エタール層Z/nZとμ_n
https://mathoverflow.net/questions/52404/locally-constant-sheaves-for-the-%C3%A9tale-topology-lack-of-intuition-about-%C3%A9tale
体kの標数が0またはnと互いに素で、kが1の原始n乗根を持たないとき、(k=Q,n=3やn=5を想定する)
Speck上のエタール層Z/nZとμ_nは局所的に同型だが大域的に同型でない。
具体的にはL=k[x]/(f(x)), f(x)はn次円分多項式とおくと、SpecL→Speckは(エタール位相で)開集合でしかも被覆であり、
2つの層はZ/nZとμ_n、開集合SpecLへ制限すると同型になる。
局所的に同型だが大域的に同型でない:いわゆる円柱とメビウスの帯のような関係と思った。
「局所準同型写像」の層のうち、局所同型な切断が貼り合わさるかどうかとして考察すれば良く、
それには貼り合わせ条件で観察できると上記のページの回答にあった。
[1] ガロア貼り合わせのノートを思い出した。
経験のためにこのコサイクル条件の視点で観察しようとした。
いろいろやってみたが、結局以下の記述に至った:
ここではn=3の場合を考える。
「それぞれのσ∈Gに対して、a[σ]∈ ({1,x^2,x}から{1,x,x^2}へのL-同型) が定まっていて、
任意のσ,τに対して、a[στ] = a[σ]・σ(a[τ]) の関係が成り立つ。」ようなものを考える。
これが存在することが、「降下条件」らしい。
G={id,g}と表記する。idはx→x, gはx→x^2というガロア群の元を意図している。
σ=τ=id とおくとa[id]=a[id]・a[id]
σ=τ, τ=id とおくとa[g]=a[g]・g(a[id]) という関係が要求される。
1つ目の要求から、a[id]は恒等写像と要求されるが、
2つ目の要求では、g(a[id])が恒等写像と要求されるので、
gが{1,x,x^2}に非自明に作用するせいで、これらは両立しない。
そういうわけで、「層μ_nはkに降下しない」
(一方、層Z/nZのほうは、gが自明に作用し、kに降下する。)
・2つの層の違いは、ガロア群の作用が違う、という所に由来すると解釈できるようだった。
・「貼り合わせ条件」と「コサイクル条件」という言葉について、[5]に書いた。
[2] 観察
X = Spec k
V1 = Spec k[x]/(f(x))
V2 = Spec k[y]/(f(y))
とおく。f(x)は円分多項式、具体的にはn=5, f(x)=x^4+x^3+x^2+x+1と想定する。
X上の層 μ_n の開集合V1における切断はμ_n(V1)={1,x,x^2,..,x^(n-1)}である。
(ここでV1では1のn乗根がxの冪だけであることを使っている。f(x)がk上既約であるとしている。)
V12 = V1×V2 = Spec k[x,y]/(f(x),f(y)) とおく。
制限写像μ_n(V1)→μ_n(V12)は文字通りの埋め込みである。(つまりxをxに送る)
(これは、μ_nが群スキームk[T]/(T^n-1)の表現する層であり、従って制限写像は環準同型との合成で定義されることによる。)
定数層の制限写像Z/nZ(V1)→Z/nZ(V12)は、1を(1,1,..,1)に送る。
(これは定数層の制限写像の定義の仕方と、V12のすべての閉点はV1の唯一の閉点に移ることによる。)
[3] 代数的な寄り道
Q[x,y]/(f(x),f(y))の5乗根について。(https://twitter.com/icqk3/status/1302470421275582465)
n=5としている。k[x,y]/(f(x),f(y)) = K×K×K×K の同型がある。
yの多項式として、(y-x),(y-x^2),(y-x^3),(y-x^4)で割ったあまりをとることで同型写像とする。(中国剰余定理)
このとき、xは<x,x,x,x>, yは<x,x^2,x^3,x^4>に対応するということになる。
他の、例えば<x,1,1,1>という形の1の5乗根は、x,yの冪の積で表せない。
計算:
(y-x)で割ってx余り、(y-x^2),(y-x^3),(y-x^4)で割って1余るものを求める。
(y-x^2)(y-x^3)(y-x^4)A(x) + 1 とおける。
(1-x)(1-x^2)(1-x^3)(1-x^4)≡5 (mod x^4+x^3+x^2+x+1) と比較すると
A(x) = x^2*(1-x^4)(x-1)/5 とおけば良いことが分かる。
そういうわけで<x,1,1,1> に相当する5乗根は (y-x^2)*(y-x^3)*(y-x^4)*x^2*(1-x^4)*(x-1)/5 + 1 と表せた。
*計算機で次数を下げて整理すると、x,yの対称式であることが分かる
*yの代わりに1/yとおけば <1,1,1,x> に相当する元になると思う
・これで、層Z/nZとμ_nには次のような違いがあることが観察できる:
V1とV2の間の同型と、Xの部分層としての同型Z/nZ|V1→Z/nZ|V2, μ_n|V1→μ|V2を固定する。
k上のファイバー積V12 = V1×V2 = k[x,y]/(f(x),f(y)) を考えて、
制限写像Z/nZ(V1)→Z/nZ(V12),μ_n(V1)→μ_n(V12)を考えるとその像は5^4の元のうち5個の元をなす。
定数層Z/nZの場合はZ/nZ(V1)→Z/nZ(V12)の像とZ/nZ(V2)→Z/nZ(V12)の像は一致するが、
層μ_nの場合はμ(V1)→μ(V12)の像とμ(V2)→μ(V12)の像は一致しない。
(F_5係数の4次元ベクトル空間のうち、異なる1次元空間をなしている。)
(単位元を選んだ場合は行先は一致し、それが大域切断の唯一の元をなす。)
[2020/11/30: K×K×K×Kを表す各括弧がhtmlのタグとして認識されて表示されていないことに気づいて全角に変えた]
[4] 局所同型な層準同型が貼り合わさらない:
エタール層Hom(Z/nZ,μ_n)をFとおく。Fはsheaf homとして捉える必要があると考えている。
最初のリンクに書かれた内容は、F'=Isom(Z/nZ,μ_n)はFの部分層をなし、大域切断を持たないという観察であった。
F'(V1),F'(V2)の元s1,s2をそれぞれ、V1,V2において1 mod nの行先がx,y,zであるように選択する。
実は、F'(V1),F'(V2)の元はこの選択によって決定される。
(これが分からず以下の質問を投稿した。分かりやすい回答ありがたかった。)
https://math.stackexchange.com/questions/3816145/homz-nz-%CE%BC-n-is-isomorphic-to-%CE%BC-n-as-etale-sheaf
(「同型」のために行先は原始n乗根である必要がある)
(異なる選択をするには必要に応じて変数x,yを置き直せば良い)
これらの切断が、貼り合わさらないことを見る。
s1のV12への制限と、s2のV12への制限は同一視される必要がある。
制限した結果は、層準同型:Z/nZ|V12→μ_n|V12 である。
ここでは先のリンク先の記法に従って、Z/nZ|V12 = (a,b), 第1成分はx=y, 第2成分はx=y^2に対応すると宣言する。
そうすると、s1の制限は(1,1)をxに送り、s2の制限は(1,1)をyに送ることを要求する。
そうすると結局[3]の最後に指摘したのと同様に、これらは貼り合わさらない。
V23,V13でも同様のことを考えてコサイクル条件が満たされないことを観察することになると思っていたのだが、
コサイクル条件に至る前に終わってしまった。
[5] 1つの混乱の原因と少し解決:「貼り合わせ条件」と「コサイクル条件」について
http://searial.web.fc2.com/sea/index.html の2019年に書いたコメントを読み返すと混乱が解決した。
(これらの用語は文脈によって指すものがいろいろあり得るが以下の意味で使った)
「貼り合わせ条件」は、開集合での切断が貼り合わさるかどうかを判定するのに使える:
古典的にはV1の切断とV2の切断が共通部分V1∩V2で同じ切断に制限されるならば、それを与えるV1∪V2の切断が存在する
という要求を意図した。エタール層に一般化できる言葉では、次のようになる:
開被覆{Vk}のすべてのVkでの切断が与えられていて、
すべてのi,jの組に対してViの切断とVjの切断のVi×Vjへの制限が一致するなら、それらを与える大域切断が存在する
「コサイクル条件」は部分層が貼り合わさるかどうかを判定するのに使える:
V1の部分層のV12への制限と、V2の部分層のV12への制限を同一視する同型写像をp12とする。
同様にV3,p23,p13を考えたときに、V123においてp12→p23の合成の結果がp13に一致するという要求を意図した。
エタール位相やfpqc位相でのこの視点が、降下と呼ばれる概念に相当すると理解している。
[6] ところで、もう1つの重要な視点が、茎あるいは芽の視点であった。
https://stacks.math.columbia.edu/tag/03PNを少し読んだ。
"cofiltered"という性質があり、Z/nZとμ_nの茎はどちらも単に位数nの巡回群と理解した。
しかしそうすると、茎の同型から層の同型がなぜ誘導されないかという疑問ができる。
満ちてくる海の2.4.Eを参照した。次の注意がある:
「注意:これは2つの層がすべての点で同型な茎を持つならば同型と主張しているわけではない。」
確かに、X=Speck上で層の準同型Z/nZ→μ_nは存在するが、
X=Speck上での挙動を考えると、これは零写像であることが要求されてしまい、茎の同型を誘導しないから。
X上の代わりに、V1上で考えれば零写像であることは要求されない。
この場合は茎の同型を誘導する準同型がある。この場合では実際2つの層は同型であるから問題ない。
2020/09/06
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