ガロア貼り合わせ
http://www.mathcs.emory.edu/~dzb/advice.html
に紹介されているPoonenさんのQpoints.pdfの4章の内容の一部に相当する。
L/Kをガロア拡大とするときに、L上のスキームが、K上のスキームに由来するものと同型かどうか。
(L上のスキームXに対して、K上のスキームYがあって、X=L×Yかどうか)
これをSpecL→SpecKを「被覆」と解釈して、スキームを貼り合わせる視点で解釈することができる。
さらに、貼り合わせた結果が同型を除いて何種類あるかを、
ある種のガロアコホモロジー群と対応させることができるという内容がある。
大雑把な雰囲気は以前にも読んだが、練習4.1の具体例を題材に、環準同型を丁寧に追った。
特にp.103の「doing some straightforward calculations」と書かれた部分を、ゆっくり考察した。
そうすると、事情は思ったより込み入っていて、行間を埋めるのは簡単ではなかった。
[1] 練習4.1の考察
[2] 貼り合わせの視点
[2-2] 共通部分への制限の同型
[2-3] コサイクル条件
[3] ツイストの例
[4] ヒルベルトの定理90
[5] 追記:ベクトル束との類似
・貼り合わせには、加群(準連接層)の貼り合わせと環(スキーム)の貼り合わせがある。
文献では4.2と4.3に分けてこれらを扱っている。
スキームの場合は、例えばquasi-affineのような制約が必要らしいが、踏み込まない。(文献の定理4.3.5)
・貼り合わせとしての解釈が成功する背景は今回は踏み込まない。(つまり[0]の結果の証明を追うわけではない。)
文献としては例えばThe Stacks projectの35章、
加群(層)の場合は35.6の内容(ガロア降下)であり、踏み込む場合は、それは35.5の内容(fpqc貼り合わせ)の特殊な例であり、
それは35.3の加群の降下の議論によるものらしいが、その議論はまだ追えていない。
環(スキーム)の場合は、35.31で扱っているように見えるが、追っていない。
題材の都合で、[1]~[3]で環の貼り合わせを扱った。
・また、ヒルベルトの定理90をこの視点で解釈することができる。これも理解できた。
https://mathoverflow.net/questions/21110/is-there-a-natural-way-to-view-the-proof-of-hilbert-90
(BCnrd氏のコメントの内容)。
その内容として、[4]では加群の貼り合わせを扱った。
貼り合わせを具体的に得る方法は、次のノートに書いた。
[0]
・結果の提示
L/Kをガロア拡大としてガロア群をGとする。Bを、L上の環(または加群)とする。
このとき、
「K上の環Aが存在して、BはAの係数拡大(Lとのテンソル積をとる)に同型になる」
ことは、
「それぞれのσ∈Gに対して、a[σ]∈(^σBからBへのL-準同型)が定まっていて、
任意のσ,τ∈Gに対して、a[στ] = a[σ]・σ(a[τ]) の関係が成り立つ」
ことと同値である。[2020/9/6:Qpoints.pdfのp.103を確認して準同型を同型に訂正した]
(最後の関係式はコサイクル条件と呼ばれる。)
この事実を、開被覆での層を貼り合わせる条件の類似として解釈できることを[2]で観察する。
さらに、そのようなAが、K上の同型を除いて何種類存在するかどうかは、
コサイクル条件を満たすaを、次に定めるコホモローグを同値類として割った類と対応する:
「あるL上の同型写像b:B→Bが存在して、
a[σ] = b^-1・a'[σ]・σ(b) の関係式が成り立つとき、aとa'はコホモローグという。」
ところで、1種類でも存在することが分かれば、BはAの係数拡大自体とおける。
こうしておくと、σ^BはすべてBと同型だから、
最初の記述の「^σBからBへのL-準同型」は単に「Bの自己準同型」に置き換えることができる。
この視点で、コホモローグを同値類として割った類は、1次のコホモロジーH^1(G, Aut(B)) である。
これを[3]で観察する。
[1] 練習4.1 (Field of moduli not a field of definition (このタイトルの意図が分からない))
σ∈Gal(C/R)を複素共役とする。a[0]からa[6]を、σa[6-j]=(-1)^(j+1)*a[j]を満たす複素数とする。
