前回の考察に続いて、複2次体K=Q(√m,√n)の単数について調べていた。
https://mathoverflow.net/questions/165506/unit-group-of-biquadratic-fields
https://arxiv.org/pdf/1202.3475v1.pdf
https://arxiv.org/pdf/1904.04411.pdf
などに出会った。さかのぼると、Kubotaの1956年の文献によって詳細に分類されているというところに行きついた。
それでそのKubotaの文献を見ると・・
"UBER DEN BIZYKLISCHEN BIQUADRATISCHEN ZAHLKORPER"
ドイツ語だーーー
Nagoya Math J.なのにーーー
Kの中間体をk1,k2,k3とする。
2次体kiの単数群の生成元(つまり基本単数)をεiとする。
そのうち、ノルム1の単数群の生成元をεi+とする。
このノートではルジャンドル記号をLg(a/b)と表記することにする。
εiたちはKの単数にもなるが、Kはそれ以外にも単数を持つかもしれない。
複2次体Kが、ε1,ε2,ε3以外で生成されない「新しいKの単数」を持つかどうかを調べたい。
「新しいKの単数」があるとすれば、ε1,ε2,ε3をいくつか掛けたものの平方根となるらしい。(追えていない。)
すなわちε1,ε2,ε3のうちいくつかを掛けたものがKで平方元となる。そこで:
Kの単数群を、中間体の生成する単数群で割った剰余群の位数は、
Kの類数をh、中間体の類数をh1,h2,h3とすると、4h / h1h2h3 に等しいらしい。
しかしこの類数を使った結果には今回は踏み込まない。
【事実】Kの単数の構造は以下の7つのパターンがあり得る。
1. <-1,ε1,ε2,ε3>
2. <-1,√[ε1],ε2,ε3>
3. <-1,√[ε1],√[ε2],ε3>
4. <-1,√[ε1ε2],ε2,ε3>
5. <-1,√[ε1ε2],ε2,√[ε3]>
6. <-1,√[ε1ε2],√[ε2ε3],√[ε3ε1]>
7. <-1,ε1,ε2,√[ε1ε2ε3]>
Kの中間体について、以下の2つの場合に分ける:
[場合1] ε1,ε2,ε3のノルムのどれかが-1でないならば、パターンは1.から7.まですべてあり得る。
[場合2] ε1,ε2,ε3のノルムがすべて-1ならば、パターンは1.と7.だけがあり得る
どちらの場合も、それぞれのパターンを与える複2次体は無限に存在する。
このノートでは文献に沿ってこれらの具体例を追って観察する。(根拠は追えていない。)
[場合1]はKubotaの文献の記述を追った。
[場合2]のパターン7.は複素数を使った観察を試みた。
[場合2]のパターン1.はDavidの資料を見た。
内容を読んだり計算したりして、理解できたことを書いた。
この大きな2つの場合分けが生じる理由は、以下の指摘にある:
[指摘]
ε1がKで平方元ならば、ε1のノルムは+1
ε1ε2がKで平方元ならば、ε1,ε2のノルムはともに+1
ε1ε2ε3がKの平方元ならば、ε1,ε2,ε3のノルムはすべて+1、あるいはすべて-1
(ここでノルムという言葉は、Kではなく、中間体の2次体におけるノルムをとる意図である。)
理由:
Kには、ε1,ε2,ε3のうち1つを固定して、残り2つを共役に変える自己同型がある。
Kは実な体だから、負の共役を持つ元は、平方元では有りえない。
ノルムが-1のものが、共役で符号が変わることを考えると上記の場合に限られる。
[場合1]を考える。このときは、上記の[指摘]により、
ε1,ε2,ε3のうちいくつかを掛けたものがKで平方元となるならば、
ε1+,ε2+,ε3+のうちいくつかを掛けたものがKで平方元となるとおける。
ε1+,ε2+,ε3+のほうが扱いやすいのは、次の事実による:
「(ε+)δ が Kの平方元となるような整数δが存在する。」
以下、x,x1,x2を4N+1素数、y,y1,y2,y3を4N-1素数とする。
いくつかの場合に次のように特定される:
[命題] (証明は追えていない)
(1) k=Q(√2), k=Q(√x), k=Q(√x1x2),Lg(x1/x2)=-1 のとき、δ=1
(言い換えると、これらの場合ではノルム-1の単数が存在する。)
(2) k=Q(√y), k=Q(√2y) のとき、δ=2
(3) k=Q(√y1y2) のとき、δ=y1
(4) k=Q(√xy), Lg(y/x)=1, Lg(2/x)=-1 のとき δ=x
(5) k=Q(√xy), Lg(y/x)=Lg(2/x)=-1 のとき δ=2x
(6) k=Q(√xy1y2), Lg(y1/x)=Lg(y2/x)=-1 のとき δ=y1y2
δ1,δ2,δ3の関係を調べることで、問題を解決することができる。
7つの場合それぞれについて、それが与えている例が与えられている。
私はそれに具体的な数値を付け加えた。
1. <-1,ε1,ε2,ε3>
δ1,δ2,δ3が自明な関係を持たなければ良い
