曲面の幾何学
[1] 前書き
[1-1] 雑談
[1-2] 概念の紹介
[2] 接続
[2-1] 接平面
[2-2] 接続の例
[2-3] 円錐の接続
[2-4] ベクトル場
[2-5] 共変微分
[2-6] クリストッフェルの記号
[2-7] 別の計算方法
[3] 計量
[3-1] 円錐の計量
[3-2] 座標変換に対する反応
[3-3] 計量と接続:計量の共変微分は0
[3-4] 測地線
[4] 曲率テンソル
[4-1] リーブラケット
[4-2] 曲率テンソル
[参考資料]
[*1] 英語版wikipedia
クリストッフェルの記号 https://en.wikipedia.org/wiki/Christoffel_symbols
共変微分 https://en.wikipedia.org/wiki/Covariant_derivative
リー微分 https://en.wikipedia.org/wiki/Lie_derivative
[*2] 一般相対性理論・宇宙論に関する(英語で955ページもある本格的な)教材
http://www.blau.itp.unibe.ch/newlecturesGR.pdf
[3-4]の内容はこの資料から得た。2年前に出会った。
[*3] EMANの物理学 相対性理論 特に第二部、第五部
https://eman-physics.net/relativity/contents.html
独特の説明口調で、他とはまた別の視点がある。
[*4] SSH数学図形ゼミ 微分幾何のページ
http://sshmathgeom.private.coocan.jp/diffgeom/diffgeom.html
曲面に特化している。今回の内容にはあまり使っていない。
[*5] テンソル解析講義(英語)
video 21 リーブラケット https://www.youtube.com/watch?v=SfOiOPuS2_U
video 22 曲率テンソル https://www.youtube.com/watch?v=-Il2FrmJtcQ
[4]の内容の大部分はこれによる。ちょっと分かった気になったので調子に乗って書いた。
[1] 前書き
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蟻は地球を平面だと思っているかもしれない。
しかしこの世界の空間は実は3次元より次元が大きいものの一部かもしれないから我々は蟻を嗤うことはできない。
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[1-1] 雑談
これは、曲率についての記事を書きながら、改めて勉強したものである。
曲面の幾何学は、身近な対象でありながら、難しい。難しいが、身近であり、理解したいものである。
参考資料[*3]にも「40歳を過ぎ, 生活に余裕ができ,学生時代理解できなかった,
微分幾何を死ぬまでには少しは理解したいと考え勉強を始めました」と書いてある。
もう1つの重要な応用は一般相対性理論に使われる言葉であるということである。
一般相対性理論の記述には、曲面の幾何学の言葉が中心的な道具となる(らしい)。
そういうわけで、私にも曲面の幾何学を学びたい動機は時々出現し、機会あるごとに挑戦してきた。
今回、いくつかの概念を新しく正しく理解できたように思う。
英語版のwikipediaが、特に参考になった印象がある。(数式だけでなく、言葉が豊富である。)
概念同士の関係や、概念の性質同士の関係が分かると、全体像が分かりやすいと感じた。
私もそのあたりを重視してこのノートを書けたらと思った。
また、ものごとを理解できたと実感できる時として、自分が考えた具体例で計算できる時というのがある。
今回、特に「円錐」という曲面を題材にして、これらの概念を説明・計算してみた。
計算は、何度も、思った通りの結果にならず、何が違うのかを探すのに時間がかかった。
しかし、そうやって手を動かすことは、重要な過程であり、もっぱら自分のためである。
(読者も、何かしらのきっかけで、自分で例を作って計算してみると良いかもしれない。)
[1-2] 概念の紹介
曲面の幾何学の資料を読んでいると、「外在的」「内在的」という言葉がしばしば現れる。
我々は、地球を3次元的に認識しているから、その表面が平面でないとすぐに分かる。
これが、「外在的な視点」である。
一方で、「内在的な視点」とは、蟻の視点である。
もしかしたら曲面が2次元より大きい世界の一部かもしれないと思いつつも、
曲面上に描かれたuv座標のみで考察を進めていく視点である。
なぜ内在的な視点を考えるのか。
例えば一般相対性理論では歪んだ4次元時空を考えることになる。
これを記述するのに5次元以上に埋め込んだ情報を元にするわけにはいかないだろう。
座標の情報だけでは、曲面の様子を知ることができないので追加の情報が必要になる。
その1つが接続であり、もう1つが計量である。と認識した。
・接続は、接ベクトルを平行移動させたときの挙動を記述する情報である。
・計量は、2点間の距離を記述する情報である。
計量を与えた時に、その計量と結び付く接続は、一意的に定まる。レヴィ・チヴィタ接続)。
逆に、接続を与えても、その接続と結びつく計量は一意的には定まらない(下記)。
それは、接続や計量の情報は展開図にそのまま引き継がれる。
接続と計量の情報を持っていても、展開図が同じになる曲面は区別できない。
例えば、平面と、オーロラのような柱面は区別できない。
(下図の左2つ。蟻にはこの2つはどうやっても区別できないことを想像する。)
接続だけの情報があって、計量の情報がない時は、例えば相似を区別できない。
大きな球と小さな球で、緯度と経度で同様にuv座標を定めると、実は接続の情報は同じになる。
一方で、計量の情報があれば区別することができる。(上図の右2つ)
そういう意味で、接続のほうが、情報としては弱い。
・接続と計量を結びつける概念として「測地線」の二面性がある。([3-4])