f(x)=a[6]x^6+..+a[0]が6次の分離的多項式とする。
Xをy^2=f(x)が定めるアフィン曲線のC上滑らかな射影的モデルとする。
Xの恒等でない自己同型がアフィン曲線上でのι:(x,y)→(x,-y)に由来するものだけだと仮定する。
(a) XはC-多様体としてσXに同型であることを示せ
(b) XはR上の曲線のbase extensionではないことを示せ
(c) 問題文の仮定が実際に満たされることを示せ
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(a) 条件式は具体的に
σa[6]=-a[0], σa[5]=a[1], σa[4]=-a[2], σa[3]=a[3](∈ R)
例えば
f(x) = x^6 + (2+i)x^5 + (3+4i)x^4 + x^3 + (-3+4i)x^2 + (2-i)x - 1
σf(x) = x^6 + (2-i)x^5 + (3-4i)x^4 + x^3 + (-3-4i)x^2 + (2+i)x - 1
そこで
σf(-1/x) = {1 - (2-i)x + (3-4i)x^2 - x^3 + (-3-4i)x^4 - (2+i)x^5 - x^6} / x^6
に注目する。
y^2 = f(x) のとき σf(-1/x) = -1/x^6 * y^2 = (iy/x^3)^2 なので
z=-1/x, w=iy/x^3 とおけば w^2 = σf(z) であり、
x=-1/z, y=iw/z^3 で復元できる。
この変換により、y^2=f(x) と w^2=σf(w) が双有理同型である。
(「滑らかな射影的モデル」に移せば双有理同型は同型と認識している。)
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(b) R係数の多項式 F(s,t)があって、有限個の点を除いて
(x,y) = α(s,t,i) の有理関係で F(s,t)=0 ⇒ y^2=f(x),
(s,t) = β(x,y,i) の有理関係で y^2=f(x)⇒ F(s,t)=0,
それらの合成(x,y)→(s,t)→(x,y)は恒等写像と仮定する。
この関係のとき、(z,w)=α(s,t,-i)とおけば、w^2=σf(z)となる。
β;σα;の合成で、(x,y)を(z,w)に送り、XとσXの同型φが得られる:
(x,y) → (s,t)=β(x,y,i) → (z,w)=α(s,t,-i)
(セミコロンは、この順番に写像を合成するという記法で、檜山氏の真似)
ここで、σXのσσXの同型σφ:σβ;σσα;の合成を考える。
(w,z) → (s,t)=β(x,y,-i) → (x,y)=α(s,t,i)
そうするとφ;φ~;の合成X→Xは、β;σα;σβ;α;の合成だから、恒等写像になる。
以上の議論をまとめると、次の事実を得る:
「XがR上の曲線に由来するならば、同型φ:σX→Xが存在し、
さらにその共役σφ:X→σXとの合成は恒等写像である」・・★
今回の曲線では、(a)によりφは存在するが、φと~φの合成は、(x,y)→(x,-y)になってしまう。
σX→Xへの同型は、φの他にはφとXの自己同型を合成したものしかないから、
さらに問題の仮定より、φの他にはιφしかないが、これも同じ結果である。
従って★を満たすφは存在しない。従ってXはR上の曲線に由来しない。
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(c) f(x)の零点はs,t,u, 1/σs,1/σt,1/σuとおける。
CP^1の自己同型は P(z) = (az+b)/(cz+d) (ad-bc≠0)とおける。
3点の行先を定めれば、P(z)は一意的に決定される。(たぶん。)
しかし6点の行先を定めないといけないので、
s,t,uを十分一般的に選べば、これらを置換するP(z)は存在しないことが予想される;
例えば、s=1+i, t=2+i, u=3+i, 1/s~=(1+i)/2, 1/t~=(2+i)/5, 1/s~=(3+i)/10
とかで計算機で候補を順番に調べれば原理的には確認できると思うけど、
実行する気は起きなかった・・
# 恒等写像でなければP(z)=zとなるzは高々2つしかないので
P(z)は6点を置換するならば、何回も繰り返せば6点を固定する、
