[要約] ホッホシルト・セールのスペクトル系列を使って以下の完全列を得る経験をした。
[a] $K=\mathbb{Q}(ζ),G={\rm Gal}(K/\mathbb{Q})$,$ζ$は1の原始$n$乗根とする。
完全列 $0→{\rm Hom}_{cont}(G,\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})→H^1({\rm Spec}\mathbb{Q},\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})→H^0(G,H^1({\rm Spec}K,\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}))→0$ がある。
$H^0(G,H^1({\rm Spec}K,\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}))$は、下記★を満たす$a∈K^*$がなす乗法群を${K^*}^n$で割った群と同一視できる。
$H^1({\rm Spec}\mathbb{Q},\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})$は、$\mathbb{Q}$の$n$次巡回拡大がどれだけあるかと結びつけられる。
[b] $K/\mathbb{Q}$は任意のガロア拡大,$G={\rm Gal}(K/\mathbb{Q})$とする。$μ_n|_K$は$K$が持つ1の$n$乗根の乗法群を表す。
完全列 $0→H^1(G,μ_n|_K)→\mathbb{Q}^*/{\mathbb{Q}^*}^n→H^0(G,H^1({\rm Spec}K,μ_n|_K))→H^2(G,μ_n|_K)$ がある。
$H^0(G,H^1({\rm Spec}K,\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}))$は、すべての$σ∈G$に対して$a^σ/a$が$n$乗元となる$a∈K^*$がなす乗法群を${K^*}^n$で割った群と同一視できる。
[背景]
代数体$K$が1の原始$n$乗根を持つときには、$n$次巡回拡大は、$K^*$の元の$n$乗根の添加で得られる(クンマー理論)
$n \neq 2$のときの$\mathbb{Q}$上の$n$次巡回拡大では、$\mathbb{Q}$には1の原始$n$乗根が存在しないので、そうはいかない。
($\mathbb{Q}$の場合の事実としては、クロネッカー・ウェーバーの定理により、円分体の部分体となることが分かっている。)
$\mathbb{Q}$上の$n$次巡回拡大$M/\mathbb{Q}$を、$\mathbb{Q}(ζ)$上の$n$次巡回拡大$M(ζ)/\mathbb{Q}(ζ)$($ζ$は1の原始$n$乗根)に持ち上げると、
クンマー理論によって、$M(ζ)/\mathbb{Q}(ζ)$は、$a\in\mathbb{Q}(ζ)$のn乗根を添加する拡大として記述できる。
これが、ある$n$次巡回拡大$M/\mathbb{Q}$を持ち上げたものに一致するような$a$の条件は、
$M(ζ)/\mathbb{Q}$がアーベル拡大であることによって要求され、
1の原始$n$乗根$ζ$を$ζ^j$に送る同型写像を$σ$とおいたときに、$a^σ\equiv a^j \pmod{ {K^{*}}^n }$ ・・★
と書くことができる。
*nとφ(n)が互いに素な時は、★を満たす拡大$M(ζ)/\mathbb{Q}(ζ)$と、n次巡回拡大$M/\mathbb{Q}$が1対1に対応するが、
一般には、★を満たす拡大$M(ζ)/\mathbb{Q}(ζ)$1つに対して、${\rm Hom}(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}^{*},\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})$の個数の$M/\mathbb{Q}$が対応する・・☆
*例えば$n=9$のとき、$K=\mathbb{Q}(ζ),L=K(\sqrt[9]{a})$ [$ζ$は1の原始9乗根,$a$は★を満たす$K$の元] とする。
${\rm Gal}(L/\mathbb{Q}) = \mathbb{Z}/9\mathbb{Z}^{*}×\mathbb{Z}/9\mathbb{Z}$ というアーベル群になる。
