奇素数の冪を法とする既約剰余類が巡回群であることの周辺
きっかけツイート
pを奇素数とする。
G = (Z/p^eZ)* [位数は p^(e-1)*(p-1)] が巡回群であるという事実がある。
Hをpで割って1余る部分群とする。[位数p^(e-1)]
G/H は (Z/pZ)* と同一視できる。[位数(p-1)]
HとG/Hが巡回群であることを利用して、Gが巡回群であることを示す視点の考察である。
[1] Hが巡回群であること
[1-1] ずっと以前に私が考えた地に足ついた方法
[1-2] 局所体の乗法群の文脈
[1-3] p進logの紹介
[2] Gの生成元の構成
[2-1] 私が当初想定した構成
[2-2] リプライ元ツイートにあった構成
[2-3] 直積の視点
[3] 有限アーベル群の構造定理の文脈
[2-3]の根拠となる。
[1] Hが巡回群である
[1-1] この事実はずっと以前にhttp://searial.web.fc2.com/sorafune/1_2.htmlに書いたように、
x≡1 (mod pq) ⇔ xp≡1 (mod pq+1)
「例えばxが25N+1型ならばx^5は125N+1型になり、xが25N+1型でなければx^5は125N+1型にならない。」
という挙動から帰結する。
(この挙動を主張するのが、指数持ち上げの補題である。具体的に挙動を書くと親しみやすいと感じている。)
xを5N+1型だが、25N+1型でないとする。
x^5は25N+1型だが、125N+1型でない。
x^25は125N+1型だが、625N+1型でない。
x^125は625N+1型だが、3125N+1型でない。
・・
こうして、例えばx^k≡1 (mod 625) となるには、kは125まで達する必要がある。
ところが、5N+1型整数を625で割ったあまりは125種類しかないから、x^kはそれらを巡回網羅している。
すなわち、p=5,e=4の場合のHが巡回群である。この議論はp,eを変えても同様に機能する。
[1-2] より一般的な視点は、局所体の主単数群の乗法群である。(次のリンク先に紹介したpdfで知った。)
特に、pが奇素数の時、Z_pの主単数群の乗法群は、加法群としてのZ_pに同型である。これは、
http://searial.web.fc2.com/aerile_re/kyokusho1.htmlで紹介したように、
> 主単数群は、位数p^rのtorsionと、ef個のZ_pの直積の構造をしている
Z_pの主単数の場合は、e=f=1の場合である。p=2のときはr=1で、p≧3のときはr=0である。
[1-3] p進log,expという具体的な準同型がある。(ノイキルヒの代数的整数論に書いてあるのを読んで知った。)
s≧1/(p-1) とすると、s次主単数群に対して下記のlogの級数展開が収束する。
https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q11158473256で紹介した:
> 625で割った剰余類のうち、5で割って1余る剰余類の乗法群 U={1,6,11,16,...,621} と
> 625で割った剰余類のうち、5の倍数な剰余類の加法群 M={0,5,10,15,....,620} の間に
> 演算を保つ全単射(準同型)が存在する。
> しかもexpとlogの展開によって写像を具体的に表せる。
> xが5の倍数のとき、
> MからUへの写像:exp(x) = 1+x+x^2/2+x^3/6 + (625の倍数)
> UからMへの写像:log(1+x) = x-x^2/2+x^3/3 + (625の倍数)
> [1/2,1/3は625を法とする2,3の逆元として計算する]
> 次のような関係で、Uの乗法とMの加法が保たれる:
> exp(x+y)=exp(x)exp(y), log(xy)=log(x)+log(y)
> そしてそれらは互いに逆関数である:
> x∈U, y∈M に対して y=log(x) ⇔ exp(y)=x
> さらにexp,logの式の形から分かることにはx,yが上記関係の時、
> x-1が5でちょうどk回割り切れる ⇔ yが5でちょうどk回割り切れる。
この内容を認めるなら、Mは明らかに巡回群だからUも巡回群であり、
最後の行でk=1とおいたものを満たすx,yがそれぞれの生成元となる。
[2] Gがアーベル群で、部分群Hが巡回群で、G/Hも巡回群で、|H|が|G/H|と互いに素ならば、Gは巡回群
私はこのような図を思い浮かべて考察した(p=5,e=2の例)。
この例で、後で登場する G/Hの生成元b'には、2 mod 5 を想定して、
G→G/Hでb'に移るGの元bには、赤丸の2,7,12,17,22 mod 25 のどれかが該当する状況である。
赤丸の元は、4乗すると水色丸の元のどれかに移る。7だけが、1に移る。7^4≡1 (mod 25)
[2-3]の言葉で、(0,1)に相当するのが、7 mod 25 である。
[2-1] この場合については、[1-1]で紹介したページで、地に足をついた言葉で構成をした。
ここでは、同様の構成を、群の本格的な言葉で非具体的に描写する。
|H|=r, |G/H|=s とおく。rとsは互いに素と仮定している。
G/Hの生成元b'をとる。Gの元で、G→G/Hでb'に移るGの元bを1つとる。これはb^s∈Hを意味する。
Hの生成元をhとすると、Hは巡回群だから、b^s=h^kとなるkがとれる。
・k=1の場合、bがGを生成することが言える。
(あるいはh^kがHの生成元であればよいので、kがrと互いに素であれば良い。)
・そうでない場合、bの代わりに、a=b*h^yを考える。yをうまく調整してa^s=hとなるようにすることができる。
a^s=b^s*h^(ys)=h^k*h^(ys)=h^(k+ys)
k+ys≡1 (mod r) となるようにyを調整すれば良いことが分かる。
これは、rとsが互いに素であることから、可能である。
[2-2] しかしリプライ元ツイートの方法(このツイートで知った)は、もう少し巧妙だった。
これは上記の文脈では、a = h*b^r を考えれば良いというものである。(上記のkを使わなくてよい。)
実際、a^s = h^s*b^(rs)とおくと、b^(rs)=1 であり、
hが生成元で、rとsが互いに素ならば、h^sもHの生成元であることを使えば良い。うまくできている!
