局所体(2):暴分岐拡大の様子

https://www.maths.nottingham.ac.uk/personal/ibf/book/book.html をもとにした勉強ノートで、局所体(1):乗法群の構造の続きである。 拡大体のノルム群の像がなす部分群を調べるのが目標である。 その際に、暴分岐の部分が、予想以上に複雑だった。 その内容をこのノートでまとめることにした。 資料でいうと3章の内容である。 設定は前回と同様である。 標数0で、剰余体が有限体のもの、具体的にはp進数体Q_pの有限次元拡大体K上の有限次元拡大だけを扱う。 さらに、今回はK上のp次のガロア拡大(従って巡回拡大)だけを考察対象にする。 他の文献と異なるかもしれない習慣を再掲する: KのQ_pに対する分岐次数をe, 剰余次数をfとおく。 付値の記号v(x)は、局所体ごとに定め、値域が整数全体になるようにする。 KとLに対して異なる値が定義されるので区別する必要がある:vK(p)=e, vL(p)=peである。 もう1つのpの付値を1と定める流儀の付値を大文字のVで使うことがある:V(p)=1 ここからは、このノート特有の習慣である。 Kの素元をπ,Lの素元をα,ガロア群の生成元をσ, vL(σ(α)/α-1)=sとおく。 すなわちσ(α)=α+η*α^(s+1), V(η)=0 とおくことができる。 (sはα,σの取り方に依存しないが、ηはそれらの取り方に依存する。) L/Kが暴分岐とは、V(α)=V(π)/pであることを意味する。 ・α^p=πの関係があるようなときが一番わかりやすい。  この場合は拡大がガロア拡大になるためにはKが原始p乗根を持っている必要がある。 ・ところが他のものもある。例えばQ_3は1の原始3乗根を持っていないが、3次の暴分岐なガロア拡大が存在する。  LMFDBで検索すれば得られる。x^3-3x^2+3の根を添加した拡大がそうらしい。 この由来は[結果3]で解決する。 [追記] (2020/4/4) ・vK, vLを一部区別していなかったので区別した。ついでに下付き文字にした。 ・結果[2-1]の記述が間違っていたのを直した。 ・結果[2]に追記した。
結果 [結果1:素元の冪のトレースの行先] (p.71のProposition) Lのイデアル(α^k)のトレース像は、Kのイデアル(π^(s+floor[(k-s)/p]))全体である、 これは次の結果を使うための補題として使われる。 [結果2:主単数群に対する作用についての規則] (p.72の命題1.5の図式) αをLの素元、vL(σ(α)/α-1) = s とおく。 [2-1] k<s のとき Lのk次主単数全体のノルム像は、Kのk次主単数全体である。 [2-1] k<s のとき Lのk次主単数全体のノルム像は、Kのk次主単数であり、次の意味で全射に近い性質を持つ:  「任意のk次主単数xに対して、xyがノルム像に居るような(k+1)次主単数yが存在する」 [2-2] k=s のとき Lのk次主単数全体のノルム像は、Kのk次主単数のうち指数pの部分群である。(f=1なら単に(k+1)次主単数全体と言える) [2-3] k>s のとき Lのk次主単数全体のノルム像は、Kのs+floor[(k-s)/p]次主単数全体である。 [追記] 主単数のノルム像の状況を以下のように描写できる:  主単数のノルム像の生成元の1つをp乗元であるとおける。  すなわちノルム像の生成元を、c_i[i=1..N]、c[N]=c'^nとなるc'∈Kが存在するとおける。  このとき、c_i[i=1..N-1]とc'はKの主単数群の生成元で、c'はちょうどs次主単数である。 [結果3:暴分岐拡大の決定] (p.75からの命題(2.3),(2.4),(2.5)の内容) p次のガロア暴分岐拡大は次の2種類である: [3-1] Kが1の原始p乗根を持っていて、L=K(α), α^pがKの素元となるもの  このとき、s=ep/(p-1)である。