接続の視点では、測地線は、接ベクトルをその向きに平行移動し続けて描く曲線である。
計量の視点では、測地線は(局所的に)2点間を結ぶ最短経路である。
(平面に展開できる曲面なら、展開図における直線である。)
・最後に、(ガウス)曲率との関係を事実だけ述べておく。
接続を与えれば、uv座標で指定された範囲全体の曲率の合計は定まる。
例えば、「u^2+v^2<1の領域」の曲率の合計(積分)が定まる。
しかし、1点における曲率は定まらない。
例えば、(u,v)=(0,0)における曲率は定まらない。
一方で、計量を与えられたときには、どちらも定まる。
このノートの目的は、特に接続と計量についてを説明することにした。
特に、円錐を題材にしてこれらの概念を説明することにした。
(本当はガウス曲率まで結び付けたかったが、今回は及ばなかった。)
*注意
このように(3次元空間の部分集合として)外在的に曲面の情報を知っている時には、接続と計量は自然に定まるが、
これは、3次元空間の計量(dsds=dxdx+dydy+dzdz)から誘導されたものだと認識しておけばよい。
接続と計量は、内在的な考察をするための言葉である。
でも具体例で説明するには外在的な情報を予め知っている例を使うしかない。
この辺りが、混乱を招きやすいかもしれない。
*補足。
接続と計量は、他の次元の多様体でも定義される概念だが、今回は曲面だけを考える。
資料によって第一基本量という言葉も使われるが、リーマン計量と同じ内容を指す言葉である。
[2]接続
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時や場所が変わると価値観が変わるように、点が変わると接平面は別物になる
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[2-1] 接平面
最初に接ベクトルとは何かをじっくり考える必要がある。
あるいは接ベクトルは接平面の元なので、接平面とは何かと考えても良い。
外在的な視点では、pを位置ベクトルとすると、∂p/∂uと∂p/∂vはu軸やv軸向きの接ベクトルとなる。
例えば放物面z=xx+yyの原点における接ベクトル2∂p/∂x+3∂p/∂yは、
単に(x,y,z)=(2,3,0)というベクトルで、接ベクトルという言葉から想像する通りのものである。
(位置ベクトルはp=(x,y,z)であり、∂p/∂xはx軸方向の単位ベクトル(1,0,0)である。)
ところが位置ベクトルは、外在的な概念であるから、内在的な人が使うわけにはいかない。
(uv座標では平面とオーロラ面が区別できなかったことを思い出そう。)
代わりに、次のように抽象的に接ベクトルを定義し、その集合を接平面と呼ぶ:
「接ベクトルとは、∂/∂uと∂/∂vの線形結合である」
「∂/∂u」という記号は、この説明では、単にu軸向きの接ベクトル、ということになるが、
別の説明では、「接ベクトルはライプニッツ作用素を満たす作用素である」的な感じで定義され、
あとで出てくる共変微分を理解すれば、スカラーに対する共変微分として解釈する人もいるかもしれない。
いずれにしても、内在的な視点では、接平面は、単に抽象的な集合と思った方が良いかもしれない。
[2-2] 接続の例
上記で使った放物面z=xx+yy の原点の(2,3,0)という接ベクトル[正式には(2∂/∂x+3∂/∂y)]を、
例えば(x,y,z)=(-1,0,1)まで平行移動した結果を考える。(図に書き込んである)
図形的なイメージから、
・y軸向きの接ベクトルは平行移動してもそのまま
・x軸向きの接ベクトルは平行移動によりxz平面に保たれるので(1,0,0)は(1,0,-2)/√5に移る
などと考えて、答えは (2/√5,3,-4/√5)と知ることができる。
この結果を、内在的な言葉で述べる。まずは曲面上の点をuv座標で表現する。
ここでは、(u,v)が表す点はp=(x,y,z)=(u,v,uu+vv)であるとuv座標を設定することにする。
外在的な情報を知っている人は∂p/∂u = (1,0,2u), ∂p/∂v = (1,0,2v)を知っている。
それで、(u,v)=(0,0)における接ベクトル 2∂/∂u+3∂/∂v を (u,v)=(-1,0)に平行移動した結果は
(上記の考察と見比べれば)答えは、(1/√5)∂/∂u+3∂/∂vである。
この結果にも既に現れているし、よく考えれば当然のことであるが、
(u,v)=(0,0)における接ベクトルとしての「∂/∂u」と
(u,v)=(-1,0)における接ベクトルとしての「∂/∂u」は全く別物であり、平行移動で重ならない。
これをよく認識しておく必要がある。
区別を強調するために、∂/∂u(0,0)、∂/∂u(-1,0)、と表記しても良いかもしれない。
この表記を使うと先の結果は:「v=0に沿う平行移動によって
∂/∂u(0,0)は (1/√5)*∂/∂u(-1,0)に対応し、
∂/∂v(0,0)は ∂/∂v(-1,0)に対応する」と記述される。ちょっとまどろっこしい。
接続とはこのように、
「任意の点における任意の接ベクトルを、任意の経路に沿って他の任意の点に平行移動した結果」を知る情報である。
しかしこれをすべて記述するには、「任意の」とついた引数(パラメータ)が多すぎて不便である。
もっと整理して記述するのに、後のクリストッフェルの記号というものに至る。
[2-3] 円錐
具体的に、円錐を3次元ユークリッド空間のうち z^2=3(x^2+y^2) を考えて、
座標(u,v)で表される点は(x,y,z)=(u*cos(v)/√3,u*sin(v)/√3,u)であるようにuv座標を設定する。
これは正三角形を中線を軸として回転させた円錐に、
uを頂点からの距離、vを「経度」とするような座標を設定したものである。
すなわち、母線がu軸、断面円がv軸のような状況である。(vが2π増えると一周する。)
円錐の断面円(例えばu=2と固定する)に沿って接平面を「平行移動」するとどのような挙動をするのか?
