2次体Q(√d)の類数と乗法群などについて
dは常に平方因子を持たない整数とする。
[1] 2次体の乗法群の構造とペル型方程式への応用(概説)
[2] イデアルの言葉を使ってより詳しく
[3] ディリクレの単数定理について
[4] 円分体の単数を経由して2次体の基本単数を得ることができる
[*] 与えられた単数を基本単数で表す
[**] 2次体での素因数分解的な方法
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2018/05/08 追記
原始イデアルを使う素イデアル分解の方法に出会いました。良い方法です:
https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q10189941165
[1] 「代数体の乗法群の構造」を記述したい。
有理数体Qの場合には(0以外の)任意の有理数は、整数a,b,c,..とk∈Z/2Zを使って
x = (-1)^k*2^a*3^b*5^c*7^d*... のように一意的に記述される。
それが整数である条件は a,b,c,d,... ≧0 と同値である。
代数体の場合にどうなるかというのは、それほど簡単ではない。
一般的に、(単数) * Π(素数pの分解) のような形になる。
「ノルム」と呼ばれる共役の積に注目するのがポイントとなる。
「代数的整数」とは、最高次係数が1な整数係数方程式の解となるような数である。
「単数」とはノルムが1である代数的整数である。
言い換えると、自身と自身の逆数がともに代数的整数になる数である。
Q(√d)の代数的整数は集合 {A+B√d | A,B∈Z} とは限らない。
d≡1 (mod 4) のときは {A+B((1+√d)/2) | A,B∈Z} という集合となる。
d≡2,3 (mod 4) のときは{A+B√d | A,B∈Z} で良い。
Q(√-1) では整数a,b,c,... と k∈Z/4Z を使って
x = (√-1)^k * (1+√-1)^a * 3^b * (1+2√-1)^c * (1-2√-1)^d * 7^e * ...
という形で一意的に記述される。
・(√-1)^k が単数である。
・4N+1型素数が2つに分解する。
・2は (√-1)^3*(1+√-1)^2 というふうに書かれる。
・xが代数的整数である条件は a,b,c,d,...≧0 と同値である。
Q(√3) では整数a,b,c,... と k∈Z/2Z を使って (今後も同様)
x = (-1)^k * (2+√3)^a * (1+√3)^b * (√3)^c * 5^d * 7^d
* (1+2√3)^e * (1-2√3)^f * (4+√3)^g * (4-√3)^h * ...
というふうになる。
・±(2+√3)^a が単数である。
・12N±1型素数が2つに分解する。
・2は (2+√3)^(-1)*(1+√3)^2 というふうに分解される。
・xが代数的整数である条件は b,c,d,...≧0 と同値である。
Q(√-5) では少し新しい事情が発生する。
x = (-1)^k * 2^a * (1+√-5)^b * (1-√-5)^c * (√-5)^d
* (3+√-5)^e * (3-√-5)^f * 11^g*13^h*17^i*19^j*...
という表現は一意的ではある。
・2*3 = (1+√-5)(1-√-5) に注意せよ
・xが代数的整数である条件は a+b/2+c/2+e/2+f/2+...,b,c,d,e,f,g,h,i,j,.. ≧0
ここでは説明しないが「類数」とかイデアル類群というものがこの事情に関係する
関連:http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q11141253616
Q(√5) では先に注意したように代数的整数の範囲が少し異なる
x = (-1)^k * ((1+√5)/2)^a * 2^b * 3^c * (√5)^d * 7^e
* (4+√5)^f * (4-√5)^g * 13^h * 17^i * (1+2√5)^j * (1-2√5)^l *...
・xが代数的整数である条件は b,c,d,...≧0 と同値である。
・x∈{A+B√d | A,B∈Z} となる条件は、
上記に加えて b≧1 または aが3の倍数であることである。
合成数の例として Q(√6) では
x = (-1)^k * (5+2√6)^a * (2+√6)^b * (3+√6)^c * (1+√6)^d * (1+√6)^e
* 7^f * 11^g * 13^i * 17^j * (5+√6)^l * (5-√6)^m *...