[2-3] 実は、Gは、HとG/Hの直積と同型である視点がある。これは次の[3]で一般的な視点から示すことができる。
そうすると、中国剰余定理から、HとG/Hの直積は、巡回群であることが(生成元を構成せずに)既に言えてしまう。
それはそうとして、直積の視点を使うと具体的な生成元を得られる仕組みが分かりやすいのでそれを説明する。
つまりここでは、GがHとG/Hの直積と同型であるという事実を知っていたとして、Gの生成元を得る仕組みの考察をする。
HとG/Hの直積を、{(x,y)|x∈Z/rZ, y∈Z/sZ}と表記することにする。(こちらでは演算は加法的に記述する。)
Hに対応する部分群は、(x,0)の形をした元の集まりである。
Hの生成元hに対応するこの表記の元を、(1,0)とおくことができる。
G/Hの生成元に移るGの元bに対応するこの表記の元は、(x,1)の形をした元のどれかである。
b^s = (sx,s)=(sx,0) [第2成分は位数sの巡回群だから] はHに属している。
[2-1]でb^s=h^k とおいたのは、この視点ではsx=kとおくことに相当している。
(x,y)がGの生成元である ⇔ xがHの生成元 かつ yがG/Hの生成元 である。
hとbを使って、xがrと互いに素で、yがsと互いに素なものを構成すれば良い。
そこで、hが(1,0)に、bが(x,1)に対応していることを知っていると、構成の仕組みが分かりやすい。
[2-1]では、b=(x,1)にh=(1,0)を何回か作用させることで(1,1)を得る仕組みだった。
[2-2]では、b^r=(rx,1)=(0,1) [第1成分は位数rの巡回群だから]を利用して、h*b^r=(1,0)+(0,1)=(1,1)を得る仕組みだった。
[3] 有限アーベル群の構造定理:「有限アーベル群は、いくつかの巡回群の直積である」
(今回必要とするのはそのうちの第一段階的なものだけである。)
この定理は、証明はそれなりに難しいと感じている。検索すると、
http://www.math.okayama-u.ac.jp/~yoshino/pdffiles/alg4.pdf
の問題4.3.2に一連の誘導付きの練習問題として取り上げられていた。
(a) アーベル群Gの位数がrs、rとsは互いに素のとき、
G_r = {x∈G| rx=0}, G_s = {x∈G| sx=0} とおく。
f:G_r×G_s → G を、f(x,y)=x+y と定めるとこれが群の同型を与えることを証明せよ。
このことから、有限アーベル群の構造定理の証明は、|G|が素数の冪の場合に帰着する。
(b)以降でそれを扱っているが、今回の興味はこの(a)に限るので踏み込まない。
まずこの練習問題をやっつけた:
/* 注意:Gがアーベル群でないときは成り立たない。3次対称群(rs=6)が反例になる。 */
[(a)の証明]
・fが群の準同型となっていること:
f(x,y)+f(z,w) = f(x+z,y+w) は簡単に確認できる。(例えばここでアーベル群という条件を使っている)
・fが単射であること:x∈G_r, y∈G_s, f(x,y)=0 のときに、x=y=0となること:
f(x+y)=x+y=0で、rx=0 だから、ry=0 である。一方でy∈G_sだからsy=0でもある。
rとsは互いに素だから、これはy=0を意味する。
(Ar+Bs=1となるA,Bがある。Ary+Bsy=y を得て、左辺はry=0とsy=0により0である。)
・fが全射であること:任意のz∈Gが、x∈G_rとy∈G_sの和で表せること:
z∈Gに対してsrz=0だから、rz∈G_sである。
G_sの元の指数はsの約数で、sとrは互いに素なので、G_sからG_sへのr倍写像は単射であり、従って全単射である。
(位数が等しい有限群の間の単射は、全単射である。)
従って、rz = ry となる y∈G_sが一意的に存在する。
x=z-y とおくと、r(z-y)=0 だから、x∈G_rであり、従って目的の分解z=x+yを得た。
[補足]
上記の状況で、|G_r|=r で |G_s|=s である。
大げさかもしれないけど、シローの定理を使う説明しか思いつかなかった。
|G_r|がrと互いに素な素因数pを持つとする。
シローの定理よりG_rには指数pの元xがあるが、
rとpが互いに素ならrx=0とはならない、これはG_rの設定に反する。
従って、|G| = |G_r|*|G_s| の分解において、rと互いに素な素因数は|G_s|が担当しなければならず、
同様にsと互いに素な素因数は|G_r|が担当しなければならず、満たすには|G_r|=r,|G_s|=sとするしかない。
[系]
上記の状況で、Gが位数rの部分群Hを持つならば、HはG_rと同じ部分群であり、従ってG/HはG_sに同型となる。
(従って、このときGは、HとG/Hの直積に同型となる。)
Hは位数rだから、x∈Hはrx=0を満たす。すなわちH⊂G_rである。
ところが|H|=|G_r|だから、H=G_rである。
最後の主張は直積分解G=G_r×G_sによる。
あるいは具体的な全射準同型 G→G_s の核を観察しても良い:
(a)で議論したように、z∈Gに対して、rz=ryとなるy∈G_sが一意的に存在するのであった。
この関係でzをyに移すのが、具体的な全射準同型 G→G_s であり、
その核は実際 rz=0 となるようなz、つまりG_rである。
2020/05/02
ノート一覧