未来とブラックホール


[1] ミンコフスキー時空 [2] 馴染みを深めるための例に [2-1] 等速に運動する観測者「ローレンツ変換」 [2-2] 等加速度で運動する観測者「リンドラー座標」 [3] ブラックホール [3-1] シュバルツシルト座標 [3-2] 自由落下する人 [3-3] 他の座標 [4] 雑談 ブラックホールの事象の水平線では、時間と空間の役割が入れ替わる。 すなわち時間が一方的に未来に進む様子は、ブラックホール内部で落下する様子と対比させられる。 そうすると、「我々は未来に引っ張られているのだ」と考えることができるのではないか? 日曜数学 Advent Calendar 2019への参加記事である。 曲率に関する記事でも参加したが、枠が空いていたので2つ目の参加である。 (しかし2つ参加している人があまりいなくて恐縮である。) [参考資料] http://www.blau.itp.unibe.ch/newlecturesGR.pdf 一般相対性理論・宇宙論に関する(英語で955ページもある本格的な)教材 特に最初のほうと、part Eのブラックホールに関する内容の最初の方を読んだ。 冒頭の思想を紹介するのがこの記事の目的である。 そのための言葉を解説する方針である。 [2]はその目的では必要ないが、概念に馴染むために良いと思った。 計量を中心にする視点を使う。 すなわち、曲率に関する記事の付録(?)で書いた所の「内在的な視点」である。

[1] (平坦な)ミンコフスキー時空 ・時刻tと位置x,y,zを合わせた、(t,x,y,z)座標を使うことにする。 簡略のため、我々光速cが1に等しくなるような単位系を使うことにする。 ・4次元座標の1点は「特定の時刻の特定の位置」(1つの事象)を表す。 時間経過による物体の位置の変化は、この時空では1つの曲線として表され、「世界線」と呼ぶ。 (この視点での記述にはいくらかの慣れが必要かもしれない。) ・この時空の計量を、dsds=-dtdt+dxdx+dydy+dzdz で定義する。 (我々はtの符号だけマイナスな流儀を採用する。逆の流儀もあるらしい。) すなわち2点間の距離は、sqrt[-ΔtΔt+ΔxΔx+ΔyΔy+ΔzΔz] である。 同じ時刻の2点間の距離は、従来の距離に相当し、 同じ位置の2点間の距離は、従来の時間差の符号を変えたものに相当する。 ・2点の関係は距離の符号(正・0・負)に応じてそれぞれ空間的・光的・時間的と呼ばれる。 ・点Pから光的な位置にある点の集まりを「光錘」と呼ぶ。  tの大小によって「未来錘」と「過去錘」に分かれる。 これは点Pに居る観測者が未来に行くことができる場所の限界と、観測できる過去の情報の限界を表す。 (ミンコフスキー時空の原点を中心とする光錘は集合{(x,y,z,t)|tt=xx+yy+zz}ということになる。  これはzを省略したxyt空間にプロットするとt軸を軸とした円錐の形をしている。) ・パラメータ付き曲線とは、実数から4次元座標への写像 λ→p(λ)=(t(λ),x(λ),y(λ),z(λ))である。  ある点λ=λ0における曲線の接ベクトルとは、λで微分したもののλ0における値:  p'(λ0) = (t'(λ0),x'(λ0),y'(λ0),z'(λ0))である。 ・接ベクトルの自身との内積の符号(正・0・負)によりそれぞれ空間的・光的・時間的と呼ばれる。  (内積は通常のベクトル空間の内積の成分計算においてt成分にマイナスをつけて計算する。) ・接ベクトルが常に空間的・光的・時間的であるような曲線を、空間的・光的・時間的な曲線と呼ぶ。  接ベクトルが常に時間的または光的な曲線を、因果的な曲線と呼ぶ。  質量を持った物体が描く世界線は時間的な曲線である。  質量のない物体(=光線)が描く世界線は光的な曲線である。 ・時間的な曲線で、ミンコフスキー計量に合わせた目盛り(の符号を変えたもの)を、「固有時間」と呼び、変数名にτを使う。  