実二次体の平方剰余の観察
内容

[1] 前書き
[1-1] 具体的な平方剰余の計算例
[1-2] 結果紹介

[2] 本格的な考察
[2-1] アルティン写像
[2-2] 相互法則:課題の提示

[3] 課題1:2の上にある素点(一番難しい)
[3-1] Q2の場合の観察
[3-2] 局所体一般論の復習
[3-3] Kπ*/Kπ2 の特定:Kπには15種類の2次拡大がある
[3-4] 課題1の答え
[3-5] ノルム群の特定

[4] 課題2:無限素点(簡単)
[5] 課題3:素点q (簡単な確認)
[6] 補充法則


1年前ぐらいに虚二次体の平方剰余の観察をした。 (そこで類体論との関係も少し試みたが、そこでの説明は、適切でない。) すぐあとに改めて類体論での説明を試みたこともあった。 ここでは、主に、こちらの視点に沿って、実二次体の平方剰余について考察した。 今回は特にK=Q(√3)を扱うことにして、結果的に、うまくいったと思う。 先に結果を紹介して、それから類体論の視点で説明する。 説明は虚二次体の時と大筋は同様であるが、前回より整理して記述できたと思う。 K=Q(√3)の整数環と素点についての知識は ・単項イデアル整域である ・12N±5型素数pは、Q(√3)でも単項素イデアルをなす。 ・12N±1型素数pは、2つの共役な単項素イデアルの積に分解する。  例えば (13)は(4+√3)と(4-√3)の積に分解する。 ・イデアル(2)は、(1+√3)と(1-√3)の積に分解するが、  (1+√3)と(1-√3)は素イデアルとしては実は同一であるのでこれは分岐である。 ・単数群は、(-1)と(2+√3)で生成されて、従って(Z/2Z)×Zの構造をしている。 これらを分かることを期待する。 局所体についてある程度なじみがあることを期待する。 [3-2]で引用する局所体の乗法群の構造のページ冒頭の「記号や習慣、概念」が分かることを期待する。 このページの内容は[3-2]で引用し、[3-3]で利用される。 これは必須ではなく、生成元を試行錯誤して選べば、[3-3]の目的は達成できる。 (実際、1年前に虚二次体を考察した時はそうしていたような気がする。) しかしこの一般論を利用することで生成元を見通しよく得ることができた。 類体論については、イデールの言葉を使う。 Kのイデールから、最大アーベル拡大のガロア群Gal(Kab/K)へのアルティン写像θを使って記述する。 (アルティン写像については、必要な性質だけ、その場で説明する。) このあたりについて、最近梅崎さんのブログで簡単に紹介されていて参考になるかもしれない。 (そこでの相互写像r_Eを、ここではアルティン写像と呼んでいる。) https://unaoya-pi.hatenablog.com/entry/2018/05/26/%E9%A1%9E%E4%BD%93%E8%AB%96 [1-1] 具体的な平方剰余の計算例 p,q∈Kとして、pを素元とする。qがmod pで平方剰余かどうかを計算する。 2つの場合に分けて説明する。 [1-1-1] pが12N±5型素数のとき。p=7を例にする。 8年前からお世話になっている剰余類を調べるスクリプトがある。 2つ目のスクリプトを、A,B,q=1,1,3, N=7で実行すると、48個のマスが数字で埋め尽くされる。(このqはこのノートのqとは異なる。) 横軸をa,縦軸をbとしたときに、(A+B√3)^k≡a+b√3 (mod 7)を満たすkが表示されている。 偶数のマスが平方剰余で、奇数のマスが平方非剰余である。 だから例えば q=10+√3は、3+√3に合同で、該当するマスに表示されている21は奇数なので平方非剰余である。 (実際、後の一覧表で、そうなっている) ・あるいは、オイラーの基準を使うこともできる。実際後の一覧表を作るアルゴリズムではこれを使った: qが平方剰余のとき q24≡1 (mod 7) qが平方非剰余のとき q24≡-1 (mod 7) となる。 [1-1-2] pが12N±1型素数を分解した素元のとき。p=1+2√3を例にする。 この場合は、実用的には次の2段階で判定できる: ・q≡q' (mod p)となる有理整数qをとる ・pの分解元となる12N±1素数をp'として、通常の整数環においてq'がmod p'で平方剰余かどうかに帰着する。 この場合は、pはp'=11を分解した素元である。 またq=10+√3の場合を例にする。p≡0 (mod p) より 2√3≡1 (mod p) 11≡0 (mod p) なので11を法として2の逆元を両辺に掛ければ √3≡6 (mod p) 従って q=10+√3≡10+6 (mod p), q≡5 (mod p) 今度は先のスクリプトの1番目のスクリプトをN=11で実行すれば、q≡5 は平方剰余と分かる。 (実際、後の一覧表で、そうなっている) [1-2] 結果紹介 前回の虚二次体で使ったようなスクリプトを改変してQ(√3)の平方剰余を観察するスクリプトを書いた。 これを使って結果を紹介する。(p,qの欄は書き換えることができます。) 平方剰余かどうかの一覧表が、後で説明する分類とともに表示される。 横軸がpで、縦軸がq, 表の中身は(q/p, p/q) となっている。 記号q/pは、「qがmod pで平方剰余かどうか」を表す(平方剰余のとき1,平方非剰余のとき-1)。
d=
p:
q:
q/p, p/qを表示します。qが素元でないときはq/pのみ示します。
分類の欄が、規則を説明するためのものになっている。

