線形代数を勉強する人のために:(2014/6/24〜)
線形代数の本当に基礎として知っているべきだと思うことを書いてみました。
自分が習達状況の確認などに使ってもらえると良いと思います。
詳細は書かないので分からないことがあれば適当に調べてくださいね。

[線形空間]
・線形独立、線形従属の定義
・あるベクトルの集合が線形空間であるという意味
 (線形空間の定義)
・ベクトルたちで作られる線形空間という表現の意味
 (生成される、張られるなどとも言う)
・線形空間の基底であるとはどういう意味か。
# 基底はその取り方によらず基底ベクトルの個数は同じ

[写像としての行列]
・行列Aをm行n列の行列とする。
・Aの像空間Im(A):任意のn行ベクトルxに対してm行ベクトルAxが取れる集合
# Aの像空間はAの列ベクトルたちで作られる線形空間である・・・@
 (xを基本ベクトルの線形結合で表すことで分かる)
・Aの核 ker(A): Ax=0 となるようなxの集合
# Im(A), ker(A)は線形空間である。
# 次元定理 n = [Im(A)の次元] + [ker(A)の次元]

# 線形方程式との関係
Ax=y が任意のyに対して解を持つ
 ⇔ Axが全射、すなわち Im(A)の次元がmである
Ax=y が解を持つ時に解が一意的であること
 ⇔ Axが単射、すなわちker(A)の次元が0である

[成分としての行列]
・列についての基本変形(行についても同様)
(1)ある列から他の列を引く
(2)ある列を定数倍する
(3)2つの列を入れ替える
・行列の階数rank:(成分としての行列の観点による)定義は
 列基本変形を繰り返して階段状の行列にした時の階段の段数

# 列基本変形に対して線形独立な列ベクトルの個数は不変である
# 従って行列の階数は線形独立な列ベクトルの個数と一致する
(この確認で上記の定義の妥当性が明らかになる)
# 上記および@により行列の階数は像空間の次元とも一致する(重要)

この定義からは行列の階数が転置に対して不変であること
すなわち行基本変形を使っても良いことは自明ではない。

[行列式]
・定義:det(A)=Σsgn(σ)ΠA[k,σ(k)] みたいなやつ
・列基本変形(1)に対して行列式の値は不変である
その根拠
# 同じ行がある行列の行列式は0である
# 行列A,Bが1列を除いて全く同じならdet(A+B)=det(A)+det(B)
・他の列基本変形に対しても、行列式が0かどうかは不変である
# 列基本変形(2)に対しては掛けた定数倍
# 列基本変形(3)に対しては符号が変わることがある
(行基本変形も同様)
・従って n次正方行列Aに対して det(A)≠0 ⇔ rank(A)=n

行列式の積=積の行列式 が成り立つことは自明ではない

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2016/2/11:
以下ジョルダン標準形まで書き足しを試みてみた。
行列式、余因子展開、逆行列については述べられていない。
後半は、事実の紹介が中心となっている。

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線形空間とは一般的な視点から見れば体上の自由加群である。
(勉強する順番としては自由加群とは線形空間の概念の拡張であるが)

kを体とする。具体的には有理数体Q、実数体R、複素数体C等を想定すれば良い。
{aX+bY+cZ|a,b,cはkの元} のような形の集合に興味がある。
このような集合を線形空間と呼んでその元をベクトルと呼ぶ習慣である。
ベクトルをしばしば(a,b,c)のように書くのであるが、
加法やスカラー倍の構造が入っていることが重要という視点からは
aX+bY+cZ という構造を常に意識することが良いと思う。
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線形空間に対する最初の問題意識は次のような問題である:
【線形独立、線形従属、基底、次元dim などの概念】
A1 = {aX|a∈k}
A2 = {aX+bY|a,b∈k}
A3 = {aX+bY+cZ|a,b,c∈k}
A4 = {aX+bY+cZ+dW|a,b,c,d∈k}
B = {a(2X+4Y+W)+b(X+2Y-Z+W)+c(3X+Z+W)+d(X-Y+Z)|a,b,c,d∈k}