従ってP(z)を何回も合成すれば恒等写像になる、
従ってP(z)の固有値は1の冪根であると考察したが、役立てられなかった。
(良い方法あるかなあ・・)
[2] ガロア貼り合わせの視点
(b)の★の条件はCorollary 4.4.6のコサイクル条件でτ=σとおいたものである。
今回のガロア群では他のコサイクル条件は必然的に成り立つので、
Corollary 4.4.6によれば、★の条件を満たすφが存在するならば、
XがR上の曲線のbase extensionである、つまり★の逆も成り立つらしい。
これを、スキームの被覆による貼り合わせとしての視点で考察する。
位相空間Sの開集合U1,U2,U3,..上のスキームA1,A2,A3,..が与えられている。
これらを貼り合わせたS上のスキームが存在するかどうかを考える。
貼り合わせを定めるには、以下が定まっている必要がある:
・制限写像:例えばU12=U1∩U2のような記法をする。
A1を、U1からU12に制限した、U12上のスキームA12が定まっている必要がある。
・共通部分への制限の同型:
A2を、U2からU12に制限した、U12上のスキームを同様にA21とおくと、
A12からA21へのU12上の同型が定まっている必要がある;これをp[1,2]と書くことにする。
・さらに、「コサイクル条件」が成り立つ、つまり
p[1,2]とp[2,3]の合成が、p[1,3]に一致している必要がある。
より正確には、U123=U1∩U2∩U3として、
p[1,2]のU123への制限と、p[2,3]のU123への制限の合成が、p[1,3]のU123への合成に一致する。
これの類似として考える。
・開埋め込みU1→Sに相当するもの、SpecC→SpecR
・U12に相当するもの、SpecC×SpecC、具体的には
Spec R[u]/(u^2+1) × Spec R[v]/(v^2+1) = Spec R[u,v]/(u^2+1,v^2+1)
(位相空間の圏で、U1→SとU2→Sのファイバー積がU1∩U2になることの類似)
・A1に相当するもの、Spec R[u,x,y]/(u^2+1,f(x,y,u))
・A12に相当するもの、Spec R[u,v,x,y]/(u^2+1,v^2+1,f(x,y,u))
同様に
・A2に相当するもの、Spec R[v,z,w]/(v^2+1,f(z,w,v))
・A21に相当するもの、Spec R[u,v,z,w]/(u^2+1,v^2+1,f(z,w,v))
ここで、練習4.1の題材を当てはめるには、
f(x,y,u) = x^6 + (2+u)x^5 + (3+4u)x^4 + x^3 + (-3+4u)x^2 + (2-u)x - 1 - y^2
を思い浮かべることになる。(練習4.1の記号fとは別物。)
[2-2] 共通部分への制限の同型
・p[1,2]に相当するもの(Specのと環準同型の向きが反対であることに注意)を考えると、
R[u,v,z,w]/(u^2+1,v^2+1,f(z,w,v)) から
R[u,v,x,y]/(u^2+1,v^2+1,f(x,y,u)) への
R[u,v]/(u^2+1,v^2+1)上の環準同型(考察上はu,vを固定するR上の環準同型)ということになる。
z,wを何に送るかだけ自由に定められる。vをuに移すことは許されない。
そんな環準同型があるのか。
少し環論的考察
R[u,v]/(u^2+1,v^2+1)
= R[u,v]/(u^2+1,(v-u)(v+u)
= R[u,v]/(u^2+1,v-u)×R[u,v]/(u^2+1,v+u)
= R[u]/(u^2+1)×R[u]/(u^2+1) (中国剰余定理)
={<a+bi,c+di>| a,b,c,d∈R} と元を表記する、
ただし<a+bi,c+di>という元は、
vの多項式として、(v-u)で割って a+bu 余り、(v+u)で割って c+du 余るものに対応させる。
例えば1は<1,1>に、uは<i,i>に、vは<i,-i>に対応する。
この視点で考えれば、z,wを x=<z,-1/z>,y=<w,iw/z^3>に移せばうまくいく。
具体的に書くと、
x = z*(1-uv)/2 + (-1/z)*(1+uv)/2
y = w*(1-uv)/2 + (uw/z^3)*(1+uv)/2
という環準同型である。(全く自明でない!)