・24N±1,5型の素数が2つに分解する。
・2と3の分解は 2=(5+2√6)^(-1)*(2+√6)^2, 3=(3+2√6)^(-1)*(3+√6)^2
・xが代数的整数である条件は b,c,d,...≧0 と同値である。
Q(√10) は類数が2な実2次体の例である。
x = (-1)^k * (3+√10)^a * 2^b * (2+√10)^c * (2-√10)^d * (√10)^e
* 7^f * 11^g * (6+√10)^h * (6-√10)^i * 19^j * ...
・40N+1,9,31,39型の素数pはノルムがpの2つの素因子に分解される
(31に対して11±3√10, 41に対して9±2√10,89に対して1±3√10など)
・40N+3,13,17,27型の素数pは2つの素因子に分解されるがノルムをpにはできない
・xが代数的整数である条件は b+c/2+d/2+e/2+h/2+...,c,d,e,f,g,h,i,j...≧0 である。
(ここでは、40を法とする16個の既約剰余類の中で
{1,3,9,13,17,27,31,39} が指数2の部分群をなしている中に
さらに {1,9,31,39} が指数2の部分群をなしている構造をしている。)
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これらの構造は直ちに2元2次方程式の整数解に応用できる。
x^2+y^2 = 65 の整数解は、ノルムが65となるQ(√-1)の代数的整数x+y√-1に対応する。
それは x+y√-1 = (√-1)^k * (1+2√-1)^a * (1-2√-1)^b * (2+3√-1)^c * (2-3√-1)^d,
k∈{0,1,2,3}, (a,b),(c,d)∈{(1,0),(0,1)} で尽くされる。
|x^2-3y^2| = 65 の整数解は存在しない。
|x^2-3y^2| = 5^p*13^q の整数解は、pが偶数の時のみ存在し、
ノルムが 5^p*13^qとなるQ(√3)の代数的整数x+y√3に対応する。
それは x+y√3 = (-1)^k * (2+√3)^a * 5^d * (4+√3)^g * (4-√3)^h
k∈{0,1}, a∈Z, d=p/2, g,hは非負整数で g+h=q で尽くされる
|x^2-5y^2| = 11 の整数解は x,yが整数であるような代数的整数 x+y√5 と対応し
x+y√5 = (-1)^k * ((1+√5)/2)^a * (4+√5)^f * (4-√5)^g
k∈{0,1}, a∈3Z, (f,g)∈{(1,0),(0,1)}
|x^2-10y^2| = 3^p*5^q*7^r の整数解は、p+qが偶数、rが偶数のときに存在し代数的整数x+y√10として
x+y√10 = (-1)^k * (3+√10)^a * 2^b * (2+√10)^c * (2-√10)^d * (√10)^e * 7^f
k∈{0,1}, a∈Z, b=-(p+q)/2, c,dは非負整数で c+d=p, e=q, f=r/2 で尽くされる。
[2] 環とイデアルの言葉を使う。
ここでは、二次体の場合に話を限定する分、
例を多く挙げることで一般論より多少は馴染みやすいことを目指す
普通の整数Zの素因数分解に相当することを、二次体でも考えたい。
そのために、まずは二次体Q(√d)の整数環Aを定めておく。
d≡1 (mod 4) のとき A(d)={a+b√d | a,b∈Z または a-1/2,b-1/2∈Z}
d≡2,3 (mod 4) のとき A(d)={a+b√d | a,b∈Z}
また、判別式と呼ばれるDを時々使いたくなるので定義しておく。
d≡1 (mod 4) のときD=4d, d≡2,3 (mod 4) のとき D=d
(一般的な代数体に対する判別式の定義は他に任せる)
典型的な例が、ガウス整数環Q(√-1)の整数環 A={a+b√-1|a,b∈Z}である。
この環では普通の素因数分解をほとんどそのまま拡張できる:
任意のAの元xは、次の形で一意的に書ける:
x = (√-1)^k * (1+√-1)^a * 3^b * (1+2√-1)^c * (1-2√-1)^d * 7^e * ...
