[1] (アーベル圏上の)複体の圏は三角圏でない。
 [1-1] アーベル圏が三角圏ならば、任意の短完全列は分裂する。
 [1-2] 複体の圏には分裂しない短完全列がある。
[2] 複体のホモトピー圏では、Z→Z/2Z はエピ射でない。(それぞれ0次の項だけが非零な複体として)
[系] ホモトピー同値でないが、誘導するホモロジー群の射が同一な例
[寄り道] 複体の射が全射でも、誘導するホモロジー群の写像は全射とは限らない。
[2'] 複体のホモトピー圏では、Z/2Z→Z/4Z はモノ射でない。(それぞれ0次の項だけが非零な複体として)

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いくつかの事実を知った。
自分で考えてみたい人が立ち止まって考えられるように、それらの主張を先に挙げておいた。
複体の圏から三角圏にするには、ホモトピーをとる必要があることがよく分かった。

きっかけとなった、参考にしたQ&A:
https://math.stackexchange.com/questions/1952189/categories-of-complexes-are-not-triangulated
(アーベル圏上の)複体の圏は三角圏でないことが書いてあった。

・・ということは複体のホモトピー圏はアーベルでないはずである。その内容のQ&Aがあった。
https://math.stackexchange.com/questions/1280199/the-homotopy-category-of-complexes
ここでは、Z→Z/(p)はエピ射とモノ射に分解できないことで、それを示していた。
その出だしを読んで、そうすると、ホモトピー圏ではZ→Z/(p)はエピ射でないはずなので、それを確認しようと思った。
そうすると、副産物として、ホモトピー同値でないが、誘導するホモロジー群の射が同一な例を得られた。
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[1] (アーベル圏上の)複体の圏は三角圏でない。
・例えば、X●→Y●→cone(X●,Y●)に同型なものを完全三角と宣言する場合は、

適当な非零な複体X●の恒等射を考えると、
X●→X●→0
X●→X●→Cone(X●,X●)
は完全三角だが、通常Cone(X●,X●)は非零なので、0→Cone(X●,X●)を補間して可換にできず三角圏の公理を満たさない。

・これでは、他の完全三角の宣言の仕方で三角圏にできないか分からない。
 そこで、次の2つの事実を使ってそれが不可能であることを示せることを学んだ。

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[1-1] アーベル圏が三角圏ならば、任意の短完全列は分裂する。

0→X→Y→Z→0 を短完全列とする。(アーベル圏の性質でX→Yがモノ射である。)
完全三角 V[-1]→X→Y→V を考える。完全三角の性質により合成 X→Y→V は零射である。
X→Yはモノ射なので、V[-1]→Xは零射である。従って V→X[1]も零射である。

X→Y→V→X[1]
↓   ↓ ↓
X→X→0→X[1]
という可換な完全三角の組ができるのでY→Xを補完できて、合成X→Y→Xが恒等射となるので分裂する。

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[1-2] 複体の圏には分裂しない短完全列がある。

Z/2Z→Z/4Z→Z/2Z とかで良いけど、より一般的なアーベル圏で使える例には、kを適当な非零な項として、
X●: 0→0→k→0
  ↓ ↓ ↓ ↓
Y●: 0→k→k→0
  ↓ ↓ ↓ ↓
Z●: 0→k→0→0
という複体の短完全列を考えると、X●→Y●→X●が恒等射となるようなY●→X●は存在しないので分裂しない。
(合成k→0→kが恒等射となる必要があり不可能。)

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[2] 複体のホモトピー圏では、Z→Z/2Z はエピ射でない。(それぞれ0次の項だけが非零な複体として)

Z→Z/2Zをpと名付けておく。
適当な複体C●への、2つの射f,g: Z/2Z→C●があって、
fとgはホモトピー同値でないが、f・pとg・pはホモトピー同値であるような例を示せば良い。

     0 →   Z  → 0
   ↓   ↓  ↓
     0 → Z/2Z → 0
   ↓   ↓   ↓
C●: Z/4Z→Z/2Z →0

を考えて(ここでZ/4Z→Z/2Z は 1 mod 4 を 1 mod 2 に送る)、fはZ/2Zの恒等射、gは零射とする。
そうするとf,gはホモトピー同値でない(合成Z/2Z→Z/4Z→Z/2Zは恒等射にできない)が、
f・pとg・pはホモトピー同値である(合成Z→Z/4Z→Z/2Zは、Z→Z/2Zと同じ結果にできる)。

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[系2a] ホモトピー同値でないが、誘導するホモロジー群の射が同一な例

上記の複体の射Z→Z/2Z→C●の誘導するホモロジー群を考える。
fとgはホモトピー同値でないことを見た。
p,f,gの誘導するホモロジー群の射をそれぞれP,F,Gと名付ける。
f・pとg・pはホモトピー同値なので、F・PとG・Pは同一である。
ここで、Pは具体的にはZ→Z/2Zでアーベル群の全射(アーベル群でのエピ射)なので、FとGは同一である。

(あるいは直接的に、C●のホモロジー群を考えると(-1)次のみが非零なので、FとGはどちらも零でしかありえない。)

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[寄り道]
上記では、複体の全射pが、ホモロジー群の全射Pを誘導した。
しかし一般的には、複体の射が全射でも、誘導するホモロジー群の写像は全射とは限らない。
ネタバレ:
https://math.stackexchange.com/questions/3535080/injective-chain-map-need-not-induce-injective-map-on-homology


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[2'] 複体のホモトピー圏では、Z/2Z→Z/4Z はモノ射でない。(それぞれ0次の項だけが非零な複体として)

C●: 0→Z/2Z → Z/4Z
  ↓  ↓  ↓
   0→Z/2Z → 0
  ↓  ↓  ↓
   0→Z/4Z → 0

を考えると、良さそうだった。
合成Z/2Z→Z/4Z→Z/2Z は Z/2Z→Z/2Z と同じにできないが、
合成Z/2Z→Z/4Z→Z/4Z は Z/2Z→Z/4Z と同じにできる。

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2021/9/9

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