可逆元でないKの点」と、
「Kの整数環の極大イデアル」の間の全単射があるという事実である。
これはまたすごい事実である。
例えば E=y^2+x*y = x^3-x^2-2*x-1, 極大イデアル(5)の場合
任意のa∈Z_5 に対して、-x/y≡a*5 (mod 5^2) となるような局所体上の点がちょうど1つ存在する。
(と理解した)
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2019/3/11