・型の規則
x+y√3 のx,yを4で割ったあまりに注目して次のように分類される: 
yが偶数の時: y≡0 (mod 4) のときO型、y≡2 (mod 4) のときB型
yが奇数の時: x≡0 (mod 4) のときC型、x≡2 (mod 4) のときA型

・分類型の2つの符号の意味
1つ目の符号はx+y√3の符号
2つ目の符号はx-y√3の符号

# 例えば、p=1+2√3 のときは、x=1,y=2であり、yが偶数で、y≡2 (mod 4)だからB型
1+2√3>0 だから1つ目の符号はプラス
1-2√3<0 だから2つ目の符号はマイナス
そういうわけで「B+-」と分類される。

・分類の解釈
(p/q)と(q/p)が一致するかどうかは、次の3つの条件で定まる:
(1) p,qのどちらかがO型 または pとqが同じ型
(2) pの1つ目の符号と、qの1つ目の符号の、どちらかがプラス
(3) pの2つ目の符号と、qの2つ目の符号の、どちらかがプラス
3つのうち3つを満たすとき p/qとq/pは同じ
3つのうち2つを満たすとき p/qとq/pは違う
3つのうち1つを満たすとき p/qとq/pは同じ
3つのうち全部満たさないとき p/qとq/pは違う

表のすべての欄がこの規則を満たしていること、
p,qのリストに適当な素元を付け加えてもその規則を満たすことが観察できた。
特に単数を掛けた時の挙動がうまく解決されている。
(この例として、q=5,10+5w,-5の3行を入れた。
qが生成する単項イデアルは同一で、従ってmod qで平方剰余かどうかは同一である。
表で言えば、この3つの行ではコンマの後ろの数字は同一である。
ところが、qがmod pで平方剰余かどうかは同一とは限らない。)

