環上の貼り合わせ
前回のノートに続いて、The stacks projectの35.3の内容を追った。
・貼り合わせを具体的に得る方法が分かった。
・ガロア貼り合わせより少し一般的な視点を得た(忠実平坦貼り合わせ)。
(しかしfpqc貼り合わせ等に比べると、特殊な場合である。)
[1]で、前回の例の1つを使って貼り合わせを具体的に得る様子を観察する。
[2]で、体でない環上のfaithfully flat貼り合わせを見る。
・不分岐な場合はエタール貼り合わせに相当し、ガロアコホモロジーと結びつく
・分岐する場合は、ガロアコホモロジーと差異が出る。
最後に以下を観察する。
R→Aがさらに不分岐ならば、Aの可逆元をU*とすると、H^1(G,U*)は自明群である。
「不分岐」とは、スキームの射の性質として一般的に定義されるが、踏み込まない。
(ここではRがZやその局所化で、AがRに√*を添加したような拡大の例だけを観察した。)
追記:これは「スキームの基本群」で、
Rが整閉なときは、Rの基本群は、Rの商体の絶対ガロア群と結びつく。
https://stacks.math.columbia.edu/tag/0BQJ の命題56.11.3
[0] 結果の引用:
環準同型R→Aを忠実平坦とする。
A(x)A上の準同型φ:N(x)A→A(x)N があって、
35.3.1(1)に書いてあるコサイクル条件を満たすならば(この情報をdescent情報と呼ぶ)、
N = {n∈N| φ(n(x)1) = 1(x)n } とおくと、A上の加群Nに対して、N = M(x)A となるR上の加群Mを得る。
逆に、そのようなMが存在するならば、N=M(x)Aを使って標準的にdescent情報を得られる。
[1] 前のノート、y^2 = x+x^3+x^4 の例
R = R
A = C
N = C[x,y]/(x+x^3+x^4-y^2)
N(x)A = C[x,y]/(x+x^3+x^4-y^2) (x)_R C
= C[x,y,u,v]/(x+x^3+x^4-y^2,u^2+1,v^2+1)
A(x)N = C (x)_R C[x,y]/(x+x^3+x^4-y^2)
= C[x,y,u,v]/(u^2+1,x+x^3+x^4-y^2,v^2+1)
(テンソル積の左側にu,右側にvを使っている)
φは、N(x)A→A(x)N の、A(x)A上の準同型である。
A(x)A = R[u]/(u^2+1) (x) R[v]/(v^2+1) 上の準同型ということである。
x,yの行先を記述すれば良い。
[注意]
A(x)A上の準同型ということは、
1(x)1 を 1(x)1 に送るならば、
1(x)a は 1(x)a に送られなければならない。
だから、n(x)a を a(x)n に送るような写像は許されない。
M = R[x,y]/(x+x^3+x^4-y^2) とおけば、N=M(x)Aである。
・x (x) 1 → 1 (x) x
y (x) 1 → 1 (x) y
で定めるのが標準的なdescentである。
・y (x) 1 → 1 (x) (-y)
で定めるのは、準同型ではあるが、コサイクル条件を満たさないのでdescentを与えない。
・x (x) 1 → 1 (x) x
y (x) 1 → u (x) (1/v)y
で定めるのは、さらに別の準同型で、コサイクル条件も満たし、別のdescentを与える。
(φ01で(v/u)倍、φ12で(w/v)倍、φ02で(w/u)倍という仕組みである。)
コサイクル条件を満たすφに対して
M = {n∈N | 1(x)n =φ(n(x)1)} を考える。
・標準的なdescentでは、MはNのうち{1,x,y}で生成される部分R-環である。
すなわちR[x,y]/(x+x^3+x^4-y^2) である。
・もう1つのdescentでは、MはNのうち{1,x,iy}で生成される部分R-環である。
すなわちR[x,Y]/(x+x^3+x^4+Y^2) に同型である、Nのツイストである。
[確認] iy∈Nが 1(x)n =φ(n(x)1) を満たすこと:
φ(uy (x) 1) = uu (x) (1/v) y = -1 (x) (1/v)y = 1 (x) vy
[2-1] 代数体の例
R=Q
A=Q[√-2]
Nとしては、AそのものをA加群とみなした加群で考える。
φ:N(x)A→A(x)N を考える。これはA(x)A-加群としての準同型であるから、
1 (x) 1 の行先を記述すればよい。
先と同様に、R[u]/(u^2+2) (x) R[v]/(v^2+2) の方式で記述する。
・1(x)1を 1(x)1 に送るのが標準的なdescentである。
・1 (x) 1 の行先を u (x) 1/v で定めるのが別のdescentとなる。
先と同じような仕組みで、コサイクル条件を満たす。
u (x) 1 の行先は uu (x) (1/v) = uu (x) v/vv = 1 (x) v となる。
