虚二次体の類体論全体像の試み
全体像と言っても私が認識できている限りだけど・・
イデールの言葉でのアルティン写像が中心に来て、
フロベニウスのトレースが良い還元での様子を操っている。
一方で悪い還元での様子は特異ファイバーで記述されるのかもしれないが、良く分かっていない。
ヘッケ指標、L関数、保型形式などの概念との結びつきもまだ良く分かっていない所である。
(それから類数が2以上の場合についてもまだ未踏である)
「イデールの言葉でのアルティン写像」を記述することが、
類体論自体の理解をかなり深めた。
このノートの前半はそのあたりの説明も試みる。
今回特に新しく理解できた(かもしれない)のは、
虚二次体を虚数乗法に持つ楕円曲線への、ルビンテイト理論の結びつき方である。
そういう意味で、1つ前のノートと2つ前のノートの内容を結びつけるという意味合いもあるかもしれない。
しかし全体的に勉強しながら書いていることであるので説明は十分でない。(いつものように・・)
<イデールの言葉でのアルティン写像>
Kのイデール群をA_K*と表記する。
(大域)アルティン写像θとは、A_K*からG^abへの準同型写像で、
(G^abとはKの最大アーベル拡大K^ab/Kのガロア群)
「対角写像K*→A_K*の像の連結成分」を核とするようなものである。
今回はK=Qの場合と、Kが虚二次体のときに特に興味がある。
ker(θ)=「対角写像K*→A_K*の像の連結成分」は
K=Qのときは有限素点がすべて等しく無限素点が正な元{(a,a,a,...,r)|r>0}
Kが虚二次体のときは有限素点がすべて等しく無限素点は任意
という部分群である。
さらに有限次アーベル拡大L/Kに対して、
ノルム写像の像と、A_K/ker(θ)〜G^abの部分群が対応するという性質があるが
記述に必要な定義が多いので詳しく述べない
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アルティン写像θは、局所アルティン写像の積として記述することができる。
それぞれの局所体K_pの乗法群K_p*に対して
局所アルティン写像θ_p':K_p*→G_p^ab が存在する。
(G_p^abはK_pの最大アーベル拡大K_p^ab/K_pのガロア群)
ここでK_pはKの拡大体であるから、K^ab_pはK^abの拡大であり、従って射影 G_p^ab → G^ab がある。
θ_p'とこの射影を合成することで、θ_p:K_p→G^ab を得ることができる。
A_K*の元xに対して、xのp成分をx_pとおくと
すべての素点pに対するθ_p(x_p) の積としてθ:A_K*→G^ab を記述することができる。
具体的な記述を見た方が良い。
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<K=Qの場合の具体的なアルティン写像>
素数pに対してθ_p:K_p→G^ab は次のように記述される(pは正に選ぶ)
Qの最大アーベル拡大Q^abは1の冪根で生成されるという事実があり、
従ってG^abの元を記述するには、1の冪根への作用を記述すれば良い。
・pが有限素点のとき、x_p=u_p*p^kと分解すると(u_pはK_pの単数、pの倍数でないp進整数)
θ_p(x_p)は:
pと素なnに対する1のn乗根を、そのp^k乗に写し、1のp冪乗根を、そのu_p^-1乗に写す・・@
テイト加群と呼ばれる概念を使っている。
例えば p=7, u_p=3+7+2*7^2+6*7^3+7^4+.. という7進数の作用は
1の7乗根をその5乗に写し (3^-1≡5 (mod 7) なので u_p^-1≡5 (mod 7))
1の49乗根もその5乗に写し((3+7)^-1≡5 (mod 49))
1の343乗根はその54乗に写す ((3+7+2*7^2)^1≡5 (mod 343)) という具合に定まるのである。
これらは両立的であることを指摘しておく。
(wを1の49乗根、zを1の343乗根とすると、
wの写る先は2行目からは w^5 であり
一方 w=z^7 を使ってzがz^54に写ることを経由すると w=z^7は z^(54*7) に写ることになるが
これは確かにw^5 と同じ結果になる、という意味で両立的と呼んだ。)
・(実)無限素点では、正の像は恒等写像、負の像は複素共役写像(1のn乗根をその-1乗に移す)・・A
*大雑把な標語は「素元成分は不分岐拡大に作用し、単数部分は分岐拡大に作用する」