(1の原始p乗根ζの付値はV(ζ)=1/(p-1)だからeは(p-1)の倍数である。) [3-2] x^p-x=rの根の添加による拡大。ここで-ep/(p-1)<vK(r)<0で、vK(r)はpの倍数でない。  このとき、s=-vK(r)である。 (rの条件は、1+1/rがKの乗法群の生成元の1つであることに相当する) ・逆に、この形の拡大は、次数pの暴分岐拡大である *結果3自体は結論に必要がない。しかし具体例の構成に役立つ結果であるし、興味深いので書いた。 しかし証明の最後のほうが追えていない。 また、x^p-x=r による拡大と、x^p-x=r' による拡大が同じ拡大体になるrとr'の条件はまだ分からない。 [結果4] L/Kをn=素数次のガロア拡大、従って巡回拡大とする。 この時Lの非零元のノルム像は、Kの乗法群の指数nの部分群をなす。
このノートでは、具体例に沿って[結果2]を直接的に観察する。 一般な場合の根拠を得るために、直接的な証明を試みたができなかった。 資料に書いてあった、[結果1]を経由する証明を、具体例に沿って追ったものを紹介する。 具体例を作るには、[結果3]を先取りした。 kとsの大小関係の場合分けが分かりやすいようにsをある程度大きめにした。 そのため、Kの分岐次数eが大きい必要があり、そこで前回も使ったe=7の例を題材にした。 [具体例] K=Q_3(π) [π^7=3] 上の、x^3-x=1/π^4 [s=4の狙い] の根λによる拡大 L=K(λ)で考える。 V(λ)=-4/21なので、α=-1/(Xπ)などとおくとV(α)=1/21でこれをLの素元として採用した。 最小多項式を求めると、α^3-π^3*α^2+π=0 である。 αの共役をβ,γとおく。 解と係数の関係から β,γ = [(π^3-α)±sqrt[π^6+2απ^3-3α^2] ]/2 と表せる (望むならここからβ,γを具体的にα進展開することもできるだろう。) 例えば(β-α)(γ-α)=3α^2-2απ^3 より、V((β-α)(γ-α))=V(απ^3)=1/21+9/21=10/21 V(β-α)=V(γ-α)であることを使うと(証明はしてない)V(β-α)=5/21 すなわち β=α+η*α^5 (V(η)=0) とおくことができて、s=4だと確認できる。 そこでLのk次主単数のノルムをコンピュータで計算した: N(1+α) = 1-π+π^3 ∈U_1 N(1+α^2) = 1+π^2+2π^4+π^6 ∈ U_2 N(1+α^3) = 1-3π+3π^2-π^3+9 ∈ U_3 N(1+α^4) = 1-3π^4+2π^8+π^12 ∈ U_8 N(1+2α^4) = 1+8π^8+2π^12 ∈ U_8 N(1+α^5) = 1-π^5+.. ∈U_5 N(1+α^6) = 1+3π^2-18π^3+π^6+.. ∈ U_6 N(1+α^7) = 1+7π^5+.. ∈U_5 N(1+α^8) = 1+21π^8-6π^16.. ∈U_15 N(1+2α^8) = 1+64π^8.. ∈U_8 N(1+α^9) =1-3π^3+3π^6-π^9+.. ∈ U_9 N(1+2α^9) =1-6π^3+12π^6-8π^9+.. ∈ U_9 N(1+α^10) = 1-10π^6+... ∈U_6 N(1+α^11) = 1-22π^9+... ∈U_9 N(1+α^12) = 1+3π^4+.. ∈U_11 N(1+α^13) = 1+13π^7+... ∈U_7 ここにどのような規則があるのか。 