実際に計算機で
f(x,y,u) ≡ { (1-uv)/2 + (-1/x^6)(1+uv)/2}*f(z,w,v) (mod u^2+1,v^2+1)
を確認できる。
[具体的な計算考察例]:fを実部gと虚部vhに分解する:
f(z,w,v) = g(z,w) + v*h(z,w) = <g(z,w),g(z,w)> + <i*h(z,w),-i*h(z,w)>
= <g(z,w)+i*h(z,w), g(z,w)-i*h(z,w)>
z,wを x=<z,z'>,y=<w,w'> に移した時、
f(x,y,u) = <g(z,w),g(z',w')> + <i*h(z,w),i*h(z',w')>
= <g(z,w)+i*h(z,w), g(z',w')+i*h(z',w')>
そこで、f(z,w,i)=0 ⇔ f(z',w',-i)=0 となるようなz',w'にしておけば良い。
すなわち練習4.1の(a)で見つけた同型^σX→Xを使えば良い。
というわけでそんな環準同型はあった!
[2-3] 次に、コサイクル条件を考察する必要がある。
(練習4.1で示したようにこれを貼り合わせたR-スキームは存在しないから、
今回の例では、コサイクル条件を満たすことができないはずである。)
A3に相当するもの、Spec R[s,Z,W]/(s^2+1,f(Z,W,s)) を考える。
・共通部分U1∩U2∩U3に相当するスキームは、U123 = Spec R[u,v,s]/(u^2+1,v^2+1,s^2+1)である。
コサイクル条件は、3つの環準同型
p[1,2]: R[u,v,z,w]/(u^2+1,v^2+1,f(z,w,v)) から R[u,v,x,y]/(u^2+1,v^2+1,f(x,y,u)) への u,vを固定する環準同型
p[2,3]: R[v,s,z,w]/(v^2+1,s^2+1,f(Z,W,s)) から R[v,s,z,w]/(v^2+1,s^2+1,f(z,w,v)) への v,sを固定する環準同型
p[1,3]: R[u,s,Z,W]/(u^2+1,s^2+1,f(Z,W,s)) から R[u,s,z,w]/(u^2+1,s^2+1,f(x,y,u)) への u,sを固定する環準同型
が存在して、さらに、コサイクル条件を満たすことを要請する。
ただし位相空間のときのようにp[2,1]のtargetとp[3,2]のsourceが異なるので、
U12上の同型写像p[2,1]と、U23上の同型写像p[3,2]を、「共通部分に制限する」ことに相当する操作が必要である:
・p[1,2]を共通部分U123に制限することに相当する操作とは、上記の環準同型p[1,2]から、
R[u,v,s,z,w]/(u^2+1,v^2+1,s^2+1,f(z,w,v)) から
R[u,v,s,x,y]/(u^2+1,v^2+1,s^2+1,f(x,y,u)) への(考察上u,v,sを固定する)環準同型を誘導することに相当する。
こうして、R[u,v,s]/(u^2+1,v^2+1,s^2+1)上の環準同型として合成し、比較するのである。
具体的に観察するのに、また先と同様の環論的考察をする:
R[u,v,s]/(u^2+1,v^2+1,s^2+1)
={<a'+b'i,c'+d'i>| a',b',c',d'∈R[s]/(s^2+1)}
={<<a+bi,A+Bi,c+di,C+Di>> | a,b,c,d,A,B,C,D∈R} と表記する;
a'+b'iを、sの多項式として(s-i)で割った余りがa+bi、(s-i)で割った余りがA+Biとなる規則で対応させる。
つまり<i,0>は<<i,i,0,0>>に<s,0>は<<i,-i,0,0>>という具合に対応する。
R[u,v,s]の元からの対応としては、
uは<<i,i,i,i>>
vは<<i,i,-i,-i>>