k∈{0,1,2,3} で a,b,c,...は0以上の整数
これはおおまかには次のように解釈できる
・4N+1型の素数は、Q(√-1)では2つの"素数"の積に分解する
・4N+3型の素数は、Q(√-1)においても"素数"である。
・素数2 は Q(√-1)においては、1つの"素数"の2乗(の同伴)である
Q(√3),Q(√6)でも同様であることを[1]で紹介した。
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Q(√d)からQへのノルム写像 N(a+b√d) = (a+b√d)(a-b√d) = a^2-db^2 を考える。
Nを Aに制限すれば AからZへの写像となる
a^2-db^2=y の整数解を求めることは、N(x) = y となる x∈Aを求めることにだいたい相当する。
d≡1 (mod 4)のときは少し補正が必要になる
yが素数pで割り切れる回数を c[p]とおく。
xのQ(√d)での上記のような分解を考えた時に
pが2つの素数の積p1p2に分解する場合には、xにおけるp1,p2の指数の和がpになるように
pが素数のままの場合には、xにおけるpの指数がc[p]/2になるように
pが2の場合には xにおける2を分解した素数の指数が c[p]になるように
定めれば N(x)は各素数pに対してちょうど c[p]回割り切れる
N(x)がpになるか-pになるかは分からない。
N(ε)=-1 となるようなεが存在すれば、N(x)=±pは両方とも解をもつ。
そうでない場合は、N(x)=±p は片方だけ解をもつ。
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類数が2の場合として、Q(√10)を考察する。A={a+b√10|a,b∈Z}である。
例えば、N(1+2√10)=-39に注目する。
もし類数が1の代数体で|N(x)|=39となるようなx∈Aが存在したなら、
|N(x)|=3, |N(y)|=13 となるようなx,y∈Aが存在するはずであるが、今回は存在しない。
そこで、例えば3と(1+2√10)の最大公約数となるべき存在を想定するのである
整数の場合のm,nの最大公約数は、集合{mx+ny|x,y∈Z}が取り得る最小の正の数として特徴づけられた。
そこで集合 I[3+]={3x+(1+2√10)y | x,y∈A} を考えるのであるが、
代数体では最小の正の元をとることはうまくいかないので、この集合自体を考える。
これがいわゆるイデアルと呼ばれるもので、最大公約数の役割をうまく果たすのである
I[3]={3x|x∈A}, I[13]={13x|x∈A}, I[39++]={(1+2√10)x|x∈A}, I[39--]={(1-2√10)|x∈A}
I[3-]={3x+(1-2√10)y | x,y∈A},
I[13+]={13x+(1+2√10)y | x,y∈A}, I[13-]={13x+(1-2√10)y | x,y∈A}
を考えて、(このような記号はここで独自に使っているものである)
イデアルの積を後で述べるように定めれば、
I[3]=I[3+]*I[3-], I[39++]=I[3+]*I[13+], I[13]=I[13+]*I[13-] などの関係がある。
イデアルI,Jの積は、集合{(Iの元とJの元の積)のいくつかの和で表されるような数} で定める。
より具体的に I={mx+ny|x,y∈A}, J={m'x+n'y|x,y∈A} ならば
IJ = {mm'x+mn'y+nm'z+nn'w|x,y,z,w∈A}という集合である。
では積 I[3+]*I[13-] はどうなるか。(I[39+-]と名付けてみる)
I[39+-] は {3*13*x + (1+2√10)*13*y + 3*(1-2√10)*z + (1+2√10)*(1-2√10)*w | x,y,z,w∈A} という集合と書ける。
ところで、二次体のイデアルは、実は常に2つ以下の生成元で表せる。
すなわち {mx+ny|x,y∈A} (m,n∈A) の形で表せる。
I[39+-] については実は1つの生成元だけで I[39+-] = {(7-√10)x | x∈A} と書ける。
それを実際に直接的に確認するには、
・先の表示の4つの生成元がすべて (7-√10)x, x∈A の形で書けること