その答えは、例えば(なつかしい)展開図で説明することになる。
(その都合で、展開図が円と半円となるような円錐に設定し、計算しやすくした。)
v=0における接ベクトルを、u軸方向の∂/∂uは赤で、v軸方向の∂/∂vは青で示した。
これは右の展開図では、赤は左下向き、青は右下向きに描写されている。
円錐側面に沿ってv=π/2まで「平行移動」した結果は、この向きを保つ。
その結果、2点の∂/∂u, ∂/∂vを同一視した場合に比べて45度回転している。
注意深い読者へ。ここまでで「平行移動」の定義を与えていない。
平行移動をどう定めるかは、接続をどう定めるかと同義であり、予め定義されているものではないが、
今回のように3次元空間に埋め込まれた図形に対しては、ただ1つの自然な定め方がある。
それは「空間のユークリッド計量から誘導される、曲面の計量と結びつく、レヴィ・チヴィタ接続」であり、
この場合は展開図における直線が、測地線であるということを指摘しておく。
先のまどろっこしい表記を使うと、図の青のベクトルについて、
∂/∂v(2,0)は平行移動によって (∂/∂u(2,π/2)+∂/∂v(2,π/2))/√2に移る
という状況である。
注意。この記述は、∂/∂uと∂/∂vの大きさが同じであることを使っている。
接ベクトルの大きさという概念はまた内在的な視点では自明ではないが、
とりあえず外在的な視点では、|∂p/∂u|と|∂p/∂v|のことであり、
ここでは、これらが等しくなるように逆算してu=2と設定した事情がある。
曲面上の観測者(蟻)の立場では、u=2の円に沿った経路は左にカーブしている、と感じられるだろう。
今回の設定では、vがπ/2進む間に経路が45度カーブするので、v=2πで1周して戻るまでに180度カーブする。
(曲率についてのノートを先に読んだ読者は、このカーブの角度が、
「1周した経路によって切り分けられた曲面の片側に存在する曲率の合計」
と関係していることに気づくかもしれない。)
[2-4] ベクトル場
2点での接ベクトルを離散的に比較する代わりに、連続的に考察すると、微分の言葉が使えて解析に役立つ。
そのためには、各点で接ベクトルが定まっているような概念「ベクトル場」を使うことになる。
接ベクトル場は、X(u,v) = A(u,v)*∂/∂u + B(u,v)*∂/∂v の形ということになる。[A,Bはu,vの関数]
これは任意の点に対して、その点の座標を代入すれば、その点における値(接ベクトル)を得るもので、
例えば点(u,v)=(2,π/2)におけるX(u,v)の値は、
A(2,π/2)*∂/∂u(2,π/2)+ B(2,π/2)*∂/∂v(2,π/2)という具合である。
先の円錐上のベクトル場の例を1つ与える:
X(u,v) = sin(v/2)*∂/∂u + cos(v/2)*∂/∂v
このベクトル場の特定の点における値の例は、
点(u,v)=(2,0)では∂/∂v(2,0)
点(u,v)=(2,π/2)では (∂/∂u(2,π/2)+∂/∂v(2,π/2))/√2
となる。これは実は先の図の青いベクトルを表したベクトル場である:
(そういう事情で先の図の左上に、ベクトル場Xを表す図という意味で、Xと書いておいた。)
もう1つベクトル場の例を与える:
Y(u,v) = ∂/∂u
これは、A(u,v)が常に1, B(u,v)が常に0の場合である。
「∂/∂u」という記号は接ベクトルとして登場したが、この意味で「接ベクトル場」とも解釈され得るのである。
この接ベクトル場に相当する図は下図の赤のような挙動をする。(図の右側は後の説明で使う。)
Xと違って、この接ベクトル場∂/∂uの異なる2点での値(接ベクトル)は平行移動で重ならない。
[2-5] 共変微分
ベクトル場の、経路に沿った微分を考える。微小変化に対する変化である。
慣れと比較のために、スカラー場の経路に沿った微分を先に説明する。
曲面の各点にスカラーF(u,v)が与えられている状況を考える。
経路とは、パラメータtに対して、位置(u,v)=(u(t),v(t))が(滑らかに)定まっている状況を指す。
具体例では経路としてはu=2に固定した経路(u,v)=(2,t)で考察していく。
・経路に沿ったスカラー場Fの微分は、単に、F(u(t),v(t))をtの関数として微分すれば良い。
・一方で、ベクトル場X(u,v)=A(u,v)*∂/∂u + B(u,v)*∂/∂vが定まっているとき
経路に沿った微分は、単にA(u,v)とB(u,v)をtで微分するわけにはいかない。
これは、「∂/∂uの中身」が変化するからである。
(これを無視すると座標に対して「共変的」ではなくなってしまう。)
そこで、「経路に沿って移動する時に、各点での接平面を、固定されたxy平面に投射し続ける」ことをする。
このとき、平行移動で重なる接ベクトルが、xy平面で同じベクトルに投射されるように調整する。
円錐のように展開図が描ける場合は、展開図の平面に移すと考えても良い。
先の1つ目の接ベクトル場の例:
X(u,v) = sin(v/2)*∂/∂u + cos(v/2)*∂/∂v では、v軸に沿う共変微分は0となる。
赤で示した接ベクトルは、展開図上では常に同じ向き(で同じ大きさ)となるからである。
一方で、接ベクトル場Y(u,v)=∂/∂u では、v軸に沿う共変微分は0でない。これを題材にする。
v=0では、∂/∂uをx軸に、∂/∂vをy軸に投射することにする。(上図の実線)
(接平面のxy平面への投射先は、出発点では自由に定めることができるので、
出発点での基底をそれぞれx軸、y軸に投射しておくのが便利である。)
v=π/2まで移動すると、左に45度回転させて投射することになる。(上図の点線)
(どちらに45度回転させれば良いかの検算:
∂/∂v(2,0)と、(∂/∂u(2,π/2)+∂/∂v(2,π/2))/√2が、平行移動で重なるのであった。
v=0(実線)の青の投射先が、v=π/2(点線)の赤の投射先と青の投射先を二等分する方向に一致する。)
