ζの関数等式(1)
これは、Encyclopaedia of Mathematical Sciencesシリーズの
Number Theory II (Parshin, Shafarevich) の Chapter 1 から得たものである。
この内容は検索すると例えば
https://www.imath.kiev.ua/~mariyka/publ/functional_equation.pdf
http://www.math.nus.edu.sg/~matgwt/seville.pdf
https://math.mit.edu/~ebelmont/786-notes.pdf
などでも見られ、通称「Tateの論文」らしい。
(1) 測度、積分
(2) 加法的指標とフーリエ変換
(3) 乗法的準指標と局所ゼータ
(4) アデール・イデール
(5) イデールの指標、大域ζと関数等式
(6)〜(9):ζの関数等式(2)
(ノイキルヒの代数的整数論の7章に書いてあるMellin変換の視点と保型形式について)
2020/6/26 紹介のため少し補足を追記した。いくつか見つけた間違いを直した。
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(1) 測度、積分
加法的測度と乗法的測度があり得る。
Haar測度と言って、演算に対する不偏性によって特徴づけられる。
それぞれ、加法あるいは乗法によって、測度は不変となるように定まっている。
加法的測度:
・非アルキメデス的付値=p進数Qpの場合
μ(Zp) = 1 [Zp:p進整数] と規格化する。
μ(1+pZp) = 1/p
μ(a+(p^k)Zp)=1/p^k (kは整数)
これは、すぐ後で書いたようにp進距離と関係する。上の3つの例はそれぞれ、
0から距離1以内の集合、
1から距離1/p以内の集合、
aから距離1/p^k以内の集合、というわけである。
(一般的な距離空間にこのような方法で測度を定めることができるわけではないと思う。
よくわからないので踏み込まない。)
・より一般な代数体を有限素点での局所体の場合
規格化には、スカラー倍の自由度がある。
次に登場するフーリエ変換の双対性を満たすように設定する習慣である。
(https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q14198005174)
その結果、μ(Zp)は、Qに対する代数拡大の判別式のp成分の絶対値の-1/2乗となるらしい。
(具体例:Q_3(√3)の測度をこれに沿って規格化した場合、μ(Zp)=1/√3)
・Rの場合は、通常のルベーグ測度dx μ([a,b]) = b-a で良くて、
・Cの場合は通常のルベーグ測度dxdy(z=x+yi)の2倍と設定することになるらしい。
加法的測度は、距離関数と関係する:
μ(xA) = |x|μ(A) の関係が満たされることが期待される。
ここで|x|は
Rでは:通常の絶対値
Qpでは正規化付値v(x)とよばれるものに相当する。
(付値には定数冪の自由度があるが、上記の関係を満たすようなものを選べるという状況である。)
|p|は剰余類の個数(=ノルムN(p))の逆数に一致するように正規化している。
というのは、1 = μ(Zp) = ∪μ(a + pZp) [aは剰余類を渡る] だから、
測度の性質より、μ(pZp) = 1/N(p)が要求される。これを満たすような正規化である。
従って例えばQp(√3)では、|√3| = 1/3と定めることになる。
有理数体での素数pでの局所体Q_pでは、|p^k|=1/p^kである。
代数拡大、例えばQ(√-3)の場合では、
分解した有限素点(4+√3)では、|4+√3|=1/13
惰性する有限素点(7)では、|7|=1/7^2
これらでの測度はμ(Zp)=1
分岐する有限素点(√-3)では、|√-3|=1/3
この測度はμ(Zp)=1/√3, μ(Zp/√3)=√3 である。
[追記:具体例] p=5の場合:加法で移りあう集合