[1] Bは明らかにA4の部分集合であるが、集合として等しいだろうか
[2] i≠j のとき AiとAjの間には全単射な線形写像は存在しない
(線形代数の話題ではないが、線形とは限らない全単射な写像は存在する)
[3] BとAiの間に全単射な線形写像が存在するiはいくつだろうか
 これが線形空間Bの次元である

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線形空間Aがあって、Aの元をいくつかとってv1,v2,...,vkとする。
{v1,v2,...,vk}が張る線形空間はAの部分空間になる。

Aの元の集合V={v1,v2,..,vk}が線形独立であって、
かつVが張る線形空間がAに等しい時、VはAの【基底】である。
{X,Y}はA2の基底である。{X+Y,Y}もA2の基底である。
[4] 先の例の線形空間Bの基底を(1組)求めよ
[5] (Y,X+Z,X-Z+W) はBの基底である。確かめられるか。

・【基底】に応じてベクトルの成分表現が可能になる
と認識することをおすすめする。すなわち基底{v1,v2,..vk}に応じて、
ベクトルav1+bv2+...を(a,b,...)で表現するのである

例えば Bの元 v = a(2X+4Y+W)+b(X+2Y-Z+W)+c(3X+Z+W)+d(X-Y+Z) は
v = (4a+2b-d)Y + (a+2c+d)(X+Z) + (a+b+c)(X-Z+W) と変形できるから
[5]の基底に関する成分表現は (4a+2b-d, a+2c+d, a+b+c) となる。

次のような基本的な定理が成り立つ
・線形独立なk個のベクトルが張る線形空間の次元はkである
・k次元線形空間に存在するk+1個のベクトルは線形従属である
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ところで、上記のBの表記の仕方は、A4からA4への線形写像ともみなせる。
すなわち F(aX+bY+cZ+dW) = a(2X+4Y+W)+b(X+2Y-Z+W)+c(3X+Z+W)+d(X-Y+Z)
あるいは"標準基底"{X,Y,Z,W}に関する成分表示を使えば
 F(a,b,c,d) = (2a+b+3c+d,4a+2b-d,-b+c+d,a+b+c)
これにより縦ベクトルを使えばFは4×4の行列で表現できる。
【定義域と終域の基底を定めることで、線形写像の行列表現が定まる】

※自然に線形空間を言い表すには、基底を使って表現せざるをえないので
その描写から"標準基底"が最初から備わっていることが多い。
しかしそれは線形空間が固有的に持つ内在的なものではないと言いたい。
「行列とは線形写像である」という記述は本質的であるが、
「行列とは線形写像の特定の基底を使った表現である」というのがより正確な所と思う。

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さてここで【核Ker、像Im、階数rank】という概念が現れる。
像とはまさに線形空間Bのことである。
核とは F(v)が零ベクトルとなるようなvの集合であり、線形空間をなす。

・線形写像の核や像は線形空間をなす [問] なぜか。
(http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q12151955157)

[6] 上の例におけるFの核を求めよ。

・次元定理 [定義域の次元] = [像の次元] + [核の次元] が成り立つ。
いろいろな視点があると思うが基底を考えるのが分かりやすいと思う。
核の基底{v1,v2,..,vm}をとる。
これにベクトルをいくつか付け加えて定義域の基底{v1,v2,..,vm,..,vn}にできる。
(このようなベクトルの取り方は【補空間】という概念である)
{f(v[m+1]),f(v[m+2]),...f(n)} は像空間を張る。
しかもこれらは線形独立である。([問] なぜか)従ってそれらは像空間の基底をなす。

言い換えると、定義域と終域のそれぞれの基底をうまくとれば
それぞれに関する成分表示において
 f(a1,a2,...,am,a[m+1]...,an) = (a[m+1],a[m+2],...,a[n],0,..0)
と成分表示することができる。

[適当に作った問題]
上記で定義されたA4,B,Fに関して、A4からA4への写像Gで、
v∈B のとき F(G(v))=v, そうでないとき G(v)=0 となるようなものを(1つ)構成せよ

