Q(2^(1/3))等での素イデアルの分解

α=2^(1/3), M=Q(α), K=Q(√-3), L=K(α) とおく。 これらは類数1で、Mの基本単数は(α-1)である。 L/K, K/Q, L/M がそれぞれアーベル拡大なので類体論が使える。 すなわちノルム群の像が分岐する素イデアルを法とする式で記述できる。 この観察から、例えば次の産物を得た: ・3以外の素数pがp=x^3+2y^3+4z^3-6xyz と表せる ⇔ p≡2 (mod 3) または p=u^2+27v^2 と表せる このあたりを[1][2]で説明する。 α=2^(1/3)の代わりにα=3^(1/3)も考えてみると、類似の同値をもう1つ得た。 これを[3][4]とした。 *データベースLMFDB: M:https://www.lmfdb.org/NumberField/3.1.108.1 L:https://www.lmfdb.org/NumberField/6.0.34992.1 pを(有理)素数とする。 (p)の上にあるK,M,Lの素イデアルをそれぞれ(q),(r),(s)のアルファベットで表記する。 [これらの整数環はすべて単項イデアル整域だから素イデアルの生成元をp,q,r,sとおいた。]
[1] それぞれのノルム像 [1-1] L/Kのノルム群の像を計算すると、 q≡±1,(±1±√-3)/2 (mod 6) で記述される。 #Lの整数環を6で割った既約剰余類は18個あり、上記はその指数3の部分群である。 (2で割ったあまりが3種類, 3で割ったあまりが6種類) #18個の代表元の例は{±1,(±1±√-3)/2,±2√-3±1,±2√-3+(±1±√-3)/2,} 複素平面にこれらの既約剰余類を色分けした。 赤が上記の指数3の部分群、紫と緑が他の剰余類。 [1-2] K/Qのノルム群の像はよく知られているようにp≡1 (mod 3)である。 (pを正となるように選ぶ) [1-3] L/Mのノルム群の像は、r≡1 (mod α+1) で記述される。 (rを正となるように選ぶ) #この(α+1)は(3)の分解先であり、既約剰余類は±1で代表される2種類である。 #具体的な分解は3=(α+1)^3*(α-1), (α-1)はMの単数
[2] pによる分類 3つの場合に分けられる。分解の様子を図に示した。 丸の大きさは剰余体のノルムの大きさを表している。 Gal(L/K)は3次対称群に同型で、 αを固定して√-3の符号を変える位数2の元をg_M、 √-3を固定してαをα(-1+√-3)/2に移す位数3の元をg_Kとおくと、これらで生成される。 g_Mの固定体がMで、g_Kの固定体がKである。 [2-1] p≡1 (mod 3), q1≡±1,(±1±√-3)/2 (mod 6)のとき[赤] このとき、[1-2]によりpはK/Qで分解し、[1-1]によりq1はL/Kで分解する。 q1,q2は複素共役なのでq2もL/Kも分解する。 p=q1*q2, q1=s11*s12*s13, q2=s21*s22*s23と分解する。 (g_M(q1)=q2, g_M(s11)=s21などとなるようにおける。) 合わせると、pはL/Qでp=s11*s12*s13*s21*s21*s23と分解する。 r1=s11*s21, r2=s12*s22, r3=s13*s23 はMの元となり、 M/Qではp=r1*r2*r3と分解するとおける。 (このとき[1-3]により、r1≡r2≡r3≡1 (mod α+1)である。) *sを経由せずに分解p=r1'*r2'*r3'を得た場合、r1とr1'の違いが単数倍とおける。 Mの単数群は-1とα-1で生成されることから、 単数倍の違いのうちr1'>0となるようなものを選べば、r1'≡1 (mod α+1)である。 *この場合分けは「p≡1 (mod 3)で、pがx^2+27y^2の形で表せるとき」と同値である。 なぜならq1を適当に単数倍するとq1=(3a±1)+3b√-3 とおくことができる。 そのK/Qノルムは(3a±1)^2+27b^2, すなわちx^2+27y^2 の形をしている。 従ってこの場合、p=x^2+27y^2と表せる。 逆に、p=x^2+27y^2と表せるならばq=x+3y√-3はq≡±1(mod 6)を満たす。 #具体例ではp=31,43等が該当し、31=2^2+27, 43=4^2+27と表せる。 #対応するq1はそれぞれq1=2+3√-3,4+3√-3がとれて、q1≡±1 (mod 6)を満たす。 #M/Qの分解は31=(-1+2α+α^2)(-1+2α^2)(3+α^2), 43=(3+2α)(1-α+2α^2)(3+α-α^2) #(-1+2α+α^2)≡(-1+2α^2)≡(3+α^2)≡1 (mod α+1)などが観察できる。 #分解を得るPARI/GPでの計算(参考:https://qiita.com/iwaokimura/items/6877c8b01ace4e1d9dd4) nf = bnfinit(x^3-2) r = idealfactor(nf,31) さらに3つの素イデアルの単項イデアルの生成元を求めるために bnfisprincipal(nf, r[1,1]) bnfisprincipal(nf, r[2,1]) bnfisprincipal(nf, r[3,1]) nf.zk を確認すると[1,x,x^2]であるから、1,α,α^2の係数として解釈すれば分解先を得る。 --- [2-2] p≡1 (mod 3)だが, q1≡±1,(±1±√-3)/2 (mod 6)でないとき[青] このとき、pはK/Qで分解するがL/Kで惰性する。 s1=q1, s2=q2はLにおいてノルムp^3の素イデアルを生成する。 r=s1*s2=pはMにおいてノルムp^3の素イデアルを生成する。すなわちpはM/Qで惰性する。 (このときrがL/Mで分解する[1-3]の条件r≡1 (mod α+1)は、p≡1 (mod 3)より確かに満たされる) --- [2-3] pを3N+2型素数とする。[紫] このとき、[1-2]により、pはK/Qで惰性する。q=pはKにおいてノルムp^2の素イデアルを生成する。 このとき、Kの素イデアルとしての(q)は[1-1]の条件を満たすので、L/Kで分解する。 q=s1*s2*s3とおける。 g_Kは位数3で、s1,s2,s3を固定しないので(s1,s2,s3は固定体であるKに居ないから) g_K(s1)=s2, g_K(s2)=s3, g_K(s3)=s1 とおける。 g_M・g_K = g_K・g_K・g_M が成り立つことを考慮すると、 g_M(s1)=s1, g_M(s2)=s3, g_M(s3)=s2 というように軌跡を1個と2個に分けるしかない。 なので、s1とs2*s3がg_Mで固定され、Mの元である。 そういうわけで p=r1*r2 [r1のノルムがp, r2のノルムがp^2] と分解される。 ([1-3]の条件より、r1≡-1, r2≡1 (mod α+1)である。) #具体例 5 = (1+α^2)(1+2α-α^2) 11 = (3-2α)(9+6α+4α^2) 17 = (1+2α)(1-2α+4α^2) 23 = (1+α+2α^2)(-1+7α-3α^2) --- [2-4] 観察 pがM/Qで分解するとき[赤または紫]、ノルムがpの素元rが存在する。 r=a+bα+cα^2とおけば、p=a^3+2b^3+4c^3-6abcが成り立つ。 従って以下の初等的な言葉で記述できる非自明な結果を得る: pを2,3以外の素数とすると以下は同値である: ・p=x^3+2y^3+4z^3-6xyz と表せる ・p≡2 (mod 3) または p=u^2+27v^2 と表せる 素イデアルの分解の言葉では以下と同値である: ・pはM/Qで分解する ・x^3≡2 (mod p) が解を持つ ・pの上にあるKの素イデアルの生成元qがq≡±1,(±1±√-3)/2 (mod 6) を満たす *tsujimotterさんのめざせプライムマスターのスライド68にある例と結びつく。 https://www.slideshare.net/junpeitsuji/x2-ny2 「p=u^2+27v^2と表せる ⇔ p≡1 (mod 3) かつ x^3≡2 (mod p)が解を持つ」 *余談:このうちp=x^3+2y^3 (上式でz=0ととれる)で表されるものは一部である: https://oeis.org/A093193 これに関して、x^3+2y^3=mの解があるとすると、 |y| ≦ {4^(5/3) * m/3}^1.82 ≦ 9.1*m^1.82 という評価があることを知った: https://math.stackexchange.com/questions/223595/find-explicit-constants-a-and-b-such-that-any-solution-of-x3-2y3-m-s