N(1+α^k),N(1+2α^k)がj次主単数に属するような最大のjを表にすると: k 1 2 3 4 5 6 7 8 9 t j q k j 1 2 3 7 5 5 5 8 8 6 9 j 7 (*表に現れるt,j,q,kは10,11,12,13のことである。) k次主単数全体は、乗法群として(1+α^i)[i≧k]で生成されるから、 k次主単数全体の像がj'次主単数に属するような最大のj'=j'[k]は、 上の表のj=j[k]を使うと、j'[k] = min(j[i]) [i≧k] として得られる。 k 1 2 3 4 5 6 7 8 9 t j q k j' 1 2 3 5 5 5 5 6 6 6 7 7 7 そうすると、 k<4のとき、j'=k k>4のとき、j'=4+[(k-4)/3] という、s=4を境に様子が変わっている規則が明確になる。 ノルムの展開の様子を詳しく観察する。 ちょうどk次主単数(1+a*α^k) [V[a]=0] のノルムを考える。 aの共役をb,cとおく。 (1+a*α^k)(1+b*β^k)(1+c*γ^k)を展開した時に ・t1 = Tr(a*α^k) = (a*α^k+b*β^k+c*γ^k)に由来する項 ・t2 = Tr(abα^kβ^k) に由来する項 ・t3 = N(a*α^k) = abc(α^k*β^k*γ^k)に由来する項 のどれかが支配的になり、k=sを境に様子が変わる仕組みである。 t3はπでk回割り切れるが、t1,t2が簡単でない。 結果としては、k<sではt3が支配的で、k>sではt1が支配的である。 まずTr(α^k+β^k+γ^k)がπで何回割り切れるかをjとして調べると以下の結果である。 k 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 t j q k j 7 3 6 8 4 7 9 5 8 t 6 9 j 7 周期3で1つずつ増えていくことは、この具体例に限って議論するなら、 最小多項式 α^3-π^3*α^2+π=0 の両辺にα^kを掛けてTrをとることで、 j[k+3] = min(1+j[k], 3+j[k+2]) を得られるので説明がつく。 そうすると、Tr(t1[k])=Tr(a*α^k)については、 付値は、Tr(α^i) [i≧k] の付値の最小値以上である、と言える。 (aをうまく選べばその最小値をとることができる。) なぜなら a=Σd[m]α^m [m=0..] と展開して Tr(a*α^k) = Σd[m]Tr(α^(k+m)) [m=0..] と考えれば良い。 同様に、β=α+ηα^5を使って、Tr(t2[k])をα進展開することを考えると、 t2[k]の付値は、Tr(α^i) [i≧2k] の付値の最小値以上である、と言える。 そうすると、vK(N(1+a*α^k)-1)=min(v(t1),v(t2),v(t3)) の関係式であり、 k 1 2 3 4 5 6 7 8 9 t j q k t1 3 4 4 4 5 5 5 6 6 6 7 7 7 t2 4 4 5 6 6 7 8 8 9 t t j q t3 1 2 3 4 5 6 7 8 9 t j q k という結果を得る。 この表は、t1,t2については不等号で、t3については等号の意図である。 例えばk=8のときvK(t1)≧6, vK(t2)≧8, vK(t3)=8である。 不等号≧については、主単数aをうまく選べば等号が成立するものがある。 この表から、vK(N(1+a*α^k)-1)=min(vK(t1),vK(t2),vK(t3))を書き出すと k 1 2 3 4 5 6 7 8 9 t j q k v 1 2 3 4 5 5 5 6 6 6 7 7 7 となって、先のj'と名付けた結果を復元できた。 主張の一部を代数的な言葉で命題にしてみた: 「pを素数としてここでは0<s<pな整数sをとる。 A[1]=A A[i+1] = A[i]+A[i]^(s+1) によって、Aの多項式A[1],A[2],..A[p]を定める。 mを正の整数として、k=s+pmとおく。 