こうしてMは、a+b√-2のうち、a=0 のなす部分加群である。
ところがそれは(標準的なdescentで貼り付けた結果)である b=0のなす部分加群と同型である。
ということは、ある同型b:N→Nがあって、それによって
実は2つのdescentは35.3.1(2)の意味で同型である:
N(x)A → A(x)N
↓ ↓
N(x)A → A(x)N
上の行は標準的なdescent, 下の行は別のdescent,
縦矢印はb:N→Nによるものという図式である。
この場合は、bは、√-2を掛ける加群としての同型である。
1(x)1 → 1(x)1
↓ ↓
u(x)1 → 1(x)v
・ところがこれはよく観察すると、ガロア貼り合わせの言葉でも書ける。
A(x)A は A×A = {<x,y>|x,y∈A}と同型であり、
uは<√-2,√-2>, vを<√-2,-√-2>に対応する。
そうするとu/v は <1,-1> に相当する。
Aut(N)はAの可逆元であり、
コサイクルa[σ]がコサイクル条件を満たすには、a[σ]・σ(a[σ])=1
つまり共役との積が1になるような可逆元であり、1以外には-1がある。
上記の結果は、これが実はコバウンダリでもある:
-1 = b^-1・σ(b) となるようなbがある。
それが、b=√-2 である。
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[2-2] 体でない場合
R=Z
A=Z[√-2]
Nは同様にAをA加群とみなしたものとする。
この場合は、
1 (x) 1 の行先を u (x) 1/v で定めることができない。
(1/vはAの元でない)
・ガロア貼り合わせの言葉では書けない。
今回はA(x)AはA×Aに同型でない。
Z[u,v]/(u^2+2,v^2+2)は、
{<x,y>|x,y∈A}のうち、u=<√-2,√-2>, v=<√-2,-√-2>で生成される部分環である。
具体的に考察すると、
x=a+b*√-2
y=c+d*√-2
とおいたとき、a-c≡0 (mod 4), b-d≡0 (mod 2) が要求されることが分かる。
だから、先のu/vに相当する<1,-1>はこの環の元ではない。
そういうわけで、この場合は標準的なdescentしかない。
一方でH^1(G,Aut(N))の元では、先と同様に、a[σ]=-1と定めるコサイクルがある。
そういうわけで、descent情報とH^1(G,Aut(N))が対応しない。
その理由は「A(x)AはA×Aに同型でない」ことにあり、
これはさらに踏み込むと「分岐」という現象に由来する。
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[2-3] 不分岐な場合
R=Z[1/2]
A=Z[1/2,√-2]
の場合。
A(x)AはA×Aに同型となる。[2-1]と同様の結果となる。
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[2-4] 少し考察
[2-1],[2-3]では、R→Aは「不分岐」な拡大である。
このとき、A(x)AはA×Aと同型になり、
descentの種類は、ガロアコホモロジー H^1(G,Aut(N)) = H^1(G,U*)と結びつく。
ここで、NはA自身をA-加群とみなしたものであり、
従って、Aut(N)とは、Aの可逆元のことであり、それをU*とおいた。
descentの種類は、N=A(x)M となるようなR-加群Mの種類に対応するのであった。
ところが、この場合、Mは常にR-加群としてのRに同型で、つまり1種類しかない。
従って上記のガロアコホモロジーは自明群でなければならない。
・特にGが巡回群の場合、ガロアコホモロジーが自明群であることは、
αのノルムが1ならば、α=σ(β)/βとなるβ∈U*が存在することと言い換えられる。
(特にR→Aが体の拡大のときは、ヒルベルトの定理90である。)
・そうでない場合の例をいくつか見る。
・先の例 Z→Z[√-2], α=-1 に対して、β=√-2が存在する。
これは、Aにおいて([2-1],[2-3]のように)2が可逆でないと可逆元でない。
・別の例 Z→Z[√3], α=2+√3 の場合、β=1+√3が適する。
これはやはり、2が可逆でないと可逆元でない。
・その例 Z→Z[√3], α=-1 の場合は、β=√3も適する。
こちらは3が可逆でないと可逆元でない。
・「分岐する素イデアルを可逆にしておく」ことによって、不分岐な拡大にできる。
具体的には、Z[1/2,1/3]→Z[√3,1/2,1/3] は不分岐であり、
上記のβ=1+√3, β=√3は、Z[√3,1/2,1/3] においては可逆元である。
23:01 2020/04/18
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