連続的に記述すると、接ベクトル場 Y(u,v) の(u,v)=(2,t)における接ベクトルは、
このxy平面に、(x,y)=(cos(t/2), sin(t/2)) というベクトルに投射される。
x,yを基底とする代わりに、出発点での接平面の基底の言葉を使うと、
cos(t/2)*∂/∂u(2,0) + sin(t/2)*∂/∂v(2,0) ということになる。
「共変微分」は、これの出発点t=0における微分係数をとるものである。
今回の場合、 1/2*∂/∂v(2,0) という結果となる。
*補足:細かいけど一度明文化することで混乱を予防するために:
共変微分には、いくつか種類がある:
(1)(経路上のある点における)「経路に沿った」共変微分:
今説明したものである
(2) ある点における「接ベクトルに沿った」共変微分
「ある点pでの接ベクトルが与えられれば、その点からその方向に向かった経路を定めることができる」
という視点が必要になる。正確には、
経路p(t)=(u(t),v(t))で、t=0において与えられた点に一致して、
u'(0)∂/∂u+v'(0)∂/∂v が与えられた接ベクトルに一致するような経路を考える。
点と接ベクトルを指定するだけでは、このような経路は一意的には定まらない。
しかし、その点における経路に沿った共変微分は、経路の取り方に依らない。
(3) 「接ベクトル場に沿った」共変微分
これは、すべての点に対する(2)を考えるものである。(微分係数と導関数のような関係)。
(1)(2)の結果が接ベクトルを与えるのに対して、(3)の結果は接ベクトル場を与える。
接ベクトル場Yに沿ったXの共変微分を∇Y(X)と書く。
u軸に沿った、つまり接ベクトル場∂/∂uに沿ったXの共変微分∇∂/∂u(X)を略して∇u(X)と書く。
[2-6] 共変微分の定義ができたら、クリストッフェルの記号の定義が続けられる。
次の記述のa,b,cには、それぞれu,vのどちらかが入る:
---
b軸に沿った接ベクトル場Z=∂/∂cの共変微分、すなわち ∇b(∂/∂c)を
A*∂/∂u + B*∂/∂v とおくとき、
この係数Aによって、Γubcを定義し、
この係数Bによって、Γvbcを定義する。
すなわち、∂/∂apの係数を、Γabcと定義する。
---
引数(パラメータ)が3つもあるので実際ややこしい。
[2-5]の計算結果を再掲すると、
接ベクトル場Y=∂/∂uを、(u,v)=(2,0)において、v軸に沿って共変微分した結果が
1/2*∂/∂v(2,0)であった。
上記の定義と見比べると、A=0, B=1/2 であるから、
(この点における値として)Γuvu = 0, Γvvu = 1/2 ということになる。
・接続を定めるとは、すべての点におけるクリストッフェルの記号の値を定めることと同値である。
これは、クリストッフェルの記号が定まれば、接ベクトルの平行移動や、共変微分が定まることを言っている。
それを説明しておく。(これは、今までの議論とは逆の流れとなる)
まずクリストッフェルの記号は、接ベクトル場の基底を共変微分した結果を定めているから、
線形結合やライプニッツ則により、一般の接ベクトル場の共変微分も定まる。
例えば A(u,v)∂/∂u+B(u,v)∂/∂v の∂/∂vに沿った共変微分は、
∂A/∂v*∂/∂u + A*(Γuuv∂/∂u+Γvuv∂/∂v)
∂B/∂v*∂/∂v + B*(Γuvv∂/∂u+Γvvv∂/∂v)
という具合である。
そして共変微分が定まれば、接ベクトルの平行移動は、共変微分が0となるベクトル場として特徴づけられる。
[2-7] 補足:共変でない微分を使った説明
上記では、展開図を使って接続や共変微分を計算した。
もっと外在的な視点から直接、接ベクトル場を「外在的に微分」することができる。
実は、外在的に微分を曲面に正射影したものが、共変微分に一致する。
内在的な視点では曲面に垂直な成分を知ることはできないことを考えるとこれは合理的である。
(例えば平面とオーロラ面が区別できないことを思い出そう。)
このようにして接続を計算できるが、[3-4]でもっと良い計算方法を紹介する。
円錐の例で、この計算をする(自分のためパート):
p = (x,y,z) = (u*cos(v)/√3,u*sin(v)/√3,u)
∂p/∂u = (cos(v)/√3, sin(v)/√3, 1)
∂p/∂v = (-u*sin(v)/√3, u*cos(v)/√3, 0)
∂/∂v(∂p/∂u) = (-sin(v)/√3, cos(v)/√3, 0)
∂/∂v(∂p/∂v) = (-u*cos(v)/√3, -u*sin(v)/√3, 0)
これを{∂p/∂u,∂p/∂v,N}の線形結合で表すことを考える。
ここで、Nは、∂p/∂uと∂p/∂vで貼られる平面と垂直なベクトルである。
線形結合で表した結果のN成分を除いたものが、先の共変微分と一致するはずである。
N = (cos(v)/√3, sin(v)/√3, -1/3) ととることができる。
∂/∂v(∂p/∂u) = (-sin(v)/√3, cos(v)/√3, 0) = 1/u * ∂p/∂v
∂/∂v(∂p/∂v) = (-u*cos(v)/√3, -u*sin(v)/√3, 0) = -u/4 * (∂p/∂u+3N)
∂/∂u(∂p/∂u) = (0,0,0)
∂/∂u(∂p/∂v) = (-sin(v)/√3, cos(v)/√3, 0) = 1/u * ∂p/∂v
クリストッフェルの記号で結果を書いておくと、
Γuvv = -u/4, Γvvu = Γvuv = 1/u であり、残りは0という結果を得る。
*補足
この計算をよく見れば、∂p/∂vのu軸方向の微分と、∂p/∂uのv軸方向の微分が同じになる。
クリストッフェルの記号でいうと、Γabc = Γacb である。
これは、外在的な位置ベクトルpに対して∂/∂uと∂/∂vが可換であることによる。
このような状況を「ねじれのない」と呼ぶ。
通常の3次元空間に埋め込めるような曲面では∂/∂uと∂/∂vは可換なので、ねじれのない曲面となる。
