座標環のUFD性と、代数曲線因子を結びつける視点

多項式環の剰余環A=C[X,Y]/(X^2+Y^3-1)を考えます。 Yの剰余類をy∈Aと表すと、yは既約元であることを示してください。 https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q12190315692 に書いてある、「取り消されてしまった」内容です。 かなり「地に足がついた」説明です。 議論は大きく前半・後半に分けました。 ================== [議論前半] 直線Y=0は、曲線 X^2+Y^3-1=0 と 2点(X,Y)=(±1,0) で接さずに交わる(「1位の零点」) Y ≡ FG (mod X^2+Y^3-1) と仮定する。 このとき ・F,Gは(±1,0)以外の点で 曲線 X^2+Y^3-1=0 と交わってはいけない ・F,Gは(±1,0)で 曲線 X^2+Y^3-1=0 と接してはいけない --- [なぜなら] ・もしF=0で定義される曲線が、点pで曲線X^2+Y^3-1=0と交わるなら、  FG=0で定義される曲線も、点pで曲線X^2+Y^3-1=0と交わる ・Y≡FG (mod X^2+Y^3-1=0) のとき YとFGはX^2+Y^3-1=0と同じ交点を持つ。 ・もしFが点(1,0)で接するなら、FGも点(1,0)で接する ・Y≡FG (mod X^2+Y^3-1=0) でFGが点(1,0)で接するならYも点(1,0)で接する。 (しかし実際には接しない) ・ここで「接する」の意味について今回は深入りしないが、  点(1,0)において Y=0 かつ ∂F/∂Y = 0、と考えれば良い。 --- 従って、可能性は以下の2つである: ・Fは点(1,0)でのみ曲線と交わり、Gは点(0,1)でのみ曲線と交わる ・Fは曲線とは交わらず、Gは点(±1,0)で曲線と交わる どちらの場合も交わるところで接してはいけない。 ============= [議論後半] 上記を満たす式Fについて考える。 X^2≡1-Y^3 (mod X^2+Y^3-1) により、Xの次数を下げることで、 F=F(X,Y)はXについて高々1次式の場合だけを考えれば十分である。 従って、F(X,Y) = a(Y)+b(Y)*X とおく。 F(X,Y)=0 と曲線 X^2+Y^3-1=0 の交点が、Y=0のみだと要求する。 Xを消去した式を考えれば次のようにおける: a(Y)^2 - b(Y)^2*(1-Y^3) = Y^k (k≧1)・・・★ a(Y)がm次式、b(Y)がn次式とすると、上記の式は、 2m次式 と (2n+3)次式 の和なので、(多項式「0」は -∞次式 と扱う) m=n=-∞の場合を除いて、2つの項の最高次の次数は一致しないので、 式全体の次数は、2つの項のうち次数が大きい方の次数に一致する 特に、1次式になり得ないのでk≧2 である。 従って★の左辺のY=0での微分係数は0であることから次が成り立つ: 2*a(0)*a'(0) - 2*b(0)*b'(0) = 0・・・@ Fが点(1,0)で曲線と交わるという条件は、 F(1,0)=a(0)+b(0)=0・・・A Fが点(1,0)で曲線と接しないと言う条件は ∂F/∂Y[(X,Y)=(1,0)] = a'(0)+b'(0)≠0・・・B Aより b(0)=-a(0)を@に代入すると (a'(0)+b'(0))*a(0) = 0 Bより a(0)=0が要求される このときAより a(0)=b(0)=0 そうすると F(-1,0) = a(0)-b(0) も0になってしまう つまり以下の欲しかった結果を得る 「F(X,Y)=0と曲線との交点がY=0上にしかなく、 点(1,0)で曲線に交わるが接しないとすると、 必然的に点(-1,0)でも交わってしまう」 ---- これで1つ目の可能性が不可能だと分かった。 2つ目の可能性について 「Fが曲線と交わらないならば、Fは定数である」を確認する必要がある 先と同様に、交点のY座標を求める方程式を考える: a(Y)^2 - b(Y)^2*(1-Y^3) = 0 Cは代数閉体だから、これが解を持たないのは、左辺が定数の場合だけである a(Y)がm次式、b(Y)がn次式とすると 先にした考察から、 m=0, n=-∞の場合しか、左辺を定数にできない そのとき、F(X,Y)=a(Y)+b(Y)*X は定数である
*参考 種数0の曲線では、違うことが起きる。 C[X,Y]/(X^2+Y^2-1)では、Xに対応する剰余類は、既約元ではない。 次のように分解される。 X ≡ (X-iY+i)(X+iY+i) / 2i 右辺の因子は、それぞれ(0,±1)のみで1位の零点をとる関数である。 この曲線では、このように、与えられた点のみで1位の零点をとる関数が存在する。 また、上記の2つ目の可能性の議論に対比して、 F=0が曲線と交わらない定数でない多項式Fが存在する: X+Yi と X-Yi である。 (無限遠点でのみ交わると理解することができる。) 座標環C[X,Y]/(X^2+Y^2-1)においてはこれらは可逆元である (これについてはhttps://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q12189714997で紹介した) 2018/5
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