# この説明は奇素数しか対応していない。
# 補充法則に相当する他の内容については後で別に説明する。

[2] 本格的な考察 [2-1] アルティン写像 アルティン写像を、各成分に対する局所アルティン写像θpの積として認識する。 (正確には、局所アルティン写像の行先はGal(Kpab/Kp)であり、これをGal(Kab/K)に送る必要がある。) 各成分pでの局所アルティン写像θp:a∈Kp→g=θp(a)∈Gal(Kab/Kp) を説明する。 (ここでKpはKを素点pで完備化した局所体を意図している。) 素元πを1つとって、a=u*π^k [uは単数] と分解する。 θp(u)とθp(π)を定義すれば良い。 標語「uは分岐拡大に作用し、pは不分岐拡大に作用する」 [2-1-1] θp(π)は、πが分岐しない拡大に対して、算術的フロベニウスとして定義する:  すなわち、g=θp(π)は、α∈Lをα'≡α^(pf) (mod π)となるα'∈Lに送る(fはKpの絶対剰余指数)。と思う。(少し自信がない。) [2-1-2]θp(u)は、不分岐拡大には恒等写像、分岐拡大には非自明に作用する。  この非自明な部分については、具体的な(有限次)拡大Lに対して、 θp(u)をGal(L/Kp)に射影したときの核は、ノルム写像L*→Kp*の像に一致する を使って(部分的に)情報を得ることができて、実際これを使って考察する。 [2-2] 相互法則:課題の提示 tとqを異なる(ここでは奇な)素元とする。(例えばt=1+2√3, q=4+√3を思い浮かべれば良い。) (このあと、tとqという文字をこの文脈で使い続ける。) (本当はpを使いたかったがpは一般的な議論を挟む際に紛らわしくなるから変えた。) tとqの間の相互法則を得るために、 α=(1,1,1..,t,1,..)[t成分のみt]というイデールの元の行き先θ(α)の、L=K(√q)に対する作用を考える。 (θ(α)はKabの自己準同型写像であるから、√qを±√qのどちらかに移すのである。) [2-1-1]の説明とフロベニウスの性質によって、 θ(α)のL=K(√q)への作用が恒等写像 ⇔ pがL/Kで分解する ⇔ qが mod tで平方剰余 の関係がある。 θ(α)を知るために、対角成分(a,a,a,a,...)がアルティン写像の核に居るという性質を利用する。 すなわち、αの各成分をtで割ったα/t=(1/t,1/t,1/t..,1,1/t,..)の行先θ(α/t)がθ(α)と同じになる。 θ(α/t)の行先を求めるには、今度はすべての成分は単数だから[2-1-2]の状況となる。 不分岐拡大には恒等写像だから、分岐する素点だけ見れば良い。 そこで拡大K(√q)/Kで分岐する可能性がある素点は、 ・2の上にある素点 ・無限素点(2つある) ・素点q である。これらでの局所アルティン写像の像をかけ合わせれば目的を達成する。なので、 [課題1] 2の上にある素点での局所アルティン写像の像θ2(1/t)の√qへの作用 [課題2] 無限素点での局所アルティン写像の像θ∞1(1/t), θ∞2(1/t)の√qへの作用 [課題3] 素点qでの局所アルティン写像の像θq(1/t)の√qへの作用 を明らかにすることが目標となる。これをこのあと[3],[4],[5]でそれぞれ扱う。 そうすれば、これらを掛け合わせたものが、θ(α)のL=K(√q)への作用となり、 先の議論より、qがmod tで平方剰余かどうかを判定するものとなる。 ところで、[課題3]の答えは、実は単に、tがmod qで平方剰余かどうかに相当する。 なので、相互法則は次のように言い換えられる: ・課題1と課題2の積が恒等写像ならば、qがmod tで平方剰余 ⇔ tがmod qで平方剰余 ・課題1と課題2の積が共役写像ならば、qがmod tで平方剰余 ⇔ tがmod qで平方非剰余 冒頭の結果紹介はこの視点で記述したものである。 # 分岐についてのクイズ K(√-1)/Kはどの素点で分岐しているか? Q(√-1)は2で分岐するから、K(√-1)は2で分岐すると思うかもしれないが、実は不分岐である。 実際√3∈Kだから、K(√-1)はK(√-3)とも書ける。 こう書くと、Q(√-3)は2で分岐しないから、納得が行くかもしれない。 ・実際にω=(1+√-3)/2としたときに{0,1,ω,ω2}が直接位数4の有限体となっている。 だからといって、K(√-3)/Kは3で分岐するわけでもない。 ではどこで分岐しているのか?・・無限素点で分岐している! # ちなみにKの拡大体は必ずどこかの素点で分岐する。 最大不分岐拡大(ヒルベルト類体)の拡大時数は、類数に一致し、Kの類数は1だからである。