このとき、N=Π(1+A[k]^k) をAの多項式として展開すると、 A^(ps+pm)の係数が初めてpの倍数でないものになる。」 ・例えばp=5,s=3,m=1の場合 A=A B=A+A^4 C=B+B^4=(A+A^4)+(A+A^4)^4 D=C+C^4 E=D+D^4 に対して、N=(1+A^8)(1+B^8)(1+C^8)(1+D^8)(1+E^8)を考える。 計算機によると N=1+5A^8+80A^11+1160A^14+10A^16+15040A^17+320A^19+180604A^20+... で、確かにA^20の係数が初めて5の倍数でないものになる。 これは純粋に代数的な命題であるから、直接的に証明できるのかなと思ったが、うまくできなかった。 そういうわけで、資料に書いてある、Trの性質を経由する証明を追った。
一般のpに対しては、t1,t2,t3に相当する項はp個ある。 それはすなわちp個の基本対称式であるが、 t3に相当するp次基本対称式(すべての積)の挙動は簡単で、t3[k]=kである。 t1に相当する1次基本対称式(すべての和)の挙動が、このサブセクションで扱う[結果1]である。 他の基本対称式の付値の下限は、先のt2と同様の考察から、t1の付値の下限以上なので無視できる。 [結果1]の再掲 「イデアル(α^k)をTrで写した像を(π^j)とおくと、j=s+1+[(k-1-s)/p]の関係式である」 資料に書いてある証明を、この具体例に沿って追った。 (具体的な数で書いてあるが、議論は簡単に一般化できるものである。) αの最小多項式(X^3-π^3*X^2+π)をf(α)とおく。 f(X)=(X-α)(X-β)(X-γ) f'(α) = (α-β)(α-γ) = (-ηα^5)(-2ηα^5) + 高次の項 となることに注意。 [補題1] 暴分岐拡大では素元αの最小多項式f(X)はアイゼンシュタイン多項式である。 (素元αと共役たちは付値が正であるから、基本対称式も付値が正である。) [補題2] Tr[ 1 / (α-β)(α-γ) ] = 0 Tr[ α / (α-β)(α-γ) ] = 0 Tr[ α^2 / (α-β)(α-γ) ] = 1 恒等式 1/f(X) = 1/f'(α)*1/(X-α) + 1/f'(β)*1/(X-β) + 1/f'(γ)*1/(X-γ) でXを超越元とみなすと Tr[1/(X-α) /(α-β)(α-γ)] = 1/f(X) 1/(X-α) = 1/X + α/X^2 + α^2/X^3 +... ≡1/X+α/X^2+α^2/X^3 (mod 1/X^4) 1/f(X) = 1/(X^3+...) ≡ 1/X^3 (mod 1/X^4) これは(1/X)の冪級環を考えている。後半の合同は[補題1]による。 「係数比較」により上記の結果を得る。 (この証明がとても巧妙だと思った。) [補題3] Tr [c_1*α^1] = π^3 Tr [c_2*α^2] = 0 Tr [c_3*α^3] = 0 Tr [c_4*α^4] = π^4 Tr [c_5*α^5] = 0 Tr [c_6*α^6] = 0 Tr [c_7*α^7] = π^5 ... となる単数たちc_kが存在する。 例えば前の補題の結果にπ^5を掛けて Tr[ π^5 * α^2 / (α-β)(α-γ) ] = 0 Tr[ π^5 * α^2 / (α-β)(α-γ) ] = 0 Tr[ π^5 * α^2 / (α-β)(α-γ) ] = π^5 と加工して、π=α^3*単数, (α-β)(α-γ)=α^10*単数 であることを使えば、 [s,ηの定義より(α-β)(α-γ)= (-ηα^5)(-2ηα^5) + 高次の項だったから] Tr [c_5*α^5] = 0 Tr [c_6*α^6] = 0 Tr [c_7*α^7] = π^5 を得る。