これはルビンテイト理論によって具体的に構成することができて、それについては詳しくは後で説明する。
*これがアルティン写像の性質を満たしていることを確認する。
「すべての成分を同時に有理数倍したときに像が変わらない」という性質がある。
例えばすべての成分を3倍すると、
θ_3(3)は、例えば1の5乗根を3乗に写すが、θ_5(3)が、それを打ち消すように作用する
(そういう都合でu_pに^-1がついている)
(流儀によっては反対のほうに^-1をつける流儀もあるらしい)
また例えばすべての成分を-1倍すると、
θ_3(-1)は、1の3冪乗根を-1乗に写すが、無限素点の作用がそれを打ち消す。
*一旦これを確認してしまったら、すべての成分が単数となっているようなイデールだけを考えれば良い。
すなわち 剰余群 A_K*/ker(θ) の代表元として、
(つまり、すべての成分に同じ有理数を掛けるという操作と、実無限成分に正の数を掛けるという操作によって)
「A_K*の元ですべての成分が単数で実無限素点が1なもの」をとることができることに注目する。
この部分集合(部分群でもある)を(非標準的な記法であるが)U_K*と表記してみる。
アルティン写像により、U_K*はG^abと同型である。
θから誘導された同型写像 U_K*→G^ab を θ_U と名付けておくことにする。
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<イデアルで記述した場合との比較>
だいぶ前に類体論講義を読んでいた頃、イデアルによるアルティン写像の勉強メモを書いたことがあった:
http://searial.web.fc2.com/aerile_re/artinhasse.txt
以前書いたいくつかの例をこのイデールによるアルティン写像で解釈してみる。
[例1]はL=Q(i)への作用を考えたものである。
このようなとき「有限次拡大に対するアルティン写像」を考えていると意識すると混乱しにくいと思う。
つまり G^ab から Gal(L/Q) への射影があるので
θあるいは θ_U とこの射影を合成することで
θ[L/K] :A_K* → Gal(L/Q)
θ_U[L/K] : U_K* → Gal(L/Q)
を考えることができてこれらは全射である。
Gal(L/Q)は位数2の群だから、θ[L/K]やθ_U[L/K]の核は、指数2の部分群である。
Gal(L/Q)の単位元でないほうに写る⇔Lに非自明に作用し得る成分は、
θ_2(単数) と2以外の素数pによる θ_p(p) 成分である。
iが1の4乗根であることと上記のアルティン写像の記述を使うことで、
ker(θ_U[L/K])は、「p=2成分が4N+1」という部分群であることが分かるであろう。(N∈Z_2)
ちなみに ker(θ[L/K]) の記述は少しややこしくて
p=2成分が、(1+4N)*2^Zかどうか・・@
p=4N+3成分は pの指数が偶数かどうか・・A
実無限素点成分は、正かどうか・・B
を考えて、@ABのうち偶数個が真であるような、A_K*の指数2の部分群である。
[例2]は1の原始13乗根ζによるβ=ζ+ζ^5+ζ^8+ζ^12による中間体Q(β)を考えたものである。
同様にして、Cl_Kの部分群に移して考えればp=13成分が問題になる。
p=13成分が(1,5,8,12)であるような部分群が、アルティン写像を通してQ(β)/Qを固定するGの部分群に移る。
イデアル的アルティン写像の像(L/K|p)は、
p成分だけがpなイデールの元の、イデール的アルティン写像の像と解釈することができる。
(これはp=13成分だけが1/pなイデールの元の行き先と同じである)
イデアル的なI_m/H_mがGal(L/K)と同型になるという主張は、
(p=13成分が(1,5,8,12)な部分群) が (Lを固定するGの部分群) に移ることから誘導される
イデール類群/(p=13成分が(1,5,8,12)な部分群) と Gal(L/K) = G^ab/(Lを固定するGの部分群) の同型に対応する
[例4] Q(√-1,√-5)/Q(√-5) では非単項イデアルが現れる。
このことにイデールのほうで対応する現象は、Qの場合は可能であった操作:
「すべての成分に同じ有理数倍することですべての成分を単数にする」
という操作ができない、という現象が対応する。
例えば(2,1+√-5)成分だけが2、というイデールの元に対して、
すべての成分を同じ有理数倍してすべての成分を単数にできない。
(例えば1/2倍してみると、この成分は単数にできるが、代わりに(2,1-√-5)成分が単数でなくなる)