第一成分が単位元であるような位数9・指数6の部分群$N$が、中間体$K$に対応する。
位数6・指数9の部分群$H⊂G$で、$N$との交わりが単位元のみであるようなものが、目的の中間体$M/\mathbb{Q}$を与える。
そのような$H$の取り方は、$f∈{\rm Hom}(\mathbb{Z}/9\mathbb{Z}^{*},\mathbb{Z}/9\mathbb{Z})$ の取り方と、1対1に対応する:
($f$に対して、$(a,f(a))$で表される元がなす部分群が対応する。)
この場合は、$\mathbb{Z}/9\mathbb{Z}^{*}$の生成元を$+0,+3,+6∈\mathbb{Z}/9\mathbb{Z}$のどれに送るかで3通りの候補がある。
この辺りをエタールコホモロジー(実質的には単にガロア群のコホモロジー)を使って計算を試みたのがこのノートの内容である。
ホッホシルト・セールのスペクトル系列に馴染む良い経験になったのでそのあたりも詳しく書いてみようと思った。
上記以外の新しい結果を得られるわけではない。
ついでに、少し別のエタール層で同じ考察をすると、
「$n$乗元ではないが、すべての$σ∈{\rm Gal}(K/\mathbb{Q})$に対して$a/a^σ$が$n$乗元となるような$a∈K$ががどれだけあるか」
について少し非自明かもしれない考察ができたので最後に付け加えた。
▼巡回拡大について具体例と補足▼
・$n=3, K=\mathbb{Q}(ζ)=\mathbb{Q}(\sqrt{-3})$ とおく。
$K$に(条件★を満たさない)適当な $α=(1+3\sqrt{-3})/2$ の3乗根を添加すると、$K(\sqrt[3]{α})/K$は3次巡回拡大であるが、$K(\sqrt[3]{α})/\mathbb{Q}$は
ガロア拡大でない。
($\mathbb{Q}$上共役である$β=(1-3\sqrt{-3})/2$ の3乗根が$K(\sqrt[3]{α})$に居ない)
従って、$K(\sqrt[3]{a})/\mathbb{Q}$は、何らかの3次巡回拡大$M/\mathbb{Q}$を持ち上げたものとは一致しない。
別のだめな例として、a=2などとした場合は、★を少し変えた関係$a^σ\equiv a \pmod{ {K^{*}}^n }$が成り立ち、$K(\sqrt[3]{2})/\mathbb{Q}$はガロア拡大となる。
しかしこの場合にはよく題材にされるように、$K(\sqrt[3]{2})/\mathbb{Q}$はガロア群が3次対称群で、
ガロア拡大であるがアーベル拡大でない。
$K(\sqrt[3]{2})/\mathbb{Q}$は、3次拡大$\mathbb{Q}(\sqrt[3]{2})/\mathbb{Q}$を持ち上げた拡大であるが、$\mathbb{Q}(\sqrt[3]{2})/\mathbb{Q}$はガロア拡大でない。
(ガロア拡大になるには$a^σ\equiv a^x \pmod{ {K^{*}}^n }$と書ける必要があり、ガロア群を考察してアーベル群になる条件を考察すると条件$x=j$が要求され、
こうして条件★を直接的に得られる。そういう意味で上で「無駄に」と書いた。)
例えば、$a = α^2 β = (7+21\sqrt{-3})/2$ とおくと条件★を満たす。
実際$ζ$を$ζ^2$に、すなわち$\sqrt{-3}$を$-\sqrt{-3}$に送る同型を$σ$とおくと、$(a^2 b)^σ=ab^2\equiv a^3 a b^2 =(a^2 b)^2 \pmod{ {K^{*}}^3 }$ で★が成り立つ。
この場合、$K$に $a$ の3乗根を添加すると、$K(\sqrt[3]{a})/K$は3次巡回拡大でかつ、$K(\sqrt[3]{a})/\mathbb{Q}$はガロア拡大となる。
$\sqrt[3]{b} = \sqrt[3]{a}^2 / α$なので、これは$K(\sqrt[3]{a})$に居る。ガロア群を調べると位数が6の巡回群となる。
従って、その中間体となる3次巡回拡大 $M/\mathbb{Q}$が存在して、$K(\sqrt[3]{a})/K$はそれを持ち上げたものに一致する。
($n=3$単独については
別のノートの結果を言い換えると、条件★の代わりに「$a$のノルムが3乗元」とも記述できる。)
・$n=5$の場合、
類似の例の1つは、$a= -979/4 + 275\sqrt{5}/4 ± 55(3+2\sqrt{5})\sqrt{(-5-\sqrt{5})/2}$ となる。
