Mellin変換
やっぱり複素関数論を使った素数定理の証明も一度は丁寧に読んでおこうと思ったのがきっかけで、
https://www.math.cuhk.edu.hk/course_builder/1617/math4060/proof%20of%20PNT.pdf
Mellin変換についていろいろ調べて、理解を深めた。
Mellin変換を使って数論的な関数に関する情報をいくつか引き出すことができるのを観察した。
(メリンと読む説とメランと読む説があって、Mellinと書くことにした・・)
[1] Mellin変換を、ここでは上記のpdfに沿って、
実関数f(x)に対して、F(s) = ∫[0..inf]f(x)x^-s dx/x と定義する
|f(x)| = O(x^a)となるaの下限をa0とする
a>a0ならば、定数Aが存在して、|f(x)|≦Ax^aとなるような最小のa0をとる。
(これが存在するには、f(x)はx=0付近でどのような多項式よりも速く0に収束する必要がある。)
このとき、a0<Re(s) で積分が収束し、F(s)は正則関数となる。
・「|f(x)| = o(x^a) ならば、s=aで収束する」は成り立たない。
f(x)=1/ln(x) (例えばx≧2) などとするとf(x)=o(1)だが、s=0で積分は収束しない。
ラプラス変換やフーリエ変換との関係:
g(t) = f(e^t) のとき fのMellin変換=gのラプラス変換
g(c+it)のラプラス変換 = g(t)*e^-ctのフーリエ変換
[2] x=1/yと変換すると、∫[0..inf]f(x)x^-s dx/x = ∫[0..inf] f(1/y) y^s dy/y の関係がある。
こちらがwikipediaなどや以前の別のノートに書いてあるMellin変換である。
保形形式で使うようなq展開級数のMellin変換が、同じ係数のディリクレ級数で表される:
g(y) = Σ[n=1..inf] a[n]*exp(-ny) に対するMellin変換が、Γ(s)Σa[n]/n^s となる。
[2-1]
特に、exp(-y)+exp(-2y)+... = 1/(exp(y)-1) のMellin変換が、Γ(s)ζ(s)となる。
変換前の変数で書くと、 f(x)=1/(exp(1/x)-1) のMellin変換ということになる。
これはx→0ではどのような多項式よりも速く0に収束する。
一方でx→∞ではO(x)の挙動をする。
従ってRe(s)>1で積分は収束する。
(実際s=1でΓ(s)ζ(s)は極であるからこれが限界である)
[2-2]
L(s)=1/1^s-1/3^s+1/5^s-... に対応するものを考えると、
1/(2cosh(y)) = 1/(2cosh(1/x)) のMellin変換が、Γ(s)L(s) となる。
左辺はx→0ではどのような多項式よりも速く0に収束し、x→∞では1に収束する。
従ってRe(s)>0で積分は収束する。L(s)はRe(s)>0で正則である。
[3] 以下の例では、f(x)はx<1の範囲で0となるものを扱う。
従って、結局、改めて、Mellin変換を F(s)=∫[1..inf]f(x)x^-s dx/x と定義する。
(これをmodified Mellin変換と呼んでいる資料もあった。)
すると数列a[n]に対して、f(x)=Σ[1≦n≦x, n∈N] a[n] のMellin変換は、(1/s)Σa[n]/n^s となることが示される。
特に、a[n]=n^kとおいた場合、ζ(s+k)/s となってζ関数が登場する。
このときf(x)=Σ a[n]は「階段状の関数」で、この漸近挙動を与える別の関数の差を考えることで、
ζ関数の極などに関する情報を復元することができる。
[観察]
・f(x)=ax^jのMellin変換は a/(s-j) となるから、
f(x)がax^jの漸近挙動を持つ情報が、F(s)がs=jで留数aを持つという情報に変換される。
・Mellin変換が虚数で極を持つのはどのようなときか?
調べると、f(x) = sin(ln(x)) のMellin変換が 1/(s^2+1) になる。
このf(x)はO(1)であるが、振動して収束しない挙動である。
・Mellin変換が零点を持つのはどういうときか?
