類体論視点で立法剰余の相互法則

最近、実2次体の平方剰余の相互法則を類体論の視点で描写した。 実2次体の平方剰余の相互法則 そこで、立法剰余の相互法則を、同様の視点で描写することを試みた。 「アルティンの相互法則からそれまでに知られていた相互法則をすべて導けたので一般相互法則と名付けられた」とどこかで読んだ。 ところが、その詳細は踏み込んだことがなかったのを、ついに踏み込んだ。 立法剰余の相互法則は、Q上の相互法則ではなく、K=Q(√-3)上の相互法則として考察する必要がある。 これは、Q上では、3乗根を添加する拡大が、アーベル拡大ではないせいだ。 途中で、暴分岐拡大のノルム群を考察することになり、最近のノートが役に立った。 3の上にある素点での3次拡大のノルム群を観察するのが中心的である。 [1] K=Q_3(√-3)の3次拡大の特定 [2] ノルム群の描写 [3] ノルム群の計算 [4] Q(√-3)上の立法剰余の相互法則の主張 [5] 相互法則の説明 [6] 補充法則
[1] K=Q_3(√-3)の3次拡大 K=Q_3(√-3)とおく。 ・クンマー理論により、Kの3次拡大はK(A1/3)の形に表せる。 A=B*C^3 となるC∈K*が存在するとき、A≡B (mod K^3)と表記する。 A≡B (mod K^3) のとき K(A1/3)とK(B1/3)は同一の拡大体である。 特に、-1≡1 (mod K^3) だから、Aが単数なら、Aを主単数に限ってもすべてを尽くせる。 さらに、K(A1/3)とK((AA)1/3)=K((1/A)1/3)も同一の拡大体であることに注意する。 ・3次拡大の同一性を調べるには、K*/K*^3の構造を調べたい。 これには、局所体の乗法群の構造の一般論が役に立つ。 局所体(1):局所体の乗法群の構造 [結果1]から4次単数群はすべて立法元であり、 すなわち A≡B (mod 9) ⇒ A≡B (mod K^3) であることが分かる。 [結果2]を適用する。p=3,e=2,f=1,r=1の場合である。 Kの主単数群は、位数3のtorsionと、2つのZ_3の直積の構造をしていて、 ちょうど1,2,3次主単数を1つずつ取れば生成元をなす。そこで、 ω=(-1+√-3)/2, u=-2, v=1+3√-3 を生成元として採用する。以下ω,u,vを断りなくこの意味で使い続ける。 そうすると、Aが単数のときの3次拡大K(A1/3)は次の13種類で挙げつくされる: A=ω,ωu,ωuu,ωv,ωvb,ωuv,ωuuv,ωuvv,ωuuvv,u,uv,uvv,v Aが単数でないときはAは素元とおけ、27種類で、先と合わせて40種類になる。具体的には: A=√-3,ω√-3,ωu√-3,ωu^2√-3,ωv√-3,ωv^2√-3,ωuv√-3,ωuuv√-3,ωuvv√-3,ωuuvv√-3,u√-3,uv√-3,uvv√-3,v√-3, ωω√-3,ωωu√-3,ωωu^2√-3,ωωv√-3,ωωv^2√-3,ωωuv√-3,ωωuuv√-3,ωωuvv√-3,ωωuuvv√-3,uu√-3,uuv√-3,uuvv√-3,vv√-3 検算:n個の生成元があるときの、立法元と逆数を同一視した、指数3の部分群の個数は(3^n-1)/2個なので数が合っている。 ・具体的にBを与えられたときのQ(B1/3)が、上記の代表元で表されるQ(A1/3)のどれに同型かを知るには:  -1か√-3で何回か割って、Bが主単数の場合に帰着する。  B≡A (mod 9)となるAを代表元から見つけられればそれで解決する。見つけられない場合は:  1次主単数にωを0~2回掛けると2次主単数になる。  2次主単数にuを0~2回掛けると3次主単数になる。  3次主単数にvを0~2回掛けると4次主単数=立法元になる。  ここで、Bをω,u,vと立法元の積で表せたから、対応する代表元が分かる。 ・Aが単数でないときは明らかに分岐拡大だが、Aが単数の時も、不分岐拡大は1つしかないから、残りは分岐拡大である。 (すぐ後にわかるように、A=vのときが不分岐拡大である。) ・Q_2の7つの2次拡大のうち、Q_2(√5)だけが不分岐拡大で、Q_2(√3)やQ_2(√-1)は分岐拡大なのと同様の現象である。