π^5を掛ける代わりにπ^4を掛ければc_2,c_3,c_4の存在が言える。 イデアル(α^k)をTrで写した像は、 Tr[c_i*α^i] (i≧k)の線形結合で生成されることから、[結果1]の内容が従う。 「イデアル(α^k)をTrで写した像を(π^j)とおくと、j=s+1+[(k-1-s)/p]の関係式である」 今回の場合は先のt1の行に書いた結果(再掲): k 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 .. j 3 4 4 4 5 5 5 6 6 6 .. ということになる。
[結果2]を示すには: k次主単数 1+a*α^k [V(a)=0]のノルムを、1+r*π^j [V(r)=0] とおく。 ・k<sの場合は、N(a*α^k)が単独で支配的となる。  a^3≡r (mod α)であり、j次主単数群全体が像となる。 (aが剰余類0,1,2を動くとき、rは0,1,2を渡る) ・k>sの場合は、Tr(a*α^k)が支配的であり、  特に(k-s)がpの倍数のときは、Tr(a*α^k)が単独で支配的となる。  r≡a*(単数) 的な挙動をし、このときもj次主単数群全体が像となる。 ・k=sの場合はよく観察する必要がある。Tr(a*α^k)とN(a*α^k)がともに支配的となる。  このとき、rは a^3-c*a のような挙動をする。  ここでcは上記に現れたc_4に由来する定数で、由来をたどるとある単数の(p-1)乗であることが示される このとき、a -> a^3-c*a という写像は、剰余体の加法群の自己準同型写像で、 核がp個の部分群、従って余核の大きさもp、すなわち像は指数pの部分群をなすのである。 (ただし今回のような剰余指数f=1のときは、剰余体の大きさがp、c≡1で結局零写像ということになる。)
[結果3] [3-1]がガロア拡大であることはすぐにわかる。 [3-2]がガロア拡大であることから確認する。 ・K=Q_pのときは、rの条件は結局 vK(r)=-1 に制約される。 例えばK=Q_3, x^3-x-1/3 の根λによる拡大L=K(λ)を考える。 これがガロア拡大であることは、次のように観察される: 方程式 x^3-x-1/3=0 を考える。x=λ+yとおく。 (λ+y)^3-(λ+y)-1/3 = 0 方程式は g(y) = y^3 + 3λ*y^2 + (3λ^2*-1)y = 0 となる。 ここで g(y)≡(y^3-y) (mod 3) であるから、 [注意:このmod 3は、L=K(λ)の整数環の元を(3)という単項イデアルで割った剰余類で考えている] ヘンゼルの補題により、g(y)=0 はLの整数環において解を3つ持つことが言え、ガロア拡大と言える。 ・zをパラメータとして、方程式x^3-x-z/3 の根による拡大を考える。 zがどのような値の時に同じ拡大になるのかを考察したい。 結果的には、z=1,4,7のときには違う拡大を与えるらしい。(証明できていない) z'=±(9N+z) [Nは整数] のとき、z'とzで同じ拡大を与える仕組みであることを説明する: x^3-x-z/3=0 の解の1つをx=λとして、方程式 x^3-x-z'/3=0 を考える ・z'=9N+z のときは x=λ+yとおくと y^3 + 3λ*y^2 + (3λ^2*-1)y + λ^3-λ-z'/3 = 0 y^3 + 3λ*y^2 + (3λ^2*-1)y - 3N = 0  となるのでヘンゼルの補題で解決する。 ・k'=-(9N+z) のときは x=-(λ+y) とおけば同じ形になる。 ・LMFDBとの比較:  α=-z/λとおくと。αはX^3-3X^2+3r^2=0を満たす。  3z^2=3,12,21の場合がLMFDBに書いてある方程式となり、上記の3つの場合z≡1,4,7(mod 9)に相当する。 