調べると、ディラックのδ関数を変換するとそれが起こる。
例えば、δ(1)のMellin変換がsになる。
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[3-1] k=0の場合
f(x)=Σ[n≦x, n∈N] a[n] とは、xの整数部分をとる関数である。つまりf(x)=int(x)。
このMellin変換がζ(s)/sとなる。
一方、g(x)=xのMellin変換は 1/(s-1) [Re(s)>1] であった。
f(x),g(x)はともにO(x)の漸近挙動なので、Re(s)>1で積分が収束する。
ところが、その差f(x)-g(x)はO(1)の漸近挙動なので、Re(s)>0で正則である。
すなわち、Mellin変換の差 ζ(s)/s - 1/(s-1) はRe(s)>0, 特にs=1で正則である。
この議論から、ζ(s)のs=1での留数が1であるという情報を得る。
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[3-2] k=-1の場合
この場合f(x)はいわゆる調和級数である: f(x) = Σ[n≦x]1/n
そのMellin変換は ζ(s+1)/s である。
f(x)の漸近挙動を与える ln(x) のMellin変換は 1/s^2 となる。
調和級数や対数関数はどんなx^a(a>0)よりも遅く発散するから、s>0で正則である。
f(x) = ln(x)+γ+1/2n-1/12n^2+1/120n^4+O(1/n^6) が知られている。
従って、f(x)-ln(x)-γ のMellin変換を考えれば、s>-1, 特にs=0で正則となる。
すなわち、ζ(s+1)/s - 1/s^2 - γ/s がs=0 で正則
t=s+1とおいて整理すると、{ζ(t) - 1/(t-1) - γ}/(t-1) が t=1で正則
すなわち、lim[t→1] [ζ(t)-1/(t-1)] = γ という情報を得る:
ζ(t)のt=1でのローラン展開の「定数部」がオイラー定数に一致する
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[3-3] k=1 の場合
f(x) = Σ[n≦x]n のMellin変換は ζ(s-1)/s
g(x) = x(x-1)/2 のMellin変換は 1 / 2(s-1)(s-2)
f(x),g(x)はO(x^2)の漸近挙動で、その差はO(x)の漸近挙動である。
しかしそこからは[3-1]と同じ情報しか得られなかった。
以下のもう1つの関数を使って、O(1)の漸近挙動となるように調整した:
h(x) = (x * intx) = x*Σ[n≦x]1 の変換は、ζ(s-1)/(s-1), s>1
f(x)+g(x)-h(x) = O(1) の漸近挙動がある。
ζ(s-1)/s + 1 / 2(s-1)(s-2) - ζ(s-1)/(s-1) は s>0 で正則
ζ(s-1) / s(s-1) - 1 / 2(s-1)(s-2) は s=1,2で正則
ここから、ζ(s)のs=1での留数が1という情報に加えて、ζ(0)=-1/2 という情報を得る。
[4] 算術的関数の累積のMellin変換
[4-1] フォンマンゴルド関数Λの累積はチェビシェフ関数ψ(x) = Σ[n≦x]Λ(n)である:
そのMellin変換は、(1/s)ΣΛ(n)/n^sとなるが、これは(1/s){-ζ'(s)/ζ(s)}に等しい。
素数定理は、ψ(x)~xと同値である。
ψ(x)=O(x)という情報から、そのMellin変換がs>1で正則、s=1で留数1を持つ。
実際、(1/s){-ζ'(s)/ζ(s)}はs>1で正則で、s=1で留数1を持つ。
逆に、Mellin変換がs>1で正則、s=1で留数1を持つならば、ψ(x)~xと言えるか?
