フロベニウスと楕円曲線の等分点

X: y^2=x^3+x では、pをa+biに分解するときには a≡1, 1+2i (mod 4)
X': y^2=x^3-x では、pをa+biに分解するときには a≡1, 3+2i (mod 4)
となるように単数倍の違いを選択するといろいろと都合が良いことを、
2019年に書いた虚二次体の類体論に関する多くの考察ノートで観察した。
(その頃は「標準形」という用語を使っていたが、もうこの用語は好まない。)

この選択は、それはフロベニウス写像のトレースの意味が合って、
レフシェッツの不動点定理を経由してF_p解の個数とも結びつく重要なものであった。
しかしこの選択の出所が今までよく分からずにいた。

今回、ついにそれを(少なくとも1つの視点で)明らかにできた。分かってみるとシンプルだった・・。


[1] 核心的な計算 [1-1] X: y^2=x^3+xの場合 Xは複素トーラス C/Λ と同一視できるのであった。 格子Λはある実定数aによって、{(1+i)a,(1-i)a}と書かれる。 以下C/Λの元 u(1+i)a+v(1-i)a mod Λ を、<u+vi>と略記する。 Xの2等分点はこの同一視で次のように定められる。 (x,y)=(i,0) --> <i/2> (x,y)=(-i,0) --> <1/2> (x,y)=(0,0) --> <1/2+i/2> (2+2i)等分点の1つを具体的に求めると P = (x,y)=((1+√2)i, (1+√2)(1-i)) と表せてこれはQ(i)の2次拡大を与える。 Q = (x,y)=((1-√2)i, (1-√2)(1-i)) は√2の符号を変えた共役な点である この場合は例えばP+Qが(x,y)=(0,0) --> <1/2+i/2>に移ることから、QはPの(1+2i)倍点であることが分かる。 ---- [1-2] X': y^2=x^3-x の場合 格子Λ'は、実定数bによる{b,ib}の形をしている。(この形の違いは今回は重要ではない。) 先と同様に、C/Λ'の元 ub+ivb mod Λ'を<u+vi>と略記する。 X'の2等分点はこの同一視で次のように定められる。 (x,y)=(-1,0) --> <i/2> (x,y)=(0,0) --> <1/2+i/2> (x,y)=(1,0) --> <1/2> (2+2i)等分点の1つを具体的に求めて P = (x,y) = (1+√2, 2+√2) とその共役: Q = (x,y) = (1-√2, 2-√2) との関係を調べると P+Qは(x,y)=(-1,0) --> <i/2>に移ることから、今度はQはPの(3+2i)倍点である。 図を示した。最初の例Xでは水色の実線で示した組が共役の関係で、次の例X'では点線で示した組が共役という事情である。
[2] 類体論の視点 pを奇素点とする。 説明には局所アルティン写像θ_pだけが必要である。 これは局所体の乗法群からその最大アーベル拡大のガロア群への準同型である。 局所アルティン写像は、「uは分岐拡大に作用し、pは不分岐拡大に作用する」 a = u*π^k (uを可逆元で、πは素元)と分解すると、 ・θ_p(a)は、p冪等分点に対して、u^-1倍点に送る写像として作用する。(分岐拡大) ・θ_p(a)は、pと素な等分点に対して、フロベニウスとして作用する。(不分岐拡大) さっき考察した(2+2i)等分点Pへの作用を考える。 (pが奇素点なので)不分岐拡大に対するフロベニウス作用である。 Pの座標は2次拡大で得られ、その共役は[1]で見たように、Xでは(1+2i)倍点, X'では(3+2i)倍点であるから ガロア群は点Pに対して恒等に作用するか、あるいはこの共役に送るかの2つの選択肢しかない。 従ってフロベニウス写像を(a+bi)倍写像とおいたとき、 X:y^2=x^3+x の場合は a+bi≡1,1+2i (mod 2+2i) X':y^2=x^3+x の場合は a+bi≡1,3+2i (mod 2+2i) を満たさなくてはならないことが分かる。 2020/10/11
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