sは<<i,-i,i,-i>>
に対応することになる。
この環の上で、例えば
p[1,2]は(z,w) を x=<<z,z,-1/z,-1/z>>, y=<<w,w,iw/z^3,iw/z^3>> に送り、
p[2,3]は(Z,W) を z=<<Z,-1/Z,-1/Z,Z>>, w=<<W,iW/Z^3,iW/Z^3,W>> に送り、
p[1,3]は(Z,W) を x=<<Z,-1/Z,Z,-1/Z>>, y=<<W,iW/X^3,W,iW/X^3>> に送る環準同型を考える。
[上2つの合成の計算例](第2成分のみ書く)
(結果的に、第k成分に現れるwには、wの第k成分を代入すれば良い。)
y = <<w,w,iw/z^3,iw/z^3>>
= <<1,1,i,i>> * <<w,w,w,w>> / <<1,1,z^3,z^3>>
= <<1,1,i,i>> * <<W,iW/Z^3,iW/Z^3,W> / <<1,1,(-1/Z)^3,Z^3>>
= <<W,iW/Z^3,W,iW/Z^3>>
となって確かにp[1,3]の結果と一致する。
ところが、今回の題材では、R上のスキームを得られないから、
コサイクル条件が満たされないはずである。
何が違うのか、なかなか分からなかった。
問題は、このp[2,3]は
「R[v,s,z,w]/(v^2+1,s^2+1,f(z,w,v)) から R[v,s,z,w]/(v^2+1,s^2+1,f(Z,W,s)) への v,sを固定する環準同型」
に由来するものではあり得ないことである。なぜなら
vは<<i,i,-i,-i>>
sは<<i,-i,i,-i>>
に対応することから、上記の環準同型に由来するものだけでは、第2成分と第3成分のiがどうしても異符号になるからである。
(平易な言葉では、環準同型の式の係数にuが登場してはいけないのである。)
これは古典的な位相空間の視点では「このU123上の準同型は、U23上に拡張できない」、
つまり「U23上の準同型から誘導できるU123上の準同型ではない」という状況である
他の符号を変えてこれを解決しようとしても、ちょうどうまく解決できないことが観察される。
数式的には、例えば
p[1,2]: x = z(1-uv)/2 + (-1/z)(1+uv)/2, y=w(1-uv)/2 + (uw/z^3)*(1+uv)/2
p[2,3]: z = Z(1-vs)/2 + (-1/Z)(1+vs)/2, w=W(1-vs)/2 + (uW/Z^3)*(1+vs)/2
p[1,3]: x = Z(1-us)/2 + (-1/Z)(1+us)/2, y=W(1-us)/2 + (uW/Z^3)*(1+us)/2
とすれば合成は一致するが、p[2,3]にuが登場してしまうのが問題という事情である。
p[2,3]をU23に由来するものにするには、例えば
p[2,3]: z = Z(1-vs)/2 + (-1/Z)(1+vs)/2, w=W(1-vs)/2 + (vW/Z^3)*(1+vs)/2
などと修正すれば良いが、そうすると今度は合成の結果が合わなくなってしまう事情である。
・参考に、貼り合わせがうまくいく例を観察した。
X:y^2 = ix+ix^3
σX:y^2 = -ix-ix^3
φ:σX→Xは、(x,y)を(x,iy)に送るものとする。
(貼り合わせ写像にiが登場するような例にした。)
先と違って、φとσφの合成は恒等写像になっていることを確認できる。
(先はφとφの合成が恒等写像になる状況だったのである。)
なので、この場合は
p[1,2]は(z,w) を x=<z,z,-1/z,-1/z>, y=<w,w,iw,iw> に送り、
p[2,3]は(Z,W) を z=<Z,-1/Z,-1/Z,Z>, W=<W,iW,-iW,W> に送り、