[3]計量
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私が走ると、世界はローレンツ収縮する
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[3-1] 円錐の計量
計量を与えるとは、「同一接空間内の接ベクトル同士の内積を定義する」ものである。
(だから、これは接ベクトルの大きさを定めるだけでなく、接ベクトル同士のなす角度も定める。)
まずは外在的な情報から、先の円錐の計量を計算しよう。
(x,y,z)=(u*cos(v)/√3,u*sin(v)/√3,u) という外在的な情報から計量を誘導する。
[2-3]の注意深い読者への補足と同様の事情で、計量も予め定まっているものではないが、
3次元空間の計量から誘導される自然な計量があるので、それを求めておこうということである。
例えば接ベクトルの内積(∂/∂u)・(∂/∂u)は、単に、
3次元空間のベクトルの内積(∂p/∂u)・(∂p/∂u)として計算される。
(∂p/∂u)・(∂p/∂u) = (cos(v)/√3, sin(v)/√3, 1)・(cos(v)/√3, sin(v)/√3, 1) = 4/3
(∂p/∂u)・(∂p/∂v) = (cos(v)/√3, sin(v)/√3, 1)・(-u*sin(v)/√3, u*cos(v)/√3, 0) = 0
(∂p/∂v)・(∂p/∂v) = (-u*sin(v)/√3, u*cos(v)/√3, 0)・(-u*sin(v)/√3, u*cos(v)/√3, 0) = uu/3
となる。これがこの円錐の計量の情報すべてである。
この3行の情報は、dsds = 4/3 dudu + uu/3 dvdv とまとめて書かれる
これはいくつかの視点があるからいくつか紹介する
・点(u,v)からの距離をu,vの2変数関数と思った時の全微分
・dp=(∂p/∂u)du+(∂p/∂v)dv とおいたときの形式的なdp・dp
・dsds = dxdx + dydy + dzdz に対して座標変換を適用した結果
dx = cos(v)/√3 du - u*sin(v)/√3 dv
dy = cos(v)/√3 du + u*cos(v)/√3 dv
dz = du
より dsds = dxdx + dydy + dzdz = 4/3 dudu + uu/3 dvdv
計量は、gを使ってg_uvなどと記述される。
なぜgかははっきりしない:https://math.stackexchange.com/questions/2602759/why-is-a-riemannian-metric-g
曲面の場合は第一基本量とも呼ばれるのだが、その場合はなぜかE,F,Gのアルファベットが使われたりする。
先の円錐の結果だと、 E=g_uu=4/3, F=g_uv = 0, G=g_vv=uu/3 という記述になる。
[3-2] 座標変換
・共変と反変(言葉の紹介。あるいはこの2行は自分のためのメモの意味合いが強い)
接ベクトル=1-形式=共変ベクトル=1階共変テンソル=(1,0)型テンソル=∂/∂uと∂/∂vの線形結合
余接ベクトル=(1次)微分形式=反変ベクトル=1階反変テンソル=(0,1)型テンソル=duとdvの線形結合
座標u,vの代わりに、目盛りの長さを2倍にした座標U,Vを考えて相互に座標変換することを考える。
目盛りの長さを2倍にするとは、u=2とU=1が同じ点を表す:u=2U, U=1/2*u という関係である。
このときに、接ベクトル∂/∂uと∂/∂Uの関係は、∂/∂U = du/dU*∂/∂u = 2*∂/∂u である。
(Uの方が目盛りが大きいので、目盛りUによる方向微分は、目盛りuによる方向微分の2倍である。)
一方で、微分形式duとdUの関係は、形式的に dU = dU/du * du = 1/2 * du である。
(ある微小変化をした時の目盛りの値の増え具合は、Uの方が半分であると解釈できる。)
∂/∂uのような変換をするものが共変ベクトルと呼ばれ、
duのような変換をするものが反変ベクトルと呼ばれる。
・計量は共変であるということを説明するためにこのセクションを置いた。
座標(u,v)を別の座標(u',v')に変換するときに計量の変換を考える。
dsds = E dudu + F dudv + G dvdv = E' du'du' + F' du'dv' + G' du'dv' とする。
これは例えば「2変数関数の全微分」の視点で考えれば良い。
E' = ∂/∂u' ∂/∂u' s であり
連鎖律 ∂/∂u' = ∂/∂u ∂u/∂u' + ∂/∂v ∂v/∂v'を使えば
E' = (∂/∂u ∂u/∂u' + ∂/∂v ∂v/∂v')(∂/∂u ∂u/∂u' + ∂/∂v ∂v/∂v') s
= (∂u/∂u')(∂u/∂u') E + 2(∂u/∂v')(∂v/∂u')F + (∂v/∂v')(∂v/∂v') G
という関係である。
より形式的に記述するには、a,bをそれぞれu',v'のどちらかとして、
g'_ab = Σ[i,j]∂u_a/∂u'_i ∂u_b/∂u'_j g_ij
と記述される。i,jはそれぞれu,vを渡る。
このような変換を受けるg_ijが、2階の共変テンソルという概念である。
具体例として円錐の例のuv座標から、以下の座標変換をしたUV座標での計量を計算する:
U = u cos(v/2), V = u sin(v/2)
u = sqrt(UU+VV), v = 2*arctan(V/U)
∂u/∂U = U/sqrt(UU+VV), ∂u/∂V = V/sqrt(UU+VV),
∂v/∂U = -2V/(UU+VV), ∂v/∂V = 2U/(UU+VV)
(意味ありげであるが、実際意味あるように設定した:
円錐の展開図をUV座標のつもりで記述するとこれの定数倍になる。)
g_UU = (∂u/∂U)(∂u/∂U)g_uu + 2*(∂u/∂U)(∂v/∂U)g_uv + (∂v/∂U)(∂v/∂U)g_vv