・7-√10 が先の4つの生成元を使って書けること
を示せば良い
3*13 = (7-√10)(7+√10)
(1+2√10)*13 = (7-√10)(9+5√10)
3*(1-2√10) = (7-√10)(-1-√10)
(1+2√10)*(1-2√10) = (7-√10)(-7-√10)
例えば x=0, y=-10+√7, z=-41, w=0 を係数とする線形結合が 7-√10 を与える
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I[39+-] のように1つの生成元だけで書けるイデアルを単項イデアルとか主イデアルと呼ぶ。
単項イデアルは、整数環A全体と、(和と積を保つ)全単射が存在する。
例えば (7-√10)x∈I[39+-] と x∈A を対応させれば良い。
一方、I[3+] = {3x+(1+2√10)y | x,y∈A} は、1つの生成元で書くことはできない。
そのようなイデアルについても「イデアルのノルム」というものを考えることができる。
これは、「AをI[3+]で割った剰余環の位数」として定義できる
イメージし辛ければZからZ/nZを作ったときと比較すると良いと思う
http://note.chiebukuro.yahoo.co.jp/detail/n376729
同じ記号Nを使うことにする。実は次が成り立つ:
・単項イデアルについては、先のノルムと一致する。
N(I[3])=9, N(I[13])=169 など
・イデアルの積のノルムは、ノルムの積と一致する。
N(I[3+])=3 であることが示唆される。これは実際、次のことを意味する。
任意の a+b√10∈A は 0,1,2 のどれかとI[3+]を法として合同である
例えば -1+√10 = 3*(-7) + (1+2√10)*(√10) ∈ I[3+] だから a+b√10 ≡ a+b (mod I[3+])
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次に、類数のイデアルを使った定義を述べるにあたって、
イデアルの間に和と積を保つような全単射が存在するかどうかを考えることになる
単項イデアルの間には、全単射が存在した。
非単項イデアルの間ではどうか。例えば上で現れた例
I[3-]={3x+(1+2√10)y | x,y∈A}
I[13+]={13x+(1+2√10)y | x,y∈A}
の間に全単射が存在するか。
実は存在する。安易にみえるかもしれない写像:
f(3x+(1+2√10)y) = (1+2√10)x+13y が和と積を保つ全単射である。
集合として全単射であることと、和を保つことはすぐに分かる。
積を保つことは、一見自明ではないが、
fは共役をとる操作と、(1+2√10)を掛ける操作を続けて行った写像であり
それぞれの操作は積を保つことから、分かる。
このように全単射が存在するイデアル同士を
1つの同値類とみなしたときに(イデアル類と呼ぶ)
同値類がいくつあるか というのが類数である
従って、類数が1であることは、すべてのイデアルが単項イデアルであることを意味し、
類数が2であることは、任意の非単項イデアル同士の間に全単射が存在することを意味する。
さらに、イデアル類は、(主イデアル類を単位元として)群をなす
(分数イデアルを考えて群をなすようにしたうえで、
単項イデアル全体がなす部分群で割った剰余群というのがよくある記述)
この視点から、類数が2のときは
2つの非単項イデアルの積は常に単項イデアルになる
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イデアルの言葉を用意した所で
2次体Q(√d)の整数環Aにおいて d≡1 (mod 4) のときD=4d, 他の時D=d として
・Dと素な素数pがなすイデアルI[p]={px|x∈A}について
pを法として、dが平方剰余ならばI[p]はQ(√d)で2つの「素イデアル」の積に分解する
pを法として、dが平方非剰余ならばI[p]はQ(√d)においても「素イデアル」である
・Dの素因数pについては、I[p]は1つの「素イデアル」の2乗に分解する。
というふうに統一的に記述することができる
素イデアルという言葉を用意していなかった
イデアルIは次の条件を満たすとき素イデアルと呼ぶ:
「xy∈I ならば x∈I または y∈I が成り立つ」
(素イデアルによる剰余環は整域で、極大イデアルによる剰余環は体である
有限な整域は体である
などの性質は重要だが然るべき教材で大抵取り上げているだろうから任せる)
そして |a^2-db^2|=y の整数解を求めることは、
だいたいQ(√d)の整数環で ノルムがyとなる単項イデアルを求めることに相当する。
・d=10, y=39 の場合には先の考察から、
I[39++], I[39+-], I[39-+], I[39--] がすべてであり、
従ってノルムがyとなるAの元としては
x=±ε^n*X , ε=3+√10, X∈{1±2√10, 7±√10} で尽くされる。
・Q(√d)の類数が奇数ならば、Dの素位数pについて |N(x)|=p はx∈Aに解をもつ
従ってDの正の約数pについても |N(x)|=p はx∈Aに解をもつ
小さい実2次体の類数の値は例えば以下ウェブサイトでちらっと紹介がある:
http://yoshiiz.blog129.fc2.com/blog-entry-193.html
PARI-GPなどのソフトを手に入れれば、
より大きなdについても網羅的に類数を知ることができる
300以下のdについては d=79,142,223,229,254,257 でQ(√d)の類数が3で奇数となる。
Dの約数pに対する|N(x)|=pが実際に解を持つ例を挙げてみる:
d=79: N(9+√79)=2
d=142: N(12+√142)=2, N(71+6√71)=-71
d=254: N(16+√254)=2, N(127+8√254)=-127
[3] ペル方程式の一般解の考察には「単数」の構造が欠かせなかった。
一般的な代数体の単数について、ディリクレの単数定理が知られている。
その考え方は、難しく、最初は結果だけ知っておいても良いと思うが
私なりに、その考え方の方針の紹介を試みたい:
代数体Kから実数への乗法を保つ(零写像でない)準同型
すなわち f(xy) = f(x)f(y) が成り立つような写像を考える。
Rへの埋め込み写像と呼ぶことにする。
f(x)が埋め込み写像ならば (f(x))^k も埋め込み写像であるから
このような関係にあるものは同一のものとして扱う。
後の都合で、fの像が0以上になるようにしておく。
K=Q(√-1)のときは、そのような写像は1つだけである。
f(a+bi) = a^2+b^2
K=Q(√3) のときは、そのような写像は2つある。
f1(a+b√3) = (a+b√3)^2, f2(a+b√3) = (a-b√3)^2
円分体 K=Q(ζ), ζ=exp(2πi/n) では (φ(n)-1)/2個ある。
f[k](a(ζ)) = |a(ζ^k)| (| |は通常の複素数としての絶対値)
kはnと素な整数でk≡±j (mod n) のときf[k]とf[j]は同一である。
ディリクレの単数定理が主張することには、
Rへの埋め込み写像がk個存在する時
単数は (1の冪根)^k * u[1]^a * u[2]^b * ... * u[k]^c
の形で一意的に表すことができる。
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代数体K(の0以外の元) から k次元線形空間 R^k への写像を考える。
g(x) = log(f(x)) としておくと Kの乗法群から R^kの加法群への準同型となる。
f(x)の冪の違いの同一視は、gの定数倍の違いの同一視となっている。
具体的にK=Q(√3) のときは g はXY平面への写像:
g(a+b√3) = (log{(a+b√3)^2}, log{(a-b√3)^2} であり
このとき、単数は 直線 X+Y=0 上に写されることに注意する。
また、この写像はほとんど単射であることに注意する。
ほとんど単射 というのは α≠±β ならば g(α)≠g(β) である。
ここで、単数はKの乗法群の部分群をなすので、その像はR^2の部分群をなす。
つまり (x,y), (x',y')が像に属するなら (x±x',y±y')も像に属する。
それが 等間隔な点列をなす ということを示したい。
つまり ある点(t,-t) があって、像は集合{(nt,-nt)|n∈Z}と書ける。
そのためには:
・像が原点以外に存在する
・有限な範囲では像の個数は有限である
を示せば良い。ここではその証明には踏み込まない。これが示されれば、
g(u)=(t,-t) となるようなuによって単数は ±u^n の形で表されることが従う。
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ディリクレの単数定理の一般的な考え方を見るには、
もう1つ次元が高い例も見てみるのが良いと思う。
7次の円分体 K=Q(ζ), ζ=exp(2πi/7) の場合には XYZ空間への写像g
g(a+bζ+cζ^2...) = (log{|a+bζ+cζ^2...|}, log{(|a+bζ^2+cζ^4...|), log{(|a+bζ^3+cζ^6...|)})
を考える。単数群は 平面 X+Y+Z=0 上に写される。
7個の1の冪根だけが原点に写る。α/β = ζ^k でなければ g(α)≠g(β)である。
群構造から(x,y,z),(x',y',z')が単数の像のとき、 (x±x',y±y',z±z')も単数の像である。
さらに代数的整数の性質の考察によって
・X>0,Y<0,Z<0 の範囲に単数の像が存在する。
・同様に Yのみ正の範囲などにも像が存在する
・有限な範囲では像の個数は有限である
が示される。(これらを示すことがディリクレの単数定理を示す目標となる)
その結果、像は平面X+Y+Z=0上に「2次元格子」をなすことが言える。
すなわち適当な t1=(x,y,z), t2=(x',y',z') によって
単数の像は集合{m*t1+n*t2|m,n∈Z} の形で書ける
その結果t1,t2の逆像u1,u2によって Kの単数は ζ^k * u1^m * u2^n の形で表される。
このように、「埋め込みの直積への像」を考えることが有効である。
(これは、実はアデールの考え方の一部である。
・・・というのは、技巧的なことをやっているように見えるが、
より高度な視点からは自然な発想であるということを紹介したかった。)
[4] さてディリクレの単数定理より
実2次体ではノルムが1となる代数的整数は、±u^n の形をしている。
uを具体的に知ることに興味がある。
連分数を使う方法が知られているがそれは他で適当に参照してもらうことにして
ここでは円分体の単数群との関係を紹介したい。
使う文字の用途を自分なりに決めておく:
n:円分体の指定
k:1の冪根の指数
j:基本単数の添え字
s:ガロア群の元の指定
まずは2次体はある円分体の部分体であることを述べる。具体的には
・Q(√-1)はn=4の円分体であり、Q(√2), Q(√-2) はn=8の円分体に含まれる。
・pが4N+1型素数の時 Q(√p)⊂Q(ζ),ζ=exp(2πi/p)
・pが4N+3型素数の時 Q(√-p)⊂Q(ζ),ζ=exp(2πi/p)
合成数については合成体をとれば良い。特に:
・pが奇素数のとき Q(√2p)⊂Q(ζ),ζ=exp(2πi/n), n=8p
・pが4N+3型素数の時 Q(√p)⊂Q(ζ),ζ=exp(2πi/n), n=4p
ディリクレの単数定理により円分体K=Q(ζ),ζ=exp(2πi/n)の単数群は、
j = (φ(n)-1)/2 - 1 個の元 {u[j]} によって
x = ζ^k * Πu[j]^c[j] の形で一意的に書ける(0≦k<nでk,c[j]は整数)
nが素数の時の円分体の場合には、u[j]を次のようにとれる:
u[j] = (ζ^j-1)/(ζ-1)
ここでjはnと素な整数で1<j<n/2の範囲をとる。
そのようなjはちょうど(φ(n)-1)/2-1 個ある。
(j≡±j'(mod n) のときjとj'を同一視したときの代表元をとって、1を除いたものである)
※nが合成数の時も同じ式で単数の少なくとも一部を与えることができるが
後のn=40の例からnが合成数の時は生成元であるとは限らないようである。
後の都合で次のように表現を変えておくのが便利である。ζ^(j/2) = exp(jπi/n)によって
U[j] = ζ^(j/2)-ζ^(-j/2) とおいて u[j]=U[j]/U[1]*ζ^(j/2-1/2)の関係で
x=ζ^k * ΠU[j]^C[j]
(jはnと素な整数で1≦j<n/2の範囲をとり、C[j]は整数、ΣC[j]=0、k+Σ|C[j]|は偶数)・・・★