これはただでは言えなくて、ここが例えばウィーナー池原の定理の役割である、と認識した。
冒頭のpdfではその代わりに、ψ1(x)=∫[0..x]ψ(y)dy のMellin変換の逆変換を考えて、
複素積分を直接的に評価することによって、素数定理を証明している。
そのあたりは、今の所ただ写経になってしまうし、ここでは踏み込まない。
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[4-2] メビウス関数μの累積はメンテンス関数 M(x)=Σ[n≦x]μ(n) と呼ばれる
そのMellin変換は、(1/s)Σμ(n)/n^sで、これは(1/s)*1/ζ(s)に等しい。
素数定理は、lim[x→∞] M(x)/x = 0 と同値らしい。
最近せきゅーんさんが紹介した素数定理の新証明では、これを使っている。
http://integers.hatenablog.com/entry/2020/07/26/144807
M(x)/x≦A/x^εとなる定数A,εが存在するなら、
Mellin変換側では、(1/s)*1/ζ(s) が Re(s)>1-ε で正則という性質に対応する。
しかしこれらを満たすε>0が存在することは、とても強い予想だと認識している。
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[4-3] ディリクレ級数、例えば4N+1型素数で1, 4N+3型素数で-1な指標χを考える。
χ(n)は、nを2で割れるだけ割った結果の奇数が、4N+1の時は+1、4N+3のときは-1である。
累積関数、f(x) = Σ[n≦x]χ(n) を考える。
良く考察すると、f(n)は有界ではないことが分かる。(良いパズル)
具体的には区間2^n≦x<2^(n+1)でのf(x)の最大値がn+1 である。
どんなx^a(a>0)によっても定数倍で上から抑えられる。
このことから、Mellin変換はs>0で正則である。
f(x)のMellin変換は、ディリクレL関数を考える:
L(χ,s) = 1+1/2^s-1/3^s+1/4^s+1/5^s-1/6^s-1/7^s+1/8^s+1/9^s+1/10^s-1/11^s+...
= Π[p=2,4N+1素数] 1/(1-1/p^s) * Π[q=4N+3素数] 1/(1+1/q^s),
累積f(x)のMellin変換が、L(χ,s)/s となる。
従って、上記のf(x)の挙動から、L(χ,s)がRe(s)>0で正則であることが言える。
実際には、非自明な指標に対するディリクレL関数は複素平面全体で正則である。
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[4-4]
これに関連して、
https://twitter.com/yousei_ichika/status/1291676751379050497
で見たランダウ・ラマヌジャンの定数があって、
https://mathworld.wolfram.com/Landau-RamanujanConstant.html
にいろいろ書いてある。ここに書いてある(9)の式を、以下示すことができた:
「x以下の自然数で2つの平方数の和で表せるものの個数」を考える。
最初の記事ではN(x)、2番目の記事ではS(x)で書かれるが、
K=0.76422ぐらいのランダウ・ラマヌジャンの定数があって、
N(x)√lnx / x → K の漸近挙動があるらしい。
N(x)の漸近挙動は、N(x) ~ K*x/√lnx + o(x/√lnx) ということになる。
右辺のMellin変換はWolframAlphaによると、K√π/sqrt[s-1] になるらしい。
N(x) = Σ[n≦x] [nが2平方和で表せるときに+1] と書くことができる。
このnの条件は、nの4N+3素因数が常に平方で現れることと描写できる。
対応するディリクレ級数は、
D(s) = 1+1/2^s+1/4^s+1/5^s+1/8^s+1/9^s+1/10^s+...
= Π[p=2,4N+1素数] 1/(1-1/p^s) * Π[q=4N+3素数] 1/(1-1/q^2s),
= Π[p=2,4N+1素数] 1/(1-1/p^s) * Π[q=4N+3素数] 1/(1-1/q^s) * Π[q=4N+3素数] 1/(1+1/q^s),
= ζ(s) * Π[q=4N+3素数] 1/(1+1/q^s),
というものになる。
先の右辺のMellin変換の結果から、D(s)はs=1で(1/2)次の極を持つことが分かる。そこで:
D(s)^2 / ζ(s)
= Π[4N+3素数] 1/(1+1/q^s) * Π[p=2,4N+1素数] 1/(1-1/p^s)
* Π[4N+3素数] 1/(1+1/q^s) * Π[q=4N+3素数] 1/(1-1/q^s)
= L(χ,s) * Π[q=4N+3素数] 1/(1-1/q^2s)
と変形すれば、ζ(1)はs=1で1次の極を持って留数が1であることから、
s→1 で、D(s)*sqrt[s-1] → sqrt[π/2 * Π[q=4N+3素数] 1/(1-1/q^2)] の漸近挙動を得る。
N(x) ~ K*x/√lnx + o(x/√lnx) より、D(s)とK√π/sqrt[s-1] の差は、s=1で収束する。
すなわち、sqrt[π/2 * Π[q=4N+3素数] 1/(1-1/q^2)] = K√π
整理すると、K^2 = (1/2) * Π[q=4N+3素数] 1/(1-1/q^2)
こうして、mathworldのページに書いてある(9)の式を得ることができた!
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