「すべての成分を同じ有理数倍してすべての成分を単数にできる部分群」は、
A_K*の指数2の部分群をなしていて
それのアルティン写像の像によるG^abの指数2の部分群に対応する拡大体がヒルベルト類体
という状況である。
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<多項式の素因数集合との関係・相互法則>
p冪等分点の中間体L/Kを考える。
L/Kの生成元の定義多項式f(x)を考える。
f(x)の素因数集合は、L/Kで分岐する素点を法とする法則で記述される。
f(x)=x^2-5 の場合は分岐する素点はp=5のみであり、f(x)の素因数集合はq≡±1(mod 5)
f(x)=x^2-3 の場合は分岐する素点はp=2,3であり、f(x)の素因数集合はq≡±1(mod 12)
f(x)=x^2+x+2 の場合は分岐する素点はp=7,∞であり、f(x)の素因数集合はq≡1,2,4 (mod 7)かつq>0
このq>0が必要になるかどうかが、実無限素点が分岐しているかどうかを反映しているところである。。
このようにして、有限次拡大L/Kに対する作用を考える時には、
分岐素点を法とする法則で、素イデアルの分解の様子が記述される、という現象が起きる。
(1のp冪乗根による拡大での分岐素点はpと∞のみであり、
その中間体については実な中間体の場合は分岐素点はpのみ、
実でない中間体の場合は分岐素点はpと∞である。)
これは、アルティン写像の性質を使って次のように解釈できる。
例えばp=13がどう分解するかは、p=13に対するフロベニウス写像を知れば良い:
その位数は、剰余体の拡大次数に等しい。特にpが完全分解する場合pのフロベニウスは恒等写像である。
これはp成分のみがpで他の成分が1というイデールの元の、アルティン写像の行き先を考えることになる。
アルティン写像の性質から、p成分のみが1で、他の成分が1/pというイデールの元と同じガロア群の元を定める。
他の成分でも1/pは単数だから、L/Kに対して実効的に作用するのは、分岐する素点だけである。
そういうわけで分岐する素点での様子での記述に帰着することができるというわけである。
(http://searial.web.fc2.com/aerile_re/qruitai.html の<相互法則との関係>の所でも説明した。)
こう見ると、相互法則とは、
分岐している素点 の 単数成分 に対する局所アルティン写像(等分点の置換写像)と、
分岐していない素点 の 非単数成分 に対する局所アルティン写像(フロベニウス写像)の関係である。
というふうに理解することができる。
<虚数乗法を使った虚二次体の具体的なアルティン写像>
K=Q(√-7)の場合を例にする。
これは、楕円曲線の性質では標数2,3は特別扱いされるので避けた方が無難であり、
Q(√-1)は2が分岐するので避けるし、Q(√-5)は整数環が単項イデアル整域でないので避ける結果である。
Kの整数環Oを虚数乗法に持つ楕円曲線の1つ:E;y^2+xy=x^3-x^2-2x-1を使う。
K^abはEのα等分点(α∈O)で生成されるという事実があり、
G^abの元を記述するには、それらへの作用を記述すれば良い。
K=Qのときと同様に、x_p=u_p*π^kと分解して(u_pはK_pの単数、πは素元)考えるのであるが、
ここで、πの符号の選び方に選択の余地があり、これが一番ややこしい障壁であった。
±πのうち√-7を法として1,2,4に合同な方を{π}として定めてこれを【標準形】と呼ぶことにする。
この由来は後で考察し、先に結論となるアルティン写像を記述しておく:@Aとかなり同様である。
・p=(π)が7と互いに素なときπの標準形{π}を使って、x_p=u_p*{π}^kと分解して、
pと素なαに対するα等分点を{π}^k 倍点に写し、p冪等分点をu_p^-1倍点に写す。
・p=(√-7) のとき x_p=u_7*(√-7)^kと分解して、
u_7≡1,2,4 (mod √-7)ならε=1、そうでなければε=-1とおく。
7と素なαに対するα等分点をε(√-7)^k倍点に写し、7倍点をεu_7^-1倍点に写す。
*アルティン写像の性質を満たすことの確認
すべての成分を3倍する。3の標準形は-3であることに注意する。
3等分点は、p=(3)成分で-1倍点、p=(√-7)成分で再び-1倍点で打ち消される。
5等分点は、p=(3)成分で-3倍点、p=(5)成分で3^-1倍点、p=(√-7)成分で-1倍点で打ち消し合う。