もう1つの例を観察した。 [3] α=3^(1/3), M=Q(α), K=Q(√-3), L=K(α) とおく。 Mの基本単数はα^2-2である。 [3-1] L/Kのノルム群の像は q≡±1,±2,±4,(±1±√-3)/2,±1±√-3,2(±1±√-3), (mod 9) で記述される。 「q=x+y√-3とおいたときにx+y,x-y,yのどれかが9の倍数」と記述できる。 #9で割った既約剰余類も54種類あって、そのうち18種類の部分群である。 複素平面への図示。赤が上記の指数3の部分群。紫と紫は他の剰余類。 [3-2] K/Qのノルム群の像は先と同じである。 [3-3] L/Mのノルム群の像は、r≡1 (mod √-3) となる。
[4-1] p≡1 (mod 3), q1≡±1,±2,±4,±ω,±2ω,±4ω (mod 9) の場合 [赤] 完全分解パターン p=q1*q2=r1*r2*r3=s11*s12*s13*s21*s22*s23 である。 *この場合分けは、「4p=x^2+243y^2と表せるとき」と同値である。 なぜなら適当に単数倍をするとq1≡±1,±2,±4 (mod 9)とできて、 q=a+9b√-3, a,bはともに整数かともに半整数、とおける計算による。 #具体例 61=(1+2α+2α^2)(4-α)(-2+2α+α^2), 73=(-2+3α)(1+2α^2)(4+α^2) 61=(7+2√-3)(7-2√-3), 73=(5+4√-3)(5-4√-3) ---- [4-2] p≡1 (mod 3) それ以外の場合 [青] p=q1*q2=r=s1*s2 のパターンである。 ---- [4-3] p≡2 (mod 3)の場合 [紫] p=q=r1*r2*r3=s1*s2*s3 のパターンである。 ---- [4-4] [2-4]と同様の議論で、pを3以外の素数とすると以下は同値である: ・p=x^3+3y^3+9z^3-9xyz と表せる ・p≡2 (mod 3) または 4p=u^2+243v^2 と表せる また「4p=u^2+243v^2と表せる ⇔ p≡1 (mod 3) かつ x^3≡3 (mod p)が解を持つ」 ・じゃあp=u^2+243v^2と表せるのは?(例えばp=307) 適当に単数倍をするとq1≡±1,±5,±7 (mod 18)とおけるような部分群がこれに対応する。 複素平面で観察するとちょうど[1-1]と[3-1]の部分群の共通部分に相当する。 q≡±1,(±1±√-3)/2, ±6±1,(±6±1)*(1±√-3)/2 (mod 18) に相当する。 すなわち p=u^2+243v^2 と表せる ⇔ p≡1 (mod 3) かつ x^3≡2 (mod p) と y^3≡3 (mod p) がともに解を持つ ⇔ p≡1 (mod 3) かつ x^9-3x^6+3x^3+1≡3 (mod p) がともに解を持つ この条件はpがQ(2^(1/3),3^(1/3))/Qで完全分解することであり、 多項式x^9-3x^6+3x^3+1はこの体を生成する多項式として以下ページから知った: https://www.lmfdb.org/NumberField/9.1.24794911296.1 *このページにたどりつくには、2^(1/3)-3^(1/3)の最小多項式を終結式などで求めて https://www.lmfdb.org/NumberField/ のFind欄に入力すれば良い
[5] ついでに求めたα=6^(1/3) のときの分解する条件 q≡±1,(±1±√-3)/2, ±5, 5(±1±√-3)/2, ±7, 7(±1±√-3)/2, (±1±3√-3)/2, ±2±√-3, (±5±√-3)/2, (±1±7√-3)/2, ±5±2√-3, (±11±3√-3)/2, ±1±4√-3, (±11±5√-3)/2, (±13±3√-3)/2 (mod 18) これは[1]と[3]の図示で、同じ色で塗られた点として解釈できる、108個の剰余類のうち、36種類である。 色分けは[3]の図示と同じで、このうち二重丸で示されている[1]と同じ色をした点が、今回の部分群である。
20:32 2020/10/22
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