空間的な曲線で、ミンコフスキー計量に合わせた目盛りを、「固有距離」と呼ぶ。 ・物体の描く世界線を固有時間でパラメータ付けたときの接ベクトルを、4次元速度ベクトルと呼び、変数名にuを使う。  すなわち位置ベクトルをpとするとu = dp/dτであり、  定義により、速度ベクトルは自身との内積が常に-1となる。 [-utut+uxux+uyuy+uzuz = -1 という意味である。 ここで例えばutとはベクトルuのt成分を表す。 添え字を上につけるのは反変を表すこの分野の習慣である。 曲面の幾何学の[3-3]の補足参照。] 例えば静止している人は(1,0,0,0)の速度ベクトルを持ち、 とても高速な人は、(√10001,100,0,0)のような速度ベクトルを持つ。 (この高速な人にとっては、固有時間τ=1の間に、x=100まで進むわけである) vが光速に比べて十分小さければ、速度ベクトルは(1,v,0,0)で近似され、従来の概念を復元する。 ・座標を表すtは、アプリオリには時間軸という意味を持たない。  x,y,z座標が一定な物体が描く世界線を考えると、tはその固有時間に一致する。 あくまで「座標に付随した時間」というものが存在しているわけではないことを強調しておく。 ・4次元加速度ベクトルは、4次元速度ベクトルを固有時間で微分したものである。 慣性に従う運動では、加速度ベクトルは0である。 4次元速度ベクトルは計量が一定だから、加速度ベクトルと速度ベクトルは直交する性質がある。

[2-1] 等速で移動する観測者「ローレンツ変換」 ・ローレンツ変換とは、抽象的には、座標の1次変換で、計量を保存するものである。 (ユークリッド空間での直交変換、すなわち回転や反転、の類似である。) ・等速で移動する観測者に合わせた座標系を考えるのが典型的である。 ・x軸向きの運動を考える。従ってy,z成分は無視してt,x成分だけ考える。  観測者の一定な速度をvとする。 (光速が1となるような単位系を考えているのでv<1である。図では、v=1/√2に相当する。 効果を分かりやすくするため、vが光速に近い状況を描写していることを注意しておく。) 赤の太線が、観測者の描く世界線である。 観測者にとっての固有時間がτ進むのは、原点との距離が-τとなった時点である。 すなわち-tt+xx=-τであり、これを満たす点の集合は、図の青のような双曲線を描く。 τを1刻みに動かしたときの双曲線を図示した。 従って、赤の太線がこの双曲線と交わるたびに、固有時間が1進むという状況である。 そういうわけで、観測者の4次元速度ベクトルは、(t,x)=(√2,1)である。 (縦軸がtで横軸がxなので通常の座標の順番と違うので注意) ・4次元時空での考察で注意しなければいけないことには、 時空の2点の等時性は、観測者に依存する相対的な性質である。 (もちろん、時空の2点の「等位置性」も、観測者に依存する) 先も強調したように座標成分t,xは単に時空を定義するためのものであり、tが時刻を意味するとは解釈しない。 ・観測者にとっての「等時刻空間」は、世界線に直交する空間として定義できる。 (時空が平坦である場合は、直交補空間的な物が定義できるが、一般には観測者の近傍でしか定義できない。) ここで直交とは、速度ベクトルとの内積が0として定義されるが、 この空間では(t,x,y,z)と(T,X,Y,Z)の内積は、-tT+xX+yY+zZで定義されることに注意する。 あるいはy,z成分を無視すれば、-tT+xX ということになる。 ・ずっとx=0にいる観測者の速度ベクトルは(t,x)=(1,0)であり、  この観測者の等時刻空間は、イメージ通り、「t=一定」で定まる。 ・ところが、例えば速度ベクトル(1,√2)を持つ観測者の等時刻空間は、  観測者の位置を基準にした位置ベクトルを(t,x)とおくと-t+x√2=0を満たす:  これはすなわち、(t,x)=(1,√2)なベクトルに平行な方向である。 そういうわけで、図に示した赤の細線が、この観測者にとっての等時刻空間となる。 ・静止している観測者の視点では、t=1のとき、運動している観測者はx=1/√2の位置にいる。 (t=1がこの視点での等時刻空間) ・運動している観測者の視点では、τ=1のとき、自分は(t,x)=(√2,1)に居て、静止している人は(√2/2,0)に居る。 (点(√2,1)を通る赤の細線がこの視点での等時刻空間で、静止している人の世界線=t軸との交点が上記の座標。)  この2点間の距離は、x成分だけみると差は1であるが、t成分を考慮すると、  sqrt[-ΔtΔt+ΔxΔx] = sqrt[-1/2+1] = 1/√2 であり、静止している観測者の視点と一致する。 これが、固有時間と固有距離の概念であり、 今、特殊な場合で「相対性」が成り立つことを観察したことになる。 ・観測者という言葉を使わず、T=x+t√2, X=t+x√2 という座標変換として捉えるという視点がある。  逆変換は、t=-X+T√2, x=-T+X√2 の関係である。  T,Xは上記の運動している観測者にとっての固有時間と固有距離に相当する。  これが実際「座標の1次変換で、計量を保存する」ローレンツ変換である: -dtdt+dxdx = -(-dX+dT√2)(-dX+dT√2)+(-dT+dX√2)(-dT+dX√2) = -dTdT+dXdX となる  (T,X)座標では、先の座標で運動していた観測者の世界線がX=0であり、  先の座標で静止していた観測者の世界線が t=-x√2 となってちょうど状況が入れ替わる。 ・原点を基準にした「未来錘」を黒線で描いた。  静止している観測者では、t=1での未来錘は自分から距離1離れた所にある。  運動している観測者でも、τ=1での未来錘は、固有距離で測れば、距離1離れた所にある。 (図に緑で印をつけた3点の間の距離である。) これがこの文脈における「光速不変の原理」である。
[2-2] 等加速度で移動する観測者「リンドラー座標」 先と同様にx軸での運動を考える。観測者が一定の加速度a(4次元的な意味)を持っている。 速度ベクトルを(ut,ux)とおくと、定義から、-utut+uxux=-1 であった。 ut=cosh(F(τ)), ux=sinh(F(τ))とおくことができる。 加速度を計算すると |dF/dτ|=a となって F(τ)=aτを得る。 速度ベクトルを積分して位置ベクトルを得れば、 p(τ) = (sinh(aτ)/a, cosh(aτ)/a) (+任意の定数) を得る。 すなわち描かれる世界線は双曲線 xx-tt=1/aa と表せる。 (図はa=1/4の場合を示した。[画像上のグラフの式のaは逆数になっている]。) 先と同様に、赤の細線は、観測者の固有時間1刻みごとの、等時刻空間を示した。 考察を進めるために、この観測者に適した座標を計算する。 t=X*sinh(T), x=X*cosh(T), T=arctanh(t/x)=ln[sqrt[(x+t)/(x-t)]], X=sqrt[xx-tt] とおくと、 X=1/a な曲線がこの観測者の描く世界線であり、 T=(一定) な曲線が、この観測者の等時刻空間であり、 計量を計算すると、-dtdt+dxdx = -XXdTdT + dXdX となる。 この座標・計量がそれぞれ、リンドラー座標・リンドラー計量と呼ばれる。 ・この変換は、xt平面のうちx>|t|の部分と、XT平面のX>0を対応させている。 ・T=±∞が、t=±xに相当する。 ・X=0に特異点がある。これは「座標による特異点」である。 (座標変換すれば特異点でなくなる。実際xt座標では特異点ではない。) ・この観測者の世界線は、t=±xに漸近し、これを超えることができない。  ということは、観測者はx>tの領域の情報しか得ることができない。 (静止している観測者は、どんなに遠くの情報でも、十分待てば得られる。) ・XT平面に光錘を描いてみる。 観測者に向かう光線の世界線は、t=x+k と書ける。