単項イデアル$(a)$は$p_1 p_2^3 p_3^2 p_4^4$ という形に分解される(はずである)。
$p_1,p_2,p_3,p_4$は11の上にある$\mathbb{Q}(ζ)$の素イデアルで、1の原始5乗根$ζ$を$ζ^j$に送る同型によって$p_1$が$p_j$と移る。
ζをζ^2に送る同型をσとおくと、$(a^σ)=p_2 p_4^3 p_1^2 p_3^4$ であり、 $(a)^2=p_1^2 p_2^6 p_3^4 p_4^8$ と比べると、
$a^2/a^σ$ は少なくとも素イデアル分解のレベルで $(p_2 p_4)^5$ と5乗元になっていることが観察できる。
*実は上記の2つの例は、$a$はガウス和の$n$乗で、$a^2/a^σ$がヤコビ和($\mathbb{Q}(ζ)$の元)のn乗という仕組みがある。
*他のパターンとして、$a=ζ$も条件★を満たす。このときは、$n^2$次円分体の部分体を与えることになる。
*クロネッカー・ウェーバーの定理と辻褄が合うために逆算すると、
条件★を満たすような$a$は、実質的にこれらで尽くされている、すなわち$a$はガウス和の冪乗と$ζ$をいくつか掛けたものに限るはずである。
これを示せばクロネッカー・ウェーバーの定理が証明できることになるが、そんなに簡単ではなさそうだ。
以下の質問サイトの回答には、$n$を
正則素数に限った場合の議論が少し紹介されている:
https://math.stackexchange.com/questions/31485/constructive-proof-of-kronecker-weber
全く別に、$\mathbb{Q}_p$上でのクロネッカー・ウェーバーを利用する証明方針もあるようだ:
https://williamstein.org/129-05/final_papers/Nizameddin_Ordulu.pdf
https://kskedlaya.org/cft/sec_kronweb.html 1.1.10
証明にはK/\mathbb{Q}上が不分岐拡大ならばK=\mathbb{Q}という事実を本質的に利用するようだ。
[大雑把なおさらい]
$X={\rm Spec} k$, $k$は一般の体とおく。$k$の分離閉包を1つ固定して$Ω$とおく。
$X$上のエタール層を定めることは、集合Vと作用${\rm Gal}(Ω/k)→Aut(V)$を定めることと同等である。
(この層の{\rm Spec} L上の切断は、${\rm Gal}(Ω/L)$が固定する$V$の部分集合で与えられる。)
$X$上のエタールコホモロジーは、ガロア群のコホモロジーとして解釈できる。
$H^n({\rm Spec} k,F) = H^n( {\rm Gal}(Ω/k), Γ({\rm Spec} Ω, F) )$
[Milne, セクション6の議論、Remark 9.3 の次など]
・特に${\cal F}$が定数層の場合は、絶対ガロア群が${\cal F}$に自明に作用するので、群コホモロジーの一般論により、
$H^1(X,{\cal F})$は $\rm{Hom}_{cont}({\rm Gal}(Ω/k),{\cal F}({\rm Spec} Ω))$ と解釈できる。
さらに${\cal F}$が巡回群$\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$のとき、$H^1({\rm Spec}k,{\cal F})$の元のうち位数$n$の元
($\mathbb{Q}$の絶対ガロア群から$\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$への準同型という視点で、全射であるもの)
を定数倍による違いを除いた集まりは、$k$の$n$次巡回拡大と同一視できる。
▼補足▼
$H^1({\rm Spec}k,\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})$の元$ψ$をとる。$ψ$は絶対ガロア群から$\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$への準同型である。
$ψ$が全射なら、$ψ$の核は、絶対ガロア群の指数$n$の部分群をなす。ガロア対応により$n$次巡回拡大を得る。
逆に、$k$の$n$次巡回拡大$K/k$があるとき、同型${\rm Gal}(K/k)=\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$を1つ固定すると、