[3] 課題1:2の上にある素点(一番難しい) π=1+√3とおいて、この素点での完備化をKπと書くことにする。 K(√q)/K を局所体に引き継いで考える。すなわち、Kπ(√q)/Kπ を考える。 [2-1-2]からθ2(1/t)の√qへの作用を知るには、 1/tが、Kπ(√q)/Kπ のノルム群に居るかどうかを知れば良いのであった。 最初に、Kπ*/Kπ2 の構造を明らかにして、Kπの2次拡大(15個ある)を[3-3]で特定する。 Kπ(√q)が、どの2次拡大に一致するのかを、[3-4]で述べるように判断できる。 そして、それぞれの2次拡大のノルム群を[3-5]で特定する。 Kπ*/Kπ2の構造と2次拡大の考察には、局所体の知識が役に立つが、少し複雑である。 [3-1]でQ2の場合を紹介し、[3-2]で一般論を引用し、[3-3]でKπに適用する。 [3-1] Q2の場合の振り返り # Q2の次数2の拡大は7個ある(LMFDB)。  それぞれ√-1,√3,√-3, √2,√-2,√6,√-6 を添加した体に同型である。  Qの次数2の拡大が無限個あるのと対照的である。  これは、Q2*/Q22が有限群である事情である;  具体的にはQ2*の任意の元xに対して、x=yz2 となる y∈{±1,±2,±3,±6}とz∈Q2をとることができる、  すなわちQ2*/Q22の代表元として{±1,±2,±3,±6}をとることができるという現象である。 # Hが指数2の部分群のとき、平方元は必ずHに属することに注意する。  そうすると、指数2の部分群は、結局Q2*/Q22の代表元のうちちょうど半分を含む。  言い換えると、剰余群Q2*/Q22の指数2の部分群を調べれば良い。  代表元のQ2*/Q22への像を、{±[1],±[2],±[3],±[6]}という風に表記することにする。 # ノルム群の像を求めるには、それが属する部分群を特定できるまで適当に計算を繰り返せば良い。  例えば、Q2(√2)のノルム群の像を求めるには、Norm(a+b√2)=aa-2bb (a,b∈Q2)を適当にいくつか計算する。  a=1,b=0とすれば [1]∈H  a=1,b=1とすれば[-1]∈H  a=0,b=1とすれば[-2]∈H  Hは群をなすからx,y∈Hならばxy∈Hである。なのでHは{±[1],±[2]}を含むが、これで指数2なのでこれですべてである。  そういうわけで、拡大体Q2(√2)には、部分群{±[1],±[2]}が対応すると特定できた。 # 補足。例えば具体的にa=10,b=3としたときaa-2bb=82であるがこれはどの代表元に対応するのか? ・まず、「k≧3ならば、ちょうどk次主単数で、平方元なものが存在する」が成り立つ。  ちょうど(k-1)次主単数を2乗すれば良い。あとでc4,c6,c7の得方をみれば納得するだろう。 ・ここから「k≧3ならば、k次主単数はすべて平方元である」を示すことができる。ここが少し面白い。 どうやるか。例えばa=17が平方元であることを示す。17=1+16はちょうど4次の主単数である。 ちょうど4次の主単数で、平方元なものが存在する。それはちょうど3次主単数を2乗すれば良い。例えば(1+8)2=1+16+64。これをc4とおく。 +64ずれているので、6次主単数で平方元を見つけてくる。5次主単数を2乗すれば良い。例えば(1+32)2=1+64+1024。これをc6とおく。 c4*c6 = 1+16+64+64+4096+65536 = 1+16+128+4096+65536 そうすると今度は+128が支配的なずれであるから、7次主単数で平方元を見つけてくる。(1+64)2=1+128+4096。これをc7とおく。 c4*c6*c7を計算すれば、ずれは+256の倍数になるはずである。 このようにして、c4,c4*c6,c4*c6*c7と進んでいけば、17にいくらでも近い平方元の列ができる。 Q2の「完備」という性質により、17は平方元である。 (この結果は[3-2]で引用する「k>e/(p-1)のとき、k次主単数は、p乗写像で、(k+e)次主単数に全射する。」の具体例でもある。) ・従って単数(この場合は奇数)x,yに対して、x≡y (mod 8)ならば、x≡y (mod Q22) である。 (なぜなら x=yz となる zは3次主単数であり、上記より平方元でもあるからである。) ・そういうわけで、補足の疑問が解決する。