7等分点は、p=(3)成分で-3倍点、p=(√-7)成分で-1*3^-1倍点で打ち消し合う。
また、すべての成分を-7倍する場合。
3等分点は、p=(3)成分で-7^-1倍点、p=(√-7)成分で-7倍点で打ち消し合う。
*p等分点による拡大で分岐する素点はp,(√-7)である。
p等分点のx,y座標で生成される拡大をL、p等分点のx座標だけで生成される拡大をMとおく。
このMが、円分体の時の最大実部分体の役割を果たす。
すなわちM/Kでは(√-7)は不分岐で、L/Kでは(√-7)が分岐するという挙動をする。
[(x,y)の-1倍点はxを固定することに注意する。
つまりMは、-1倍点をとる位数2の元∈Gal(L/K)で生成される部分群に対応する中間体である。]
*どうやってこのアルティン写像を知ることができるか。
実際には、その根拠は私にはまだ証明できないが、
これを探索し、帰納的に規則を求めて行く視点がいくつかある。
私が今までに認識できた、関係する概念の全体像をもう一度示す。
この全体像によって、認識がかなり整理された。これに沿うつもりで説明を続ける。
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<フロベニウスのトレース>
有限次拡大 L/K に対して、分岐する素点をp=(π)、分岐しない素点をq=(τ)とおく
θ_p(単数成分)と、θ_q(素元成分)が、L/Kに対して非自明に作用し、
どちらかが分かればアルティン写像の性質によりもう片方も分かるのであった(相互法則)
p=(π)を(√-7)ではない素点とする。pと素なnをとり、(x,y)をn等分点とする。
そうすると、x,yはK上のpで不分岐な拡大体の元という状況となる。Pをpのノルムとする。
このとき(x^P,y^P)は、mod pで(x,y)の±π倍点のどちらかに合同となる。という事実がある。
(合同になるほうが上記で【標準形】と呼ばれるほうに対応している)
(不分岐 ⇒ 共役間はmod pで合同でない ⇒ 両方が合同になることはない)
どちらに合同になるかを記述するのが、「(P上の)フロベニウスのトレース」である。
データベースでは http://www.lmfdb.org/EllipticCurve/Q/49/a/4
のページにある Modular form の q^p の係数が相当する。
(http://www.lmfdb.org/ModularForm/GL2/Q/holomorphic/49/2/a/a/)
例えばq^23の係数が8で、q^37の係数が-6であることは、
-4±√-7や3±2√-7は標準形ではなく、4±√-7や-3±2√-7が標準形であることに対応する。
先紹介したように±πのうち、mod √-7を法として平方剰余になるほうが選ばれるのであった・・★
どうしてそうなるのかについてよく納得のいく説明はまだ見つけられていないが、
フロベニウスのトレースと結びつく探索的な視点を今までに3つ認識した。
[1] F_p点の個数
[2] 多項式の素因数集合
[3] ルビンテイト形式群
それらは探索的なもので、フロベニウスのトレースを知る方法としての演繹性は持っていないと思う。
他に演繹的になり得るかもしれない視点の候補はいくつかあるが、まだ理解が足りていない。
[4] 特異ファイバー
[5] ヘッケ指標、L関数、Γ1(N)のnew cusp form
===========
[1] はレフシェッツの跡公式によるものである。
(EのF_p^k上の点の個数) = 1-tr(A^k)+p^k が成り立つのであった。
なので有限体上の点の個数を数えることで、個別にトレースを得ることができる。
===========
[2] 多項式の素因数集合を使った視点
これは前回のノートで考察したものである。
3等分点のy座標の定義多項式をF(y)とする。
F(y)=27*y^8+27*y^7-378*y^6+441*y^5-126*y^4+441*y^3-378*y^2+174*y-463
F(y)の3以外の素因数(Q(√-7)の整数環で分解する)を調べると、
その素因数πは、標準形{π}が3A+1型になるものに限られる。
こうなることは類体論によって期待できるものだと思っている。
実際に素因数をたくさん調べれば、標準形をどう定めればこの記述が成り立つかを推測できる。
例えばF(y)の素因数には 4+3√-7 や 5-6√-3 が現れる。
これらを 3A+1 型 とみなすためには、それらの【標準形】は