{0,5,10,..}
{1,6,11,..}
{2,7,12,..}
{3,8,13,..}
{4,9,14,..}
がそれぞれ測度1/5を持ち、Zpを被覆する。
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乗法的測度:μ*(・), dx*と表記する。形式的にdx* = dx/|x| のスカラー倍と書ける。
この定数倍は、有限素点では N(p)/(N(p)-1) に設定すると都合が良いようである。
この設定は、μ(Zp)=μ*(Zp*)という性質を持つためである。
・アルキメデス的付値=R*の場合
μ*([1,2]) = log2 という具合
位相はR>0とR<0の2つの連結成分に分かれている。
・Cの場合
(dz* = dz/|z| 的なものと思われる)
・非アルキメデス的付値=p進数Qp*の場合
μ*(Zp*) (= μ*(Zp-pZp)) の測度 = 1 [単数]
μ*(1+pZp) = 1/(p-1) [主単数]
同様に μ*(1+p^2Zp) も 1/(p-1) である(乗法による不変性)
同様に μ*(p+p^2Zp) も 1/(p-1) である(乗法による不変性)
Zp全体はコンパクトでない(測度無限大)
[追記:具体例] p=5の場合:乗法で移りあう集合
{1,6,11,..}
{2,7,12,..}
{3,8,13,..}
{4,9,14,..}
がそれぞれ測度1/4を持ち、これらが単数Zp*を被覆する。
5倍した結果を考えると(乗法で移るので測度が同じ)
{25で割って5余るもの} などは測度1/4を持ち、
{5でちょうど1回割り切れるもの} は測度1を持つ。
同様に、5でちょうどn回割り切れるものも測度1を持ち、
その結果5でn回以上割り切れるもの全体は測度無限大になってしまう。
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(2) 加法的指標とフーリエ変換
加法的指標は指数関数、例えばexp(2πix)のような形となる。
これを1つ固定してφ(x)と名付けている。
(φが加法的指標であるとは、φ(x+y)=φ(x)φ(y)を満たすことを言っている)
Rの場合 φ(x) = exp(2πi{x}), p進数の場合 exp(-2πi{x})を使うと都合が良い。
{x}はxの実数的あるいはp進的小数部分(全射 Qp→Qp/Zpの像)
例えばx=1/6の場合
p=2:x=1/2+1+4+16+64+... (小数部分{x}=1/2)
p=3:x=2/3+1+3+9+... (小数部分{x}=2/3)
他の有限素点では小数部分0 である。
Q_pの代数拡大の場合はxの所が、xの代わりにxのトレースTr(x)になる。(踏み込まない。)
関数fのフーリエ変換は f~(y) = ∫f(x)φ(xy)dx で定義される。
Qpの場合いくつか具体例を計算してみると:
[1] f(x)= Zpで1な関数(他で0、以下同様) なら f~(y) = f(y)
[2] f(x)= pZpで1な関数 なら f~(y) = Zp/pで1/pな関数
[3] f(x)= Zp*で1な関数 なら f~(y)は Zpで (1-1/p)で、(Zp/p-Zp)で(-1/p)な関数
(ここで(Zp/p-Zp)は差集合の意味で、Zp*/pとも書くことができる集合である。)
[4] f(x)= (1+pZp)で1な関数 なら f~(y)は y=(k+pZp)/p のとき exp(-2πiy)*1/p [k=0,1,..,p-1] な関数
*f~~(-x)=f(x)の性質が成り立つ。
(証明は一般の連続関数は (a+p^r*Zp)で1をとる関数の足し合わせで書けることを使って示す)
[1]から[3]ではf(x)=f(-x)である。
[4]では f~~(x)=f(-x) は (-1+pZp)で1な関数 である。
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(3) 乗法的準指標と局所ゼータ