と書ける(kのnを法とする違いを除いて一意的)
なお三角関数を使うと、U[j] = 2√-1*sin(jπ/n) とも書ける
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ここでガロア群G=Gal(Q(ζ)/Q)を考える。
これは次のような写像の集合としてZ/nZの乗法群(Z/nZ)*と同一視できるのであった。
{σ[s] : ζ→ζ^s | s∈(Z/nZ)*}
2次体 Q(√d)⊂Q(ζ) に対応する指数2の部分群Hが存在し、
「ガロア群の部分と中間体の対応」によって
Q(√d)の単数は、Q(ζ)の単数のうちHの元の作用で不変なものと特徴づけられる。
d=pが4N+1型素数で n=p のとき、Hはpを法とする平方剰余がなす部分群である。
d=pが4N+3型素数で n=4p のときは、Hは(pを法とする平方剰余かつ4N+1)∪(pを法とする平方非剰余かつ4N+3)
統一的には「nで割った剰余がHに属する素数qを法としてpが平方剰余である」という条件である
例えば p=7 のときは H={±1,±3,±9}(+28Z) である。常に-1∈Hであることに注意する。
Q(ζ)の単数へのσ=σ[s]の作用は、x=ζ^k * ΠU[j]^C[j] の表示を使って考察できる。
σ(x) = (σ(ζ))^k * Πσ(U[j])^C[j] (j∈J)
σ(U[j]) = {ζ^(sj/2)-ζ^(-sj/2)} / {ζ^(s/2)-ζ^(-s/2)} より
σ(U[j]/U[j']) = U[sj]/U[sj'] が成り立つ。
よって、ΣC[j]=0となるようにとってあれば
σ(x)=ζ^(sk) * ΠU[sj]^C[j] となる。
従って、Hの元の作用で不変なQ(ζ)の単数は、★で表示した時に
k=0, Hの元に属するjに対してC[j]=-t, Hの元に属さないjに対してC[j]=t
で表される。特にnが素数の時はt=1 とすれば、Q(√d)の基本単数を与える。
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[例]
・d=2,n=8,H={±1}
sin(3π/5)/sin(π/5) = √2+1
・d=5,n=5,H={±1}
sin(2π/5)/sin(π/5) = (√5+1)/2
・d=7,n=28,H={±1,±3,±9}
Πsin(jπ/28) [j=5,11,13] / Πsin(jπ/28) [j=1,3,9] = 8+3√7
・d=17,n=17,H=±{1,2,4,8}
Πsin(jπ/17) [j=3,5,6,7] / Πsin(jπ/40) [j=1,2,4,8] = 4+√17
・d=10,n=40,H=±{1,3,9,27}
Πsin(jπ/40) [j=7,11,17,19] / Πsin(jπ/40) [j=1,3,9,13] = (3+√10)^2
・d=15,n=60,H=±{1,7,11,17}
Πsin(jπ/60) [j=13,19,23,29] / Πsin(jπ/60) [j=1,7,11,17] = (4+√15)^2
ディリクレの類数公式と比べると、二次体Q(√d)の類数をhとおいたときに、
この式は基本単数のh乗を与えるようである。そのあたりの事情は、私はまだ良く知らない
[追記]tsujimotterさんのブログを紹介することにする:「類数公式とデデキントのゼータ関数」
http://tsujimotter.hatenablog.com/entry/class-number-formula-and-dedekind-zeta
[*]与えられた単数を基本単数で表すことについて
上記で使った、k次元線形空間 R^k への写像を考えるのが有効である。
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q14156999604
> 3+√10 = b^(-1)*c*d^2 の見つけ方
x+y√2+z√5+w√10 の形の数からXYZW空間への写像
[X,Y,Z,W] = [
log((x+y√2+z√5+w√10)^2),
log((x+y√2-z√5-w√10)^2),
log((x-y√2+z√5-w√10)^2),
log((x-y√2-z√5+w√10)^2)]
を考えると