aa-2bb=82=2*41と素元部分と単数部分に分ける。 41≡1 (mod 8) だから41≡1 (mod Q22)であり従って 82≡2 (mod Q22) と求められる。 すなわち代表元[2]に対応する。 [3-2] ここで局所体の乗法群の結果を引用する。 [p乗写像の挙動について] k<e/(p-1)のとき、k次主単数は、p乗写像で、(pk)次主単数に全射する。 k=e/(p-1)のとき、k次主単数は、p乗写像で、(k+e)次主単数に非全射的に移る。 k>e/(p-1)のとき、k次主単数は、p乗写像で、(k+e)次主単数に全射する。 [主単数群の乗法群について] 主単数群は、位数p^rのtorsionと、ef個のZpの直積の構造をしている。 すなわち、r=0の場合はef個、r≠0の場合は(ef+1)個の生成元で生成される。 さらに、次のように生成元を具体的に与えることができる。 ・集合Iを、ep/(p-1)未満の、pと互いに素な正の整数とする(e個となる)。 ・集合Jを、FqをFp上の線形空間とみなしたときの基底とする(従ってf個)。 このときに、(1+uij*j*π^i) [i∈I, j∈J] がef個の生成元となる。 (uijは剰余類がFp*に属するような任意の単数で良い。) ・r≠0 のときは、ep/(p-1)次主単数を1つ追加すると(ef+1)個の生成元を得られる。 [3-3] Kπ*/Kπ2の特定。 KπはQ(√3)を(π)=(1+√3)で完備化したものと定義したが、実はQ2(√3)でもある。 これはQ2の2次の分岐拡大である。 Kπ=Q2(√3)で上記の結果を適用する。p=2,e=2,f=1,r=1である。 主単数は位数2の巡回群と、2個のZ2の直積の構造をしている。 I={1,3}となる。r≠0なので、ep/(p-1)=4次主単数を追加すれば3つの生成元を得られる。 f=1のときは、4次主単数は、ちょうど4次主単数であれば何でもよい。 そういうわけで、例えば a = 1+π = 2+√3 [1次主単数] b = 1+2π = 3+2√3 [3次主単数] c = 1+4 = 5 [4次主単数] をとることができる。 ・3次主単数群は2乗写像で5次主単数に全射するから、5次主単数は平方元である。  すなわちQ2のときと同様の議論で、x≡y(mod 4π)ならば、x≡y (mod Kπ2) である。 従って、4πで割ったそれぞれの剰余類がa,b,cでどのように生成されるかを書き出せば網羅される。 x+yπ [x∈{1,3,5,7},y∈{0,1,2,3}] がどうあらわされるのかを書き出せば良い。 y;x: 1 3 5 7 0 1 3 -3 -1 1 a -ab -3a 3ab 2 b 3b -3b -b 3 -3ab 3a ab a ここで、√3∈Kπだから、3≡1 (mod Kπ2)であることに注意し、 c≡-3≡-1 (mod Kπ2) だから、a,b,cの代わりに、a,b,-1で生成して見やすくした。 ・従って、Kπ*/Kπ2 は位数16の群で、Z/2Zを4つ直積した構造で、 代表元として {±1,±a,±b,±ab,±π,±aπ,±bπ,±abπ} をとることができる。 Kπ上の2次拡大は、15種類ある:Kπ(√-1), Kπ(√a), Kπ(√-a), .... [3-4] 課題1の答え まずは、Kπ(√q)が、15種類のうちどの拡大体に対応するのかを求める。 これは、q mod 4πをとれば良い。 q≡1 (mod Kπ2) の場合はどの拡大体にも対応しない。 これはqがKでは平方元ではないが、Kπでは平方元であるときに起きる。 しかし不分岐拡大だから、課題1の答えは「恒等写像」で良い。 そうでない場合は、対応する拡大体に対応するノルム群Hをこのあと特定する。 そうすれば課題1の答えは、 1/t∈H のとき「恒等写像」、そうでないとき「共役写像」である。 [3-5] ノルム群の特定 Kπ(√a)に対応するノルム群をH(a)などと表記することにする。 t∈H(ab)⇔「tはH(a)とH(b)の両方に属する または tはH(a)とH(b)の両方に属さない」 のような性質があるから、いくつか特定すれば他は機械的である。 特定の仕方は[3-1]に紹介した。そこと同様に、x∈Kπ*のKπ*/Kπ2への像を[x]と書くことにする。 剰余類 [xx-αyy] (x,y∈Kπ) をいくつか計算すればH(α)を特定できる。 いくつかの工夫: ・π2=4+2√3=2aであるから、[2]=[a]である。