k1=Q(√x1*y), k2=Q(√x2*y), k3=Q(√x1*x2),
Lg(y/x1)=1, Lg(2/x1)=Lg(y/x2)=Lg(2/x2)=Lg(x1/x2)=-1 のとき
δ1=x1, δ2=2x2, δ3=1
x1=5, x2=13, y=11, K=Q(√55,√65)
ε1=89+12√55, ε2=12+√143, ε3=8+√65,
√ε1 = 3√5+2√11 = √5*(Kの元)
√ε2 = (√22+√26)/2 = √22*(Kの元)
√ε3 = √(4+i/2) + √(4-i/2)
これらを掛け合わせてKの元にすることはできない。
---
2. <-1,√[ε1],ε2,ε3>
k1=Q(√x1*y), k2=Q(√y), k3=Q(√x), Lg(y/x)=1, Lg(2/x)=-1 のとき
δ1=x, δ2=2, δ3=1
x=5, y=11, K=Q(√5,√11)
ε1=89+12√55, ε1=(1+√5)/2, ε2=10+3√11,
√ε1 = 3√5+2√11 が新しいKの単数となる。
---
3. <-1,√[ε1],√[ε2],ε3>
k1=Q(√y), k2=Q(√2y), k3=Q(√2) のとき
δ1=2, δ2=2, δ3=1
y=3, K=Q(√2,√3)
ε1=2+√3, ε2=5+2√6, ε3=1+√2,
√ε1 = (√2+2√6)/2
√ε2 = √2+√3
が新しいKの単数となる。
---
4. <-1,√[ε1ε2],ε2,ε3>
k1=Q(√xy), k2=Q(√y), k3=Q(√x), Lg(y/x)=Lg(2/x)=-1 のとき
δ1=2x, δ2=2, δ3=1
x=5,y=13, K=Q(√3,√5)
ε1=4+√15, ε2=2+√3, ε3=(1+√5)/2,
√ε1 = (√6+√10)/2
√ε2 = (√2+√6)/2
を掛け合わせると「√2成分」が消えて新しいKの単数となる。
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5. <-1,√[ε1ε2],ε2,√[ε3]>
k1=Q(√y1), k2=Q(√y2), k3=Q(√y1y2) のとき
δ1=2, δ2=2, δ3=y1
y1=3,y2=7, K=Q(√3,√7)
ε1=2+√3, ε2=8+3√7, ε3=(5+√21)/2,
√ε1 = (√2+√6)/2
√ε2 = (√2+√14)/2
√ε3 = (√3+√7)/2
であり、√ε1ε2, √ε3が新しいKの単数となる。
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6. <-1,√[ε1ε2],√[ε2ε3],√[ε3ε1]>
k1=Q(√y1y2), k2=Q(√y2y3), k3=Q(√y3y1) のとき
δ1=y1, δ2=y2, δ3=y3
y1=3,y2=7,y3=11, K=Q(√21,√33)
ε1=(5+√21)/2, ε2=(9+√77)/2, ε3=23+4√33
√ε1 = (√3+√7)/2
√ε2 = (√7+√11)/2
√ε3 = 2√3+√11
であり、√ε1ε2, √ε2ε3, √ε3ε1が新しいKの単数となる。
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7. <-1,ε1,ε2,√[ε1ε2ε3]>
k1=Q(√xy1y2), k2=Q(√y1), k3=Q(√xy2), Lg(y1/x)=Lg(y2/x)=Lg(2/x)=-1 のとき
δ1=y1y2, δ2=2, δ3=2x
x=5,y1=3,y2=7, K=Q(√3,√35)
ε1=41+4√105, ε2=2+√3, ε3=6+√35
√ε1 = 2√5+√21 = √5*(Kの元)
√ε2 = (√2+√6)/2 = √2*(Kの元)
√ε3 = (√10+√14)/2 = √10*(Kの元)
3つを掛け合わせるとKの元となる。
[場合2]
7. <-1,ε1,ε2,√[ε1ε2ε3]>
k1=Q(√x1), k2=Q(√x2), k3=Q(√x1x2), Lg(x1/x2)=-1 のとき
最初の方の[命題] (証明は終えていない) により、ε1,ε2,ε3はすべてノルムが-1となる。
このとき、√[ε1ε2ε3]∈Kとなり、このパターンを与えるらしい。
その理屈は追えていないが、代わりに自分で以下のような考察をした:
(一般化するには考察が足りない)
補足:Lg(x1/x2)=1 のときは、ε3のノルムは+1になるときと-1になるときがある。
具体的な分類方法があるかもしれないが、答えを見つけられていない。
x1=5, x2=17 が最初の具体例となるのでこれを使って観察する。
ε1 = (1+√5)/2
ε2 = 4+√17
ε3 = (9+√85)/2
公式的に2重根号を外す操作を試みることで以下の表示を得る。
√ε1 = (√[1+2i] + √[1-2i]) / 2