b=(1+√5)/2, c=1+√2, d=(1-2√2-√5)/2, x=3+√10
はそれぞれ
B = [0.9624, -0.9624, 0.9624, -0.9624]
C = [1.7627, 1.7627, -1.7627, -1.7627]
D = [1.4183, -3.1810, -0.4558, 2.2186]
X = [3.6369,-3.6369,-3.6367,3.6369]
に写る。 X = -B+C+2D を求めたいのであるが
そのためには E = [1,1,1,1] とおいて B,C,D,Eを縦に並べた行列をPとおいて
P^(-1)をXに右から掛ければ数値的に [-1,1,2,0] を得る
[**] 2次体での素因数分解的な方法
https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q12173552907
で提示したQ(√5)の場合を例にして具体的に説明する。
(その整数環は単項イデアル整域であり、そうでない場合より話が簡単である。)
(1) √(142+113√5)
(2) √(1360+609√5)
整数環のイデアル(2),(3),(5),(7),...のQ(√5)への延長を考える。
素数(5)は(√5)に延長される。
2,3,7,13,17,... のような5N±2型素数はそのまま素イデアルとなる。
5N±1型素数は常に、(11)→ (4±√5) のように分裂する。
この規則については、「多項式の素因数集合」でも説明を試みた。
「ノルム」に注目することで、素イデアル分解を考える
(1) (142+113√5) に対するノルムは
(142+113√5)(142-113√5) = 142^2-113^2*5 = -43681 = -11^2*19^2
ノルム11の素イデアルの生成元は先に紹介したように4±√5がある。
ノルムが19の素イデアル1±2√5を探して得るのは数値的に難しくないと思う。
※このような元は存在するなら既知の有限の範囲の探索で良いことを紹介しておく:
具体的には|a^2-d*b^2|=1 となる単数ε=a+b√d が存在するなら、
|x^2-d*y^2|=m を満たすような(x,y) は、|y|≦(b/2)√m の範囲で探せば十分である。
(この範囲にないものは、この範囲にあるものにεを整数回掛けて得られる。)
そういうわけで、142+113√5は、
4±√5のどちらか、および1±2√5のどちらか、で割り切れる。
(ここで割り切れるというのは、商∈整数環、という意味である)
どちらで割り切れるのかは、たぶん実際に
(142+113√5)/(4+√5) = (3+310√5)/11
(142+113√5)/(4-√5) = 103+54√5
というふうに計算するしかないと思う。
これにより、142+113√5 = (4-√5)^2 * (1+2√5)^2 * (2+√5) を得る
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[2] 1340+609√5 に対するノルムは -4805 = -5*31^2
そこでノルムが31の元 6±√5 を探して見つけると
1360+609√5 = (6+√5)^2 * (20+9√5) を得る
また、ノルムをみなくても分かることに√5でくくれる
(6+√5)^2 * √5 * (9+4√5)
・・・まだ少し大きい。そこには単数群の構造がある:
ノルムが1の元は、ある(x+y√5)の冪で生成される
代数的整数環の文脈では、{(1+√5)/2}^n で生成されるが
{x+y√5|x,y∈Z}の範囲なら、(2+√5)^m で生成される(m=3nの関係)
果たして、n=6,m=2の場合が(9+4√5) を与えることが分かる
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そういうわけで
[1] √(142+113√5) = |(4-√5)(1+2√5)| √(2+√5)
= (-6+7√5) √(2+√5)
[2] √(1360+609√5) = |(6+√5)(2+√5)| √(√5)
= (17+8√5) √(√5)
が答えになる。
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