[2] ノルム群の描写 x=A1/3, L=K(x)とおく。以下A,x,Lを断りなくこの意味で使い続ける。 暴分岐拡大のノルム群について、しばらく前に書いた: 局所体(2):暴分岐拡大の様子 この[結果2]を使うために、αをLの素元としたときの、s=v_K(σ(α)/α-1)の値を調べる。 ・Aが素元のときは、α=xをLの素元とする分岐拡大で、s=3である。 ・Aが主単数のとき、 (x-1)のノルムが(x-1)(xω-1)(xω^2-1) = A-1 となることに注目する。 よってv_K(A-1)=1,2なら、L/Kは分岐拡大で、 ・v_K(A-1)=1のときは、α=x-1 がLの素元となる。  s = v_K((xω-1)/(x-1) - 1) = v_K((xω-x)/(x-1)) = v_K(x)+v_K(ω-1)-v_K(x-1) = 0+3-v_K(x-1) = 2 ・v_K(A-1)=2のときは、α=(√-3)/(x-1) がLの素元となる。  s = v_K((x-1)/(xω-1) - 1) = v_K((x-xω)/(xω-1)) = v_K(x)+v_K(1-ω)-v_K(xω-1) = 0+3-v_K(x-1) = 1 ・v_K(A-1)=3のとき、あとこれしか残っていないから、これが不分岐拡大のはずである。 (これが不分岐拡大であることを直接説明する良い方法はある?) [結果2]を適用する: s=1なら、ノルム群の像は、ちょうど2,3次主単数を1つずつ取ったものと立法元で生成される。 s=2なら、ノルム群の像は、ちょうど1,3次主単数を1つずつ取ったものと立法元で生成される。 s=3なら、ノルム群の像は、ちょうど1,2次主単数を1つずつ取ったものと立法元で生成される。 ・だから、ノルム群に居るちょうどj次主単数(j∈{1,2,3},j≠s)を見つけてこれば、ノルム群が決定される。  3次主単数の生成元はvしかないから、vを採用することになる。  xのノルムはAだから、必要ならAを採用できる。
[3] ノルム群の計算 ω=(-1+√-3)/2, u=-2, v=1+3√-3を生成元として採用して3次拡大を40種類具体的に挙げたことを思い出す。 ・不分岐拡大[A=v]のとき  主単数のノルム群は、{ω,u,v}で生成される主単数全体である。  乗法群のノルム群は、{ω,u,v,±3√-3} で生成される。(すなわち付値が3の倍数になるもの全体) ・s=1のとき : Aがちょうど2次主単数のとき [A=u,uv,uvv]  主単数のノルム群は、{A,v}と立法元で生成される。(すなわち結局{u,v}で生成される2次主単数全体)  乗法群のノルム群は、{u,v,±√-3/(A-1)} と立法元で生成される。 ・s=2のとき : Aがちょうど1次主単数のとき [A=ω,ωu,ωuu,ωv,ωvb,ωuv,ωuuv,ωuvv,ωuuvv]  主単数のノルム群は、{A,v}と立法元で生成される。  乗法群のノルム群は、{A,v,±(A-1)} と立法元で生成される。 ・s=3のとき : Aが素元のとき [27種類]  主単数のノルム群は、{c1,c2}と立法元で生成され、c1∈{ω,ωu,ωuu,ωv,ωvb,ωuv,ωuuv,ωuvv,ωuuvv}, c2∈{u,uv,uvv}とおける。  乗法群のノルム群は、{c1,c2,±A} と立法元で生成される。 候補はc1が9種類とc2が3種類であるが、例えば{ω,u},{ωu,u},{ωuu,u}の組み合わせは同じ部分群を生成する。 主単数の部分群Hは9種類。それぞれに対して、主単数±A/√-3が属するU/Hの剰余類が3種類で、27種類になる。 (例えば主単数の部分群{ω,u}から、乗法群の部分群は3種類{ω,u,±√-3},{ω,u,±v√-3},{ω,u,±vv√-3}できる。) ・あとで補充法則に関する探索から、A=√-3のときは、{c1,c2}として{ω,u}をとることができることが判明する。 このうち、立法剰余の補充法則に使われる結果は、以下の事実である: 「Aが2次主単数のとき、2次主単数はノルム群に居る」・・・★ (Aがちょうど2次主単数の時はs=1で、Aが3次主単数のときは不分岐拡大)
[4] Q(√-3)上の立法剰余の相互法則の主張 補題。 「Kの単数qに対して、-1かωを何回か掛ければ、2次(以上の)主単数にできる。」 (-1を何回か掛ければ1次主単数にできて、ωを何回か掛ければ2次主単数にできる) そういうわけで、Q(√-3)上の±√-3以外の素元pに対して、 pに、適当なQ(√-3)の単数を掛ければ、p≡1 (mod 3)とできる。 (これは具体的には、p=a+b√-3とおいたときにa≡1(mod 3),b≡0 (mod 3)を意味する) これが「標準形」の役割をする。 (平方剰余の相互法則で4で割って1余るほうを選ぶのと同様の役割) 3N+1型素数の分解(最右辺が標準形) 7 = (-2±w) = (-1±3w)/2 13 = (1±2w) = (5±3w)/2 19 = (4±w) = (-7±3w)/2 31 = (-2±3w) = (-2±3w) 37 = (-5±2w) = (11±3w)/2 43 = (4±3w) = (4±3w) 61 = (7±2w) = (-1±9w)/2 立法剰余の相互法則で検索すると見つかる文献ではq≡2 (mod 3)としているが、 (例えばhttp://nadamath2012.web.fc2.com/bushi/2009_genki.pdf) -1は常に立法剰余なのでどちらでも結果は変わらない。 文献の選択は、-5や-11が標準形となるよりも、5や11が標準形であったほうが自然だという価値感によるものと想像する。 私の選択は、主単数の概念に沿ったものである。 ・立法剰余の相互法則。 p,qをQ(√-3)の整数環の±√-3と異なる素元とする。上記の補題により、標準形にしておく。 すなわちp≡1, q≡1 (mod 3)となるように適当な単数を掛けてあることにする。 このとき、「pがmod qでの立法剰余 ⇔ qがmod pで立法剰余」
[5] 相互法則の説明 Q(√-3)にq1/3を添加した拡大Q(√-3,q1/3)/Q(√-3)を考える。 冒頭に紹介したイデールのアルティン写像の視点を使う。 実2次体の平方剰余の相互法則 重要な性質を引用する。詳細はリンク先の[2]参照。 ・対角成分はアルティン写像の核に居る(これが本質的に重要と思う) ・アルティン写像は局所アルティン写像の掛け合わせである ・局所アルティン写像:  単数成分は分岐拡大に作用し、その具体的な拡大体への作用の核はノルム群に一致する。  素元成分は不分岐拡大に作用し、フロベニウスで記述される。 今まで、p成分のみpなイデールと、そのすべての成分をpで割ったものと説明していたが、 すべての成分がpのイデールの像を考えたほうが、説明がシンプルになるかなと思いついた。 すべての成分がpのイデールのアルティン写像による像を考える。 アルティン写像は、局所アルティン写像の積に分解され、有効な成分の候補は以下の3つである: (a)3の上にある素点における、局所アルティン写像によるpの像 (b)素点qにおける、局所アルティン写像によるpの像:pがmod qで立法剰余かどうかを反映 (c)素点pにおける、局所アルティン写像によるpの像:qがmod pで立法剰余かどうかを反映 アルティン写像の性質より、(a)(b)(c)の掛け合わせは1になる。 なので「p,qを標準形にすれば、(a)が単位元である」を見たい。 これは局所アルティン写像の性質から、pが、相対局所体K(q1/3)/K のノルム群に居ることに帰着する。 ここでp,qが標準形だから、p,qはKの2次主単数であり、[3]の最後の事実★に帰着して解決する。 そういうわけで、(b)(c)の掛け合わせが単位元である: すなわち、「pがmod qで立法剰余 ⇔ qがmod pで立法剰余」
[6] 補充法則 [6-1] 単数ωがmod pで立法剰余となる条件 A=ωのときのノルム群を見れば良いが[3]で既に分かっている。 主単数のノルム群は、{ω,v}と立法元で生成される。 乗法群のノルム群は、{ω,v,±(ω-1)} と立法元で生成される。 pを9で割ったあまりが、この代表元で生成されるものであることが条件になる。 pが±√-3以外の素元の場合には、 pの標準形をa+b√-3とすると、a≡1 (mod 9)となることが条件である。 (しかしよく考えたら、既約剰余類の位数が9の倍数であることが条件とも言える。  すなわち、pが9N+1型の素数を分解した素元であることとも同値である。) [6-2] √-3がmod pで立法剰余となる条件 A=√-3のときのノルム群を調べれば良い。 試行錯誤で特定すると、主単数成分では、{ω,u}を生成元にとれることが分かった。 pが±√-3以外の素元の場合には、 pの標準形をa+b√-3とすると、b≡0 (mod 9)となることが条件である。 ・例えばpが 7+2w [標準形は(-1-9w)/2] のときに√-3≡27は立法剰余となる。 ・特にpが、3N+2型素数の時、√-3は常に立法剰余であることが分かる。  実際フロベニウス写像の性質より、(√-3)^p≡-√-3, よって (√-3)^(2p-2)≡1 (mod p) より、  √-3は{(p+1)/2}冪剰余である。pが3N+2型だから、常に立法剰余である。
18:35 2020/04/04 ノート一覧
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