(*ユニタリ指標を指標と呼び、ユニタリとは限らない指標を準指標と呼ぶ流儀を使っている)
(3-1) Qpの場合
乗法的準指標とは、Qpの乗法群Qp*からC*への準同型である。
局所ゼータは、良い関数fと準指標χに対して、ζ(f,χ) = ∫f(y)χ(y)dy* と定義される。
(追記:「良い」関数の定義は踏み込まない。積分が収束する条件に相当すると認識している。)
この積分では(フーリエ変換と違って)乗法的測度を使うことに注意する。dy* = N(p)/(N(p)-1) dy/|y|
準指標χは、単数部分と、指数部分に分かれる。
言い換えると、単数からC*への準同型χ'(ユニタリ指標)と、pを何に移すか、の2つに分けて描写できる。
・例えばχ1(y) = |y|^s [単数を自明にする例(不分岐と言う)]
・単数を自明にしない指標(分岐と言う)の例は
例えばp=5に対して、2^k+pZをi^kに送るようなものである:
χ'(2)=i, χ'(4)=-1, χ'(3)=-i, χ'(1)=1
・単数にχ'で作用し、pを|p|^sに移すような準指標を χ'|・|^s と略記する。
例えば上記のχ'による例 χ2 = χ'|・|^s は以下のような準指標である:
χ2(2)=i, χ2(5)=5^-s, χ2(10)=i*5^-s, χ2(75) = -i*5^-2s など
*局所ゼータの性質
χ = χ'|・|^s に対して、指標部分を逆数(=共役)にして指数をsから1-sに変えたものをχ~と名付ける。
すなわち χ~ = (χ')^-1|・|^(1-s) であり、
例えばχ2~の場合は χ2~(2)=-i, χ2~(5)=5^(-(1-s))=5^s/5, χ2~(75)=i*5^(2s)/25 という具合である。
この関係は、χ(y)χ~(y) = |y| とも書ける
ここで【比 ζ(f,χ)/ζ(f~,χ~) は(χのみに依存し)fに依らない】という性質が成り立つ。
(ともに0でなければ)
確認:
ζ(f,χ)*ζ(g~,χ~) = ζ(g,χ)*ζ(f~,χ~) を示せば良い。
左辺 = (∫f(y)χ(y)dy*) (∫[∫g(x)exp(2πixz)dx]χ~(z)dz*)
=∫∫∫f(y)χ(y) g(x)exp(2πixz)χ~(z) dxdy*dz*
=∫∫∫f(y)g(x)exp(2πiw)*χ(y)*χ~(w)/χ~(x) dxdy*dw* [z=w/x,w=zxと置換]
=∫∫∫f(y)g(x)exp(2πiyu)*χ(y)χ~(y)χ~(u)/χ~(x) dxdy*du* [w=yu,u=w/yと置換]
=∫∫∫f(y)exp(2πiyu)χ~(u) g(x)χ(x) dx*dydu* [χ(y)χ(y)~=|y|, |y|dx(dy*)=|x|(dx*)dy 等]
=(∫[∫f(y)exp(2πiyu)dy]χ~(u)du*) ∫(g(x)χ(x) dx*
= 右辺
Qpでの具体例(前のセクションで扱った具体例)
[1] f(x)= Zpで1な関数 なら f~(y) = f(y)
ζ(f,χ1) = ∫[Zp]|x|^s dx* = ∫[Zp*]1+∫[pZp*]p^-s+...) = 1+p^-s+p^-2s+... = 1/(1-p^-s) [s≧1で収束]
[3] f(x)= Zp*で1な関数 なら f~(y)は Zpで (1-1/p)、Zp*/pで(-1/p)な関数であった
ζ(f,χ1) = 1
ζ(f~,χ1) = (1-1/p)*(1+p^-s+p^-2s+..) + (-1/p)*p^s = ... = (1-p^(s-1))/(1-p^-s)
[4] f(x)= 1+pZpで1な関数 なら f~(y)は:
y=(k+pZp)/p のとき exp(-2πiy)*1/p [k=0..p-1] な関数であった。
ζ(f,χ1) = 1/(p-1)
ζ(f~,χ1) = p^s/(p-1)*Σexp(-2πiy)*1/p [k=1..p-1] + (1+p^-s+p^-2s+...)