射影とこの同型の合成 ${\rm Gal}(Ω/k)→{\rm Gal}(K/k)=\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ が $H^1({\rm Spec}k,\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})$の位数nの元$ψ$を与える。
・クンマー理論
1の原始$n$乗根の層$μ_n$は、乗法群のエタール層$\mathbb{G}_m$から自身への$n$乗写像(切断は全射でないが層としては全射)の核である
短完全列 $0→μ_n→\mathbb{G}_m \xrightarrow{n} \mathbb{G}_m→0$ から得られる長完全列を考えて:
$0→H^0(X,μ_n)→H^0(X,\mathbb{G}_m) \xrightarrow{n} H^0(X,\mathbb{G}_m)→H^1(X,μ_n)→H^1(X,\mathbb{G}_m)→..$
ここで$H^0(X,\mathbb{G}_m)=k^{*}$と、$H^1(X,\mathbb{G}_m)=0$であること[ヒルベルトの定理90]から、
$H^1(X,μ_n)$を、$coker(k^{*} \xrightarrow{n} k^{*})=k^{*}/{k^{*}}^n$ と同一視できる。
具体的には、$a∈k^{*}/{k^{*}}^n$に対して、対応する$ψ∈H^1({\rm Spec}k,μ_n)=H^1({\rm Gal}(Ω/k),μ_n)={\rm Hom}_{cont}({\rm Gal}(Ω/k),μ_n)$は、
$g∈{\rm Gal}(Ω/k)$を、$(\sqrt[n]{a})^g = z \sqrt[n]{a}$ を満たす $z∈μ_n$ に送るものとして記述できる。
($n$乗根の選択を変えても両辺に$ζ$が同じ回数掛かるだけなので、$z$は$a$の$n$乗根の選択に依存しない。)
体$k$が1の原始$n$乗根を持つときは、${\rm Gal}(Ω/k)$は$μ_n$にも自明に作用するので、
エタール層$μ_n$は、エタール層$\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$と同型である。
これらのことをまとめると、通常のクンマー理論の主張を得ることができる:
$n$次巡回拡大は $H^1(X,\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})$ の位数$n$の元に対応し、
体$k$が1の原始$n$乗根を持つときはその群は$H^1(X,\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}) = k^{*}/{k^{*}}^n$と同一視できて、
具体的に $a∈k^{*}/{k^{*}}^n$ の$n$乗根を添加する拡大が対応する。
体$k$が1の原始$n$乗根を持たないときに、$k$に1の原始$n$乗根を添加した体$K$を使って、$Y={\rm Spec}K$ を考える。
そうすると、被覆$Y → X$があって、$Y$のコホモロジー$H^1(Y,\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})$が分かっていて、
それを利用して$X$のコホモロジー$H^1(X,\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})$を記述したいという幾何的な解釈ができた。
[道具]
上記のように幾何的な解釈をした課題を解決する道具をいろいろ調べると、
ホッホシルト・セールのスペクトル系列 [Milne,定理14.9] が有効そうだった:
$Y→X$を$G$をガロア群に持つガロア被覆とする。
$X$上のエタール層に対して、次のスペクトル系列がある:
$H^r(G,H^s(Y,{\cal F}|_Y)) \Rightarrow H^{r+s}(X,{\cal F})$
(左辺の外側の$H$は群コホモロジー、他はエタールコホモロジー)
▼補足▼
実はこういうスペクトル系列を初めて具体的に利用する経験をした。その際に、上記の記述の仕方が、
「ある2重複体$E_0$で、その$E_2$ページの(r,s)成分が$\Rightarrow$の左辺になるようなものがあって、
しかも、その$E_\infty$が$\Rightarrow$の右辺に収束する」という意味であることを認識するまで時間がかかった。