[kは定数] これを変数変換すると、X*sinh(T)=X*cosh(T)+k 整理すると T=ln(X)-ln(k) なので光線は図の青のような対数関数のグラフたちを描く。 この図示からも、観測者はX>0の領域の情報しか得られない様子が分かる。 また観測者が発信した光線[t=-x+k,T=-ln(X)-ln(k)] はやはり赤のような対数関数のグラフで、X=0に到達しない。 このような様子を、この観測者にとっての「事象の水平線」と呼ぶ。 ・しかし、ここでは、よく見ると、一見矛盾がある: 観測者は、例えば、xt平面で見ると、(t,x)=(-1,0)の情報を得ることができる。 しかしこの点は、XT平面では、X=-1であり、X>0の領域にはない。 また、観測者が発信した光線は、t=-xには達することはできないが、t=xには達することができる。 つまりX=0に達することはXT平面ではできないように見えるが、xt平面ではできるように見える。 ・これは実際ややこしい。 観測者の固有時間では、光線がX=0に到達するのに無限の時間がかかるが、 発信された光線の固有時間で考えれば、有限の時間であるという状況である。 これは「加速している観測者の固有時間に合わせた座標Tは、 発信された光線の運動を記述するのには、値の増加が速すぎる」と描写できる。 これは、本質的に、アキレスと亀のパラドックスとしても解釈することができる。 ・あとでブラックホールを記述する時に同様の現象が出現する。 それは、局所的にはブラックホールの地平線の様子は、実際リンドラー座標で近似できる。

[3-1] シュバルツシルト計量 時空に質量が存在すると、時空の計量はそれに合わせた曲率を持つ、 というのが、一般性相対性理論、アインシュタインの方程式の主張である。 このときに、「測地線」という概念が、外力がない物体の描く世界線に対応する。 質量が存在しなければ、測地線は直線であり、実際慣性に従う運動に対応する。 (ただしここでは物体自身の質量は無視しなければいけない。) 計量が球対称だと仮定した解がシュバルツシルト解である: dsds = -f(r)dtdt+drdr/f(r) + rrdΩdΩ, f(r)=(1-2m/r) ここでrは質量の存在する中心からの距離で、Ωはrに垂直な成分に相当する。 mは中心の質量に相当する比例する定数である。 あるいはmは質量であり比例定数が1となるような単位を採用したと解釈しても良い。 [ちなみに通常の単位系では、2mの代わりに、2GM/ccとなる。Mは重力定数、cは光速。] 我々はここでもr方向の運動のみを考察することにして、dΩの項は無視する。 ・r=2mのとき、f(r)=0となり、これがシュバルツシルト半径と呼ばれる特殊な距離である。 ・このrとtを使った座標は、同じ位置に静止(ホバー)している人の視点である。 実際r=(一定)とおいた世界線は、ブラックホールから一定の距離を保っている人である。 (ブラックホールから距離を保つには外力が必要だからこれは測地線ではない。) 速度ベクトルはu=(1/√f(r),0,0,0)で、 その場にホバーするために必要な加速度ベクトルはa=(0,m/rr,0,0) で、 そのノルムは m/rr * 1/√f(r) である。 r→2m+0 のとき、√f(r)→+0, |a|→∞ と、より強い加速度が必要になる仕組みである
[3-2] シュバルツシルト座標での自由落下する人の様子 ・ブラックホールに向かって自由落下する人の世界線を考える。  これは測地線の方程式を解くことにより求められる:  d/dτ(dr/dτ) + m/rr = 0 これはそれほど簡単ではないが、通常のニュートン力学と同じ方程式である。  初期位置として、時刻τ=0において位置r=r_0に居て初速0とすると、  r=r_0*cos(x/2)cos(x/2) の変数変換によって(r=r_0→r=0 が x=0→x=πに対応)  τ=(x+sinx)sqrt[r_0^3/8m] の関係式が求める結果となるらしい。 