p[1,3]は(Z,W) を x=<Z,-1/Z,Z,-1/Z>, y=<W,iW,W,iW> に送るとすれば、
上2つの合成はp[1,3]に一致し、符号の様子も問題ない。
「符号の様子も問題ない」の意味を具体的に再掲する。
uは<<i,i,i,i>>
vは<<i,i,-i,-i>>
sは<<i,-i,i,-i>> という対応であった。
・p[1,2]はu,vで生成できる写像である必要がある:
第1成分=第2成分、第3成分=第4成分
・p[2,3]はv,sで生成できる写像である必要がある:
第1成分と第4成分が共役、第2成分と第3成分が共役
・p[1,3]はu,sで生成できる写像である必要がある:
第1成分=第3成分、第2成分=第4成分
・一般化に向けて・・
一般的な場合を記述するには力不足だった。
次数が大きい例を1つ挙げて記述を試みた。
書きながらなんとなく雰囲気が分かったけど、読むには向かないと思う・・。
Q[u,v]/(u^4+u^3+u^2+u+1,v^4+v^3+v^2+v+1)
= Q[u,v]/(u^4+u^3+u^2+u+1,(v-u)(v-u^2)(v-u^3)(v-u^4))
= L×L×L×L
uは<ζ,ζ,ζ,ζ>, vは<ζ,ζ^2,ζ^3,ζ^4>に対応するような記述ができる。
次に、3つの開集合の共通部分に相当するものを考えると
Q[u,v,s]/(...) = L^16 で
uは<<ζ,ζ,ζ,ζ,ζ,ζ,ζ,ζ,ζ,ζ,ζ,ζ,ζ,ζ,ζ,ζ>>
vは<<ζ,ζ,ζ,ζ,ζ^2,ζ^2,ζ^2,ζ^2,ζ^3,ζ^3,ζ^3,ζ^3,ζ^4,ζ^4,ζ^4,ζ^4>>
sは<<ζ,ζ^2,ζ^3,ζ^4,ζ,ζ^2,ζ^3,ζ^4,ζ,ζ^2,ζ^3,ζ^4,ζ,ζ^2,ζ^3,ζ^4>>
という感じに対応する。
vの中身がσζ, sの中身がτζな成分を、{σ,τ}成分、
vの中身がσζ, sの中身がστζな成分を、{{σ,τ}}成分と呼ぶことにする。
uとvで生成される射p[1,2]では「{{σ,τ}}の成分はσのみに依存する」
uとsで生成される射p[1,3]では「{{σ,τ}}の成分はστのみに依存する」
という条件がつく。vとsで生成される写像について観察するために、
uは<<ζ,ζ,ζ,ζ,ζ,ζ,ζ,ζ,ζ,ζ,ζ,ζ,ζ,ζ,ζ,ζ>>
vは<<ζ,ζ,ζ,ζ,ζ^2,ζ^2,ζ^2,ζ^2,ζ^3,ζ^3,ζ^3,ζ^3,ζ^4,ζ^4,ζ^4,ζ^4>>
sは<<ζ,ζ^2,ζ^3,ζ^4; ζ^2,ζ^4,ζ,ζ^3; ζ^3,ζ^1,ζ^4,ζ^2; ζ^4,ζ^3,ζ^2,ζ>>
と成分を並べ替えておく。
そうするとvの各成分をsに送る同型写像は、こう並べ替えた後では
1,5,9,13番目成分は恒等写像
2,6,10,14番目成分はζ→ζ^2
3,7,11,15番目成分はζ→ζ^3
4,8,12,16番目成分はζ→ζ^4
という関係になる。(このときの4で割ったあまりが{{σ,τ}}成分と呼ぶときのτに相当する。)
そうすると、vとsで生成される射p[2,3]では
「{{σ,τ}}成分は、{{1,τ}}成分にσを作用させたものである」という条件を満たす必要があることが観察できる。
つまり、{{1,τ}}の形をした成分だけ定めれば、{{σ,τ}}成分は、それにσを作用させたものである。
(これが、先の例で、第2成分と第3成分がどうしても異符号になるという内容に相当する。)
射p[1,2]に相当する環準同型 の{{σ,τ}}成分を、a[σ,τ]とおく。
射p[2,3]に相当する環準同型 の{{σ,τ}}成分を、b[σ,τ]とおく。
射p[1,3]に相当する環準同型 の{{σ,τ}}成分を、c[σ,τ]とおく。
そうすると、c[σ,τ] = a[σ,τ]・b[σ,τ] が要求される。