= -p^s/(p-1) + 1/(1-p^-s)
= (1-p^(s-1))/(p-1)(1-p^-s)
ζ(f,χ2) = 1/(p-1)
ζ(f~,χ2) = p^s/(p-1)*G(χ')*1/p = p^(s-1)*G(χ')/(p-1)
ここで G(χ') = Σχ'(k)*exp(-2πik/p) [k=1..p-1] はいわゆるガウス和が登場している。
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先に挙げたχ1,χ2について、どのfに対しても、
比 ζ(f,χ1)/ζ(f~,χ1~) = (1-p^(s-1))/(1-p^-s)
比 ζ(f,χ2)/ζ(f~,χ2~) = 1/p^-s * 1/G(χ'^-1)
が成り立つ。
ところで ζ(f~,χ2)/ζ(f~~,χ2~) = p^(s-1)*G(χ')/χ'(-1) と比べることで
ガウス和について G(χ')G(χ'^-1) = pχ'(-1) の関係式が言える。
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(3-2) Rの場合
定義は同様である。Rのフーリエ変換の例は例えば
zakii.la.coocan.jp/fourie/12_miscellaneous.htm を参考に(係数の違いに注意)
Rの指標は、2つある:χ1(x)=1 (自明な指標) と χ2(x)=sign(x) (符号関数) である。
χ2で非零な局所ζを得るにはfは偶関数でないものを使う必要がある。
局所ζ関数の計算には乗法的測度 dx* = dx/|x| を使うことに改めて注意。
・χ1に対する、ζ(f,χ)/ζ(f~,χ~) の計算
f(x) = exp(-πx^2) を使う。f~(x) = f(x) である。
ζ(f,χ1) = 2∫[0..inf] x^s*exp(-πx^2)dx*
= 2∫x^(s-2)* exp(-t) dt / 2π [t=πx^2, x=(t/π)^1/2]
= π^(-s/2)*Γ(s/2)
ζ(f,χ1~) = π^(-(1-s)/2)*Γ((1-s)/2)
比はζ(f,χ1)/ζ(f~,χ1~) = π^(1/2-s) * Γ(s/2) / Γ((1-s)/2)
= 2*Γ(s)*cos(πs/2) / (2π)^s などと変形できる。
変形は以下のΓ関数の性質による:
Γ(s) = 2^(s-1)Γ(s/2)Γ(s/2+1/2)/√π
Γ(1/2+x)Γ(1/2-x) = π/cos(πx)
・χ2に対する、ζ(f,χ)/ζ(f~,χ~) の計算
f(x) = xexp(-πx^2) を使う。f~(x) = if(x) らしい。
ζ(f,χ2) = 2∫[0..inf] x^(s+1)*exp(-πx^2)dx*
= π^(-(s+1)/2)*Γ((s+1)/2)
比はζ(f,χ2)/ζ(f~,χ2~) = π^(1/2-(1+s)) * Γ((s+1)/2) / Γ((1-(s+1))/2) / i
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ところで応用として f(x) = 2/(x^2+1), f~(x) = 2π*exp(-2π|x|) を利用すると
ζ(f,χ1) = 4∫[0..inf] x^s/(x^2+1)dx ・・★ を求める1つの手段を得る。
すなわち
ζ(f~,χ1~) = 2∫[0..inf] x^(1-s)*2π*exp(-2πx)dx/x
= ∫(t/2π)^(-s) * exp(-t) dt
= Γ(1-s)/(2π)^(-s)
および上記で求めた比ζ(f,χ1)/ζ(f~,χ1~) = 2*Γ(s)*cos(πs/2) / (2π)^s
などを使うことで、★ = π/sin(πs/2) を得ることができる。
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(3-3) Cの場合
自明な指標の結果だけ後で使う(導出は追えていない)
f(z)=exp(-2π|z|) とおくと f~(z)=f(z)であり
ζ(f,|・|^s) = (2π)^(1-s)Γ(s) となる。
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(4) アデール・イデール
ここでは少し一般に代数体Kで考える。アデールをA、イデールをIと書く。
A、Iには直積によって位相、測度、指標を定義することができる。
また、部分群としての対角的な埋め込みK→A、K*→I がある。
・Kの像は、Aで離散的であり、商集合A/Kはコンパクトである
・K*の像は、Iで離散的であるが、商集合I/K*はコンパクトでない
