ユークリッド整域についてせきゅーんさんのPID講義を視聴しました
そこで知ったderived setを使うMotzkinの方法を、補集合に注目して、
「環Rの元を次々と仲間にしていく」という言葉で描写してみると、
私には理解しやすかったので、視点の紹介という意図で、このノートを書くことにしました。
この視点は√14の話題を聞いた後の休憩時間に検索して出会った、
https://math.stackexchange.com/questions/1148364/what-is-the-euclidean-function-for-mathbbz-sqrt14
に書いてある方法がもととなっています。
時刻t=0では、0だけが仲間であり
時刻t=1では、単数(虚二次体の場合は1の冪根)を仲間にできると設定する。
その後にb∈Rを新しく仲間にすることができる条件は、
「それまでに仲間にしたRの元が、bで割った余りを網羅している」
ことであるとする。(後で複素平面上の格子としてこの条件を描写する)
この条件で、Rの元をすべて仲間にできれば勝ちである。
元bを仲間にした時刻が、ユークリッド写像の像φ(b)である。
*上記の条件はユークリッド整域の条件を満たすことの言い換えになっている
ただし環RがPIDであることを暗黙のうちに利用している。)
*Motzkinの視点との関係は
Bの補集合、つまり今は仲間でない元の集合をAとおくと、
Aのderived set, A^d はまだ仲間にできない元の集合に相当する)
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#Rがガウス整数環の場合
時刻t=2で仲間にできる元は、b=±1±i, ±1±2i, ±2±i (図の水色)である。
これは、格子点を使って視覚的に確認する視点を紹介する。
#特に具体的に(2+i)を仲間にできるかどうかを考える。
ここで整数環がなす格子を(2+i)倍に拡大した格子(2+i)Rを考える。
bを仲間にできる条件は、
「格子bRを整数環に沿ってどのように平行移動しても仲間と交わる」
と描写することができる。(もうちょっと違う描写も有り得る)
例えば図の水色の格子は、(2+i)Rを(-2)平行移動したものであるが、
これは、確かに仲間(i)と交わっている。
他の平行移動を試しても、常に仲間と交わることが確認できる。[5種類]
そういうわけで、時刻t=2で(2+i)を仲間にすることができる。
#一方で、時刻t=2では、b=2を仲間にすることはできない。
なぜなら x≡1+i (mod 2R) となるようなxがまだ仲間にいないからである。
・視覚的には、2Rを1+i平行移動した格子、
具体的には{a+bi|a,bは共に奇数}という格子は
(t=1まででの)仲間とまだ交わらない。
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#RがQ(√-7)の整数環、つまりZ[(1+√-7)/2]のような場合
整数環の格子は二等辺三角形を基本領域に持つ格子となる。
時刻t=0での仲間は0
時刻t=1での仲間は±1
時刻t=2では、水色の点たち (±1±√-7)/2 を仲間にすることができる。
この状況は特にb=(1+√-7)/2の場合とすると、視覚的には
図の水色の格子はどのように平行移動しても、0,±1のどれかと交わる、
と描写される。
時刻t=2で水色の点たちを仲間にすると、
時刻t=3では、緑の点たち (±3±√-7)/2 を仲間にすることができる。
このようにして、仲間を増やし続けて、Rの元をすべて仲間にできることを期待する
*この環Z[(1+√-7)/2]が「ノルムユークリッド整域」である事実からは、
原点から近い順に仲間にしていけば、仲間にする条件が常に満たされ、
Rの元をすべて仲間にできるはずである。
*しかし、この順番でなくても、Rの元をすべて仲間にすることができる。
(例えばガウス整数環の場合は、±1±iを仲間にする前に2+iを仲間にできた)
従って条件を満たすユークリッド写像で、
ノルム写像と本質的に異なるもの(例えば大小が一部逆転するもの)が存在する
*ユークリッド整域でないPIDな虚二次体の整数環、
例えば Z[(1+√-19)/2]などの場合は最初の段階で詰んでしまう。
つまり仲間を{0,±1}から増やすことができないという状況である。
20:25 2019/04/18
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