先までに確認した条件より、c[στ,1] = a[σ,1]・σ(b[1,τ]) と書ける。
従ってコサイクル条件a'[στ] = a'[σ]・σ(a'[τ]) を満たすa'[σ]:^σX→Xが与えられれば、
c[σ,τ]=a[στ], a[σ,τ]=a'[σ], b[σ,τ]=σ(a'[τ])
とおけば、条件を満たす。
(このような形に限られることの議論は力不足でできなかった。)
[3] 貼り合わせた結果が同型を除いて何種類あるか?
先の例の場合:
^σX:y^2 = -ix-ix^3
X:y^2 = ix+ix^3
コサイクル条件を満たす a[σ]は4種類挙げられる。
・a1[σ]は、(x,y)を(x,iy)に送る。
・a2[σ]は、(x,y)を(-x,-y)に送る。
・a3[σ]は、(x,y)を(x,-iy)に送る。
・a4[σ]は、(x,y)を(-x,y)に送る。
コサイクル条件を再掲しておく:
「それぞれのσ∈Gに対して、a[σ]∈(^σXからXへのC-準同型)が定まっていて、
任意のσ,τ∈Gに対して、a[στ] = a[σ]・σ(a[τ]) の関係が成り立つ」
このうち、a1とa3、a2とa4が冒頭に紹介したような意味で「同等」である:
自己同型b:X→Xがあって、
a3[σ] = b^-1・a1[σ]・σ(b)
a4[σ] = b^-1・a2[σ]・σ(b)
ここでbとして、(x,y)を(-x,iy)に送る自己同型写像を採用すれば良い。
実際にb^-1・a1[σ]・σ(b)を計算すると(σ(b); a1[σ]; b^-1; の順番で作用させる)
(x,y) → (-x,-iy) → (-x,i(-iy)) → (-(-x),(i(-iy))/i) = (x,-iy)
となって確かに a3[σ] と一致しているという具合である。
そこで、Xを貼り合わせたR上のスキームも実は2種類あって、
y^2 = x+x^3
y^2 = x-x^3
の2種類である。この2つはR上では同型ではないが、C上では同型となる。
(この状況が「ツイスト」と呼ばれる)
(C上の同型は、(x,y)を (ix, (1/√2+i/√2)y) に送るような同型である)
・2種類のうち片方を採用すれば、最初からXをR係数にとって考察することができる。
^σX:y^2 = x+x^3
X:y^2 = x+x^3
そうすると、
a[σ]∈(^σXからXへのC-準同型) の代わりに
a[σ]∈Aut(X) (Xの自己準同型) と書くことができる。
この例では、Aut(X)は、上記のbで生成される位数4の巡回群であり、σ∈Gは、bをb^-1に移す。
bが生成元のとき、b^-1・σ(b)はb^2になるから、b^2≡1 (mod コバウンダリ) という状況である。
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・他の例
X: y^2 = x+x^3+x^4 の場合
Aut(X)はb:(x,y)→(x,-y)で生成される位数2の元。
b^-1・σ(b)は単位元だから、コバウンダリは単位元のみである。よってコホモロジーは2種類ある。
対応して、Xのツイストも自身を含めて2種類ある。
それは、y^2 = -(x+x^3+x^4) である。
[先の例では、y^2=-(x+x^3)は、ツイストに挙げられなかった。
それは、右辺が奇関数だからy^2=x+x^3とR上同型になっているからである。]
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・X: xy=1 の場合
Xの自己同型群は豊富である。
0≠c∈Cによって、(x,y)を(cx,y/c)に送るもの、(x,y)を(c/x,1/y/c)に送るものがある。
コサイクル条件 a[1] = a[σ]・σ(a[σ]) を満たすには、|c|=1 に由来するものに限られる。