(例えばα=-1のときのx=y=1で使える) ・αが奇数のときは常にy=2とすれば、[5]=[-3]=[-1]∈H(α)であることが分かる。 ・x=0,y=1とすれば [-α]∈H(α)であり、従ってαが奇数であれば±[α]∈H(α)も分かる。 結果を書き出すと以下のようになる。(手作業です。) Kπ(√-1)だけ不分岐拡大であり、残りは分岐拡大である。 Kπ(√-1) -- [±1,±a,±b,±ab] Kπ(√a) -- [±1,±a,±bπ,±abπ] Kπ(√-a) -- [±1,±a,±π,±aπ] Kπ(√b) -- [±1,±b,±aπ,±abπ] Kπ(√-b) -- [±1,±b,±π,±bπ] Kπ(√ab) -- [±1,±ab,±π,±abπ] Kπ(√-ab) -- [±1,±ab,±aπ,±bπ] Kπ(√π) -- [1,a,-b,-ab,-π,-aπ,bπ,abπ] (例えば(1+√π)のノルムが[-ab], (√3+√π)のノルムが[a]) Kπ(√-π) -- [1,a,-b,-ab,π,aπ,-bπ,-abπ] Kπ(√-aπ) -- [1,a,b,ab,-π,-aπ,-bπ,-abπ] Kπ(√-bπ) -- [1,-a,-b,ab,-π,aπ,bπ,-abπ] Kπ(√aπ) -- [1,a,b,ab,π,aπ,bπ,abπ] Kπ(√bπ) -- [1,-a,-b,ab,π,-aπ,-bπ,abπ] Kπ(√abπ) -- [1,-a,b,-ab,-π,aπ,-bπ,abπ] Kπ(√-abπ) -- [1,-a,b,-ab,π,-aπ,bπ,-abπ] 特にqとπが共に奇な素元に限られる場合は、[1]のように、少し簡略化できる。 すなわちこの場合は、[±1], [±a], [±b], [±ab]をそれぞれO型、A型、B型、C型と呼ぶと、 qがA型のとき、1/t∈H ⇔ tがO型またはA型 qがB型のとき、1/t∈H ⇔ tがO型またはB型 qがC型のとき、1/t∈H ⇔ tがO型またはC型 というふうに書ける。(このときにθ2(1/t)の√qへの作用が恒等写像となる) これが[1]の条件(1)に相当したわけである。 # 補足:利便性のために、x+yπの代わりに X+Y√3 とおいたときの表を書いておく: Y;X: 0 1 2 3 4 5 6 7 0 1 3 -3 -1 1 3ab a -ab -3a 2 -b b 3b -3b 3 ab -a -3ab 3a 4 -3 -1 1 3 5 -ab -3a 3ab a 6 3b -3b -b b 7 -3ab 3a ab -a -1∈Hの場合は、4で割ったあまりで十分で、これが[1]の「型の規則」で描写したものとなる: Y;X: 0 1 2 3 0 O O 1 C A 2 B B 3 C A
[4] 課題2:無限素点 Kには、無限素点は2つある。ここでは、∞1, ∞2 と書くことにする。 そもそも、無限素点とは、Kから実数Rへの写像のことであった。 ∞1は、そのまま実数としての値をとる写像、 ∞2は、共役の実数としての値をとる写像である。 Lへの延長を考えると、それぞれのRへの行先が負の数になるときに分岐するわけである。 θ∞1(1/t)の√qへの作用は: ・q>0 のとき ∞1は不分岐だから、θ∞1(1/t)は常に恒等写像 ・q<0 のときは分岐する  t>0のとき、θ∞1(1/t)は恒等写像  t<0のとき、θ∞1(1/t)は共役写像 θ∞2(1/t)の√qへの作用は: ・(qの共役)>0 のとき ∞2は不分岐だから、θ∞2(1/t)は常に恒等写像 ・(qの共役)<0 のときは分岐する  (tの共役)>0のとき、θ∞2(1/t)は恒等写像  (tの共役)<0のとき、θ∞2(1/t)は共役写像 これが、[1]の条件(2)(3)に相当する。