前者は4+3√-7、後者は -5+6√-3 のほうでなくてはならない。
これをたくさんの素因数で調べることで、規則を推測していくことができる。
その結果は、(mod √-7)で平方剰余になるほう(1,2,4に合同)が標準形という結果であった。
これは、楕円曲線(の同型類)に依存する。
同じ虚数乗法を持つ楕円曲線でも、同型でないもの(twistと呼ばれる)をとると、
これを記述する時の標準形の定め方が変わる。
それは、3等分の生成する拡大体が等しくないからである。
========
<isogenyによる違いの様子の例(再掲)>
この話題を考察して一番最初に試した具体例は、Z[√-2]を虚数乗法に持つ楕円曲線y^2=x^3-30*x-56を使った。
この楕円曲線に対応する【標準形】は複雑だった(w=√-2とおいている):
q≡±1 (mod 3) ならば {q}≡1,3, -1±w,-3+2w (mod 4w)
q≡±w (mod 3) ならば {q}≡-1,-3, 1±w,3+2w (mod 4w)
ここで標準形を定めるのにwの冪で割った余りを使うことは予想されるが3で割った余りを使うのが意外だった。
前回のノートでもisogenyによる違いとして説明した内容をもう一度説明しておく。
databaseによるとこの楕円曲線E:y^2=x^3-30*x-56の導手は2304=2^8*3^2であり、
同じ虚数乗法を持つ別の楕円曲線E':y^2 = x^3+x^2-3x+1の導手は256=2^8である。
E'に付随する標準形はmod 4wだけを使って記述される。
(http://searial.web.fc2.com/aerile_re/qheihou.html でisogeny aと書いたもの)
EとE'は、K(√-3)上同型である。
具体的にはEはE'のyを(y*√-3)に変えた方程式 -3*y^2=x^3+x^2-3x+1 で定まる楕円曲線と同型である。
(実際この式で x=(X+1)/3,y=Y/9とおけばEの式を得る)
-3がmod (π)で平方剰余のとき E,E'の標準形と同じで
-3がmod (π)で平方非剰余のとき E,E'の標準形は符号が逆
という関係となる
================
[3] 形式群(ルビンテイト理論)
(私の解釈を加えていて、もしかしたら内容が正確でないかもしれない)
*局所アルティン写像の標語を再掲する
「素元成分は不分岐拡大に作用し、単数部分は分岐拡大に作用する」
π^kは不分岐拡大に対してフロベニウス写像として記述できたのであった。
ルビンテイト理論は「単数部分は分岐拡大に作用する」の部分を記述するものである。
冪級数F(X,Y)が形式群である条件は次のようなもので:
・F(X,Y) = X+Y+(2次以上の項)
・F(X,F(Y,Z)) = F(F(X,Y),Z)
・F(X,i(X)) = 0 となる i(X)が存在する
・F(X,Y)=F(Y,X)
形式群 (例えば F(X,Y)=X+Y+XY ) に対して「a倍多項式」f_aを定義することができる:
これは f_a(X) = aX+(Xの2次以上の項) となるようなf_aで、
F(f_a(X),f_a(Y)) = f_a(F(X,Y)) を満たすようなものとして唯一決まる。
上記の例では f_a(X) = (1+X)^a-1 である。
ここでノルムpを持つ素イデアル(π)に対して
f_π(X) ≡ X^p (mod π) を満たす時に、この形式群は(πによる)ルビンテイト形式群であるという。
(すべての形式群がルビンテイト形式群になり得るわけではないと理解している。
例えばF(X,Y)として通常の加法 X+Y をとった場合はルビンテイト形式群にならないと思う。)
F(X,Y)が(πによる)ルビンテイト形式群であったとすると、
これによって局所アルティン写像の単数部分を記述することができるというのがルビンテイト理論である:
f_π(X)の根を、「(ルビンテイト的)p等分点」と呼ぶことにする。
f_π^2(X)等の根によって「(ルビンテイト的)p冪等分点」も考えることができる。
(これらが分岐拡大である。)
πが指定されているので、x_p∈K_p*を u_p*π^kに分解が定まって、
局所アルティン写像の単数部分θ_p(u_p)は
(ルビンテイト的)p冪等分点に対して、「u_p^-1倍多項式」として作用する
と記述することができる。
===========
<具体的な形式群>
Q_pの類体論は、形式群 F(X,Y)=X+Y+XY を使って記述することができる。