√ε2 = (√[8+2i] + √[8-2i]) / 2
√ε3 = (√[9+2i] + √[9-2i]) / 2
ここで虚数に対する√は次のような方法で定める。
√[1+2i] = √[(1+√5)/2] + i*√[(-1+√5)/2]
√[1-2i] = √[(1+√5)/2] - i*√[(-1+√5)/2]
√[8+2i] = √[4+√17] + i*√[-4+√17]
√[8-2i] = √[4+√17] - i*√[-4+√17]
√[9+2i] = √[(9+√85)/2] + i*√[(-9+√85)/2]
√[9-2i] = √[(9+√85)/2] - i*√[(-9+√85)/2]
ここで素イデアル分解の一意性により、(1±2i)(8±2i) のどれかが (9+2i) の倍数になる。
実際、(1-2i)(8-2i)/(9+2i) = -2i となる。
これを元に、√[1-2i]*√[8-2i]/√[9+2i] = (1-i) の関係式を得る。
√ε1 = (1-2i+√5) / 2√[1-2i]
√ε2 = (8-2i+2√17) / 2√[8-2i]
√ε3 = (9+2i+√85) / 2√[9+2i]
と変形して、上記の関係式を使うことで、
√ε1*√ε2/√ε3 = (1-2i+√5)(8-2i+2√17)/(9+2i+√85) * 1/2 / (√[1-2i]*√[8-2i]/√[9+2i])
= (1-2i+√5)(8-2i+2√17)/(9+2i+√85) * 1/2 * 1/(1-i)
を得る。これは右辺よりQ(√5,√17,i)の元で、一方で、左辺より実数だから、Q(√5,√17)の元である。
(すなわち右辺を展開するとiが消えるはずである!)
実際、(-7+3√5-√17+√85)/4 となる。
すなわち ε1ε2/ε3 はKの平方元である。従ってε1ε2ε3はKの平方元である。
---
[場合2]で1.のパターンになる場合は無限に存在することについて、Davidの資料に以下の結果があった。
n>2, n≠2 (mod 5), n^2+1と(n+1)^2+1がともに平方因子を持たないとする。
(このようなnが無限に存在することもそのpdfで示されている。)
このとき、K=Q(√[n^2+1], √[(n+1)^2+1]) が条件を満たす。
具体的には例えばn=3で、K(√10,√17)
考察:
N=n(n+1)+1 とおくと、(n^2+1){(n+1)^2+1} = N^2+1 である。
n^2+1と(n+1)^2+1 で生成されるイデアルを考察することで、それらの公約数は5の約数に限る。
n≠2 (mod 5)のとき、これらは互いに素であることが分かる。従ってN^2+1は平方因子を持たない。
このとき、中間体の2次体の基本単数は
ε1=n+√[n^2+1]
ε2=(n+1)+√[(n+1)^2+1]
ε3=N+√[N^2+1]
である。
上記と同じ方法を試すと
√ε1 = (√(2n+2i) + √(2n-2i)) / 2
√ε2 = (√(2n+2+2i) + √(2n+2-2i)) / 2
√ε3 = (√(2N+i) + √(2N-2i)) / 2
√[2n+2i]*√[2n+2-2i]/√[2N+2i] = √2 の関係式を得る。
この√2がKの元でない所が、上記と状況が異なり、結果としてε1ε2ε3がKの平方元にならないようである。
前回のノートの文脈で、p,qが素数の時のK(√p,√q)の基本単数を分類したい。
この文脈では、前回の命題の別の条件である「p,qが互いを法として平方剰余」を満たすものだけ興味がある。
これを満たさないもの(b)と(c2)は、打ち消し線をつけておくことにした。
(a) p,qが2または4N+1のとき
(a1) Q(√pq)の基本単数のノルムが-1ならば、パターン7
(a2) Q(√pq)の基本単数のノルムが+1のとき、情報がない。ε[pq]がKの平方元で、パターン2となる気がする。
(b) p,qがともに4N+3のときは、ε[p]ε[q]とε[pq]が平方元となるパターン5である。
(c) pが8N+5, qが4N+3のとき
(c1) Lg(y/x)=1 のときはε[pq]が平方元となるパターン2
(c2) Lg(y/x)=-1 のときはε[q]ε[pq]が平方元となるパターン4
(d) pが8N+1,qが4N+3 のとき、情報がない。ε[q]ε[pq]が平方元でパターン4となる気がする。
(e) p=2, qが4N+3のとき、ε[q]とε[2q]が平方元となるパターン3
(2が2重に分岐するなら、δ=2になるような気がする。
具体的には4N+3が素数でなくても√4N+3ではδ=2になる気がする)
ところで、考察しているうちに前回の証明に見落としを見つけてしまい、修正できなかった。
なのでこの話はまた今度にする・・。
2020/8/6
2020/8/9 追記:解決した。前回のノートに追記した。
基本単数について踏み込む必要はなく解決した。
ノート一覧