= UU/(UU+VV)*4/3 + 0 + 4VV/(UU+VV)*1/3 = 4/3
g_UV = (∂u/∂U)(∂u/∂V)g_uu + (∂u/∂U)(∂v/∂V)g_uv + (∂v/∂U)(∂u/∂V)g_uv + (∂v/∂U)(∂v/∂V)g_vv
= UV/(UU+VV)*4/3 + 0 + 0 - 4UV/(UU+VV)*1/3 = 0
g_VV = (∂u/∂V)(∂u/∂V)g_uu + 2*(∂u/∂V)(∂v/∂V)g_uv + (∂v/∂V)(∂v/∂V)g_vv
= VV/(UU+VV)*4/3 + 0 + 4UU/(UU+VV)*1/3 = 4/3
というわけで
dsds = 4/3*(dUdU+dVdV) を得た。これは確かに通常のユークリッド平面の計量(の定数倍)である。
*細かい補足。
上の変数変換がうまく定義されるには、例えば u>0, 0<v<2πなどに制限する必要がある。
この制限された範囲で、円錐は内在的には平面と同等であることが改めて確認された。
(座標変換によって平面と同じ計量にできるからという意味)
*どのような曲面が、平面と同等か(座標変換で平面と同じ計量にできるか)という疑問が生まれる。
これは、ここでは説明できないが、事実としては「曲率が常に0である」ことと同値である。
[3-3] 計量と接続の関係(飛ばしても良い)
レヴィ・チヴィタ接続は「計量の共変微分が0となる、ねじれのない接続」として定義される。
共変微分は接続使って定義されたから、これが計量と接続を結びつける関係式となる。
*その背景にはそのような接続が一意的に定まるという事実がある(詳細は追えていない)。
(ねじれのないという言葉については、[2-7]の最後の補足参照)
*解釈としては、共変微分は、平行移動で重なり合う接ベクトルを同一視する。
計量は、接ベクトルの内積を定めるものであった。
同一視される接ベクトルの内積は、一定であるべきだ。
そういうわけで、計量の共変微分は0であるべきだ、という雰囲気だと思った。
しかし計量は2階のテンソルであり、その共変微分の説明はまだしていない。
具体的な計算では、英語版wikipediaの共変微分の項に書いてあるように、クリストッフェルの記号をつけ加えて計算する:
https://en.wikipedia.org/wiki/Covariant_derivative
ここでは、さっき得た円錐の計量の共変微分の成分の1つを実際に計算してみた(自分のためパート):
∇u g_vv
= ∂/∂u g_vv - Γuuv g_uv - Γvuv g_vv - Γuuv g_vu - Γvuv g_vv
= 2u/3 - 0 - (1/u) *uu/3 - 0 - (1/u) *uu/3
= 0 と確認できた。
*補足
この計算を考えていてとても混乱したことがあったので、書いておく。
∂/∂vが1階の共変ベクトルで、計量テンソルg_vvが2階の共変ベクトルというのは、分かった。
しかし、例えば円錐の例でg_vv=uu/3 を見ると、右辺は単独ではスカラーっぽい形になっている。
∂/∂vでは、そういうことはできない。
それに関連して、∂/∂vの共変微分では、クリストッフェルの記号の項はプラスで登場した。
しかし、計量テンソルの共変微分では、クリストッフェルの記号の項はマイナスで登場した。
この違いはどうやって納得すれば良いのか。
これは、テンソルの「基底」と、「成分」の違いと呼ぶと、とりあえず納得した。
∂/∂vは「基底」で、g_vvは「成分」である。
接ベクトル場の成分表示を考える:
例えば[2-4]の例 X(u,v) = sin(v/2)*∂/∂u + cos(v/2)*∂/∂vという接ベクトル場を、
[3-2]の座標変換で変換することを考える:
U = u cos(v/2), V = u sin(v/2), u = sqrt(UU+VV), v = 2*arctan(V/U)
∂u/∂U = U/sqrt(UU+VV), ∂u/∂V = V/sqrt(UU+VV),
∂v/∂U = -2V/(UU+VV), ∂v/∂V = 2U/(UU+VV)
X = sin(v/2)*∂/∂u + cos(v/2)*∂/∂v
= sin(v/2)*[∂U/∂u*∂/∂U+∂V/∂u*∂/∂V] + cos(v/2)*[∂U/∂v*∂/∂U+∂V/∂v*∂/∂V]
= sin(v/2)*[cos(v/2)*∂/∂U+sin(v/2)*∂/∂V] + cos(v/2)*[-usin(v/2)/2*∂/∂U+ucos(v/2)/2*∂/∂V]
= [(sin(v/2)cos(v/2)-cos(v/2)usin(v/2)/2)]∂/∂U + [(sin(v/2)sin(v/2)+cos(v/2)ucos(v/2)/2)]∂/∂V
これは u=2でv軸に沿って平行移動した時に保たれるように設定したベクトル場であった。
上記結果で確かにu=2と固定するとX=∂/∂Vとなってvに依存しないと確認できる。
ここで、
X = X^u ∂/∂u + X^v ∂/∂v
X = X^U ∂/∂U + X^V ∂/∂V
というふうに成分表示したときの係数に名前をつけておくと、
X^V = X^u*∂V/∂u + X^v*∂V/∂v の関係にあって、これは反変ベクトルの変換である。
つまり接ベクトルは共変ベクトルだが、その成分は反変ベクトルなのだ・・
*でもそうしたら、もう1つ混乱したことがある。
[2-6]で接続を与えられたときの接ベクトル場の共変微分の定義の説明で、
A(u,v)∂/∂u+B(u,v)∂/∂vを共変微分する時はA,Bがスカラー場であるかのような計算をした。
しかしA,Bは反変ベクトルだから、A=X^u, B=X^v と書いたとき、wikipediaにあるような
∇_v (X^u) = ∂X^u/∂u + Γ^u_uv X^u + Γ^u_vv X^v
∇_v (X^v) = ∂X^v/∂u + Γ^v_uv X^u + Γ^v_vv X^v
というふうにしないといけないのではないか?