[略解]
A4の基底(x1,x2,x3,x4)=(Y-Z+2W,X,Y,Z)をとる。
A4の基底(y1,y2,y3,y4)=(F(X),F(Y),F(Z),W) などととる。
(最後のWは F(X),F(Y),F(Z)と線形独立な元を適当にとった)
G(y1)=x2,G(y2)=x3,G(y3)=x4,G(y4)=0 となるようにGをとれば良い。

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・基本変形
線形代数の抽象論にはあまり必要ないとも思うが、具体的成分計算の1つの方法である。

・ある列から他の列の定数倍を引く
・2つの列を入れ替える
という操作を使って与えられた行列を「階段行列」にすることができる。

上のFを表現する行列の例を使う。
第1,2,3行から第4行の定数倍を引けばそれらの第1列を0にできる
次に第1,2行から第3行の定数倍を引けばそれらの第2列目を0にできる

これは次の変形に相当する(現れる数字を見比べよ):
F(aX+bY+cZ+dW) = a(2X+4Y+W)+b(X+2Y-Z+W)+c(3X+Z+W)+d(X-Y+Z)
 = a(2X+4Y+W)+b(-X-2Y-Z+(2X+4Y+W))+c(X-4Y+Z+(2X+4Y+W))+d(X-Y+Z)
 = a(2X+4Y+W)+b(-(X+2Y+Z)+(2X+4Y+W))+c(-6Y+(X+2Y+Z)+(2X+4Y+W))+d(-3Y+(X+2Y+Z))

W'=(2X+4Y+W), Z'=(X+2Y+Z), Y'=Y とおくとこれらは線形独立で
F(aX+bY+cZ+dW) = aW'+b(Z'+W')+c(-6Y'+Z'+W')+d(-3Y'+Z')
よりFの像を張ることから {W',Z',Y'}はFの像空間の基底となる。

列の代わりに行に関して同様の基本変形をすることもできる。

これは次の変形に相当する:
F(aX+bY+cZ+dW) = a(2X+4Y+W)+b(X+2Y-Z+W)+c(3X+Z+W)+d(X-Y+Z)
 = a(6Y-2Z+W)+b(3Y-2Z+W)+c(3Y-2Z+W)+(2a+b+3c+d)(X-Y+Z)
 = a(2Z-W) + (2a+b+c)(3Y-2Z+W) + (2a+b+3c+d)(X-Y+Z)
{(2Z-W),(3Y-2Z+W),(X-Y+Z)} はFの像空間の基底となる。

これらのようにして
【階段行列に変形した時の段数として、像空間の次元を機械的に計算できる】
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・基底の取り換え、表現行列、相似な行列 などの概念
※以下で縦ベクトルなどを表す時にセミコロン;で改行の代わりとする。

線形空間A={aX+bY|a,b∈k}を考える。AからAへの線形写像
f(a(X+Y)+b(3X+2Y)) = a(3X+Y)+b(10X) を考える。

定義域に {X+Y,3X+2Y} という基底で成分表示して
終域に {3X+Y,10X} という基底で成分表示すれば
fは(a;b) を (a;b) に移す写像というふうに表現できる。

定義域と終域の基底をそれぞれ勝手に定めることができれば
rankが2である任意の行列が表現行列となりうる。([問] なぜか)

しかしながら異なる基底では時に不便である。
定義域と終域に同じ基底を使うことを考える。
(そうすれば例えば写像を繰り返す合成を表現行列の冪乗で表現できる)
そうすると、fの表現行列は、基底によって異なるもののだいぶ制限される。

[7] 標準基底に関するfの表現行列を求めよ。それをTと名付ける。

{X',Y'}={pX+qY,rX+sY}はps-qr≠0のときAの基底となる。
この基底に関するfの表現行列はどうなるか。
【基底の取り換えと表現行列の変換】という話題である。
実は、(p,q;r,s)という行列をPとおけば
P^-1.T.P によって新しい基底に関するfの表現行列を得られる

[8] 具体例を試みよ X'=X+3Y, Y'=X+4Y とする。
この基底に関して f(a;b) = (ha+ib; ja+kb),
すなわち f(aX'+bY') = (ha+ib)X'+(ja+kb)Y'
を満たすh,i,j,kを並べた行列が求める表現行列である。
それを自分なりに求めることを試みたり上記の求め方を検証してみたりして
上記の求め方の仕組みについて適当に考察してみよ。