(x,y)を(cx,y/c)に送るものはすべてコバウンダリで、(x,y)を(c/x,1/y/c)に送るものは別のコホモロジー類となる。
対応して、Xのツイストは2つある:
双曲線と(楕)円 だと思う。
xy=1
x^2+y^2=1
双曲線と楕円はR上では同型でないが、C上では同型になるのだ。
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・X: y=x の場合
Aut(X)は、c,d∈C, c≠0によって (x,y)を(cx+d,cy+d)に移すような自己同型のなす群である。
0→C*→Aut(X)→C→0 の完全列があり、
(前半はc を cxに, 後半は cx+d を d に移す)
H^1(G,C*) も H^1(G,C)も自明群であるから(ヒルベルトの定理90)、
H^1(G,Aut(X))も自明群であることが分かる。
[4] 加群の貼り合わせ
体上の加群とは、単にベクトル空間である。
L上のベクトル空間L^nは、すべてK^nとLのテンソル積で表せる。
L^nの自己同型群Aut(L^n)は、L係数の可逆行列GL^n(L)である。
特に、n=1のとき、可逆元、特に体上であれば非零元L*である。
L^nのL/K-ツイストと、H^1(G,Aut(L^n)) が対応するのであった。
L^nのL/K-ツイストとは、K^nとは同型でないK-加群Aであって、L上に移すと同型になる:
具体的にはL×AとL^nが同型になるようなもののことである。
しかしそんなものはない。L×AがL^nと同型になるK-加群Aは生成元がn個でなければならず、
生成元がn個のK-加群はすべてK^nに同型である。
ということは、H^1(G,Aut(L^n))は自明群であることになるが、
これが、ヒルベルトの定理90の主張である。
23:01 2020/04/18
[5] 追記:ベクトル束との類似
[追記]
貼り合わせの種類になぜH^1(G,Aut(B))が関係するか、示唆的な視点があった。
例えば円周S^1上で、1次元のベクトル束=直線束を貼り合わせた結果を考える。
標準的に貼り合わせた円筒S^1×Rと、1回ねじったメビウスの帯は同型ではないことが、wikipediaに紹介されている:
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%99%E3%82%AF%E3%83%88%E3%83%AB%E6%9D%9F
1回とは言わず、2回ねじれば、また別の結果となる。
この同型類は、1周したときに、直線束をどう重ねるかで決まる。
1周 = S^1の基本群の生成元
どう重ねるか = 円筒の自己同型群
の視点から、H^1(π,Aut(S^1×R))っぽいものに結び付けられる雰囲気がする。
[追記]
SpecL→SpecKの役割としえ、円周から円周への2重被覆を考えると、類似を追えるかもしれないと考えた。
U1→S を円周の2重被覆とすると U1→S←U1 のファイバー積 U12 は、
具体的に U12 = {(u,v)∈U1×U2; u^2=v^2} = {(u,v)∈U1×U2; u=±v} となる。
U1上の位相空間(B1→U1)として、円柱の側面 B1 = U1×[0,1] を考える。
貼り合わせ条件を考えると、標準的な貼り合わせと、1回ねじる貼り合わせがある気がする。
・B1は、S上の円柱A1をU1上に「制限」したものと解釈することができる。
・一方で、S上のメビウスの帯A1'をU1上に「制限」したものも、B1に同型になる。
A1とA1'はS上同型ではないが、U1上に引き戻すと同型になる「ツイスト」という状況な気がする。
2020/4/26
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