ルビンテイト的p冪等分点:(1+X)^(p^k)-1 の根は、通常の1のp冪乗根に対応し、
「a倍多項式」 (1+X)^a-1 は、a乗写像に対応することから、
通常のQ上の類体論の記述が再現される。
虚二次体の類体論は、楕円曲線に付随する形式群で記述することができる。
ワイエルシュトラスの標準形からt=-x/y, s=-1/y と変数変換すると
通常の無限遠点が、原点s=t=0に移り、s=t^3(1+at+bt^2+...) と冪級数展開される。
(t1,s1)と(t2,s2)の楕円曲線的な和を(t3,s3)とおくと
t3 = t1+t2+(t1,t2の2次以上)と展開することができてこれが形式群となる。
http://homepages.warwick.ac.uk/~masiao/maths/lecturenotes/ellipticnotes.pdf
のLecture 11 などにもう少し詳しい説明がある。(シルバーマンでも良いけど・・)
この展開を具体的に計算すれば、
例えばπ=2+√-7に対する「2+√-7倍多項式」f_π(X)は、
f_π(X) = (2+√-7)X + (Xの2次以上の項) で
f_π(X) ≡ X^11 (mod (π)) を満たす多項式として得られると思う。
しかし、この展開を実際に得ようとする試みは、計算機の限界によって達成できなかった。
なのでこれはむしろ他の状況から想像される結果である。
そうであれば、上記のQの場合と同じようにして、虚二次体上の類体論が再現されると思う。
実際に計算できていないという心残りはあるけれど、
この視点によって
「局所アルティン写像がフロベニウスのトレースに帰着される」
という事実について、確かな理論的な根拠を得たつもりである。
(しかしそれが7を法とする規則で記述されるという事実の確かな根拠はまだ得られていない)
===============
[4] 特異ファイバー
今回主に使った楕円曲線では、規則は7を法とするものであった。
「isogenyによる違いの様子の例」で見るように、これはいろいろなパターンがあり得る。
どうやら導手というものが関係しているらしいことが分かる。
それは、悪い還元「bad reduction」である。
例えばy^2=x^3-30*x-56 は mod 3 還元すると y^2≡x^3+1≡(x+1)^3 であり、
これは確かにcusp型の特異曲線で、つまり p=3 で悪い還元を持っている。
mod 2還元では、y^2=x^3 なので、これも悪い還元である。
この楕円曲線では、悪い還元をもつ素点はこの2つだけである。
別の例、y^2+xy=x^3-x^2-2x-1 では p=7 でのみ悪い還元を持つ。(計算は省略)
データベースサイトを見ると、悪い還元でのファイバーの種類が書いてある。
http://www.lmfdb.org/EllipticCurve/Q/2304/h/2
prime 2 では Kodaira symbol は III と書いてあって
prime 3 では Kodaira symbol は I_0* と書いてある。
悪い還元での様子が分かれば、良い還元での様子も分かる(相互法則)
むしろ、悪い還元での様子が、良い還元での様子を支配しているという精神もある。
しかしこの特異ファイバーという概念がなかなかよく分からずにいる。
検索すると例えば https://arxiv.org/abs/0907.0298
という資料がありいろいろ書いてあるけどまだ良く分からない。
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[5] ヘッケ指標、L関数、保型形式
・ヘッケ指標のようなキーワードで調べると、私が記述したような規則が言及されていたQ&Aに出会った
https://math.stackexchange.com/questions/2532404/what-is-the-grossencharacter-of-this-cm-curve
・指標があれば、L関数や保型形式が結びつくらしい
・導手(conductor)Nは特異ファイバーの様子と関係する数である。
対応する保型形式は、このNに対応するΓ1(N)のnew cusp formになるらしい。
というような事実だけなんとなく分かったけど、何がどう結びついているのかはまだ良く分からない。
========= 2019/4/5
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