・Iのうち、ノルム(付値の積)1の部分群I'を考えると、
I'にもIから位相、測度、指標が誘導される。
K*の像は、I'に含まれ、商集合I'/K*はコンパクトとなる。
この後半の状況は次のようにイメージすると良い:
(追記:Iをxyz空間、K*の像を2次元格子、ノルム1の部分群をxy平面とイメージしている)
平面z=0での2次元格子{(x,y,0)}はxyz空間の加法部分群として離散的であるが、
商集合はz方向に延びる正四角柱のようなイメージであり、コンパクトでない
平面z=0に制限すれば、商集合は正方形で、コンパクトになる。
商集合は、基本領域として捉えることができる;
基本領域:S={(x,y,z)|0≦x,y<1} あるいは S={(x,y)|0≦x,y<1}
元の集合は、格子点と、基本領域の点を1つずつ選んだ組に対応する。
ここで商集合がコンパクトである状況は、基本領域が有限な測度を持つことに相当する。
次元が有限なら、「元の集合と格子点が、同じ次元を持つ」とイメージすることができると思う。
・A/Kの基本領域は、[0,1)×ΠZp のように書ける。測度は判別式の-1/2乗であった。
Aの元が与えられたとき、
Qp成分の指数が負の部分(アデールの定義より有限個)に対応する「小数部分」が、
対応する格子点である。
(https://www.math.uh.edu/~haynes/files/topgps6.pdf を参考にした。)
・I'/K*の基本領域はより複雑である。
これは類数が1なら、 [単数領域]×ΠZp* のように書ける。(単数領域は後で描写する。)
ΠZp*の部分の測度は判別式の-1/2乗であった。
例えば有理数体Qの場合の標準的全射 I→I/K* は、
x∈I のp成分を u[p]*p^e[p] (u[p]∈Zp*)とおくと
有限個のpを除いて指数e[p]=0 だから a=sign(xのR成分)*Πp^(e[p]) とおいて
π:x→x/aをとれば、x/a∈(R+)×ΠZp* というふうに構成できる。
IをI'に制限したものがI'→I'/K*の標準的全射で、(R+)の部分が自明となる。
(素イデアルが単項イデアルでない場合は、同様の構成はできないことに注意。)
より一般の代数体では、単数倍の自由度が発生する。
つまりIの元としての単数倍の違いが、I/K*に送った時に同一の行き先になっている必要がある。
それを一意に決めるための単数領域として、
例えば、Q(√3)の場合は、区間[1,2+√3)をとることができる。(regulatorという用語がある)
Q(√-1)の場合は、複素平面の単位円のうち偏角が[0,π/2)となるような範囲となる。
ディリクレの単数定理の主張は、単数領域がコンパクトであることを本質的に意味する。
例えばQ(√3)では実な無限素点が2つあり、R*×R*という空間をなしていて、
埋め込み K*→R*×R*は、(a+b√3)→(a+b√3,a-b√3) という埋め込みである。
単数の像自体は、R*×R*の部分群として離散的であるが商集合はコンパクトでない
直線 {(u,v)∈R*×R*|uv=1} に制限すれば、商集合はコンパクトである、という状況である。
(上記のxyz空間から平面z=0に制限した時のような状況に相当する。)
類数が1でない場合、例えばQ(√-5)のような場合は、
x∈Iに対応する素イデアル分解の結果が、単項イデアル類の時に限り、
x=yu(yはK*を対角的に埋め込んだ像、uは有限素点成分がすべて単数)と書ける。
そこで、イデアル類ごとに、基本領域を設定してやれば良い。
別のイデアル類の代表元p=(1+√-5,2)に相当するIの元(p成分のみ1+√5,他は単数)をtとおけば
x∈Iは x=yu, x=tyu (y,uは上記)のどちらかの形で書けることになる。
さらにuのC成分を単数領域(偏角∈[0,π))に制限すれば、uの選び方は一意的で、
基本領域は E = {(R+)×[単数領域]×ΠZp*}∪ {t*((R+)×[単数領域]×ΠZp*)} と書けて、
x→u または x→tu が標準的全射I/K*→E を与えるという様子である。
以上の事情をまとめると、この基本領域の測度は
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%A1%9E%E6%95%B0%E5%85%AC%E5%BC%8F
に書いてある式 2^r1・(2π)^r2・h・Reg / w / √D となる。
大雑把な説明をすると、
無限素点Rがr1個あってそれぞれ連結成分が2つあるので総正を選択するのに2^r1
総正のうち、単数領域に制限する測度がReg
無限素点Cの測度が(2π)^r2
Cでの原始w乗根による倍数を選択するのに1/w
