<標数正の局所体>

標数0の局所体について、以前勉強した。
http://searial.web.fc2.com/aerile_re/kyokusho1.html
資料は、Local Fields and Their Extensions by I. B. Fesenko and S. V. Vostokov である。

乗法群K*の構造を明らかにして、どのような部分群があるのかを記述した。
不分岐、順分岐、暴分岐を与える拡大を具体的に描写し、ノルム群がどのような部分群になるのかを観察した。

今回は、標数が正の場合に同様の観察を(少し)行う。
特に、K=F_q((t))の形をした局所体を扱う。特に、K=F_5((t))の場合を具体的な観察に使う。

#ただし議論は単拡大に限られている。
この視点で、単拡大に限らない場合は、資料のp.250以降でも議論があった。
明示的な公式も与えられているようだ。しかし難しいので踏み込まない。

記号や習慣、概念は前回に書いてあるのと同様とする。
k次主単数をU_kと書き、k次主単数だが(k+1)次主単数でないものを「ちょうどk次主単数」と呼ぶ。

付値v(x)は、局所体ごとに定め、値域が整数全体になるようにする。
KとLに対して異なる値が定義されるので区別する必要がある:
例えばK=F_q((t))に対してL=K(√t)と拡大した場合、v_K(t)=1, v_L(t)=2である。