こう考えると、一般の場合も、z'≡±z (mod π^(s+1)) ならば x^3-x-z/π^s とx^3-x-z'/π^s が同じ拡大を与えると言えると思った。 そうすると、固定されたsに対して、拡大は高々 p^(sf) 種類であり、 sが取りうる値はe種類なので、暴分岐拡大の個数が有限個であることが言えると思う。 しかし、この評価では、局所類体論の結果を考えて、乗法群の部分群と比べると、多すぎるような気がする。 分からない。 ============= 証明を追うことに進む。(追記:ただし最後が追えていない・・) [復習] (前回のノートの結果の系として、前回のノートにも明示的に書き加え、ここにも引用する。) Kに含まれる1の原始p^r乗根のうちrが最大のものをζとする。 ・k>ep/(p-1)のとき、k次主単数は、ある(k-e)次主単数のp乗となる。 ・k=ep/(p-1)のとき、k次主単数は、ある(k-e)次主単数のp乗に、ζを何回かかけたものとおける。 ・k<ep/(p-1)のときは、ちょうどk次主単数はp乗根を持つ ⇔ kがpの倍数 (そのとき、そのk次主単数は、あるちょうど(k/p)次主単数のp乗となる。) [段階1] ・s≦ep/(p-1)である。等号が成り立つならば、sはpの倍数である。 ・もしsがpの倍数ならば、s=ep/(p-1)で、Kは1の原始p乗根を持つ。 (従って、最初の主張で等号が成り立たないならば、sはpの倍数でない。) [結果2]によるとKのs次主単数はノルム写像により網羅されないのであった。 Kのp乗数はノルム写像の像に入ってしまうから、 s次主単数がすべてp乗数となるようなsは不適である。 このことと、[復習]の内容により、上記が要求される。 [段階2] ・もしsがpの倍数ならば、L=K(β), β^pはKの素元、とおける。 *p=2, L=Q(√-1)のような例では、s=1はpの倍数でない。  sがpの倍数であることが証明の鍵となる。 Lの素元αをとって、αのノルムをπとおく。 N(α) = α*(α+η_1*α^(s+1))*(α+η_2*α^(s+1))... = α^p*Π(1+η_i*α^s) と書ける。 ここでsがpの倍数なので、先の[復習]より、N(α)はβ^pにζを何回か掛けたものとおける。 ということは、N(α)をζで何回か割ったものが、β^pとなる。このβが目的を達成する。 [段階3] ・s<pe/(p-1)とする。従って前の結果より、sはpの倍数でない。  関数 X→X^p-X をP=P(X)と名付ける。  vK(λ)=-sかつ、σP(λ)=P(λ)となるλの存在を示すことが目的である。 [補題] (p.74の2.2) vK(x) = k とおくと、vK(σ(x)-x) = vK(x-b)+s となるb∈Kが存在する。 x = Σc[k]*A^k [k=0..p-1] (c[k]∈K)とおいて、b=c[0]とおけば良い。 k>1の項については σ(A^k) = (A+A^(s+1))^k = A^k + k*A(k+s) + ...となるから、ちょうどs個高次の項が存在する。 すなわち 「A^kの(K係数)線形結合で表してk=0の項を除いたものは、共役との差の付値が、自身の付値にsを足したものとなる。」 <間違いが見つかったので削除・・まだ追えていないようです>
[結果4] K/Q_pの有限次拡大、L/Kをn次拡大とする。 ガロア拡大に限定し、さらにnは素数に限定して考察する。 LからKへのノルム写像の像、ノルム群を考える。 像はK^nを含むから、像が指数有限であることが比較的すぐに分かる。 ノート(1)の結果から、局所体Kの主単数uは u = ζ^k * Π(1+θ_j*π^i)*c_ij [k∈{0,..,p^r-1}, i∈I, j∈J, c_ij∈Z_p] の形で表せるのであった。(|I|=e,|J|=f) 局所体の主単数群は、Z/(p^r)Z × (Z_p)^(ef) の構造をしているのだった。 