それから分岐する素点での測度の項が 1/√D
最後にイデアル類ごとの基本領域をとるためのh ということだと思う。
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(5) イデールの指標、大域ζと関数等式
χをE = I/K*の指標とする。標準的全射との合成により、χはIの指標を誘導する。
この場合、E = (R+)×ΠZp* と書けるのであった。
自明でない具体例として、p=3成分が3N+1のとき1, 3N+2のとき-1 をとるユニタリ指標を考えてみる。
Iの元を[R成分,2成分,3成分,5成分,...]と表記する。
誘導される指標χ(同じ記号を濫用):I→C*の挙動は
χ([R+,2,1,1,1,..]) = -1
χ([R+,1,1,5,1,..]) = -1
χ([R+,1,1,1,7,..]) = 1
という具合である。
例えばx=[5,2,1,1,1,..] の場合、上記の記号で言うと、
x=yu, y=[2,2,2,2,2,...], u=[5/2,2,1/2,1/2,1/2,..] と分解される。
ここでuのp=3成分の1/2は3進展開でいうと 2+3+9+27+...という元である。
従ってχ(x)=χ(u)[定義]=-1 という計算である。xのp=3成分ではなくuのp=3成分を使うことに注意。
従ってχの各成分への制限は、p=3以外では単数には自明する。p=3成分では分岐している。
3N+1素数では単数以外も自明で、3N-1素数ではχ(p)=-1ということになる。
R成分については、x=[-1,1,1,1,...] の場合、y=[-1,-1,-1,...], u=[1,-1,-1,...] となるので、
自明でない方の指標、χ(x) = sign(x) として作用する:(3-2)でいう所のχ2のほう
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大域ζは大域関数fと、このように大域乗法的準指標χにより、
局所と同じ式 ζ(f,χ) = ∫f(y)χ(y)dy* で定義される。
大域的なフーリエ変換f~も、同様に定義され、やはり、
【比 ζ(f,χ)/ζ(f~,χ~) は(χのみに依存し)fに依らない】が成り立つ。
しかも、この比は、1になることが示させる。
基本領域をEとおく
∫[y∈I]f(y)χ(y)dy* = ∫[t=0..inf]∫[y∈I'] f(ty)χ'(y)dy* t^(s-1)dt
= ∫[t=0..inf] Σ[x∈K*] ∫[y∈E] f(xyt)χ'(y)dy dt [基本領域に分けて合計]
ここでポアソン和公式を使う
Σ[x∈K] g(x) = Σ[x∈K] g~(x) が成り立つのを(K*ではなくKなのでx=0は個別に扱う必要あり)
g(x)=f(xyt), g~=f~(x/yt)/|yt| で適用すると以下の結果を得る(細部は追っていない):
ζ(f,χ) = ∫|y≧1|f(y)χ(y)dy* + ∫|y≧1|f~(y)χ~(y)dy* - (∫[y∈E]χ(y)dy*){f(0)/s+f~(0)/(1-s)}
定数(∫[y∈E]χ(y)dy*)はχが自明ならκ(:=基本領域の測度)、χがramifiedなら0である。
すなわちχが自明なら、ζ(f,χ)のs=1で1位の極であり、その留数がf~(0)κである。
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適当なfを使うと具体的な「関数等式」を得ることができる。
(結局、各素点での比ζ(f,χ)/ζ(f~,χ~)が現れるから、
fの取り方を変えても 左辺/右辺 は本質的に変わらない。)
・まず、Qの場合でχ=χ'| |^s を考える。最初はχ'が自明な指標の場合を考える。
R成分では f(x) = exp(-πx^2)
p成分では f(x)= Zpで値1をとる関数を採用する。
これらに対するフーリエ変換と局所ζは(3-1)(3-2)で既に計算した。その結果:
ζ(f,| |^s) = π^(-s/2)Γ(s/2) Π1/(1-p^-s) について
ζ(f,| |^s) = ζ(f,| |^(1-s)) が成り立つという結論をえる。(通常のリーマンζの関数等式)・・・@
・次に、χ'が自明でない場合を考える。上記に挙げた、p=3でramifiedな指標を採用する。
p=3成分で上記の関数を採用してしまうとζ(f,χ')=0となってしまうので別の関数を使う必要がある。
fは1/3+Zp, 2/3+Zp, 1+Zp でそれぞれ値ω^2,ω,1をとる関数 を採用すると、
f~は1+3Zpで値3をとる関数となる。
局所ζを計算すると、ζ(f,χ)=3^s*[3/2*χ(1)ω + 3/2*χ(2)ω^2] = 3^s*3/2*(√-3), ζ(f~,χ~)=3/2*3