この式から、r=0までにかかる時間は、自由落下する人の固有時間では、有限である。 ・τは自由落下する人の固有時間であり、座標tに変換するにはまた複雑である。 無限遠から同じ時間間隔で自由落下する人たちの描く世界線はシュバルツシルト座標では次のようになる。 このように、rが2mに近づくにつれて、tが∞に発散する。 すなわち、落下する人は、座標時間tが有限な範囲ではr=2mに到達しない。 あるいは、離れてホバーしている人は、自由落下する人がr=2mに達するのを観測できない。 ・これは、先のリンドラー座標の問題点と同様である: リンドラー座標の原点の様子を記述するのに、離れる向きに加速する観測者は適していないのと同様に、 r=2m近くの情報を記述するのに、離れてホバーしている観測者は適していないのである。 あるいは、 加速する観測者の固有時間は、原点から送信された光線を記述するには値が大きくなるのが速すぎたのと同様に、 ブラックホールに落下する人を記述するには、tという変数は値が大きくなるのが速すぎるのである。 (この対比では、大文字の座標系X,Tと小文字の座標系x,tの役割が反対になってしまった。)
[3-3] 他の座標 自由落下する人と同様に、ブラックホールに向かう光線が描く世界線も、 シュバルツシルト座標では、rが2mに近づくにつれてt→∞となって、r=2mに至らない。 そこで、位置変数rの進み方も速くした調整した座標が、Regge-Wheeler座標というものである。 シュバルツシルト計量を少し変形して再掲する: dsds = (1-2m/r)(-dtdt + (1-2m/r)^-2 drdr) + rrdΩdΩ rの代わりに、R=(1-2m/r)dr となるような変数Rに変換することを考える。 そうすれば dsds = (1-2m/r)(-dtdt+dRdR) + rrdΩdΩ [rはRの関数と解釈する]で、 t=±R+C (座標平面で45度の直線)が光線の描く世界線となる。 関係式を具体的に求めると R=r+2m*ln(r/2m - 1) である。 そうすると、r→2m+0のとき、R→-∞ である。 だから、これでは、結局r=2mの情報を記述できない。 このRt座標平面の座標軸を45度回転させた変数 u=t-R, v=t+R を考えて U=-exp(-u/4m), V=exp(v/4m) と圧縮し、 それから U=T-X, V=T+X と45度回転を戻した座標が、クルスカル・スゼッケル座標というものである。 従って、この座標でも、45度の直線が、光線の描く世界線である。 計量は、dsds = 32mmm/r*exp(-r/2m)*(-dTdT+dXdX) + rrdΩdΩ で 具体的な関係式は X = sqrt[r/2m-1]*exp(r/4m)*cosh(t/4m) T = sqrt[r/2m-1]*exp(r/4m)*sinh(t/4m) であり、XX-TT = (r/2m-1)*exp(r/2m) の関係がある。 r=2m は、XX-TT=0 すなわち T=±X に相当することが分かる。 Rt座標平面で記述されていた領域は、XT平面のうちXX-TT>0の部分に相当する。 ちょうど、リンドラー座標が、静止座標のうち1/4しか記述できていなかった状況の反対の状況である。 Rt平面は、XT平面のうち1/4しか記述できていなかったのである。 クルスカル・スゼッケル座標とシュバルツシルト座標の関係を示す美しい図がwikipediaに載っている。 https://en.wikipedia.org/wiki/Kruskal-Szekeres_coordinates この図はじっくり眺める価値がある。 この座標のように光線の描く世界線が、座標平面に45度をなすような座標では、因果が分かりやすい: 過去錘と未来錘についてもう一度説明しておく: 観測者は、自分から左下45度と右下45度の間の領域(過去錘)の情報しか得ることができない。 