従って、局所体自体の乗法群全体は、素元部分と、タイヒミュラー指標部分を合わせて、 Z × 1/(p^f-1)Z × Z/(p^r)Z × (Z_p)^(ef) の構造をしていることになるのだった。 具体的には、局所体の非零元xは、 x = π^a × ω^b × u [πは素元、ωは1の(p^f-1)乗根] の形で書けるというわけである。 乗法群の構造を明らかにしたことで、どのような部分群があるのかを理解しやすくなった。 具体的な局所体での乗法群を観察してから、 [4-1] 不分岐拡大 [4-2] 順分岐拡大 [4-3] 暴分岐拡大 それぞれについて議論する。 [具体例] Q_5の乗法構造は、Z×Z/4Z×Z_5と同型であることが分かった。 具体的には、x=5^a*ω^b*6^c [a∈Z, ωは1の原始4乗根, b∈{0,1,2,3}, c∈Z_5] と書けることが分かった。 この同型によってQ_5の元を、(a,b,c), a∈Z, b∈Z/4Z, c∈Z_5と記述する。 分かりやすい部分群としては、3つの直積因子のうち2つが全体で、残りが部分群な形をしているもの: ・a=nZな部分群(不分岐拡大) ・b=0な部分群(順分岐拡大) ・c≡0 (mod 5)な部分群(暴分岐拡大) がある。 (局所類体論の結果からこれらはQ_5のある種の拡大体に対応する。  括弧の中に対応する拡大の種類を書いた。) ・それ以外の、例えばb≡a (mod 4)で制約される元のなす部分群もある。 もう少し考えると、b≡ka (mod 4)で制約される元のなす部分群がk=0,1,2,3に対して存在する。 これは局所類体論的な状況としては、 Q_5(5^1/4), Q_5(10^1/4), Q_5(15^1/4), Q_5(20^1/4) の4種類の順分岐拡大に対応する。 ・同様に、k=0,1,2,3,4に対して、c≡ka (mod 5)で制約される元のなす部分群がある。 これに対応する5つの拡大体は、暴分岐拡大で、 https://www.lmfdb.org/LocalNumberField/?p=5&n=5 のGalois groupがC5となっている5つの拡大:以下の多項式の根の添加による拡大: x^5-5x^4+5 x^5-5x^4+30 x^5-5x^4+55 x^5-5x^4+85 x^5-5x^4+105 が対応するはずであり、 これは[結果3]の視点では、 X^5-X=1/5,6/5,11/5,16/5,21/5 による拡大たちに対応するだろう。 [具体例2] ・K=Q_3(π), π^7=3 の場合(この一連のノートで取り上げる例) Kの非零元は、x=π^a*Π(1+π^i)^c_i [i∈{1,2,4,5,7,8,10}, C_] の形で一意的に書けるのであった。 なので、乗法構造は、Z×(Z_3)^7の構造をしている。 そこで、例えば、指数3の乗法群を記述することを考える: これは、次数8の線形空間の、次数7の部分空間を記述するようなもので、 ・7個の線形独立な生成元で記述する ・方程式で記述する:x_0*a+Σx_i*c_i≡0 (mod 3) で制約される部分群 こうすると、8個の係数[x_0:x_1:x_2:...]の比で同一視される。 この視点で、(3^8-1)/2=3280 種類あることが計算できる。 だから、Kの3次の暴分岐拡大は、3280種類あると思う。たぶん。