ほかの局所ζと掛け合わせると次のような結果を得る:
ζ(f,χ) = 3/2*3^s*(√-3)*π^(-(s+1)/2)Γ((s+1)/2)*Π[p=3N+1]1/(1-p^-s)*Π[p=3N-1]1/(1-(-p)^-s)
= ζ(f~,χ~) = 3/2*3*i*π^(-(1-s+1)/2)Γ((1-s+1)/2)*Π[p=3N+1]1/(1-p^-(1-s))*Π[p=3N-1]1/(1-(-p)^-(1-s))・・・A
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・もう1つ、Q(√-3)の自明な指標に対する関数等式を考えると良いことがある:
√3成分では、fはZp/√3で値1をとる関数、f~はZpで値√3をとる関数fを考える。
ζ(f,| |^s)=3^s/(1-3^-s), ζ(f~,| |^s)=√3/(1-3^-s) となる。
3N+1素数では分解するので1/(1-p^-s)が2つ
3N-1素数では惰性し、1/(1-(p^2)^-s)
それから(3-3)に書いたC成分がある。
大域ζを計算すると
(2π)^(1-s)Γ(s) * 1/(1-3^-s) * Π[p=3N+1]1/(1-p^-s)^2 * Π[p=3N-1]1/(1-p^{-2s})
= (2π)^(1-(1-s))Γ(1-s) * √3/(1-3^{-(1-s)}) * Π[p=3N+1]1/(1-p^-(1-s))^2 * Π[p=3N-1]1/(1-p^{-2(1-s)})・・・B
という関数等式である。
ここで、
デデキントのζ関数、ディリクレのL関数を使うと@ABをよく整理できる。
(デデキントのζ関数は、ディリクレのL関数の自明な指標に対する場合とみなせる)
また、見やすさのため、無限成分を適当に名付けておく。
A(s) = π^(-s/2)Γ(s/2) [Rのχ1]
B(s) = A(s+1) [Rのχ2]
C(s) = (2π)^(1-s)Γ(s) [Cの自明な指標]
@ A(s)*ζ_Q(s) = A(1-s)*ζ_Q(1-s)
A 3^(s-1/2)*B(s)*L(s,χ) = B(1-s)*L(1-s,χ)
B 3^(s-1/2)*C(s)*ζ_{Q(-√3)}(s) = C(1-s)*ζ_{Q(√3)}(1-s)
と整理される。(s=1/2で成り立つことが確認できる。)
ディリクレのL関数を良く見ると
http://tsujimotter.hatenablog.com/entry/class-number-formula-and-dedekind-zeta
で紹介されているような挙動により
ζ_Q(s)*L(s,χ) = ζ_{Q(-√3)}(s) の関係があり、@ABと合致することが確認できる。
また、ζ(f,χ)のs=1の留数がf~(0)κであることを指摘した。
ζ_Q(s)のs=1での留数 = Qでの基本領域I'/K*の測度 = 1
ζ_{Q(-√3)}(s)の留数 = Q(-√3)での基本領域I'/K*測度 = π/ 3√3
(C成分の単数領域が2π/6, √3成分の判別式成分が1/√3である。)
従って L(s,χ)のs=1の値もπ/ 3√3 であることが分かる。
(級数 1-1/2+1/4-1/5+1/7-1/8... と書くとなじみやすいかもしれない)
22:18 2018/10/28
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・ζの出所
ζが何者なのかを解釈する1つの(それほど難しくない)1つの描写に出会った。
2番目に紹介したreferenceのp.16に書いてあった。
Rでは急減少関数、Qpでは局所定数で台がコンパクトな関数、の集合をS(F)として、
S(F)かCへの線形写像の空間をD(F)とおく。
D(F)の元 Z:f→Z(f)∈C に対して、t*Z:f→Z(f/t)∈C はD(F)の別の元を与える。
この意味で、tは空間D(F)に線形写像として作用する。
例えばZとして「f(2)をとる」という操作を考えると、t*Zは、「f(2t)をとる」という操作になる。
【この線形写像の固有値、固有関数を考えると、χ(t)が固有値で、ζ(f,χ)が固有関数となる】
χ(x)=|x|^sを例にすると f(x)に対して、Z(f) = ∫f(x) |x|^s dx* と定めると
(t*Z)(f) = ∫f(x/t) |x|^s dx*
= ∫f(y) |y|^s |t|^s * dy* [x=yt]
= |t|^s*Z(f)
という様子である。
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