よく見ると、この場合は、∂/∂uと∂/∂vをそのままにすれば、[2-6]と同じ結果になる。
成分と基底のどちらか片方に対して、クリストッフェルの記号による補正をすれば良くて、両方してはいけない。
そういうわけで、
∂/∂uは共変な基底であり、クリストッフェルの記号による補正をするならプラス
X^uは反変な成分であり、クリストッフェルの記号による補正をするならプラス
一方でg_uuは、「共変な成分」に相当し、クリストッフェルの記号による補正はマイナス
と理解した。
[3-4] 測地線(ここでは証明はしないで事実を書くだけな所が多い)
これが、計量と接続を結びつける別の視点である。
接続の視点では、測地線は、接ベクトルが平行移動で保たれるような曲線であり、
計量の視点では、測地線は、局所的に2点間を結ぶ最短経路となる。
・接続の視点からは、
曲線(u,v)=(u(t),v(t))が測地線である条件は、クリストッフェルの記号を使うと次のように書ける(らしい):
ddu/dtdt + Σ Γuij di/dt dj/dt = 0
ddv/dtdt + Σ Γvij di/dt dj/dt = 0
このセクションで後で引用するために【接続の式】と名付けておくことにする
ここでiとjはそれぞれu,vを渡る和という記法である。
(本来はuiと書かれるが、下付き部分に上付き文字が入ると読みにくいことによる妥協である・・)
物理的には、「時空に描く世界線」という視点では、
この第二項は、「非慣性系座標での見かけの力による加速度」に相当する(らしい)。
・一方で、計量の視点からは、変分法の原理で、オイラーラグランジュの方程式に至る:
(私にはまだ理解できない)不思議な力により、
L = 1/2*Σg_ij di/dt dj/dt とおくと(この式ではijはu,vを渡る和)
d/dt ∂L/∂(i') - ∂L/∂i = 0 という方程式が求めるものを与えるらしい。
この式ではiはu,vのうちどちらか(渡る和ではない)で、i'とはdi/dtであり、
つまりu,v,u',v'を独立変数として見なすという変分法独特の偏微分である。
具体的に、先に計算した円錐の計量を代入した場合は
L = 2/3*u'u'+uu/6*v'v' となり、
d/dt ∂L/∂(u') - ∂L/∂u = d/dt(4/3*u') - u/3*v'v' = 4/3*u" - u/3*v'v' = 0
d/dt ∂L/∂(v') - ∂L/∂v = d/dt(uu/3*v') - 0 = uu/3*v" + 2uu'/3*v' = 0
という方程式を得る。
これを解くのは簡単ではないが、円錐の場合は答えを既に知っている:
先のUV座標に変換した結果が(U,V)=(at+b,ct+d)となるような経路である。
すなわち
u = sqrt((at+b)^2+(ct+d)^2), v = 2*arctan((ct+d)/(at+b))
がこの方程式の解となるはずである(確認はしていない)。
*細かい補足。
Lの式の1/2という係数は全く本質的ではないが、
後でu'u'を偏微分したときの2u'になるのを打ち消すような意味で都合が良い。
*ところでこれを、u"やv"の係数が1になるように書き下して、【接続の式】と係数比較するのが、
実用的に「外在的な情報から、クリストッフェルの記号の計算する1つの方法」となる。
今回の場合は:
u" - u/4*v'v' = 0
v" + 2/u*u'v' = 0
であり、これを接続の視点の式と見比べれば、以下に再掲する先の結果が復元される:
Γuvv = -u/4
Γvvu = Γvuv = 1/u
v"の式に出てくるu'v'の係数が2/uで、復元した対応する結果が1/uで、違うじゃないか
・・と思うかもしれないが、これは、この方法の注意点で、
【接続の式】では(i,j)=(u,v)のときと(i,j)=(v,u)のときが別々に足されるからである。
[4] 曲率
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リイ・ブラケットさんは関係ない
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[4-1] リー微分、リーブラケット
内在的な人が、接ベクトル場Yの微分をするときには、先は接続を利用した(共変微分)。
リー微分は、接続を必要としない、別の方法である。
共変微分の時は、単独の「接ベクトル」に沿った共変微分が定義できたが、
リー微分は、「接ベクトル場X」に沿ったリー微分LX(Y)という形でしか定義できない。
ある点pでの接ベクトルY(p)と、Xに沿った微小変化先p'での接ベクトルY(p')の比較をする必要がある。
しかし接平面は点によって変わるから、どちらかの接平面に合わせなければいけない。
Y(p)に相当するものを、p'での接平面で見つける必要がある。
「接ベクトルは、その点から、その方向に向かった経路を定める」ことが鍵となる。
([2-5]の補足の(2)で言及した。)
点pから接ベクトルX(p)のほうへ微小に移動した点をp'とする。Y(p)とY(p')を比較したい。
点pから接ベクトルY(p)のほうへ微小に移動した点をp2とする。
p2から、接ベクトルX(p2)のほうへ微小に移動した点をp3とする。
p'からp3に向かう接ベクトル(図の点線)を、「Y(p)を相当するもの」として扱うのである。
この図をよく見ると、当初はXに沿ったYの微分という意図で考えたのであるが、
「Xに沿って微小に進んでからYに進むのと、その逆の順で進むのとでの結果の違い」
とも解釈することができる。
そういう意味で、同じ計算結果を、リーブラケット [X,Y] で書く。
外在的な言葉「位置ベクトル」で、考察してみた。
p'を記述するために、関数 f(t) = (f_u(t), f_v(t)) で以下の条件を満たすものをとる。
・t=0のときに点pにいる
・t=0での微分係数が、Xのpにおける値X(p)に一致する。
そうすると、点p'は、p+f'(0)dt に相当するが、結局 p+X(p)dt ということになる。[dtはtの微小変化的な意味合い]