[4-1] 不分岐拡大 Kの元を、π^a*ω^b*u (πは素元、ωは1の原始(p^f-1)乗根、uは主単数)と分解して記述する。 不分岐拡大のノルム群が a=nZ で制約される部分群である。これを説明する。 すなわち「ノルム群は、aがnの倍数となるような元の集合である。」 すなわち「不分岐拡大では、ノルム写像の単数群への制限は全射」である。 これは以前は難しい事実だと思っていたが、以下の説明で、そうでもないと感じた。 n乗数であるπ^nが含まれることは簡単である。あとは、 ・任意の主単数が含まれること、 ・任意の剰余類が含まれること が言えれば良い。 前者はヘンゼルの補題から言える。 後者は、「有限体の有限次拡大l/kではノルム写像は全射」という事実による。 この事実の証明の方針だけ2つ紹介する。 [1] 既約多項式の数え上げ(私が考えた方法) 任意のa∈k*に対して、k係数のn次の既約多項式で、定数項がaになるものの存在を言えば良い。 「a∈k*に対して、n次の既約多項式で、定数項がaとなる個数は、aによらず一定である」 をnについて帰納法で示せば良いと考えた。 たぶんこの方針で示せると思うけど議論は長くなり、インターネットで見かけた次の方法がよりうまい: [2] フロベニウスによる共役描写によるもの(英語Q&Aサイトで見かけた方法) 巡回群としての生成元をrとする。Z/pZ上の共役はr^p, r^(p^2), ... と表される。 この記述を使ってl/kのノルムを考察すれば、kの巡回群としての生成元となることが分かる。
[4-2 ] 順分岐拡大 先と同様にKの元を、π^a*ω^b*u (πは素元、ωは1の原始(p^f-1)乗根、uは主単数)と分解して記述する。 「ノルム群は、a=0では、bがnの倍数となるような部分群である。 ノルム写像の像にはa=1な元が含まれて、その1つをπ*ω^b1*u1とおくと、 ノルム群は、b≡a*b1 (mod n) を満たす元の集合である。」 ・生成元の言葉では、(a,b,u)=(1,b1,0)と、(0,0,u)[任意の主単数u]で生成される部分群 ・方程式の言葉では、x*a-b≡0 (mod n) で制約される部分群 Lの素元をα、Kの素元をπとする。 n次順分岐の場合、α^n=πとなるようにα,πを設定できる。 (この事実はp.53の命題3.5に書いてあるがここでは追わない。) ここからa=1な元が含まれることは言えている。 ここでガロア拡大に限定して考察するから、Kは1の原始n乗根を持つ必要がある。 すなわちnは(p^f-1)の約数で、この部分群は指数nである。 もう1度、n乗数はノルム写像の像にいることに注意する。 ・順分岐の定義からnはpと互いに素であるから、  主単数群の乗法構造を眺めれば、すべての主単数はn乗根を持つことが分かる。 (それは位数p^rの巡回群と、Z_pの加法群の直積に同型であり、これらはnで可除だから。)  従って、ここから、任意の主単数はノルム写像の像にいることが言える。 ・剰余体部分は、nで可除でない。  nは(p^f-1)の約数で、この部分群は指数nであるから、n乗数は指数nの部分群をなす。 ・Lの元は、α^a*ω^b*u [α^p=π]と書ける。これを(a,b,u)と表す。  (a,b,u)で表される元のノルム写像の共役を(a',b',u')とおくと、  a=a', b=b'が成り立つ。(説明しない・・)  その結果、ノルム写像の像はbがnの倍数なものにしかならない。
<暴分岐の場合> 先と同様にKの元を、π^a*ω^b*u (πは素元、ωは1の原始(p^f-1)乗根、uは主単数)と分解して記述する。 暴分岐では順分岐と違って、L=K(π^(1/n))となるKの素元πが存在するとは限らない。 分かりやすい例として、K=Q_2, L=K(√-1)がある。 別の例は、先に登場したQ_5のx^5-5x^4+5による拡大などである。 ・ヘンゼルの補題から、剰余類の像は全体である。bはすべての値を取り得る。 ・像にはa=1な元が含まれる。 というのは分かるが、主単数群の所が、難しかった。 しかしこれを、[結果2]で解決した。 ・主単数の像は、指数pの部分群をなす。 そういう事情で、全体としても、指数pの部分群をなす。
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