[5] 課題3:素点q これは、簡単な確認である。今までと同様に、次の関係がある。 θq(1/t)が恒等写像 ⇔ t ∈ Kq(√q)/Kq のノルム群 Kq(√q)/Kq のノルム群とは、x2-qy2で表される剰余類であり、 その単数部分は、単に、qを法とする平方剰余に相当する。 # 念のため具体例で説明しておく。 ・K7(√7)の場合。 ・これは、Q7(√3,√7)でもある。 ・これは剰余体がF49な局所体である。 ・従って、mod 7で平方剰余と平方非剰余は24個ずつある。 いつものスクリプトで、例えばA,B,q=1,1,3, N=7で表を作成した時の、数字が偶数のマスが平方剰余である。 ・剰余体の平方剰余を1つとる。例えば (2+√3)は上記の操作でマスの数字が18なので平方剰余である。 ・y2≡2+√3 (mod 7)となるy∈K7(√7)が存在する。(マスの数字が9か9+24なものを使えば良い。y=2+2√3) ・このときに局所体の元として、y2=2+√3 となる y∈K7(√7)が存在する。  なぜか。[3-1]と同様の構成である。 ・y=2+2√3の平方を見る。y2 = 16+8√3 = (2+√3) + (2+√3)*7、これをx0とおく。  2a+(2+√3)≡1 (mod 7) となるaを見つける。a=3+3√3が適する。  これを使って、(1+a*7)2 = 1+2a*7+a2*72、これをx1とおく。  x0*x1 = (2+√3) + (1+2c)*7 + (72の倍数) = (2+√3) + b*(72)とおける。(b∈Z) ・次は 2a'+b≡1 (mod 7) となるa'をとって、x2 = (1+c'*72)2 とおけば、  x0*x1*x2 = (2+√3) + (7^3の倍数) とできる。 ・こうして、(2+√3)にいくらでも近い平方数を得られ、完備性により(2+√3)は平方数である。 ・こうして、K7の単数uが平方数 ⇔ uを7を法として平方剰余 ・平方数でない単数uを1つとる。例えばu=1+√3をとる。  そうすると、K7*/K72 の代表元として {1,u,7,7u}をとることができる。 ・K7(√7)K7のノルム群は、√7のノルムである-7を含む。  -1はK7で平方剰余だから、代表元のうち{1,7}に対応する部分群が、目的のノルム群であると特定できる。 ・tはqと互いに素な想定だから、tは、代表元のうち1かuのうちどちらかに対応する。  そういうわけで、t∈K_7(√7)/K_7のノルム群 ⇔ tは7を法として平方剰余
[6] 補充法則 補充法則とは ・qが単数 ・qが偶 のときにqがmod tを法として平方剰余かどうかを記述する法則を意図した。 しかし結局、[2]の議論で、イデール(α/t)のアルティン写像の行先の√qへの作用を考えれば良いので同様である。 ・qが単数のときは、課題1と課題2だけ考慮すれば良い。  あるいは、[1]の(1)(2)(3)の条件がそのまま、qが平方剰余になるかどうかを表す。 ・qが偶のときは、[3-5]で特定したノルム群を参照すればよい。 例えば、q=1+√3 のとき(これは[3]でπと名付けた素元)では、 √qに対応するノルム群は H=[1,a,-b,-ab,-p,-ap,bp,abp] と特定した。 そこに書いたX+Y√3 mod 4πの分類を再掲する。 Y;X: 0 1 2 3 4 5 6 7 0 1 3 -3 -1 1 3ab a -ab -3a 2 -b b 3b -3b 3 ab -a -3ab 3a 4 -3 -1 1 3 5 -ab -3a 3ab a 6 3b -3b -b b 7 -3ab 3a ab -a 従って、qがmod tで平方剰余であることは、 t=X+Y√3とおいてX,Yを8で割ったあまりに対応する上記の表の欄が、 X-Y√3>0 のとき、{1,a,-b,-ab, 3,3a,-3b,-3ab} の欄に居ることと同値であり、 X-Y√3<0 のとき、それ以外の欄に居ることと同値となる。 (qの共役が負なので、2つ目の無限素点で分岐することに注意せよ) この観察はスクリプトでは実装しなかったので、手動で観察した。 t θ2 θ∞2 qがmod tで平方剰余かどうか √3 3ab(-) - + 5 -3(-) + - 7 -1(-) + - 1+2√3 -b(+) - - 4+√3 -ab(+) + + 17 1(+) + + 5+4√3 1(+) - - 29 -3(-) + - 31 -1(-) + - 7+2√3 -3b(+) + + 41 1(+) + + 43 3(+) + + 1+4√3 -3(-) - + 1-4√3 -3(-) + - 8+√3 3ab(-) + - 10+√3 a(+) + + ・θ2:X,Yを8で割った表に対応する分類、括弧の中身はノルム群に属するかどうか、 ・θ∞2:X-Y√3の符号 ・qがmod tで平方剰余かどうか:[1]の一覧表の一番上の行で見えた結果 これが確かに θ2とθ∞2の積に一致している様子が観察できた。 2020/3/28

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