(外在的な人は、位置ベクトルと接ベクトルを足し算しても良い。)
Y方向への微小変化するときのパラメータをTで記述して、考察を進めると
青→赤の合成先は p + X(p)dt + Y(p+X(p)dt) dT
赤→緑の合成先は p + Y(p)dT + X(p+Y(p)dT) dt
となり、その差をとると、[Y(p+X(p)dt) - Y(p)] - [X(p+Y(p)dT) - X(p)] となる。
ここで[Y(p+X(p)dt) - Y(p)] は、ベクトル場YのX(p)方向への方向微分に相当すると考えられる。
一旦ベクトル場の成分表示に戻して考えて次のようにおくと:
X = A∂/∂u+B∂/∂v
Y = C∂/∂u+D∂/∂v
であり、YのX(p)方向への方向微分は、grad(Y)と(A,B)の内積であるから、
A∂/∂u(C∂/∂u+D∂/∂v) + B∂/∂v(C∂/∂u+D∂/∂v) というような結果になる。
これは、Xを微分作用素とみなしてYに作用させた結果 X(Y) と解釈できる。
そういうわけで、wikipediaに書いてあるような、[X,Y] = X(Y) - Y(X) という式に納得した。
「微分作用素とみなす」視点はあまり説明できていない。
微分作用素としての接ベクトルに慣れている人は、もっと直接的に考察できるかもしれない。
・座標ベクトルのリーブラケット[∂/∂u,∂/∂v]は0である。という性質がある。
これは、「u軸に沿って微小に進んでからv軸に進むのと、その逆の順で進むのとで同じ」
という解釈ができる。これは下図で赤と青が閉じた四角形をなすという性質である。
(接続にねじれのあるかどうかによらず、成り立つ。)
[2-7]で言及したねじれがないという条件は、
図の、赤と青を平行移動した水色とピンクのベクトルが、終点が一致することに相当する。
赤とピンクの差が∇u(∂/∂v)で、青と水色の差が∇v(∂/∂u)だから、
接続にねじれのない条件は、∇u(∂/∂v) = ∇v(∂/∂u) と同値で、
これが、[2-7]の最後の内容の条件を、共変微分の言葉で書いたものである。
[4-2] 曲率は、共変ベクトルの非可換性に現れる。
[2-5]の補足(3)で書いたように、
接ベクトル場Xの、接ベクトル場Yに沿った共変微分 ∇Y(X) は、また接ベクトル場である。
そこで2つの共変微分を順番を変えて作用させたものを比べることを考えると、
∇X(∇YZ) と ∇Y(∇XZ) は、平面の場合は同じになるが、曲面では同じとは限らない。
先の図にZを書き加えた図を描いた:
まず、[X,Y]=0の場合を考える。
すなわち図では閉じていない四角形が、実際は閉じているものとして考える。
∇XZ の点pにおける値は、Z(p') - [Z(p)をp→p'に平行移動させたもの] に相当する。
ベクトル場としては、「少し右でのZの値から、今の値を少し右に平行移動したものを引いたもの」である。
∇Y(∇XZ) の点pにおける値は、(∇XZ)(p2) - [(∇XZ)(p)をp→p2に平行移動させたもの] となる。
これを解釈すると、
第一項は (Z(p3) - [Z(p2)をp2→p3に平行移動させたもの])
第二項は「Z(p') - [Z(p)をp→p'に平行移動させたもの]」をp→p2に平行移動させたもので、
[Z(p')をp'→p3に平行移動させたもの] - [Z(p)をp→p'→p3と平行移動させたもの]
と解釈される(ややイメージに訴えている。正確な議論は[*5]など・・)
同様に∇X(∇YZ)を解釈して差をとると、最終的に、
[Z(p)をp→p'→p3と平行移動させたもの] と [Z(p)をp→p2→p3と平行移動させたもの] の差が残る。
そういうわけで、
[X,Y]=0の場合は、この共変微分の順番を入れ替えることによる差は、
接ベクトルZをこの四角形に沿って1周したときの変化に相当する。
これが、リーマン曲率テンソル R(X,Y)Z である。
すなわち、[X,Y]=0 のときは R(X,Y)Z = ∇X(∇YZ) - ∇Y(∇XZ) である。
(特にX,Yが接ベクトル場の基底∂/∂u,∂/∂vである場合は[4-1]の後半で紹介した性質で[X,Y]=0が成り立つ。)
なお[X,Y]=0とは限らない場合は、R(X,Y)Z = ∇X(∇YZ) - ∇Y(∇XZ) - ∇[X,Y]Z
となるが、この辺りの計算も追わない。([*5]など)
3つ目の余計な項をつけることで、実際にR(X,Y)Zが「テンソル」になるらしい。
曲面の場合にはリーマン曲率テンソルには、自由度は1つしかなくて、
それがガウス曲率と結びつくのであるが、それもここは、今回踏み込まないことにした。
最後に、円錐のリーマン曲率テンソルが0になることを計算して終わりにする(自分のためパート)。
クリストッフェルの記号の結果を再掲する:
Γuvv = -u/4
Γvvu = Γvuv = 1/u
これは次のような意味である:
∇v ∂/∂v = -u/4*∂/∂u
∇v ∂/∂u = 1/u*∂/∂v
∇u ∂/∂v = 1/u*∂/∂v
(Γの左下の添え字が∇の添え字で、右下の添え字が共変微分する対象で、上の添え字が右辺の基底。
このノートを書くために何度も計算しているうちに、だんだんしみついてきた。)
X=∂/∂u, Y=∂/∂v, Z=∂/∂uで計算する。
∇Y Z = 1/u*∂/∂v
∇X (∇Y Z) = 1/u*(1/u*∂/∂v) + (-1/uu)*∂/∂v = 0
∇X Z = 0
X=∂/∂u, Y=∂/∂v, Z=∂/∂vでは
∇Y Z = -u/4*∂/∂u
∇X (∇Y Z) = (-1/4)*∂/∂u
∇X Z = 1/u*∂/∂v
∇Y (∇X Z) = 1/u*(-u/4*∂/∂u)
いずれも、∇X(∇Y) = ∇Y(∇X) 、従って曲率テンソルが0だと確認できた。
2019/12/4
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