*動機としては、この次に、標数が正の大域体、すなわちF_q(t)の類体論の様子を知りたい目標がある。


・p乗写像の性質 (p.14) p乗写像は、U_iをU_piに単射する。 今回の状況では剰余体が完全(p乗写像で閉じている)なので、π^{pi+1}を法として全射でもある。 すなわち、p乗写像は、ちょうどi次主単数を、ちょうどpi次主単数に全単射する。 ・乗法群の構造(p.18) Kの主単数は、無限個のZ_pの直積に同型であり、 生成元として、1 + θ_ij*j*π_i をとれる。ここで:  iはpと互いに素(従って生成元は無限個)  jは剰余体F_qをF_p上の線形空間とみなしたときの基底  θ_ijは剰余類がF_p*に属するような任意の単数で良い Kの乗法群全体は、Z×Z/(q-1)Z×Z_p^∞ 的な感じになる。 (「素元部分」「剰余体部分」「主単数部分」に分解した) #例 K=F_5((t))の場合、1+t, 1+t^2,1+t^3,1+t^4,1+t^6,..が生成元になる。 (tの指数が5の倍数のときを飛ばせば良い) すなわちK*の元は、t^a*b*(1+t)^c1*(1+t^2)^c2*(1+t^3)^c3*..., a∈Z, b∈{1,2,3,4}, ck∈Z_5 の形で一意的に表せる。 例えば1+3tを得るためにckを設定するには、 (1+t)^3 でtの係数を合わせ、 (1+t)^3*(1+t^2)^2 でt^2の係数を合わせ、 (1+t^3)^N でt^3の係数を合わせ、 (1+t^4)^N でt^4の係数を合わせ、 (1+t)^5N でt^5の係数を合わせ・・・を繰り返していけば良い。 Z_5では2は可逆なので、K*の指数2の部分群は、Z×Z/4Zの指数2の部分群に対応する3つしかない。 それらは、√2、√t、√2tを添加した拡大体のノルム像に対応する。 局所類体論により、Kの2次拡大はこの3つしかないはずである。 本当に他の2次拡大は無いのか? ・X^2+2X+t の根を添加した場合 X = -1+√(1-t)であるが、この場合、 √(1-t) = 1-t/2-t^2/8-t^3/16-5t^4/128-... は既にKに居る。 ・X^2+tX+t の根を添加した場合 X=-t±√(t^2-t) であるが、この場合は、 √(t-1)は既にKに居るから、結局√tを添加するのと同等である。 #もしKの標数が5じゃなくて2だったら、この議論は成り立たず、指数2の部分群は無限個存在する (乗法群の構造側では、Z_5だった所が代わりにZ_2になるので、状況が変わる。)  一方標数が5の場合には、Z_5には指数5の部分群がるので、指数5の部分群は無限にある。 <不分岐、順分岐> ・不分岐拡大では、Lの単数は、Kの単数に全射する。 次数がpと素な不分岐拡大は、剰余体の拡大である。 例えば、K=F_5((t)) に対する L=F_25((t)) という2次拡大を考えると(√2の添加と同等)、 ノルム像は、K* = {t^a*b*(1+t)^c1*(1+t^2)^c2*(1+t^3)^c3*...,} の表示でいうと、a=2Nな部分群である。 次数pの不分岐拡大は、X^p-X-αの根の添加で得られる。(p.74) ここでαはX^p-Xの像に居ない単数である。 例えば X^5-X-1による拡大を考えると、そのノルム像は、 K* = {t^a*b*(1+t)^c1*(1+t^2)^c2*(1+t^3)^c3*...,} の表示でいうと、a=5Nな部分群である。 #この形の根は、X+1,X+2,X+3,X+4が他の解を与えるので、αによらず常にガロア拡大である。(アルティン・シュライヤー拡大) #Y^5-Y-2による拡大は同じ拡大を与える。X=Y/2の関係である。 このようにして、不分岐拡大では、a=kNな部分群を与える。 ・順分岐の場合は、3章の(1.3)と系により、 Kの素元πをうまく選べばπはノルム像に居て、1次単数群は1次単数群に全射する すなわち次数がpと素である順分岐拡大は、t*(単数) の形をした元のk乗根の添加で得られる。(クンマー拡大) (これがガロア拡大であるためには、Kが1の原始k乗根を持っている必要がある、つまりkがq-1の約数である必要がある。) 順分岐拡大では、剰余体のノルム像が、従って、単数の単数へのノルム像が、指数nの部分群となる。 F_5((t))の例では、√tや√2tを添加した拡大がこれに該当する。ノルム像は K* = {t^a*b*(1+t)^c1*(1+t^2)^c2*(1+t^3)^c3*...,} の表示でいうと、それぞれ b=2N, a+b=2N な部分群である。 <暴分岐> ・σをガロア群の生成元として、αをLの素元として、 s = v_L[ σ(α)/α - 1 ] とおく。 ・次数pの分岐拡大、すなわち暴分岐は、X^p-X-rの根の添加で得られる。 ここでv_K(r)は負で、pの倍数でない。このとき、s=-v_K(r)の関係がある。 (v_K(r)が正のときは、rは常にX^p-Xの像に居る) ・このsの値とノルム群の挙動については、標数0の場合と同様の性質が成立する(p.72) [2-1] k<s のとき Lのk次主単数全体のノルム像は、Kのk次主単数であり、t^(k+1)を法として全射である [2-2] k=s のとき Lのk次主単数全体のノルム像は、Kのk次主単数のうち指数pの部分群である。(f=1なら単に(k+1)次主単数全体と言える) [2-3] k>s のとき Lのk次主単数全体のノルム像は、Kのs+floor[(k-s)/p]次主単数全体である。 #例 X^5-X-1/t の添加の場合 (s=1) s=1なので、ノルム像は、[2-2]により、2次主単数からなる部分群である。 K* = {t^a*b*(1+t)^c1*(1+t^2)^c2*(1+t^3)^c3*...,} の表示でいうと、c1=5Z_5な部分群である。 #s=2の例 X^5-X-1/t^2 の添加の場合は、z=(1/X)^3/tが拡大体Lの素元になる。z^5-t^5*z^4+3*t^2*z^3+t=0 を満たす。 計算機で 1+zのノルムを計算すると 1-t+3t^2+t^5 となる。 従ってノルム像は、t^3で割った余りが a+bt+ct^2のうち、u(1-t+3t^2)^v で表されるような部分群である。 K* = {t^a*b*(1+t)^c1*(1+t^2)^c2*(1+t^3)^c3*...,} の表示でいうと、c2-3c1=5Z_5 な部分群である。 局所類体論の結果と、ノルム像がなす部分群の状況を考えると、 例えばs=1の暴分岐は1つだけで、s=2の暴分岐は5つあると思われる。 rをどのようにとったときに、どの拡大に対応するかを知る方法は私にはわかっていない。

2021/9/20
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