また、物体は、自身から左上45度と右上45度の間の領域(未来錘)にしか行くことができない。 図のr=1が、議論していたr=2mに相当する。m=1/2とおいていると思っても良い。 図のIとIIの部分が、シュバルツシルト座標のrt平面に対応する。 Iがr>2mの部分で、IIがr<2mの部分である。 Iのはるか右側にいけば、通常の歪みのない時空に近づき、それが我々の普段感じている世界である。 IIの領域、r=2mの内部では、状況が大きく変わる。 この変化は、シュバルツシルト計量の式からも、分かる: 再掲:dsds = -f(r)dtdt+drdr/f(r) + rrdΩdΩ, f(r)=(1-2m/r) r<2mのとき、f(r)の符号がマイナスになる。 dtdtの係数が正になって、drdrの係数が負になる。 すなわち、r>2mのときとは逆に、 「tが一定でrが変わる曲線が時間的であり、rが一定でtが変わる曲線が空間的となる。」 この事実だけでも、じっくり考える価値がある。 この状況は、クルスカル・スゼッケル座標での未来錘を眺めることでも観察できる: r>2mのときは、物体はtが増える方向にしか進まなかった。rは増えることも減ることもできた。 r<2mのときは、物体はrが減る方向にしか進まない。今度は、tが増えても減っても良い。

[4] 雑談 ブラックホールのシュバルツシルト半径内、すなわちr<2mに居る人には世界がどう見えるのか。 自分よりtが大きい領域の情報も、tが小さい領域の情報も、(rとの関係によっては)受信できる。 しかし自分より、rが小さい領域からの光線を受信することはできない。 このことをrt平面の言葉(rが位置、tが時間)で(不適切に)解釈しようとすると、 自分より中心に近い位置は「見えない」一方、 自分より外側であれば、ある程度未来の情報も受信できるという解釈になる。 しかしこれは不適切で、主観的にもきっとそうではなく、 観測者には、r<2mの部分が「未来」として感じられ、 tの大小で表される広がりは、「空間の広がり」として認識されることだろう。 だから、変数の名前の付け方を逆にすれば、我々の認識と、全く同一である。 そうすると、実は我々は実はこの図のIIの所に居ると考えることもできるのではないか? そうすると、時間が過去から未来に進むのは、「未来であるr=0にある何かが我々を引っ張っている」からと解釈できるのではないか? ・・というようなことを考えた。 あるいは、実は我々は、この図のIVの所に居ると考えてみることもできるかもしれない。 これは、ホワイトホール、rが大きくなる方向にしか物体が移動できない世界である。 こちらで解釈をすると、「過去にあった何かが、我々を吹き飛ばしている」と解釈することもできるかもしれない。 ・・というようなことも考えた。 でも、反論も思いついた。 物体の世界線の一方向性を定めているのは、計量の符号の問題であり、 別にブラックホールの存在が本質的ではないのではないか。 (実際平坦なミンコフスキー時空でも、時間は過去から未来に進む。) ・・この辺りは、思想の問題かもしれない。 でも、それなら、そもそもなぜミンコフスキー時空ではdtdtの符号だけが違うのか。 ずっと無視していたけど、空間には3つのx軸のほかにy,z軸があった。 上記に図示されたXT平面にも、実はそれに直交するy軸とz軸があって、 それは、r>2mかr<2mに関わらず「空間的な広がり」を表すことに変わりはなかった。 ブラックホールが存在することで、その向きに向かう計量だけがマイナスに変わった。 そうすると、やっぱりブラックホールが計量のマイナス符号を生み出す元ではないか? ・・やっぱりちょっと無茶な気がした。 結局戯言でしかないかもしれない。 でも、未来に引っ張られているという思想は、(最近)なんとなく居心地よく感じる。 世界観は、居心地良く感じるものを選択すれば良いと思っている。

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