群コホモロジーを遡ると、$E_1$ページの$(r,s)$成分は、$G^{r+1}$から$H^s(Y,{\cal F})$への「コチェイン」と考えられる。
($r$方向への$d_1$は、$r=0$のコチェイン$q(g)$を、$r=1$のコチェイン$q(g,g')=q(g)-q(g')$に送るような準同型。)
それから層コホモロジーを遡ると、$E_0$ページの$(r,s)$成分は
$Y$上のエタール層${\cal F}$の単射的分解 $0→{\cal F}→{\cal I}_0→{\cal I}_1→{\cal I}_2→..$ をとって、$G^{r+1}$から${\cal I}_s(Y)$へのコチェインだと思った。
スペクトル系列は、大雑把に、縦と横の2種類のページのめくり方で「結果」が一致することを利用するのがよくある使い方で、
・先に$(r,s)=(0,+1)$方向になるようにめくると
$E_0$から$E_1$を得る操作が内側の$H^s$を作って($d_0$は$(r,s)=(0,+1)$方向)
$E_1$から$E_2$を得る操作が外側の$H^r$を作って($d_1$は$(r,s)=(+1,0)$方向)、$\Rightarrow$の左辺を与える。
(次の$E_3$を作るための$d_2$は$(r,s)=(+2,-1)$方向ということになる。)
・先に$(r,s)=(+1,0)$方向になるようにめくると、$E_1$ページは $H^r(G,{\cal I}_r(Y))$ となって、
これは$r=0$では ${\cal I}_r(X)$ を与え、$r\geq 1$では(単射的対象の性質によって)消えることにより、
$r=0$ だけが次の$E_2$ページで残って右辺の $H^{r+s}(X,{\cal F})$ を与える仕組みになっていると理解した。
特に、$H^1(X,{\cal F})$は、次の完全列を満たすことになる [Vakil,1.7.A]:
$0 → H^1(G, H^0(Y,{\cal F}|_Y)) → H^1(X,{\cal F}) → H^0(G, H^1(Y,{\cal F}|_Y)) → H^2(G, H^0(Y,{\cal F}|_Y))$
[本題への利用]
$X={\rm Spec}k, Y={\rm Spec}K, k=\mathbb{Q}, K=\mathbb{Q}(ζ)$, $ζ$は1の原始$n$乗根とおく。
$Y→X$は$G=\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}^{*}$をガロア群に持つガロア被覆である。
エタール層を${\cal F}=\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}, {\cal F}'=μ_n$とおく。
$ H^1(X,{\cal F})$ を求めたい(上述のように、これが$\mathbb{Q}$上の位数$n$の巡回拡大がどれだけあるかを記述するのであった。)
ここで、$H^0(Y,{\cal F}|_Y)$は、$\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$であり、$G$はこれに自明に作用する。問題の完全列は、以下のようになる。
$0 → H^1(G, \mathbb{Z}/n\mathbb{Z}) → H^1(X,{\cal F}) → H^0(G, H^1(Y,{\cal F}|_Y)) → H^2(G, \mathbb{Z}/n\mathbb{Z})$
・$H^1(G, \mathbb{Z}/n\mathbb{Z})$ は、群コホモロジーの一般論から、${\rm Hom}_{cont}(G,\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})$である。
・$H^2(G, \mathbb{Z}/n\mathbb{Z})$ は自明でないが、$H^0(G, H^1(Y,{\cal F}|_Y)) → H^2(G, \mathbb{Z}/n\mathbb{Z})$ がすべての元を0に送ることが分かるので、$H^1(X,{\cal F})$の計算に影響しない。
補足:これは$E_2[0,1]→E_2[2,0]$の定義を追うと示せた。
$x_2[0,1]∈E_2[0,1] = ker(E_1[0,1]→E_1[1,1])$ とおく。
明確化のため、E_1[0,1] の元としてのそれを $x_1[0,1] ∈ E_1[0,1] = ker(E_0[0,1]→E_0[0,2]) / im(E_0[0,0]→E_0[0,1])$ とおく。