2つの行列 S,T は S=P^-1.T.P と書ける時に相似と呼ぶ。
有名な【ジョルダン標準形】とはこの相似に関する標準形である。

・追記
対角成分を並べ変えた対角行列は相似である。
基底をちょうど入れ替えるような基底の取り換えを行えば良い。
2次元の場合の図式を参考に示す:


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【固有方程式、固有値、固有空間】が重要な役割を果たす。
Aを(先は線形空間の文字に使ったがここでは)n次正方行列とする。
行列Aの固有値とは Au = zu となる零でないベクトルuが存在するような複素数zである。
単位行列をEと書くと、(A-zE)u=0 とも書ける。
このことは A-zE の核が0でないことから、行列式が0となる。
これによってzのn次方程式を得る。これが固有方程式である。
また A-zE の行列式自体は固有多項式と呼ばれる。
(以上の固有値、固有多項式の定義は基底の取り換えで不変であることに注意)

従ってAとBが相似ならば、AとBの固有多項式は等しい。
しかし逆は成り立たない。
"典型的な例"はAが単位行列で、Bが(1,1;0,1)のような上三角行列のときである。
(単位行列と相似な行列は単位行列でしか有り得ない)
(この例は固有値が1で2重解となる場合の2つのジョルダン標準形である)

【最小多項式】という概念もある。
Aの多項式が零行列になるような次数最小の多項式である。
上の例では Aの最小多項式は X-1, Bの最小多項式は X^2-2X+1 である。

いくつか重要な事実がある
・最小多項式は、固有多項式の因数である。(ハミルトンケーリーの定理)
・最小多項式の零点集合は、固有多項式の零点集合と等しい。
(重複度が異なる可能性はあるが集合としては等しい)
・AとBが相似ならば、AとBの最小多項式は等しい。
なお、「固有多項式と最小多項式が共に等しければ相似」という命題は偽である
そういうわけにもいかない。後で反例を紹介する。
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一般論を展開すると難しくなるので
行列Aの固有方程式が (z-2)^2*(z-3)*(z-4)^4=0 となる例で事実の紹介をしてみる
このとき、線形空間の基底{v1,v2,v3,v4,v5,v6,v7}を次のようにとれる:
U1={v1,v2} は (A-2E)^2 の核の基底
U2={v3} は (A-3E) の核の基底
U3={v4,v5,v6,v7} は (A-4E)^4 の核の基底
しかも (A-zE)vk=0 または (A-zE)vk=v[k-1] となるようにとれる

問題をより絞るため、4次元線形空間を定義域とする線形写像Bで
B^4=0 となるときのBの構造を考察する。実は5通りの構造が有り得る。
1. B(X)=B(Y)=B(Z)=B(W)=0
2. B(X)=0, B(Y)=X, B(Z)=0, B(W)=0
3. B(X)=0, B(Y)=X, B(Z)=0, B(W)=Z
4. B(X)=0, B(Y)=X, B(Z)=Y, B(W)=0
5. B(X)=0, B(Y)=X, B(Z)=Y, B(W)=Z

これらの5通りの線形写像は相似でない。なぜなら、
どのぐらいの次元の集合にBを何回作用させたら0になるとかいう性質は
基底に依存しないからである。
また、それに応じてこの5通りのどれかに同等になるように挙げつくした。
記載の5つの行列が、固有値0が4重解となる4次正方行列のジョルダン標準形である。
(なお最小多項式は順にB,B^2,B^2,B^3,B^4であり先の命題の反例がある。)

固有値αが4重解なら対角成分が0からαに変わる。
そして先の行列Aのジョルダン標準形は次のような形で、
a,b,c,dによって2*5=10通りの可能性が有り得る。
a∈{0,1}, (b,c,d)∈{(0,0,0),(1,0,0),(1,0,1),(1,1,0),(1,1,1)}

[9] 最初の方に挙げた線形写像
F(a,b,c,d) = (2a+b+3c+d,4a+2b-d,-b+c+d,a+b+c) 
について固有多項式を因数分解し、上記のような基底をとり、
ジョルダン標準形を求めることを試みよ。

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