代表元 $x_0[0,1] ∈ ker(E_0[0,1]→E_0[0,2])$ をとって、$E_0[1,1]$への像を$x_0[1,1]$とおく。
$x_1[0,1]→x_1[1,1]$の行先は、$x_0[1,1]$で代表され、最初の設定より$x_1[0,1]∈ker(E_1[0,1]→E_1[1,1])$ だったから、
$x_1[1,1]$は、$E_1[1,1] = ker(E_0[1,1]→E_0[1,2]) / im(E_0[1,0]→E_0[1,1])$ の零元である。
従って、$x_0[1,1]∈im(E_0[1,0]→E_0[1,1])$であり、$x_0[1,1]$に移る$x_0[1,0]∈E_0[1,0]$がとれる。
$x_0[1,0]$の$E_0[2,1]$への像が代表する$E_2[2,1]$の元が求めるものである(well-definedの確認は省略)
---
今回、$G$の作用が自明なので、$r=0$のコチェイン$q(g)$を、$r=1$のコチェイン$q(g,g')=q(g)-q(g')$に送る準同型は零射となる。
従って、上記の工程で、$E_0[1,1]$への$x_0[0,1]$の像$x_0[1,1]$を取るときに零になる。
・最後に、$H^0(G, H^1(Y,{\cal F}|_Y))$について、
エタール層${\cal F}=\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$は、$Y$上では${\cal F}'=μ_n$と同型である
この同型を通して、$Y$上ではクンマー理論のときと同様に、$0→{\cal F}→\mathbb{G}_m \xrightarrow{n} \mathbb{G}_m→0$ の完全列が成り立ち、
$H^1(Y,{\cal F}|_Y)$を、$coker(K^{*} \xrightarrow{n} K^{*})=K^{*}/{K^{*}}^n$ と同一視できる。
$a∈K^{*}/(K^{*})^n$ に対応する$ψ∈H^1(Y,{\cal F})$は、
$g∈{\rm Gal}(Ω/K)$を、$(\sqrt[n]{a})^g = ζ^c \sqrt[n]{a}$ を満たす $c∈\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ に送るものとして記述できる。
このうち、$G$により不変なものを求める必要がある。Gの作用を知る必要があり、ここがしばらく分からなかったが調べると:
https://math.stackexchange.com/questions/2031287/induced-action-of-quotient-group-on-the-subgroup-cohomology
$σ∈G$の作用は、$(σψ)(g) = σ( ψ(σ^{-1}gσ) )$ で定義されることを知った。
このノートの右作用の書き方では、$ψ^σ(g) = ψ(σgσ^{-1}) ^σ$ということになる。(今回は右辺の外側のσは自明な作用となる)
従って、$ψ^σ$は、$g∈{\rm Gal}(Ω/K)$を、$(\sqrt[n]{a})^{σgσ^{-1}} = ζ^c \sqrt[n]{a} ^ {σgσ^{-1}} $ を満たす $c∈\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ に送るものとして記述できる。
両辺にσを作用させると、$g∈{\rm Gal}(Ω/K)$を、$\sqrt[n]{a}^{σg} = {ζ^c}^σ \sqrt[n]{a}^{σg} $ を満たす $c∈\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ に送るものとして記述できる。
よって、$ψ$が$G$不変となる条件は、$σ$を$ζ$を$ζ^j$に送る同型としたときに、$a^σ≡a^j \pmod {{K^{*}}^n}$ である。
まずは少なくとも$ψ$の核が等しいことから、2つの拡大体$K(\sqrt[n]{a^σ})/K$と$K(\sqrt[n]{a})/K$が等しい必要がある。
($\sqrt[n]{a}^σ$は$n$乗すると${a}^σ$になるから、$K(\sqrt[n]{a}^σ)/K=K(\sqrt[n]{a^σ})/K$)
よって、適当な$u∈K$と$n$と互いに素な自然数$i$があって、$a^σ = u^n a^i$と書ける必要がある。
次に、$ψ$によって$g$が$\sqrt[n]{a}$を$ζ^c\sqrt[n]{a}$に移すなら、それは
$\sqrt[n]{a^σ} = u \sqrt[n]{a}^i$ を $ u(ζ^{c} \sqrt[n]{a})^i = uζ^{ic} \sqrt[n]{a}^i$ に送る。
これを$ψ^a$の作用と見比べると、$i=j$が要求される。
以上をまとめると、完全列
$0 → {\rm Hom}_{cont} (\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}^{*},\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}) → H^1(X,\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}) → H^0(G, H^1(Y,{\cal F})) → 0$ があって、
$H^0(G, H^1(Y,{\cal F}))$は条件 $a^σ\equiv a^j \pmod {{K^{*}}^n}$ を満たす$a∈K$がなす乗法群を、${K^{*}}^n$で割った剰余群と同一視できる。
この様子は、冒頭の★と☆に合致する。
ついでに、$H^0(G, H^1(Y,μ_n|_Y))$も同様に考察すると少し非自明かもしれない結果を得られた。
ここでは、$X={\rm Spec}\mathbb{Q}$とおくが、$Y={\rm Spec}K$で$K$は$\mathbb{Q}(ζ)$とは限らない$\mathbb{Q}$のガロア拡大とする。
完全列 $0 → H^1(G,μ_n|_Y) → H^1(X,μ_n|_X) → H^0(G, H^1(Y,μ_n|_Y)) → H^2(G,μ_n|_Y)$ がある。
今度は第2項がクンマー完全列によって既知である $ H^1(X,μ_n|_X) = \mathbb{Q}^{*}/{\mathbb{Q}^*}^n$
一方、次の項 $H^0(G, H^1(Y,μ_n|_Y)) $ は、$a^σ\equiv a \pmod {K^{*}}^n$を満たす$a∈K$のなす乗法群を、${K^{*}}^n$で割った剰余群と同一視できる。
これは「$a∈K$が$n$乗元ではないが、すべての$σ∈{\rm Gal}(K/\mathbb{Q})$に対して$a/a^σ$が$n$乗元となるような$a$がどれだけあるか」を表している。
$a∈\mathbb{Q}$のときは条件を満たすが、それ以外の非自明なものが存在するかもしれない。
今回の完全列から、$\mathbb{Q}$に由来しないものは、$H^2(G,μ_n|_Y)$ に単射するので高々有限個である。
(まあ、有限個に限ることは代数的整数論的な考察からも言えそうではあるけど・・)
また、$H^2(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}^{*},\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})=0$になるような状況なら存在しないことも分かる。
$n=3,Y={\rm Spec}k,K=\mathbb{Q}(ζ,\sqrt[3]{a/b}),a=(1+3\sqrt{-3})/2,b=(1-3\sqrt{-3})/2$ という例を使うと、
$\mathbb{Q}$に由来しないものが存在する状況を作れた。
$a$の$K/\mathbb{Q}$での共役は$a,b$の2つだけであり、$\sqrt[3]{a/b}∈K$だから$a≡b \pmod{ {K^*}^3 }$で、$a$は条件を満たしている。
練習としてこれが単射する$H^2(G,μ_n|_Y)$の元を具体的に記述する課題は、さっき補足した$E_2[0,1]→E_2[2,0]$の定義を追えば可能であった。
位数6の巡回群${\rm Gal}(L/\mathbb{Q})$を$G=\{+0,+1,+2,+3,+4,+5\}$と表記する。
これらは、$\sqrt[3]{a/b}$を $\sqrt[3]{a/b},\sqrt[3]{b/a},ζ\sqrt[3]{a/b},ζ\sqrt[3]{b/a},ζ^2\sqrt[3]{a/b},ζ^2\sqrt[3]{b/a}$ に送るとおける。
$x_0[0,1]$は、{+0,+2,+4}∈Gを $a$に送り、{+1,+3,+5}を $b$に送るような0コチェインとおける。
$x_0[1,1]$は、(g1,g2)=(偶数,奇数)を$a/b$に、(g1,g2)=(奇数,偶数)を$b/a$に、他を1に送るような1コチェインとおける。
$x_0[1,0]$は、(g1,g2)=(+0,奇数)を$\sqrt[3]{b/a}$に、(+0,偶数)を1に送るような1コチェインとおける。
第1成分が+0とは限らない(g1,g2)=(+s,+s+t)のときは、(+0,+t)の行先に対して、上述の+sに対応するガロア作用を加えて定義される。
記述の都合で$x_0[1,0]$を$τ$とおくと、目的の2コチェインは、$(g1,g2,g3)$を$τ(g1,g2)τ(g2,g3)/τ(g1,g3)$に送るような2コチェインである。
具体的に調べると以下のように、非自明なコチェインを与える:
(+0,+1,偶数) を 1に送る
(+0,+3,偶数) を $ζ$に送る
(+0,+5,偶数) を $ζ^2$に送る
(+0,奇数,奇数) を 1に送る
(+0,+0,奇数) を 1に送る
(+0,+2,奇数) を $ζ$に送る
(+0,+4,奇数) を $ζ^2$に送る
(+0,偶数,偶数) を 1に送る
一方、完全列の最初に居る$H^1(G,μ_n|_Y)$は、$\mathbb{Q}$では$n$乗元でないが$K$ではn乗元な元に対応するのだろう。
[ちょっとした問題]
${\rm Spec}\mathbb{Q}$上のエタール層$\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$は${\rm Spec}\mathbb{Q}(ζ)$に制限すると$μ_n$と同型で、
そこで$μ_n$に対しては、$0→μ_n→\mathbb{G}_m \xrightarrow{n} \mathbb{G}_m→0$という完全列がある。
そこで、${\rm Spec}\mathbb{Q}$上のエタール層${\cal G}$で、${\rm Spec}\mathbb{Q}(ζ)$に制限すると$\mathbb{G}_m$に同型で、
単射$\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}→{\cal G}$が存在するようなものはあるか?
▼存在しないと思う▼
Gal(Ω/Q)のΩへの作用を(通常のガロア群の元としての作用とは別に)以下の条件を満たすように定めることが要求されると思う:
(1) ζに対しては自明に作用する
(2) Q(ζ)を固定するようなg∈Gal(Ω/Q)の作用は、ガロア群の元としての作用と一致する
これは不可能である。例えば2のn乗根をαとして
ζを固定して、αをαζに送る元x:条件(1)よりこの作用はガロア群の元としての作用と一致する
αを固定して、ζをζ^2に送る元y:条件(2)よりこの作用はζを固定する必要がある
そうするとxxy=yxのζへの作用を考えると矛盾する。
FとF'が局所的に同型で、層の単射F→Gが存在するが、Gと局所的に同型な層G'でF'→G'が単射にできるようなものは存在しない、もっと単純な例:
円周X上の位相空間の層みたいな状況を考える。
円周X上の層Fとしてファイバーが4点な定数層、層Gとしてファイバーが直線な定数層、
層F'としてファイバーが4点で、円周を1周すると(1,2,3,4)が(1,2,4,3)につながるような局所定数層とする。
4点を直線上に埋め込んだときに、このように4点を入れ替える直線の自己同型は存在しないことが観察できる。
この例で円周から円周への2重被覆Y→Xを考えると、元の問題のSpecQ(ζ)→SpecQの役割をする。
(2つの層FとF'は、Yに引き戻す(「制限する」)と同型になる。)
▲▲
[Milne] https://www.jmilne.org/math/CourseNotes/lec.html ver 2.21などを参考にした。
ついでに出会った資料のメモ
・http://www.mathematik.uni-regensburg.de/loeh/teaching/topologie3_ws0910/prelim.pdf
群コホモロジーについて詳しい。後半のBounded cohomologyは踏み込めなかった。
・http://mat.msgsu.edu.tr/~aad/2012/Slides/paganin.pdf
Tateのコホモロジーに、スペクトル系列を使うと、類体論の結果を得られるらしい
2021/11/7 書き始め
2021/11/19 更新
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